「一点もの」を量産化する播州織ブランド

播州織の産地・兵庫県西脇市で唯一無二の「一点もの」を生み出し続けるファッションブランド「tamaki niime(タマキ ニイメ)」。染色から織り、縫製、販売までを一気通貫で行い、多くのファンを獲得してきた。玉木新雌社長に、ものづくりへの思いと次なる挑戦の青写真を聞いた。 (写真)玉木新雌社長 目次 閉じる開く 服づくりの原点は「心地よさ」 データ連携で経理業務効率化 ニット作品の生産体制強化 有限会社玉木新雌 代表取締役社長 玉木新雌氏 たまき・にいめ●福井県勝山市生まれ。洋品店を営む両親のもとで育つ。武庫川女子大学で生活環境学を学んだ後、専門学校で服づくりを学ぶ。卒業後は繊維商社瀧定大阪でパタンナーとして勤務した後に独立、2004年にブランド「tamaki niime」をスタートする。2008年に西脇市内に店舗を開設。播州織を中心に、染色・織り・編み・縫製から販売までを手掛ける独自の事業を展開している。 「私はこれまで、自分がほしいと思うものをひたすら作り続けてきました。その過程で生まれたもの1点1点をその時点でのベストといえる『作品』として世の中に出していくという取り組みが、結果的に『一点もの』にこだわる当社の特徴になりました」 こう語るのは、播州織ブランド「tamaki niime」を展開する玉木新雌社長である。播州織の産地として知られる兵庫県西脇市を拠点に、衣料品や小物などを製造・販売する同社の最大の特徴は、同じ商品が二つと存在しないことにある。色や柄、風合いが微妙に異なる一点ものを生み出し続ける独自のものづくりによって、多くのファンを獲得してきた。本店のある西脇市だけでなく関東圏での展開にも力を入れており、東京・町田店、神奈川・鎌倉店に続き、間もなく東京・恵比寿にも新店舗を開設する予定だ。 ブランドを象徴するショールはもちろん、シャツやワンピース、ニット製品に至るまで、軽さや柔らかさを通じた着心地の良さ、鮮やかな色彩に徹底的にこだわっており、糸の染色から織り、編み、洗い加工、縫製工程まで自社ですべて手掛ける一貫生産体制を構築している。 製造ラインにとどまらず、一点ものを販売するために必要な商品管理の仕組みも、自前で整備してきた。 一般的なアパレル業界では同じ商品を大量に生産し、一つの商品画像で何百、何千という商品を販売する。しかし同社の場合は一着ごとに色と柄が異なるため、すべての作品を個別に撮影し、画像編集や色調整を行ったうえでオンラインショップに掲載している。 こうした一点ものの管理に対応できる販売管理システムも自社で開発。電子タグを活用し、すべての作品についてどの倉庫に在庫としておかれているか、どの店舗や催事場の販売棚に陳列されているかをリアルタイムに把握することが可能になっている。 現在、同社の販売管理システムに登録されている作品数は累計で45万点を超える。大量生産・大量販売を前提とした従来型のアパレルとは異なり、「一点ものの量産」という一見矛盾した手法を確立した、世界でも珍しいビジネスモデルといえるだろう。 オンラインショップで一点一点の作品をチェックできる 1.服づくりの原点は「心地よさ」 玉木社長は、福井県勝山市で洋品店を営む両親のもとに生まれた。大学卒業後に専門学校で服づくりを一から学び、繊維商社でパタンナーとして勤務。その後独立し自社ブランドの方向性を模索する最中に出会ったのが、播州織だった。 「ある展示会で『一点ものの生地』を掲げてアピールしていた西脇の織物職人の方にお会いしました。繊維業界でファストファッションが当たり前になりつつあるなかで、あえて一点ものの生地づくりを目指す姿勢に興味を持ったのです」 初対面でも物おじせず自らの意見をはっきり伝える性格の玉木社長は、その際もデザイン面での改善案などを伝えた。すると翌週、職人から「できた」と連絡が入った。玉木社長のアドバイスをすぐに取り入れた生地の試作品をつくってきたのである。そこから二人三脚でオリジナル生地の開発が始まり、「今まで見たことのない布が生まれた」(玉木社長)のである。 ちょうどそのころ、地元の商工会議所の誘致を機に、玉木社長は西脇市へ移住し店舗をオープン。初期はシャツの販売に取り組んだが、着心地の良い柔らかさを生かしたショールの生産を始めたところ評判を呼び、同社の名前は一躍有名になった。その後さまざまな種類の作品を生み出し続けているが、玉木社長が追求するものづくりの不変の方針は、見た目の美しさだけを求めないことである。 兵庫県西脇市の本社併設ショップ 「鏡を見て自分の着こなしを確認することは大切ですが、常にそれをできるわけではありません。一方で着心地は一日中常に自分に付きまとうものです。だから私は、着心地の良さ、気持ちよさをひたすら追求しています」 着る人の心地よさを起点にしたものづくり。その発想が、唯一無二のブランドを形づくっている。 これまでの同社の歩みを振り返ると、玉木社長の経営には一つの共通点がある。それは、既存の常識や業界の慣習にとらわれず、「まずやってみる」ことだ。柔軟な行動力と失敗を恐れないチャレンジ精神が最も発揮されたのが、コロナ禍の危機だった。 百貨店や取引先の店舗が相次いで営業を停止し、行き場を失った作品が倉庫に積み上がるなか、社内では布マスクを作ってみようという声が上がった。スタッフが自ら着用していた試作品を見た玉木社長は、即座に商品化を決断する。 翌日から社内の生産体制は、マスクへの生産にすべて切り替えられた。販売開始直後から注文が殺到し、結果として同社はその年度6万枚を超えるマスクを生産。その年だけで約1億円を売り上げたうえ、コロナ禍前から進めていた自社でのオンライン販売の仕組みもスムーズに導入することができた。 「コロナ前は『卸先にどうやって説明しよう』と悩んでいましたが、杞憂に終わりました。そもそも取引先や卸先が営業を停止しているので、『売り先がないので自社でマスクや作品を販売します』と説明すればよいだけでしたからね」 あくなきチャレンジ精神が、コロナ禍という危機を成長の機会へと変えたのである。 2.データ連携で経理業務効率化 事業規模の拡大に伴い、玉木新雌では数年前から経営管理体制の見直しも進めてきた。最重要課題としたのが経理業務のデジタル化である。 「つい最近まで経理業務はアナログなままで、レジの売り上げや取引データも含め、ほとんど手入力で行っていました。事業規模が大きくなるにつれ、限界を感じ始めたのです」 関係者からの紹介を受けて2024年に顧問契約を結んだ藤田弘税理士事務所の藤田弘税理士の提案で、早速『FX4クラウド』を導入。販売管理システムとのデータ連携や銀行信販データ受信機能の活用により、経理業務の大幅な負担軽減を実現した。 「年間約2万件に及ぶ仕訳のうち半分以上はデータ連携で処理できるようになりました。経理担当者は入力作業から、分析や管理業務に時間を振り向けられるようになったと思います」 藤田税理士はさらに、現場社員を集め変動損益計算書の考え方や決算書の見方などについてレクチャーする説明会を実施。玉木社長は、数字に対する意識改革が生じたという。 「それまでは数字を見ていたのが私と経理担当ぐらいでしたが、現場のスタッフも利益率や原価率を意識するようになりましたね。売上高だけではなく利益も大事だということを、社員全員で共有できるようになりました」 毎月の月次決算を通じ、予算と実績を比較しながら経営状況を確認。売上目標に対する達成度はもちろん、利益率や経費の状況についても常に目を光らせている。 「今月はなぜ業績が良かったのか、なぜ悪かったのか、その要因を検証し次の経営判断に生かしています。数字と向き合い、原因を考え、対策を取る。その繰り返しですね」 感性や創造性を大切にする企業でありながら、数字に基づく業績管理も万全な点が、同社のもう一つの強みといえるだろう。 3.ニット作品の生産体制強化 今春同社は、新たにニット専用の拠点「タマキニイメニッティングラボ」を西脇市内に整備し、生産機能の一部を移転した。地元では播州織の担い手減少が進んでおり、織物以外の技術基盤も蓄積していく必要があると考えたからだという。 (左)本社ラボはモニターを通じて鎌倉店(神奈川県)とリアルタイムでコミュニケーションがとれる、(右)自社で染色している色とりどりの糸 「播州織がこれからも続くことが理想ですが、将来何が起こるか分かりません。今のうちから編物を扱うニット事業を強化することで、仮に生産地としての播州織の機能が失われたとしても、ニット事業が支える側になれるくらいの存在に育ってほしいと思っています」 将来的には、販売のあり方も大きく変えていく計画だ。作品の購入もできる新たなタイプの体験型倉庫の新設を検討している。 「図書館で本を探すように、自分で好きな作品を倉庫で探して試着し、選べる場所をつくりたいと考えました。目指しているのは、接客されるのではなく、自分の感覚で作品と出会える空間です」 播州織の産地で3人からスタートした小さなブランドが生まれて今年で20年。今や国内外に多くのファンを持つ従業員100人規模の会社に成長した。玉木社長の視線は、次の20年に向けた挑戦にすでに向けられている。 (協力・藤田弘税理士事務所/本誌・植松啓介) 会社概要 名称 有限会社玉木新雌 創業 2004年12月 所在地 兵庫県西脇市比延町550-1 売上高 約9億円 従業員数 約100名(パート含む) URL https://www.niime.jp 顧問税理士 藤田弘税理士事務所 税理士 藤田弘 兵庫県小野市上本町170番地10 URL: https://hujitahiroshi.tkcnf.com 掲載:『戦略経営者』2026年10月号 記事提供 戦略経営者  『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

2026.10.13

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