棚卸資産とは、会社が販売や製造のために保有している商品や製品等をいいます。棚卸資産を適切に管理することは、正確な決算書の作成や適正な税務申告を行うための基本です。棚卸資産の管理は「日々の入出庫管理」「定期的な実地棚卸し」「倉庫内の整理整頓」から習慣化してみましょう。
💡この記事のポイント
☑「棚卸資産」とは、企業が販売や製造のために保有している商品、製品、原材料や製造途中の製品(仕掛品、半製品)のこと。
☑「棚卸資産」を適切に管理することで、「正確な決算書の作成」「適切な在庫管理」「適正な税務申告」等につながる。
☑「棚卸資産」を管理するためには、その基本となる「日々の入出庫管理」「定期的な実地棚卸し」「倉庫内の整理整頓」が重要。
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1.おさえておきたい! 「棚卸資産」の基本
(1) 「棚卸資産」の対象範囲を確認しよう
「棚卸資産」とは、会社が販売や製造のために保有している商品、製品、原材料や製造途中の製品(仕掛品、半製品)のことをいいます。つまり、「棚卸資産」は事業活動のために保有する資産ともいえます。なお、「棚卸資産」は、貸借対照表(B/S)では「流動資産」となり、「1年以内に現金化(販売)される可能性が高い資産」とされています。
■「棚卸資産」と「在庫」は何が違うの?
業務を進めるなかで、「棚卸資産」と似たような意味で使われる言葉として「在庫」があります。この2つの違いは何でしょうか。
「在庫」とは、会社が販売したり、製品を作ったりするために手元に持っている商品や製品、原材料、製造途中のものなどをまとめて呼ぶ言葉です。一方、「棚卸資産」とは、その在庫を決算のときに金額で評価し、会社の財産として貸借対照表に記載する際に使われる会計上の用語です。
すべての「棚卸資産」は「在庫」といえますが、すべての「在庫」が「棚卸資産」とは限らないという関係をイメージするとわかりやすいかもしれません。
「棚卸資産」の対象範囲については、「法人税法施行令第10条(棚卸資産の範囲)」で次のように定められています。
(棚卸資産の範囲)
第十条 法第二条第二十号(棚卸資産の意義)に規定する政令で定める資産は、次に掲げる資産とする。
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの
対象範囲の具体例としては下記のようなものが挙げられます。その企業の業種・業態によって多種・多様な種類があることがわかります。
①商品又は製品(副産物及び作業くずを含む)
1)スーパーが仕入れて販売する予定のペットボトル飲料(商品)
2)自社工場で完成して、これから出荷する金属部品(製品)
3)製材工場で発生し、敷料として販売するおがくず(副産物)
4)金属加工の工程で発生し、スクラップとして売却予定の鉄くず(作業くず)
②半製品
1)これから裁断・包装してコピー用紙にする前の大きなロール紙
2)完成車に組み込む前の状態で、単体でも販売できる自動車用エンジン
③仕掛品(半成工事を含む)
1)仮縫いまで終わっている段階で縫製途中のオーダースーツ
2)完成前の状態で、工事進行中の店舗改装工事の半成工事分
④主要原材料
1)パン屋や製菓業者が仕入れている小麦粉
2)自動車メーカーが車体用に使う鋼板
⑤補助原材料
1)家具や機械の表面仕上げに使う塗料
2)衣料品の仕立てに使用するボタンやファスナー
⑥消耗品で貯蔵中のもの
1)まだ開封していない、倉庫に積んであるコピー用紙の箱
2)販売時に使うためにストックしてある紙袋やレジ袋
⑦前各号に掲げる資産に準ずるもの
1)外注先に加工委託し、現在外注工場に置かれている自社所有の材料
2)不動産業者が販売目的で保有している分譲用マンションの一室
【参考】国税庁「 第2款 販売費及び一般管理費等|国税庁 」 企業会計基準委員会「 会計基準詳細 | 会計基準検索システム 」 税務研究会「 棚卸資産の範囲 | 法人税 」
2.自社の「棚卸資産」をきちんと管理していますか?
(1) どうして「棚卸資産」の適切な管理が必要なのか?
「棚卸資産」を適切に管理するためには、それぞれの資産の数量や金額を正確に把握することが欠かせません。では、会社にとって「棚卸資産」を正しく把握することは、なぜそれほど重要なのでしょうか。その理由を具体的に見ていきます。
「棚卸資産」は、主に次の3つの観点から、正確な把握が求められます。
①正確な決算書を作成するため
②適切な在庫管理を行うため
③適正な税務申告を行うため
これらはいずれも、会社の経営に直接影響する重要なポイントです。
以下では、「棚卸資産」を正しく把握しておくことがなぜ重要なのかを、これら3つの観点から順に確認していきます。
①正確な決算書を作成するため
商品や製品などを現在どれだけ保有しているかを正しく把握していなければ、棚卸資産を正確に計上することはできません。また、紛失や盗難などにより、帳簿上の数量と実際に保有している数量が一致しないこともあります。そのため、商品や製品を実際に保管している倉庫などで数量を確認する実地棚卸しを行い、帳簿の内容を修正します。
このように、棚卸資産を正しく把握・計上することで、はじめて正確な決算書を作成することができます。
②適切な在庫管理を行うため
商品などの帳簿上の数量は、「商品受払帳」(商品の受け入れと払い出しを記録する帳簿)などを用いることで管理しやすくなります。「商品受払帳」に抜け漏れなく記録を行うとともに、実地棚卸しによって実際の数量を確認することが重要です。
実地棚卸しは、商品や製品の数量を確認するだけでなく、過剰在庫や在庫不足、破損・紛失している在庫を発見する機会にもなります。
こうした問題が見つかった場合には、商品の発注量を見直したり、不良在庫を処分したりするなど、早めに対策を講じることができます。
このように、定期的に実地棚卸しを行うことで、在庫を適切な状態に保つことができ、資金繰りの改善につながるほか、思わぬミスや不正の防止にも役立ちます。
③適正な税務申告を行うため
「棚卸資産」の計上に漏れがあると、所得を実際より少なく申告してしまうことになり、税務調査などで指摘を受ける可能性があります。
また、実地棚卸しによって社内に保管している商品や製品の数量を正確に把握できていても、社外の倉庫に保管しているものや、取引先に預けている商品・製品については、確認が不十分になりがちです。
適正な税務申告を行うためには、期末時点で社内外を問わず、すべての「棚卸資産」の数量を正確に把握することが重要です。その結果、「棚卸資産」を正しく計上することができ、適切な税務申告につなげることができます。
(2) 「棚卸資産」を管理していないとどうなる?
「棚卸資産」を適切に管理していないとどうなるのでしょうか。ここではその企業事例を紹介し、その対応策についても解説します。
①麺類製造会社の例
1)事例
自社工場で製造した商品を実店舗とECサイト(自社の商品をWeb上で販売する際のWebサイト)上で販売。商品アイテムの数が多い中、手書きで在庫管理を行っていた。そのため、担当者への負担が大きく、棚卸数量の誤りや在庫切れが発生していた。
2)対応策
実店舗とECサイト上にある在庫数量等をリアルタイムで連携・管理できるPOSレジシステム(商品を販売した際に発生する金銭のやり取り等の情報を記録できるレジ)の導入を検討。システムの導入により、在庫数量等の把握精度向上と担当者の負担軽減が期待されている。
②ガラス工房運営会社の例
1)事例
ガラス製品の卸販売に関する在庫管理において、棚卸の際、実在庫は手で数えれば把握できるものの、帳簿上の在庫と実在庫との間にズレが生じてしまっていた。そのため、期末の処理が大変で時間的なコストも大幅にかかっていた。
2)対応策
外部システムとの連携が可能なAPI(Application Programming
Interface)付きのPOSレジシステムを導入。これにより、卸での販売と直営店4店舗での販売、そして生産した数をすべてリアルタイムで同期できるようになった。
上記2社の事例のように、商品や製品等の数量が多い場合や数え間違いが発生している場合、POSレジシステム等を活用することによって実店舗やECサイト上の数量を漏れなく把握することができます。こうしたシステム導入には初期費用がかかりますが、効率よく管理できる点は大きなメリットといえます。
3.「棚卸資産」の管理! 実務上のポイント
(1) 日常的に「これだけはやっておきたい!」こと
ここでは、具体的にどんなことから始めていけばいいのかについて解説します。少しずつ日々の管理を習慣化してみましょう。
①日々の入出庫管理
まずは「商品受払帳」等に、倉庫等に保管している商品や製品等を出し入れした際(入出庫時)の情報(商品や製品等の名称、単価、数量、仕入日、販売日、在庫数等)を記録して、日々の帳簿上の在庫として管理・把握しておきましょう。
日常的に管理をしていない消耗品等で、定期的に消費する数量を超えて保管している場合は、「貯蔵品」(社内で保管する未使用の物品)として計上する必要があります。自社にとって、どの範囲まで「棚卸資産」の対象とすべきか明確にしておくことが重要です。
②定期的な実地棚卸し
実地棚卸しは定期的に行いましょう。毎月、少なくとも3か月に1回程度の実施が理想的です。また、正確な決算を行うためにも、決算時の実地棚卸しは必須です。
③倉庫内の整理整頓
商品や製品等を保管している倉庫等は定期的に清掃し、清潔にしておきましょう。また、商品や製品等の配置ルールを決めた上で整理整頓しておくと、「どこに、どの商品がどのくらいあるのか」が一目でわかるようになります。
また、日頃から整理整頓をしていれば、「受発注管理がしやすくなる」「商品や製品等を倉庫等から出し入れした際のミス防止や作業を効率的に実施できる」「実地棚卸しの作業をスムーズに行える」といったメリットもあります。
(2) 月末・期末決算時における期末在庫の把握
期末在庫を正しく把握するためのポイントを5つ紹介します。
■決算時に正しく期末在庫(特に数量)を把握するための5つのポイント
①在庫の実際の数量と帳簿上の数量は一致していますか?
在庫の実際の数量と帳簿上の数量が一致しないときは、その原因を確かめます。原因として、商品等を出し入れした際の記入ミス、現品の紛失・誤廃棄、品違いが考えられます。
②社外の倉庫や取引先に自社の材料や製品を預けていませんか?
社外の倉庫や取引先で保管されている製品等についても、決算日に「棚卸資産」として計上する必要があります。保管先から「棚卸資産」の保管証明書等を発行してもらいましょう。
③すでに仕入計上されているもので、まだ自社に届いていない「未着商品」はありませんか?
「未着商品」は取引条件等により所有権が移転した時点、例えば、貨物代表証券(船荷証券など)を受け取った時点で「棚卸資産」として計上します。
④決算日時点で得意先に未着または未検収の製品等はありませんか?
売上計上のタイミングを納品基準や検収(納品物の数量・仕様等が、発注内容と一致しているか検査すること)基準としている場合、発送した製品等が決算日時点で得意先に未着または未検収であれば、その製品等は「棚卸資産」として計上します。
⑤決算日間際の仕入や売上はありませんか?
決算日間際の商品の受け渡しには注意が必要です。決算日間際に仕入れた商品について、その商品がまだ売上となっていない場合は、期末在庫となり「棚卸資産」として計上する必要があります。
決算時には上記のポイントを押さえた上で、正しく計上しましょう。これらを徹底することで、決算数値の信頼性を高めることができます。
■「棚卸資産」はどのように評価するのか?
「棚卸資産」の価値を評価する方法には、主に次のようなものがあります。ここでは代表的な6つの方法について簡単に整理します。
①個別法
⇒1個ずつ「この在庫はいくらで仕入れたか」を把握し、その金額を原価として使う方法。
(高額品や一点もの等、在庫ごとの原価を正確に把握したいときに使う)
②総平均法
⇒期首時点の在庫と期中の仕入を全部まとめて平均単価を算出する方法。
(多くの在庫をまとめて、1個あたりの原価を計算したいときに使う)
③移動平均法
⇒商品等を仕入れるたびに平均単価を更新していく方法。
(仕入価格が頻繁に変わり、常に新しい平均単価で在庫を評価したいときに使う)
④先入先出法
⇒先に仕入れた在庫から先に販売していく方法。
(古い在庫から順番に売れていく食料品等を扱うときに使う)
⑤最終仕入原価法
⇒最後に仕入れた価額で期末の在庫をまとめて評価する方法。
(直近の仕入価額を基準にして、簡単に在庫の価額を決定したいときに使う)
⑥売価還元法
⇒売る価格(定価)と原価率から在庫の原価を逆算する方法。
(バーゲンの値下げ等が多く、原価を求めにくい商品を大量に扱うときに使う)
4.まとめ
これまでサービス業が中心で商品在庫を持っていなかった企業や、在庫管理に注意を払ってこなかった企業であれば、まずは日々の「棚卸資産」の管理から始めることが大切です。
自社の商品や製品等について、まずは「何が・どこに・いくつあるか」をはっきりさせてみましょう。定期的に商品や製品等の数量を確認するだけでも、不要な在庫や帳簿との不一致等に気づきやすくなります。適切に棚卸資産を管理し、正しい決算と安心できる経営につなげていきましょう。
【参考資料】
・『事務所通信』2025年2月号
・『会計が分かればビジネスが見える』(TKC出版、2024年)
・『図解でわかる棚卸資産の実務 いちばん最初に読む本』(アニモ出版、2016年)
・e-Gov法令検索「法人税法施行令 | e-Gov 法令検索」
・国税庁「第4節 棚卸しの手続|国税庁」
・国税庁「第2款 販売費及び一般管理費等|国税庁」
・国税庁「4 棚卸資産の評価の方法|国税庁」
・国税庁「〔棚卸資産の評価の方法(令第99条関係)〕|国税庁」
・企業会計基準委員会「会計基準詳細 | 会計基準検索システム」
・企業会計基準委員会「企業会計基準第 9 号 棚卸資産の評価に関する会計基準」
・税務研究会「棚卸資産の範囲 | 法人税」
・税務研究会「所得税法施行令 第99条 棚卸資産の評価の方法 | 法令集」
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