社宅制度導入の前に!知っておきたい、社宅にまつわる税務のルール

社宅制度は、従業員の「手取り」アップや人材採用力の強化につながる福利厚生制度の1つです。一方で、税務上のルールへの理解が不十分なまま導入・運用すると、従業員・会社の双方にとって思わぬ税務リスクが生じる可能性も。本稿では、社宅制度の導入を検討する際に押さえておきたいポイントを分かりやすく整理します。 💡この記事のポイント  ☑住宅手当と社宅制度の税務上の取り扱いの違いを理解できる  ☑「賃貸料相当額」の考え方が分かる  ☑役員社宅で問題になりやすいポイントを把握できる 目次 閉じる開く 1.住宅手当と社宅は何が違う?――税務上の取り扱い (1)住宅手当の場合 (2)社宅の場合 2.社宅の種類 (1)社有社宅 (2)借り上げ社宅 (3)社宅制度を導入する企業では、「借り上げ社宅」が主流 3.借り上げ社宅の税務 (1)借り上げ社宅の「4つのポイント」 (2)おさえておくべき税務上の概念:経済的利益と賃貸料相当額 (3)従業員等に借り上げ社宅を貸与する場合 (4)役員に借り上げ社宅を貸与する場合 4.「給与」として課税されると、源泉徴収事務への影響も 5.まとめ 1.住宅手当と社宅は何が違う?――税務上の取り扱い  社宅制度は、会社が住宅を用意し、従業員や役員に貸与する制度です。住宅手当のように現金を支給する方法とは異なり、住居そのものを提供する点に特徴があります。  住宅手当と社宅制度では、税務上の取り扱いは大きく異なります。 (1) 住宅手当の場合  現金支給となる住宅手当は、「給与」として所得税・住民税の課税対象となります。また、社会保険料の算定基礎となる「報酬」にも含まれます。  毎月の給与から所得税・住民税・社会保険料が天引きされることとなるため、せっかく従業員等に手当を支給しても手取りアップを実感しにくく、かつ、従業員・会社ともに社会保険料の負担が増加することとなります。 (2) 社宅の場合  社宅は、一定の要件を満たせば「給与」として取り扱われないため、所得税・住民税の課税対象とはなりません。また、社会保険料の算定基礎にも含まれません。  そのため、従業員・会社ともに社会保険料の負担は増加せず、また、会社としては一部の社宅費用を福利厚生費として費用計上することができます。  このように、社宅は従業員・会社の双方にとって、福利厚生と税務メリットを両立できる制度といえるのです。  特に近年は、物価高・賃料の上昇や人材獲得競争の激化を背景として、「実質的な手取り」を増やす仕組みとして、あらためて社宅が注目されています。 2.社宅の種類  社宅は大きく分けて、「社有社宅」と「借り上げ社宅」の2種類に分けられます。 (1) 社有社宅  「社有社宅」とは、会社がマンションやアパート等を建設もしくは購入(所有)し、その建物を従業員等に貸し出すものです。  この場合の社宅は会社の資産となるため、一定期間にわたり減価償却を行うこととなります。減価償却費は支出を伴わない費用であるため、その累計額の分だけ、自社内に資金が留まることになります(節税効果と自己金融効果)。  社有社宅には従業員等とその家族のみが住むことが多いため、従業員同士・家族同士の交流もしやすくなるというメリットがあります。  一方で、会社の資産として所有している限り、原則として毎年、固定資産税を支払うことが必要になります。また、修繕費や将来的な建て替え費用など、長期的な維持管理のためのコストも別途かかります。  加えて、地価変動や老朽化によって資産価値が減少し、いつの間にか「含み損」のある資産になってしまう――といったリスクも考えられます。 (2) 借り上げ社宅  「借り上げ社宅」とは、会社が外部の賃貸物件を借り、従業員等に貸し出すものです。  外部の賃貸物件は会社の資産ではないため、毎年の固定資産税はかかりません。また、定期的なメンテナンスについても、基本的にはその物件の管理会社等が担うこととなるため、維持管理コストは社有社宅と比べて相対的に低くできるといえます。  借り上げ社宅は、支社・営業所等が複数あり、転勤の多い会社が採用している傾向にあります。従業員にとっては、転勤を命じられた後に物件を探す手間が軽減されるほか、支社・営業所等の近くの賃貸物件を借りることで、通勤の負担を減らすことができます。また、家族構成等により、自分に合った物件を選択できるという利点もあります。 (3)社宅制度を導入する企業では、「借り上げ社宅」が主流  1980年代後半から1990年代前半までのいわゆる「バブル経済期」には、資産として社宅を所有するメリットが大きいと考えられ、借り上げ社宅よりも社有社宅を選択する会社が多かったとされています。  ところが、バブル経済の崩壊後、土地や不動産の価値が大幅に下落。社宅を所有するリスクに対する懸念が高まり、社有社宅は減少していきました。  事実、人事院「令和6年度 民間企業の勤務条件制度等調査」(調査期間:令和6年10月1日~令和6年11月30日/調査企業数:7,527社/有効回答数:3,998社)によれば、社宅制度がある企業のうち、社有社宅は37.7%、借り上げ社宅は79.7%(複数回答)となっています。このデータからも、現在では借り上げ社宅が主流となっていることがうかがえます。 ■社宅の有無別、保有形態別、用途別企業数割合(母集団:3,998) (出典:人事院「令和6年度 民間企業の勤務条件制度等調査」) 3.借り上げ社宅の税務  社有社宅・借り上げ社宅、どちらの形態を選択するとしても、税務上は一定のルールが定められており、その枠組みの中で適切な制度設計と運用をしていくことが求められます。  ここからは、現在の主流であり、また中小企業でも導入しやすい「借り上げ社宅」を中心に解説します。 (1) 借り上げ社宅の「4つのポイント」  借り上げ社宅については、次の要件をすべて満たすことがポイントです。 ○賃貸借契約が会社名義で締結されていること ○会社が貸主(大家)に家賃を支払っていること ○入居者が会社に一定額の家賃を支払っていること ○実際に従業員等が入居していること  このうち、賃貸借契約が会社名義で締結されていること、すなわち契約の主体が従業員個人ではなく会社であるという点が最も重要です。  もし、賃貸借契約が従業員の個人名義である場合、実態が社宅に近くても、税務調査においては「会社が個人の家賃を負担している」とみなされ、「給与として課税対象」と判断される可能性があるからです。  税務調査では、「契約書の名義が誰であるか」「誰が費用を負担しているか」を確認されることが多くなっています。「形式」と「実態」に齟齬がないか、整合性がとれているかどうか――は厳しくチェックされますので、注意しましょう。  次のようなケースは注意が必要です。 ○以前から住んでいた自宅をそのまま社宅扱いにしている ○家賃負担が極端に低い、またはゼロ ○実際の入金が確認できない  こうした場合、「実態は生活費の会社負担」と判断される可能性があります。 (2) おさえておくべき税務上の概念:経済的利益と賃貸料相当額  ここで、借り上げ社宅の税務についてきちんと理解するために、次の2つの税務上の概念をご紹介します。 ①経済的利益 ②賃貸料相当額 ①経済的利益  経済的利益とは、ひらたくいえば、「本来ならば適正な対価を支払うべきところを、安価もしくは無償で済ませたことによって得たメリット」です。会社と従業員等との間で提供される経済的利益は、直接の金銭のやりとりはなくても、実質的な給与としてみなされます。  次のようなケースは、経済的利益に該当します。 ケース1:モノ(物品・資産)を無償で譲り受けた、もしくは格安で買った  会社から商品、備品、車などの資産を無償でもらったり、相場より著しく安く買ったりした場合、本来の価値(時価)と、実際に支払った金額との「差額」が、経済的利益とみなされます。 ケース2:土地・家屋等を無償や格安で借りた  会社から土地や家等を無償で借りたり、相場より安く借りたりした場合、本来支払うべき適正な賃料(賃貸料相当額)と、実際に支払った家賃等との「差額」が、経済的利益とみなされます。 ケース3:お金を無利息や低い利息で借りた  会社からお金を無利息で借りたり、通常よりも低い金利で貸し付けを受けたりした場合、通常の金利で計算した本来の利息額と、実際に支払った利息額との「差額」が、経済的利益とみなされます。 ケース4:サービス(役務)を無償や格安で受けた  上記のケース2・3以外の、何らかのサービス(役務)を無償や相場より安く提供してもらった場合、本来の適正なサービス料と、実際に支払った金額との「差額」が、経済的利益とみなされます。 ケース5:借金を免除・肩代わりしてもらった  会社に対する借金を免除してもらったり、個人的な債務(支払い義務)を会社に肩代わりしてもらったりした場合、免除された金額や、肩代わりしてもらった「金額そのもの」が、経済的利益とみなされます。 ②賃貸料相当額  上記(2)の「ケース2」でも触れているとおり、「賃貸料相当額」とは、税法上定められている「本来支払うべき適正な賃料」のことをいいます。実際の家賃ではなく、物件の固定資産税の課税標準額等を基に計算されます。  会社が従業員等に対して社宅を貸与する場合、1か月あたり、一定額の家賃を従業員等から受け取っていれば給与として課税されません。  「一定額の家賃」とは、次のとおりです。 ○従業員等に借り上げ社宅を貸与する場合:賃貸料相当額の50%以上 ○役員に借り上げ社宅を貸与する場合:賃貸料相当額  仮に相場よりも低い家賃を従業員等から受け取っていたとしても、これらの基準を超えていれば税務上は問題ありません。逆に、これらの基準を下回った場合は、「経済的利益」とみなされ、その差額が給与として課税されます。  なお、賃貸料相当額の計算方法は、「誰に貸すか」「どんな物件か」等により異なりますので注意が必要です。 (3) 従業員等に借り上げ社宅を貸与する場合  会社が従業員等に対して借り上げ社宅を貸与する場合、従業員等から1か月当たり「賃貸料相当額の50%以上」を受け取っていれば、給与として課税されません。  この場合の賃貸料相当額とは、次のAからCの合計額をいいます。 A:その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2 B:12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡) C:その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%  借り上げ社宅の場合であっても、貸主等から固定資産税の課税標準額等を確認することが必要です。ただし、固定資産の課税標準額が記載された課税明細書は、基本的に固定資産の所有者に送付されることとなっています。必ずしも「貸主=所有者」ではなく、管理会社が貸主となっているケースもあります。そのため、貸主を通じて所有者を確認し、固定資産税の課税標準額を教えてもらうなどの対応をとることが求められます。  なお、その社宅が新築等であり、固定資産税の課税標準額が定められていない場合は、当該社宅等と類似する住宅等に係る固定資産税の課税標準額に比準する価額を基に、賃貸料相当額の計算を行います。  簡便的な運用として「実際の家賃の一定割合以上を従業員から徴収する」という方法を採っている会社も中にはあるようですが、「固定資産税の課税標準額」の計算根拠となる「固定資産税の評価額」は、原則として3年に1度見直し(評価替え)がなされます。したがって、固定資産税の評価額が改定された場合、基本的には賃貸料相当額も算出し直すこととなります。  このため、賃貸料相当額を安易に考えたり、同じ額で長年据え置いたりしていると、「賃貸料相当額の50%以上」という基準を下回ってしまうことも考えられます。固定資産税の課税標準額はこまめに確認し、最新情報に基づいて賃貸料相当額を計算するようにしましょう。 (4) 役員に借り上げ社宅を貸与する場合  役員(社長を含む)に対して借り上げ社宅を貸与する場合、役員から1か月当たり「賃貸料相当額」を受け取っていれば、給与として課税されません。  ただし、役員は会社の意思決定者であり、自ら条件を決められる立場にあります。このため、利益操作や私的流用・公私混同を防ぐ観点から、給与と同様、社宅についても、従業員より厳格なルールが定められています。  役員へ社宅を貸与する場合の賃貸料相当額は、貸し出す社宅の床面積などによって①小規模な住宅②小規模な住宅以外の住宅③豪華住宅――に分けて計算されます。 ①小規模な住宅 次のいずれかに該当する住宅をいいます。 ○法定耐用年数が30年以下の建物の場合:床面積が132㎡以下の住宅 ○法定耐用年数が30年を超える建物の場合:床面積が99㎡以下※の住宅 ※区分所有の建物は共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えて判定 次のAからCまでの合計額が賃貸料相当額になります。 A:(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2% B:12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡) C:(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22% ②小規模な住宅以外の住宅 役員に貸与する社宅が上記①の住宅に該当しない場合には、まず、次の算出方法による額(社有社宅の場合の賃貸料相当額)を算出します。  a.次のイとロの合計額の12分の1   イ:その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%※    ※法定耐用年数が30年を超える建物の場合には10%   ロ:その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6% その上で、「会社が家主に支払う家賃の50%」の金額と、上記aで算出した額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。 ③豪華社宅 通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。 なお、豪華社宅に該当するかどうかは、床面積が240㎡を超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定されます。 床面積が240㎡以下のものであっても、一般に貸与されている住宅等に設置されていない設備(プールなど)や役員個人の嗜好を著しく反映した設備等(高級オーディオルームなど)を有するものについては、「豪華社宅」とみなされます。  なお、役員へ社宅を貸与する場合、「定期同額給与」との関係も重要です。期の途中で社宅制度を導入したり、家賃負担の変更などがあったりした場合は、実質的な役員報酬の変更とみなされるおそれもありますので、注意しましょう。 4.「給与」として課税されると、源泉徴収事務への影響も  これらの税務上のルールを満たさない状態で社宅制度を運用していると、「給与」として課税されるリスクが高まります。この場合、源泉徴収事務への影響が出ることが予想されます。  給料や賞与などから源泉徴収をする所得税・復興特別所得税の額は、源泉徴収税額表を使用して求めます。その上で、原則として、その月の給与支払いの翌月10日までに源泉徴収税額を納付することとなっています(納付期限の日が日曜日、祝日などの休日や土曜日に当たる場合には、その休日明けの日が納付期限)。  この納付期限までに納付されない場合や、源泉徴収すべき税額に誤りがあった場合、会社側(源泉徴収義務者)は延滞税や不納付加算税などを負担しなければならないことがありますので、注意しましょう。 5.まとめ  社宅制度は、従業員満足度の向上や採用力の強化につながる、有効な制度です。  その一方で、「役員が主な受益者になりやすい」として、税務調査でも指摘されやすい論点の1つでもあります。また、「賃貸料相当額」の計算を誤ると、給与として課税されるほか、源泉徴収事務にも影響を及ぼします。このため、社宅制度を導入する際は、税務上のルールをよく理解することが重要になります。 参考資料 人事院「民間企業の勤務条件制度(令和6年調査結果)」 国税庁Webサイト「法令解釈通達(所得税)」 国税庁タックスアンサー「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」 国税庁タックスアンサー「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」 国税庁「令和8年版 源泉徴収のしかた」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

2026.08.24

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