行動につながる「KPI」の作り方と活かし方

KPIは、売上や利益などの経営目標に向けて、現場の取り組みが進んでいるかを確認するための数字です。本記事では、KPIの基本、自社に合った指標の選び方、業種別の例、月次での活かし方、金融機関や税理士・会計事務所との対話への活用までを解説します。 💡この記事のポイント  ☑KPIは、経営目標と現場の具体的な行動をつなぐための数字  ☑KPIは、自社の課題から逆算して決める  ☑KPIは作って終わりではなく、月次で確認して行動を見直す 目次 閉じる 開く 1.KPIとは、目標と行動をつなぐ数字 (1) 「利益を増やす」だけでは何をすべきかが見えにくい (2) KPIは数字と行動をセットで決める 2.KPIを作る前に、自社の課題をつかむ (1) まずは、自社の課題から考える (2) 売上・利益・資金繰りを分けて見る 3.行動につながるKPIの作り方 (1) KGIからKPI、アクションへ落とし込む (2) KPIを決めるときの考え方 (3) 業種や課題によってKPIは変わる 4.KPIを月次で活かす (1) 担当者と確認頻度まで決める (2) 数字を見て、次の行動を見直す 5.KPIを金融機関や税理士との対話に活かす (1) 金融機関に改善状況を説明する材料になる (2) 税理士・会計事務所と一緒に確認する 6.まとめ:KPIは、目標と行動をつなぐ数字 1.KPIとは、目標と行動をつなぐ数字 (1)「利益を増やす」だけでは何をすべきかが見えにくい  「売上を伸ばしたい」「利益を改善したい」「資金繰りを安定させたい」。こうした目標は、多くの中小企業に共通します。  ただ、目標を掲げるだけでは、現場で何を変えればよいのかが分かりにくい場合があります。たとえば「利益を増やす」といっても、値引きを抑えるのか、粗利率の高い商品の販売を増やすのか、仕入条件を見直すのか、在庫を減らすのかによって、取るべき行動は変わります。  そこで用いられるのがKPIです。KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」などと訳され、売上や利益などの目標に向けて、現場の取り組みがどの程度進んでいるかを数字で確認するための指標です。  たとえば「利益を増やす」という目標であれば、売上高だけを見るのではなく、値引きの割合(平均値引率)、粗利率の高い商品の提案件数、在庫の状況なども確認します。簡単にいえば、KPIは経営者が「何を良くしたいのか」を、社員が日々の仕事の中で確認できる数字にしたものです。 (2)KPIは数字と行動をセットで決める  KPIは、数字だけを決めても十分に活かせません。その数字を見て、誰が、何を、どう見直すのかまで決めておくことで、現場の行動に結びつきます。たとえば、次のように考えます。 経営目標 確認する数字の例 現場の行動 利益を増やす 値引きの割合、粗利率の高い商品の提案件数 値引きのルールを見直し、重点商品の提案を増やす 資金繰りを改善する 売掛金の回収までの日数、長く残っている在庫の金額 未回収先を確認し、売れ残り在庫を見直す 売上を伸ばす 新しい商談の数、見積もりの提出数、成約率 新規先への提案を増やし、商談結果を確認する  卸売業で「利益を増やしたい」と考えた場合、売上高だけを追うと、値引きを増やして売上を作る動きになりかねません。その結果、売上は増えたのに利益が残らないことがあります。この場合は、売上高だけでなく、値引きの割合、粗利率の高い商品の提案件数、粗利率の高い商品の売上割合、在庫が長く残っていないかといった点を見る必要があります。  このように、KPIは売上や利益の結果だけを見るためのものではありません。結果に至る前の行動や状態を確認し、早めに手を打つために使う数字です。 2.KPIを作る前に、自社の課題をつかむ (1)まずは、自社の課題から考える  KPIを決めるときは、いきなり「商談数を増やす」「来店数を増やす」といった指標から考えるのではなく、まず自社のどこに課題があるのかを確認します。一般的に使われる指標でも、自社の課題に合っていなければ、改善にはつながりにくいからです。  同じ「業績を良くしたい」という状態でも、原因は会社によって異なります。売上そのものが足りない会社もあれば、売上はあるのに値引きが多く、利益が残りにくい会社もあります。在庫が増えて資金繰りを圧迫している場合や、売掛金の回収が遅れている場合もあります。  たとえば、売上は一定水準あるのに利益率が低い会社が、新規商談数だけを追っても、利益改善には直結しにくいでしょう。商談が増えても、値引きが多いままでは利益が残りにくいためです。この場合は、商談数よりも、値引きの割合や粗利率の高い商品の販売比率を見る方が、課題に合っています。  反対に、新規顧客が不足している会社であれば、商談数や見積もりの提出数は重要なKPIになります。まずは、何が業績改善の妨げになっているのかを確認し、その課題に合った数字を選ぶことが出発点です。 (2)売上・利益・資金繰りを分けて見る  現状分析では、全社の売上や利益だけでなく、商品別、得意先別、部門別に分けて見ると、課題が分かりやすくなります。経済産業省の「ローカルベンチマーク」でも、財務面だけでなく、商流・業務フローや非財務面を含めて会社の現状を把握する考え方が示されています。  売上が大きい商品でも、値引きが多く利益が残っていない場合があります。反対に、売上規模は小さくても利益率が高く、会社に貢献している商品もあります。得意先別に見ると、売上は大きいものの回収期間が長く、資金繰りを圧迫している取引先が見つかることもあります。  KPIを決める前に、次の点を確認します。 ・売上高:どの商品、どの顧客に偏っているか ・粗利率、または必要に応じて限界利益率:値引き、原価上昇、変動費の増加で収益性が落ちていないか ・在庫:不良在庫や過剰在庫がないか ・売掛金:回収が遅れていないか ・借入金:返済負担が重くなっていないか  特に中小企業では、利益と同じくらい資金繰りにも目を向ける必要があります。帳簿上は黒字でも、売掛金の回収が遅れたり、在庫が増えたりすれば、手元資金は不足します。  資金繰りを見るKPIとしては、売上債権回転日数(売上代金を回収するまでの日数の目安)、棚卸資産回転日数(在庫が売上に変わるまでの日数の目安)、買入債務回転日数(仕入代金を支払うまでの日数の目安)、月末資金残高、資金繰り表の更新頻度などがあります。  売掛金や在庫、仕入代金の支払いまでの期間を見ることで、利益だけでは分からない資金の動きを確認できます。  ただし、買入債務回転日数は、単に長ければよいというものではありません。支払遅延がないか、取引先との支払条件に無理がないかもあわせて確認します。 3.行動につながるKPIの作り方 (1)KGIからKPI、アクションへ落とし込む  KPIを作るときは、最初に「最終的に達成したい目標」と「そのために現場で確認する数字」を分けて考えると整理しやすくなります。  ここで使う言葉を、先に簡単に確認しておきます。 KGI(Key Goal Indicator) 最終的に達成したい経営目標のことです。たとえば「経常利益を前年比10%増やす」「営業キャッシュ・フローを黒字化する」といったゴールです。 KPI(Key Performance Indicator) KGIに向けた途中経過を確認する数字です。たとえば「値引きの割合」「重点商品の提案件数」「売掛金の回収までの日数」などです。 重要成功要因(CSF:Critical Success Factor) 目標を達成するために特に大事な取り組みです。たとえば「値引きを抑える」「粗利率の高い商品の販売を増やす」「在庫を適正にする」といったものです。 アクションプラン 誰が、何を、いつ行うかを決めた計画です。たとえば「営業責任者が毎週、重点商品の提案状況を確認する」といった内容です。  そのうえで、次のように整理します。 <例> KGI:経常利益を前年比10%増やす ↓ 重要成功要因:粗利率の高い重点商品の販売比率を高める、値引きを抑える ↓ KPI:粗利率の高い重点商品の売上構成比、値引きの割合(平均値引率)、重点商品の提案件数 ↓ アクション:重点商品の提案先リストを作り、営業会議で提案状況を確認する  KGIとKPIがつながっていないと、数字を追いかけているのに経営成果に結びつかないことがあります。KPIは単体で決めるのではなく、上位目標から順に落とし込みます。 (2)KPIを決めるときの考え方  中小企業が経営改善計画を作成したり、金融機関に業績を説明したりする場面でも、まず現状の課題を把握し、具体的な行動計画を立て、その進捗を確認する流れが重視されます。  たとえば、中小企業庁の「早期経営改善計画策定支援」でも、資金繰り計画やビジネスモデル俯瞰図、アクションプランを作成し、その後の進捗や取組状況を確認する流れが示されています。KPIを決めるときも、この流れに沿って考えると整理しやすくなります。  まず、「いま一番改善したいことは何か」を確認します。売上なのか、利益なのか、資金繰りなのか、生産性なのかを決めます。  次に、「その原因はどこにあるか」を考えます。値引きが多いのか、原価が上がっているのか、回収が遅れているのか、在庫が多すぎるのかによって、見るべき数字は変わります。  そのうえで、「現場で変えるべき行動は何か」を整理します。重点商品の提案、値引き承認ルールの見直し、未回収先の確認、滞留在庫の処分など、実際に動かせる行動に落とし込みます。  最後に、その行動や変化をどの数字で確認するかを決めます。提案件数、値引きの割合、売掛金の回収までの日数、在庫の回転日数(棚卸資産回転日数)などが候補になります。あわせて、誰が、どの頻度で確認するかも決めておくと、KPIを運用しやすくなります。 (3)業種や課題によってKPIは変わる  KPIは、業種や会社の課題によって変わります。同じ「売上を伸ばしたい」という目標でも、見るべき数字は同じではありません。 業種 課題になりやすいこと KPIの例 製造業 不良、納期遅れ、原価上昇、設備の稼働 不良率、納期遵守率、原価率、設備稼働率 卸売業 粗利、在庫、売掛金の回収 粗利率、値引きの割合、在庫の回転日数、売掛金の回収までの日数 小売業 来店数、客単価、在庫 来店数、客単価、購買率、在庫回転率 サービス業 稼働、リピート、生産性 稼働率、リピート率、予約件数、1人当たり売上高 建設業 工程、工事原価、入金 工程進捗率、工事粗利率、売上債権残高(完成工事未収入金など)  これらはあくまで一例ですので、同業他社が見ている数字をそのまま使うのではなく、自社の課題に合わせて選びます。  KPIは、業種別に考えるだけでなく、数字の性質で分けても整理できます。商談数や提案件数のように「行動量」を見る数字、成約率や値引率のように「途中経過」を見る数字、限界利益率や売上債権回転日数のように「利益や資金繰りへの影響」を見る数字があります。 4.KPIを月次で活かす (1)担当者と確認頻度まで決める  KPIを決める際は、どの数字を見るかだけでなく、現状値、目標値、確認する時期もあわせて決めておきます。KPIと目標値が決まったら、次は日々の仕事に落とし込みます。  たとえば、利益率を改善する場合は、次のようにアクションまで決めます。 KPI 実行すること 確認する人・頻度 重点商品の提案件数 営業担当者ごとに提案件数を確認する 営業責任者が毎週確認 平均値引率 一定率を超える値引きを承認制にする 経営者・営業責任者が随時確認 棚卸資産回転日数 在庫が売上に変わるまでの日数を確認し、滞留在庫リストを見直す 仕入担当が毎週確認 売上債権回転日数 売上代金を回収するまでの日数を確認し、未回収先の状況を共有する 経理・営業が毎月確認  KPIは、担当者を責めるためのものではありません。うまくいっていない点を早めに見つけ、次の動きを見直すためのものです。 (2)数字を見て、次の行動を見直す  KPIは、決めたら終わりではありません。毎月、実績を確認し、必要に応じて見直します。  月次確認では、次の順番で見ると整理できます。 1. 実績確認:KPIの目標値に対して実績はどうだったか 2. 原因確認:達成・未達の理由は何か 3. 行動確認:決めたアクションは実行されたか 4. 見直し:次月に続けること、変えることは何か  たとえば、重点商品の提案件数が未達だった場合、単に「営業が足りなかった」と見るだけでは不十分です。提案先リストが作れていなかったのか、商品説明が難しかったのか、営業会議で確認できていなかったのか。原因が違えば、次に打つ手も変わります。 5.KPIを金融機関や税理士との対話に活かす (1)金融機関に改善状況を説明する材料になる  KPIは社内管理のためだけのものではありません。月次で確認しているKPIは、金融機関に自社の改善状況を説明する材料にもなります。  金融機関との対話では、実務上、①資金の必要性、②資金使途、③償還財源、④返済できる理由の4点を整理して説明できると有効です。その際、月次で確認しているKPIの推移を、損益計画や資金繰り表とあわせて示せば、改善に向けた取り組みや返済原資の見通しを具体的に説明しやすくなります。  経営計画を作り、予実管理を行い、KPIの進捗を確認している会社であれば、何を改善しようとしているのか、どこまで進んでいるのか、次に何を見直すのかを具体的に伝えられます。  たとえば、値引率を下げるために承認ルールを導入し、平均値引率を毎月確認している。滞留在庫リストを作成し、棚卸資産回転日数の短縮を進めている。未回収先を一覧化し、売上債権回転日数を管理している。このように説明できれば、抽象的に「改善に取り組んでいます」と伝えるより、金融機関も会社の状況や改善の進み具合を把握しやすくなります。 (2)税理士・会計事務所と一緒に確認する  KPIは、経営者の感覚だけで決めるよりも、会計データや現場データに基づいて決めた方が実態に合います。月次決算、試算表、資金繰り表、部門別損益、商品別利益、借入金一覧表などを確認しながら設計することで、自社の実態に合ったKPIを設定できます。  たとえば、利益が残らない原因を考えるとき、売上高だけを見ても十分ではありません。粗利率や限界利益率、固定費、商品別利益、値引率などを確認することで、どこに手を打つべきかが見えてきます。資金繰りが課題であれば、売掛金の回収状況、在庫の増減、借入金の返済予定も確認します。  税理士・会計事務所と月次で確認する場を設ければ、KPIの進捗を振り返ることができ、金融機関に説明する資料づくりにも役立ちます。 6.まとめ:KPIは、目標と行動をつなぐ数字  KPIは、単なる数字管理ではありません。経営目標を現場の行動に落とし込み、その進み具合を確認し、次の行動を見直すための仕組みです。  中小企業がKPIを作るときは、まず自社の現状をつかみ、経営課題を明確にします。そのうえで、KGI、重要成功要因、KPI、アクションプランの順に整理すると、目標と行動がつながります。  まずは、売上、利益、資金繰りのうち、今いちばん改善したい課題を一つ選び、その原因と確認すべき数字を書き出すところから始めるとよいでしょう。どの数字をKPIにすべきかは、会社の状況や業種によって変わります。売上、利益、資金繰り、在庫、回収などを見ながら、自社にとって意味のある数字を選びます。  KPIは、一度決めて終わりではありません。毎月確認し、未達の原因を考え、次の行動を見直していくことで、経営改善に使える数字になります。月次決算や資金繰り表をもとに、税理士・会計事務所と一緒に確認していくことで、自社に合ったKPIを見つけやすくなります。 参考 ・TKC出版『(第2版)Q&A 黒字体質の会社をつくる8つのステップ』 ・TKC出版『Q&A 経営改善計画』 ・TKC出版『Q&A 業績の伝え方のルール』 ・経済産業省「ローカルベンチマーク作成ガイド」 ・中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」 ・J-Net21「金融機関との関わり方」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

2026.08.12

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