高校生採用の新常識 「金の卵」を獲得する中小企業の「最強採用戦略」

行政・学校・経済団体の合意による独自のルールが存在する高校生就職市場にどう切り込めば良いのか。「金の卵」ともいえる高校生を無理なく入社に導くためには、どのような対策が必要なのか。多方面から検証してみた。 ジンジブ専務取締役 森 隆史 もり・たかし●1983年、奈良県生まれ。2006年4月、ピーアンドエフに入社。携帯電話会社のセールスプロモーションにおける営業活動に従事し、28歳で取締役に就任。グループ会社の人と未来グループ(現ジンジブ)取締役、ジンジブ取締役を歴任し、23年7月に専務取締役に就任。 目次 閉じる開く 「1人1社制」の応募ルール 12月末に90%が内定獲得 高校生向け講演の機会活用も 2025年3月に求人倍率が過去最高の4.1倍に達するなど、「金の卵」として高校生人材に注目が集まっています。高校生人材の採用は、これまで製造業や建設業、運送業、介護業、小売業、飲食業などが中心でした。しかし最近では、営業職やシステムエンジニアなどの職種でも採用を始める企業が増えています。特に25年度から大手IT企業が高校生採用を開始したのは採用市場に大きなインパクトを与えました。 背景にあるのは、大学生の初任給の高騰、優秀な大学生を確保するための採用競争の激化によるコストの上昇です。中小企業が新卒大学生を1名採用するコストは現在、100~200万円かかると言われていますが、高校新卒生の採用コストはその 3分の1〜2分の1程度で済むと考えられます。 他の若手人材とは異なる高校生人材の特徴も評価の対象となっています。まず挙げられるのは、素直さと吸収力の高さ。固定観念が少なく、組織文化や教育方針を素直に受け入れられるため、企業理念の浸透がスムーズに行えるからです。 新卒の高校生人材は、社内の空気そのものにも良い変化をもたらします。なんといっても18歳のフレッシュな新人は、誰もが「かわいげがある」と思うもの。社長をはじめ先輩社員たちが自然と応援したくなる気持ちになり、組織全体を柔らかな明るい雰囲気に変えていきます。 また、彼らを育成する側の先輩社員にとっても、大きな成長機会となります。教える立場になることで、指導力、コミュニケーション力、業務理解の深化など、中堅社員や幹部社員へとステップアップしていくのに必要なスキルが磨かれるのです。 過去最高の求人倍率とはいえ、中小企業にとっては新卒の大学生よりも採用しやすい市場です。従業員300人以下の企業の大卒求人倍率は6倍超(『戦略経営者』2026年3月号P7 図表1参照)に達しているからです。また高校新卒生の就職先の81.7%は、従業員300人以下の企業が占めています(『戦略経営者』2026年3月号P8 図表2参照)。高校生人材は、「採用しやすい」「コストを抑えられる」「社内の雰囲気が良くなる」という多くのメリットがあります。他の若手人材市場にはなかなか見られない、まさに中小企業の「最強採用戦略」といえるでしょう。 1.「1人1社制」の応募ルール 高校生採用には、行政と経済団体、学校の3者による「3者協定」で合意された独自のルール(『戦略経営者』2026年3月号P8 図表3参照)が存在します。その中心となるのが、「1人1社制」と呼ばれる応募ルールです。これは、高校生は原則として一度に1社しか応募できないという仕組みで、実に70年以上前から続いているとされています。秋田県や沖縄県では1人3社まで応募が認められていましたが、近年では大阪府や和歌山県、茨城県、埼玉県などでも1人2社の応募が認められるなど、少しずつ2社以上の応募が可能な地域が増えています。 もう一つの特徴が、縁故採用などの特殊なケースを除き、企業と生徒が直接やり取りをしてはいけないという「学校あっせん」の仕組みです。応募書類の提出から選考結果の通知まで、すべての連絡が学校の先生を経由して行われます。企業が直接生徒にオファーを出したり、SNS等で勧誘したりすることは基本的に認められていません。さらに、高校生採用では内定辞退がほとんど起こらないという特徴があります。大学生の内定辞退率が65%前後に及ぶと言われる中(一般的な大学新卒市場の傾向)、高校生はわずか4%程度しか辞退しません。学校の推薦による応募なので、引っ越しや家庭事情など、やむを得ない理由で辞退するケースは一部存在するものの、基本的には「内定が出れば入社する」という前提で動く市場なのです。 これは企業にとって大きなメリットです。内定者フォローに多くのリソースを割く必要がないからです。人事担当者や経営者が過度に時間を奪われないという運用面のメリットは非常に大きいでしょう。 2.12月末に90%が内定獲得 高校生採用の年間スケジュールは厳密に決まっており、全国共通の枠組みに沿って動く必要があります(『戦略経営者』2026年3月号P9 図表4参照)。 スタートは6月1日。都道府県によって多少前後しますが、この日を境に企業はハローワークへ求人票を提出できるようになります。求人票は7月1日に正式に解禁され、7~8月にかけて応募前職場見学が行われます。夏休みを終えた9月5日は、応募書類の郵送開始日です。応募書類は生徒が自分で送るのではなく、学校の先生を通じて企業へ郵送されます。そして9月16日から、企業側の選考が解禁されます。 多くの企業がこの日から面接を始め、基本的には面接から1週間以内に合否を先生へ連絡する必要があります。これは、高校生が原則「1人1社」しか応募できないため、結果が遅れると次の応募機会を奪ってしまうからです。合否は企業→先生→生徒という流れで伝達されます。地域によって差はありますが、この9月の1次応募で約60%の高校生が内定を獲得します。 10月以降は新たな動きが生まれます。9月に応募しなかった生徒の初回応募、一度不合格になった後に2回目へ挑戦する生徒、公務員試験や進学を考えていたものの、途中で就職へ切り替える生徒――こうした生徒たちも合流し、企業にとっては第二の採用機会となります。 その後も採用活動は続き、12月末には全体の内定率が90%前後に達し、3月末にはほぼ99%が就職先を決めるという流れが一般的です。このスケジュールを踏まえると、企業が採用戦略を立てる際には、「12月末までに応募を獲得する」ことを目標に逆算して動くとよいでしょう。 高校生採用を行っている企業は、このスケジュールに沿って「ハローワークに求人票を提出」→「その後に学校を訪問して先生との関係を築く」というシンプルな流れさえ押さえていれば、十分に応募が集まっていました。しかし現在その構図が完全に崩れつつあります。ひと昔前まで、例えば就職希望者が50名ほどの高校であれば、届く求人票は多くても200社から500社程度でした。それが現在では、同規模の高校に対し、1,000社以上の求人票が届くことも珍しくありません。競合企業の数が飛躍的に増加しているのです。 では企業は何をすればよいでしょうか。まずは学校への訪問活動の強化です。訪問する学校数を増やし、1校あたりの訪問頻度を高めることで先生との接点を増やし、企業の認知度向上を図ります。高校生採用において「学校と先生」は依然として重要なキープレーヤーであり、ここに十分な活動量を投入することは欠かせません。 次に、求人票の発送件数を増やすことです。「応募が来やすい学校だけに送る」という発想ではなく、他県の高校も対象に加えるなど可能な範囲で学校数を広げることが、応募機会の最大化につながります。 3.高校生向け講演の機会活用も 生徒に直接会社の存在を認知してもらうことも、採用成功の大きな鍵になりつつあります。とはいえ、自社単独で高校生にリーチすることが難しい企業は、どのようにして生徒への認知を獲得すればよいのでしょうか。 1つ目は、学校内で行われる校内合同企業説明会や民間企業が行っているキャリア教育プログラムなどへの参加を通じた接触です。例えば当社では高校1〜3年生を対象にキャリア教育を行うプログラム「ジョブドラフトCareer」を提供しています。同プログラム中で支援先企業を授業に招待し、生徒に直接PRする機会を設けていますが、そうした機会を積極的に活用するのもよいでしょう。学校外でも、ハローワークや民間企業が運営する合同企業説明会イベントが開催されています。企業が生徒に直接語りかけることができ、短時間とはいえ生の声を届ける貴重な機会になります。 2つ目は、当社が運営する「ジョブドラフトNavi」のような高卒採用専門の求人サイトを活用することです。動画コンテンツや職場紹介を掲載することで、生徒が自分のスマホで会社を見つけ、比較し、理解を深められる環境を作ることができます。 そして3つ目が、SNSの活用です。ティックトックやインスタグラムを通じて自社が高校生採用を行い、仕事の内容と魅力を積極的に発信する企業が急増しています。 高校生採用には大きな可能性がありますが、その進め方には独自のルールや慣行が存在します。「やってみたいけれど、具体的な進め方がわからない」という企業は、民間の採用支援サービス会社など専門家の力を借りるのもよいでしょう。 (インタビュー・構成/本誌・植松啓介) 掲載:『戦略経営者』2026年3月号 記事提供 戦略経営者  『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

2026.03.04

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