特例事業承継税制の利用に必要な「特例承継計画」には何を書く?
令和8年度税制改正で「特例承継計画」の提出期限が令和9年9月30日まで延期されました。特例事業承継税制の適用を受けるには、この計画の提出が必要であり、事業承継の可能性がある会社では特例承継計画の作成に取り掛かることが肝要です。本記事では、特例承継計画の記載内容を中心に解説します。 💡この記事のポイント  ☑特例事業承継税制とは、一定の手続きにより一括で贈与等をした非上場株式等の贈与税額(相続の場合には相続税額)が全額納税猶予される制度  ☑特例事業承継税制の適用を受けるためには、令和9年9月30日までの「特例承継計画」提出が必要  ☑特例事業承継税制の適用期限は令和9年12月31日まで  ☑特例承継計画を提出したからといって必ず制度を利用しなければいけないわけではない  ☑提出した特例承継計画の内容変更は可能  ☑特例承継計画の記載項目は「1. 会社について」「2. 特例代表者について」「3. 特例後継者について」「4.特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について」「5.特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画」の5つ 目次 閉じる開く 1.はじめに 2.特例承継計画の提出期限が延長されるも適用期限は延長なし (1) 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長 (2) 適用期限は令和9年12月31日までで延長なし 3.特例事業承継税制の適用を受けるまでの流れ (1) 納税猶予の適用を受けるまでの手続きの全体像 (2) 納税猶予の適用後も書類の提出が必要 (3) 先代経営者が死亡した場合の手続き 4.特例承継計画の構成と記載内容 (1) 特例承継計画の全体構成 (2) 「会社」「特例代表者(先代経営者)」「特例後継者(後継者)」の記載内容 (3) 「株式承継までの経営計画」の記載内容 (4) 「承継後5年間の経営計画」の記載内容 5.まとめ 1.はじめに  事業承継は会社にとって大きな経営課題ですが、自社株式(非上場株式)の承継に伴う税負担の重さが円滑な事業承継の妨げとなることが少なくありません。非上場会社であっても、業績や資産状況によっては自社株式の相続税評価額が高額となり、後継者が株式を取得する際に多額の贈与税や相続税の支払いが生じるためです。  この問題に対応するために設けられているのが特例事業承継税制です。この制度を活用すれば、一定の要件を満たすことで、自社株式の贈与や相続に係る税金が全額納税猶予され、実質的な負担を大きく軽減することが可能となります。  ただし、特例事業承継税制を利用するためには、あらかじめ「特例承継計画」を都道府県に提出して確認を受けることが必要です(相続発生後でも特例承継計画の提出は可能です)。計画を提出した場合、その後に制度を利用するかどうかは自由に判断できます。つまり、特例承継計画の提出は「制度を使うかどうかを選べる状態にしておくための準備」といえるでしょう。  したがって、将来的に事業承継の可能性があるのであれば、まずは特例承継計画の提出期限や概要について知っておくことが肝要です。本記事では、特例承継計画の記載内容を含めて解説していきますので参考になれば幸いです。  なお、特例事業承継税制の概要や、経営者・後継者の適用要件、納税猶予を受けた後の注意点等については以下の記事をご参照ください。 参考:「特例事業承継税制の期限・要件・手続きは?」 2.特例承継計画の提出期限が延長されるも適用期限は延長なし  特例事業承継税制とは「非上場株式等についての相続税・贈与税の特例納税猶予制度」のことをいい、一定の手続きにより一括で贈与等をした非上場株式等の贈与税額(相続の場合には相続税額)が全額納税猶予される制度です。贈与者死亡の際は、贈与時の評価額が相続税の課税対象とされますが、この株式等に係る相続税額も全額猶予対象とされます。  ただし、特例事業承継税制はあくまで時限措置として設けられており、適用には次のとおり期限があります。 (1) 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長  冒頭で述べたように、特例事業承継税制を利用するためには、まず特例承継計画を作成して都道府県へ提出し確認を受ける必要があります。令和8年度税制改正により、この特例承継計画の提出期限が令和9年9月30日まで延長されました。  特例承継計画は提出後に内容の変更が可能であり、計画提出後に特例事業承継税制の適用を受けるのをやめても罰則はありません。したがって、自社株式の移転に伴う税負担が心配な方は、まず特例承継計画を期限内に提出することをおすすめします。  なお、計画の提出期限が延長されたとはいえ、制度の適用期限(続く(2)で詳述)を考慮すると計画の作成を後ろ倒しにすることは望ましくないでしょう。 (2) 適用期限は令和9年12月31日までで延長なし  特例事業承継税制は10年間限定の特例措置です。適用期限については延長されておらず、特例承継計画を提出した事業者で、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに贈与・相続により会社の株式を取得した後継者が対象になります。  そのため、特例承継計画の提出期限だけを見て「まだ時間がある」と安心してしまうと、承継の準備期間が足りなくなるかもしれません。実際には、特例承継計画の内容に従って後継者教育や経営改善、事業の磨き上げ等を行い、取引先や金融機関などの外部に対しても事業承継することを周知する必要があります。そして、先代経営者が代表権を返上し、後継者(贈与の直前において役員等であること)が代表者に就任するなどの適用要件を全て満たした上で、令和9年12月31日までに株式等を先代経営者から後継者に一括して贈与しなければなりません。  特例承継計画の提出を遅らせるほど、株式承継までのスケジュールはタイトになっていきます。特例事業承継税制を活用するためには、「計画の提出期限」と「制度の適用期限」の両方を踏まえ、逆算して準備を進めることが大切です。  なお、TKCの事業承継税制適用支援システム(TPS8800)では、特例事業承継税制の適用を受けるための特例承継計画や個人事業承継計画の「確認申請書」、相続開始後(贈与実施後)に申請する「認定申請書」等を作成できます。当該システムを活用しているTKC会員事務所では、より円滑な事業承継支援が実現可能です。 3.特例事業承継税制の適用を受けるまでの流れ  続いて、特例事業承継税制の適用を受けるまでに必要な手続きなどの流れについて解説します。 (1)納税猶予の適用を受けるまでの手続きの全体像  特例事業承継税制を利用して納税猶予を受けるためには、以下の順で手続きが必要となります。 ①特例承継計画の提出 ②自社株式の贈与・相続 ③都道府県知事の認定 ④贈与税・相続税の申告  上記の①~④について、詳しく見ていきましょう。 ①特例承継計画の提出  認定経営革新等支援機関(税理士等)の指導・助言を受けながら、後継者や承継時期、経営方針などを整理した特例承継計画を作成し、令和9年9月30日までに都道府県庁に提出します。そうすると都道府県から14日〜長くて1カ月程度で「確認書」が届きます。 ②自社株式の贈与・相続  提出した特例承継計画の内容に従って後継者教育、経営改善、事業の磨き上げ等を行い、先代経営者が代表権を返上し、後継者(贈与の直前において役員等であること)が代表者に就任するなどの適用要件を全て満たした上で、令和9年12月31日までに自社株式等を先代経営者から後継者に一括して贈与(または相続)します。 ③都道府県知事の認定  会社は先代経営者が後継者に自社株式等を贈与した翌年の1月15日までに都道府県庁に「確認書」および必要書類をそろえて認定申請書を提出します。書類審査で適用要件を満たしていることが確認されると、会社に対して都道府県知事から「認定書」が交付されます。 ④贈与税・相続税の申告  後継者は贈与・相続を受けた年の翌年3月15日までに、会社が交付を受けた「認定書」を添付して、贈与税・相続税の全額納税猶予の適用を受けるための申告書を所轄税務署に提出することで、納税猶予の適用を受けられます。 (2)納税猶予の適用後も書類の提出が必要  ただし、特例事業承継税制は納税猶予の適用を受けたら終わりではありません。特例事業承継税制の贈与税の納税猶予の適用を受けた後は、経営承継期間である贈与税の申告期限から5年間は毎年、会社が都道府県庁に報告書を、後継者が税務署に届出書を提出しなければなりません。5年経過後は、3年に1回税務署に届出書の提出が必要です。 (3)先代経営者が死亡した場合の手続き  なお、先代経営者が死亡した場合は、死亡の日の翌日から8カ月以内に、会社が都道府県庁に対して贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予への切替確認の手続きをします。切替をするための要件を満たしていれば確認書が交付されます。後継者は、相続税の申告期限までに会社が交付を受けた切替確認書を添付して、相続税の納税猶予を適用した相続税の申告書を所轄税務署に提出することになります。 4.特例承継計画の構成と記載内容  特例事業承継税制の適用を受けるには、令和9年9月30日までに、認定経営革新等支援機関の指導と助言を受けた旨を記載した特例承継計画の提出が必要です。特例承継計画の全体構成や、具体的な記載内容について解説していきます。 (1)特例承継計画の全体構成  「特例承継計画」(様式第21「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書」)は、以下の5項目で構成されています。 1. 会社について 2. 特例代表者について 3. 特例後継者について 4. 特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について 5. 特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画  これらの項目に沿って、「誰が・いつ・どのように承継し、その後どのように会社を運営していくのか」を一貫して示す必要があります。  なお、特例承継計画の様式は、以下の中小企業庁ウェブサイトよりダウンロードすることが可能です。 参考:中小企業庁ウェブサイト (2)「会社」「特例代表者(先代経営者)」「特例後継者(後継者)」の記載内容  それでは、まず「1. 会社について」「2. 特例代表者について」「3. 特例後継者について」の記載内容について、下の記載例を見ながら確認していきましょう。 ■特例承継計画の記載例(項目1~3) 出所:中小企業庁  「1. 会社について」の欄では、「主たる事業内容」「資本金額又は出資の総額」「常時使用する従業員の数」を記載します(上図❶参照)。なお、計画の提出時点では、従業員数証明書の提出は不要です。  「2.特例代表者について」の欄では、先代経営者である特例代表者の氏名と代表権の有無を記載します(上図❷参照)。計画の提出時点では、代表権を有していても、いなくても、問題はありません。  「3. 特例後継者について」の欄では、特例代表者から株式を承継する予定の後継者の氏名を最大3名まで記載することができます(上図❸参照)。ここに記載された者でなければ、事業承継税制の適用を受けることはできません。もし、別の特例後継者に変更する場合は、変更申請書による変更手続きが必要ですので注意しましょう。  特例承継計画の提出時点では、特例後継者は取締役等の役員である必要はありませんが、後に贈与により株式を移転した際、特例事業承継税制の適用を受けるには、贈与の直前において役員に就任していることが要件となっています。役員就任の時期についても検討が必要です。  なお、特例事業承継税制の適用を受けた後の特例後継者の変更はできません。ただし、特例後継者を2名または3名記載し、株の贈与・相続等を受けていない者がいる場合は、その特例後継者に限り、変更できます。例えば、上の記載例の特例後継者について、承継一郎と二郎が株式の贈与を受けて特例事業承継税制を適用しても、花子が贈与を受ける前であれば、花子を他の特例後継者に変更することが可能です。 (3)「株式承継までの経営計画」の記載内容  続いて、「4. 特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について」の記載内容について、下の記載例を見ながら確認していきましょう。 ■特例承継計画の記載例(項目4) 出所:中小企業庁  「4.特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について」の欄では、株式を承継する予定の時期、当該時期までの経営上の課題、当該課題への対応方針を記載します。  「株式を承継する時期」は、○年○月と記載しますが、明確でなければ概ねの時期を〇年〇月~〇年〇月と記載します。事業承継の時期を具体的にいつ頃と決めていない場合もあるでしょうが、後継者のやる気にも関わるので、ここで時期を明確にする必要があります。  「当該時期までの経営上の課題」は、会社の経営上の課題を具体的に洗い出した上で記載します。「当該課題への対応」には、その課題を解決するために、具体的にどのような行動を起こすのかを記載してください。なぜその取り組みを行うのか、どのような効果が期待されるかを簡潔にまとめましょう。  これらについては、先代経営者と後継者および経営幹部が一緒になって会社の現状分析を行い、今後、強みがさらに発揮できる分野にヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源を集中投下する経営戦略を策定することで、対応策が導き出されます。現状分析には、SWOT分析やSWOTクロス分析、製品・市場マトリクス、PPM分析などを用いるとよいでしょう。  なお、この項目は、自社株式等の贈与・相続等の後に本計画を作成する場合や、すでに先代経営者が役員を退任している場合は、記載を省略できます。会社がいわゆる持株会社である場合には、その子会社等における取り組みを記載しましょう。 (4)「承継後5年間の経営計画」の記載内容  続いて、「5.特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画について」の記載内容について、下の記載例を見ながら確認していきましょう。 ■特例承継計画の記載例(項目5) 出所:中小企業庁  「5.特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画」の欄では、特例後継者が実際に事業承継をした後の5年間で、どのような経営を行う予定なのか、具体的な取り組み内容を記載します。全ての取り組みが必ずしも新しいものである必要はありませんが、各年においての取り組みが記載されている必要があります。  物価高、円安、賃上げ等、社会経済が大きく変化する状況下においては、先代が営んできた事業をそのままの形で承継するのではなく、激変する外部環境の変化に的確に対応すること、つまり絶えず経営革新する必要があります。事業承継を契機として、後継者は経営課題に真剣に取り組み、新たな成長に向けてチャレンジしていきましょう。  なお、この計画には必ずしも設備投資・新事業展開や、売上目標・利益目標についての記載は求められていません。後継者が、先代経営者や経営幹部、認定経営革新等支援機関である顧問税理士とよく相談の上、後継者が主体的に事業の持続・発展に必要と考える内容を記載しましょう。すでに後継者が「代表取締役」に就任して代表権を有している場合であっても、自社株式等の取得により経営権が安定した後の取り組みについて記載します。この項目でも、会社がいわゆる持株会社である場合には、その子会社等における取り組みを記載しましょう。  以上が特例承継計画の記載内容ですが、計画作成段階で承継後の具体的な経営計画を記載することが困難である場合には、大まかな記載にとどめ、実際に株式を承継しようとする前に具体的な計画を定めることも可能です。その際、「特例承継計画」の変更手続きを行う場合には、変更申請書に変更後の計画を記載し、再度、認定経営革新等支援機関である顧問税理士の指導・助言を受ける必要があります。  また、最後になりますが、事業承継を円滑に進めるためには、直ちに「特例承継計画」を作成するのではなく、自社株式、事業用資産、代表権の承継時期等をより詳しく記載する「事業承継計画」を策定することをおすすめします。まずは、「事業承継計画」の作成について、顧問税理士に相談し、円滑な事業承継に向けて具体的な打ち手や取り組みを検討しましょう。 5.まとめ  特例承継計画は、特例事業承継税制で贈与税・相続税の全額納税猶予の適用を受けるために提出する書類であると同時に、事業承継を経営課題として整理するためのツールでもあります。特例承継計画の作成を通じて、後継者を誰にするのか、どの時点で株式を承継するのか、承継前後で何を優先的に整えるべきかの検討が可能です。  経営者にとって大切なのは、「制度を使うかどうかを今すぐ最終決定すること」よりも、まずは自社の承継の方向性を整理し、必要な準備を前倒しで始めることです。後継者や承継時期が完全に固まっていなくても、現状を分析し、税理士などの専門家と一緒に課題を整理することで、今後の経営判断がスムーズになります。特例承継計画の作成は、会社を次世代へどう引き継ぐかを検討するよい機会となるでしょう。 参考 ・『事業承継ニュースvol.33』TKC出版 ・『事業承継ニュースvol.34』TKC出版 ・TKC全国会 システム委員会、中小企業支援委員会、資産対策研究会 監修『Q&A「特例承継計画」提出のための注意点』TKC出版 ・TKCグループwebサイト「事業承継税制適用支援システム(TPS8800)」 記事提供 株式会社TKC出版  1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。  税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。
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