試験研究費の一部を法人税額から控除! 中小企業技術基盤強化税制の内容を確認しよう

中小企業技術基盤強化税制は、中小企業者等が支出した試験研究費の一部を、法人税額から直接控除できる制度です。新製品の開発や既存技術の改良を続ける会社にとって、研究開発投資を後押しする税制です。本記事では、本税制の対象となる会社や試験研究費の種類、控除率について解説します。 💡この記事のポイント  ☑中小企業技術基盤強化税制は、中小企業の試験研究費の一部を法人税額から控除できる制度。  ☑控除率は原則12%で、一定の条件を満たせば最大17%まで引き上げられる。  ☑本税制を活用するためには、対象費用の確認と研究開発の実態の説明が重要。 目次 閉じる開く 1.中小企業技術基盤強化税制とは? (1) 中小企業技術基盤強化税制の概要 (2) 対象法人とは? (3) そのほかの研究開発税制との違いは? 2.対象となる試験研究費とは? (1) どのような活動が試験研究に当たるのか? (2) 試験研究費における注意点 3.控除率の仕組みと具体的な控除額 (1) 控除率 (2) 実際の控除額はどのくらいになるのか? 4.活用方法と申告までに揃えておきたい資料 (1) 事前に準備しておきたいこと (2) 申告時に揃えておきたい資料 5.まとめ 1.中小企業技術基盤強化税制とは? (1)中小企業技術基盤強化税制の概要  中小企業技術基盤強化税制とは、研究開発に取り組む中小企業等が、一定の試験研究費を支出した場合に、その一部を法人税額から直接控除できる制度です。試験研究費は通常、所得計算上損金算入されますが、本税制ではそれに加えて一定額を法人税額そのものから控除できる点に特徴があります。これにより、研究開発に投じた資金を回収しやすくし、次の開発投資につなげやすくする効果が期待できます。  中小企業技術基盤強化税制における控除額の上限は、原則として各控除を行う前の税額である調整前法人税額の25%です。  ただし、試験研究費が過去3年間の平均と比べて12%を超えて増加した場合や、当期の試験研究費の額が当期を含む4事業年度の平均売上金額の10%を超える場合には、上限が追加される上乗せ措置があります。  また、令和8年度税制改正では、研究開発税制の見直しが行われています。令和8年度改正の適用関係については、申告対象事業年度と合わせて最新資料で確認することが重要です。 (2)対象法人とは?  本税制の対象となるのは青色申告書を提出する中小企業者等ですが、資本金額や従業員数だけで判断できるわけではありません。大規模法人との支配関係や適用除外事業者に当たるかどうかなども含めて確認する必要があります。本税制を利用できる会社と利用できない会社の具体例は、次のとおりです。 ■利用できる会社の主な例 前提条件:青色申告書を提出する中小企業者等 ①資本金または出資金の額が1億円以下の法人 ②資本金または出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人 ③農業協同組合等 ■利用できない会社の主な例 ①大規模法人に発行済株式または出資総数・総額の2分の1以上を所有されている法人 ②複数の大規模法人に発行済株式または出資総数・総額の3分の2以上を所有されている法人 ③過去3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超えるなどの適用除外事業者に該当する法人 【出典】 中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」 国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制|国税庁」 (3)そのほかの研究開発税制との違いは?  研究開発税制には「中小企業技術基盤強化税制」のほかにも、「一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)」「特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)」があります。いずれも試験研究費の一部を法人税額から直接控除できる制度ですが、対象となる法人や試験研究費の内容、控除率、併用の可否に違いがあります。  このうち、一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)は、青色申告書を提出する法人を広く対象とする制度です。これに対し中小企業技術基盤強化税制は、一定の中小企業者等が一般試験研究費に係る税額控除制度に代えて適用する制度であり、より高い控除率が設けられている点が特徴といえます。そのため、一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)と中小企業技術基盤強化税制は、同じ一般試験研究費について重複して適用することはできません。  一方、特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)は、大学、国の試験研究機関、一定のスタートアップ企業等との共同研究や委託研究など、一定の連携によって生じた特別試験研究費を対象とする制度です。これは一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)や中小企業技術基盤強化税制とは対象となる費用の考え方が異なるため、要件を満たせば別枠で併用できる場合があります。ただし、同じ支出について複数の制度を重ねて適用することはできません。  そのため、研究開発税制を検討する際は、「自社が中小企業者等に当たるか」「支出が一般試験研究費に当たるか」「共同研究等による特別試験研究費に当たるか」を区分して整理することが重要です。 制度 主な対象 対象となる試験研究費 控除率の目安 重複適用 中小企業技術基盤強化税制 一定の中小企業者等 一般試験研究費 12~17% 一般試験研究費の額に係る税額控除制度との重複適用は不可 一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型) 青色申告書を提出する法人 一般試験研究費 事業年度や増減試験研究費割合等に応じて変動 中小企業技術基盤強化税制との重複適用は不可 特別試験研究費税額控除制度(オープンイノベーション型) 青色申告書を提出する法人のうち、大学・国の試験研究機関・一定のスタートアップ等との共同研究・委託研究等を行う法人 特別試験研究費 20~30% 一般型・中小企業技術基盤強化税制と別枠で併用可(ただし同一費用の重複適用は不可) 【出典】 国税庁「No.5441 研究開発税制について(概要)|国税庁」 国税庁「No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度|国税庁」 国税庁「No.5443 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)|国税庁」 国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制|国税庁」 中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」 2.対象となる試験研究費とは? (1)どのような活動が試験研究に当たるのか?  本税制の対象となるのは、新たな知見を得る、または既存の知見を新たに応用するために行う試験研究です。新製品の開発や技術改良が中心で、対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究についても、法令上の要件を満たす場合には対象になり得ます。  一方で、既存技術の単なる模倣や通常業務に近い活動は対象外です。ポイントは、技術的課題に向けた検証活動といえるかどうかにあります。「新しい技術的課題に向けた検証」であれば対象になりやすく、「販売・生産・維持のための通常業務」であれば対象外になりやすいです。  以下は、対象になりやすい活動例と対象外になりやすい活動例の表です。本税制の利用を考えている場合、自社の活動が税制の対象に該当しているか確認しておきましょう。 本税制の対象になりやすい活動例 本税制の対象外になりやすい活動例 ・食品メーカーが保存性の向上のために配合や製法を繰り返し検証する・製造業が歩留まり改善のために新しい加工条件を実験する・情報解析専門家が大量のデータを分析し、新たな有償サービスの設計や検証を行う ・既存製品や既存技術の模倣・販売目的のマーケティング調査やアンケート・品質管理、製品検査、量産化のための試作・既存業務の単純なデジタル化や運用改善 【参考】国税庁「第1款 試験研究の範囲|国税庁」を参考に編集部で作成  「改良」や「検証」という点だけで対象になるわけではないことにも注意が必要です。例えば、既存製品における不具合の対応として仕様を微調整するだけの作業や、量産前の最終確認として行う反復試験は、研究開発ではなく通常の製造・品質管理の一部とみなされることがあります。  一方、技術的な課題を設定し、仮説を立て、試験や分析を通じて解決策の有効性を確かめているのであれば、研究開発として説明しやすくなります。開発会議の記録、試験計画書、検証結果などを残しておくことが、対象性を判断するうえで役立ちます。とりわけサービス開発では、単なる既存業務のデジタル化では足りず、自動収集した大量データや自社保有データのうち十分な量の情報を情報解析専門家が分析し、発見された法則を用いて新たな役務を設計し、その妥当性を確認する工程に当たるかが重要です。 (2)試験研究費における注意点  試験研究費では、特に人件費や外注費等の研究開発と通常業務が混在しやすい費用もあるため、職務分担や契約内容を整理しないまま計上することはしないようにしましょう。その費用に充てるための支払を受けている場合には、その金額を控除して考える点にも注意が必要です。費目だけでなく、研究テーマとの結び付きを含めて整理しておくことが重要です。  試験研究費に当たるかどうかは、活動内容だけでなく、法令上の費目要件と研究テーマとの対応関係で判断します。開発に関係していても、その全部が対象になるわけではないため、費目ごとの対象範囲を確認し、どの研究テーマに対応する支出かを関連づけて把握することが大切です。以下は各費用と各試験研究の対応例です。 費用 製品の製造等に係る試験研究 サービス開発に係る試験研究 原材料費・経費 対象になり得る(損金算入される一定費用) 対象になり得るが、要件を満たす新サービス研究に対応するものに限る 人件費 専門的知識をもって試験研究業務に専ら従事する者に係るもの 情報解析専門家がその試験研究に専ら従事するものに限る 委託研究費 対象になり得る 原材料費・人件費・経費に相当する部分に限り対象になり得る 技術研究組合への賦課金 対象 対象外 減価償却費 試験研究用資産に係るものが対象 試験研究用資産に係るものが対象 【出典】 国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制|国税庁」 中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」 3.控除率の仕組みと具体的な控除額 (1)控除率  本税制では、対象となる試験研究費に一定の控除率を掛けて税額控除額を計算します。控除率は原則12%で、一定の条件を満たすと最大17%まで引き上げられます。「どのような条件だと控除率が上がるのか?」を理解しておくことが重要です。 判定基準 条件 控除率 基本 増減試験研究費割合が12%以下の場合は12% 一律12% 上乗せ① 増減試験研究費割合が12%超 12%+(増減試験研究費割合-12%)×0.375(上限17%) 上乗せ② 4年平均売上高に占める試験研究費割合が10%超 通常の控除率に一定の割増(上限17%) 【出典】中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」  控除率は、当期の試験研究費を過去3年平均と比べて何%増減したかを見る指標である「増減試験研究費割合」に応じて決まります。この割合が12%以下の場合は一律12%です。12%を超えて増えている場合には、【12%+(増減試験研究費割合-12%)×0.375】という計算式により控除率が上乗せされ、最大17%まで上がります。  さらに、当期の試験研究費の額が当期を含む4事業年度の平均売上金額の10%を超える場合には、通常の控除率に一定の割増が加わります。そのため、試験研究費の伸びだけでなく、売上規模に対する研究開発投資の規模も評価される仕組みといえます。継続的に研究開発を重視している会社では、この上乗せ措置によって控除率が高まる可能性があります。 (2)実際の控除額はどのくらいになるのか?  実際の税額控除額は法人税額に対する控除上限の影響も受けるため、控除率だけでなく上限判定も合わせて確認する必要があります。  また、売上高に対する試験研究費割合が高い会社や、試験研究費が大きく増加している会社では、控除率だけでなく控除上限にも上乗せ措置が適用される場合があります。  以下の控除額の例は、①は原則上限で頭打ち、②では増減試験研究費割合が12%超であるため控除上限にも上乗せ措置が適用される前提です。 ①化学工業製造業の事例  ■売上高20億円  ■試験研究費1億2千万円  ■控除率12%  ■法人税額4,000万円  ⇩  法人税額の軽減額  1億2千万円×12%=1,440万円  ⇒控除上限は法人税額4,000万円×25%=1,000万円のため、軽減額は1,000万円 ②食料品製造業の事例  ■売上高6億円  ■試験研究費3千万円  ■控除率17%  ■法人税額2,000万円  ⇩  法人税額の軽減額  3千万×17%=510万円 ⇒原則上限は500万円だが、増減試験研究費割合が12%を超える場合の上限上乗せ措置が適用されるため、510万円の控除が可能になる。 【出典】中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」 4.活用方法と申告までに揃えておきたい資料 (1)事前に準備しておきたいこと  この制度の実務で最も大切なのは、「何にいくら使ったか?」だけでなく、「その支出がどの研究テーマの、どの試験研究に対応する費用なのか?」を説明できるようにしておくことです。本税制における税額控除が適用されるためには対象費用として認められるかどうかが出発点になります。そのため、研究テーマごとに目的、技術的課題、検証内容、結果を整理しておくことが、制度活用の土台になります。  そのなかで重要になるのが人件費の管理です。本税制では、専門的知識をもって試験研究業務に専ら従事する者に係る人件費が対象になります。人件費を対象に含めたいなら、担当者の役割やその内容、従事割合、作業記録、報告書などを揃え、説明できる状態にしておくことが必要です。  外部への委託研究費や外注費についても、契約書、仕様書、成果物、請求書の内訳などを通じて、その外注が本当に試験研究のためのものか、単なる制作・運用・保守ではないかを見極める必要があります。研究開発と周辺業務が一体になりやすい会社ほど、契約段階から「この委託は研究開発なのかどうか」を意識して整理しておくことが重要です。 (2)申告時に揃えておきたい資料  申告時に慌てないためにも、必要資料を早い段階から揃えておくことが重要です。以下に示す資料はセットで確認しておきましょう。 資料 確認したいポイント 研究テーマ一覧・企画書 目的、技術的課題、検証内容がわかるか 工数記録・人件費資料 誰がどの研究にどれだけ従事したかを説明できるか 契約書・仕様書・成果物 委託内容が試験研究に当たるかを示せるか 請求書・仕訳・集計表 支出額と研究テーマが対応しているか 過去3年の試験研究費・当期を含む4事業年度の売上資料 控除率や控除上限の計算前提が揃っているか 申告書別表・適用額明細書 提出書類に漏れがないか 【出典】 国税庁「No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度|国税庁」 国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制|国税庁」  実際の流れとして、研究テーマを洗い出したうえで各テーマに対応する支出を分類し、そのうえで対象費用かどうかを判断する、という順番が基本になります。その後に過去3年の試験研究費との比較や売上高との関係を確認し、控除率と控除上限を計算します。  制度の適用可否に迷う場合は自己判断しないことも大切です。特に、サービス開発、人件費や外注費の範囲などで迷いがある場合、資料を持ったうえで税理士等の専門家に相談し、どの記録を残すべきかまで確認しておくと安心です。 5.まとめ  自社で新製品の開発や改良を続けている、製造工程の技術的改善に取り組んでいる、データを活用した新サービスの開発に取り組んでいる――そのような会社は、本税制の対象となる可能性があります。  ただし、マーケティング調査や品質管理、量産化のための試作など、対象外となる活動も少なくありません。さらに、会社自体が対象となるかどうかに加え、各支出が試験研究費に当たるかどうかも確認が必要です。  「自社は対象かもしれない」と考えた時点で、研究テーマ、費用区分、社内記録を整備することが制度活用の近道になります。研究開発を続ける会社ほど、本税制を研究開発投資を支える制度として捉えることが大切です。 参考 ・国税庁「No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者|国税庁」 ・国税庁「No.5441 研究開発税制について(概要)|国税庁」 ・国税庁「No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度|国税庁」 ・国税庁「No.5443 特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)|国税庁」 ・国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制|国税庁」 ・国税庁「第1款 試験研究の範囲|国税庁」 ・国税庁「第2款 試験研究費の額|国税庁」 ・国税庁「第3款 中小企業者|国税庁」 ・中小企業庁「中小企業向け研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制) | 中小企業庁」 ・中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和7年度版」 ・中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義 | 中小企業庁」 ・独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小機構法上の中小企業・小規模企業者の定義 | 中小機構について | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構」 ・財務省「令和8年度税制改正の大綱」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

2026.06.16

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