2026年03月09日

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安全性分析で短期・長期の資金繰りを確認しよう

安全性分析で短期・長期の資金繰りを確認しよう

財務分析にはさまざまな切り口がありますが、短期と長期の資金繰りを確認して「お金が足りているか」を見ることができるのが安全性分析です。安全性分析の概要や、分析を行う上で知っておきたい指標、目指すべき指標の数値を知り、財務体質の改善へとつなげましょう。

💡この記事のポイント
 ☑企業の「短期の資金繰り」と「長期の資金繰り」を同時に分析できるのが「安全性分析」
 ☑「短期の資金繰り」を安定させるためには、静態的分析と動態的分析を組み合わせて確認することが重要
 ☑静態的分析では、流動比率・当座比率・預金対借入金比率などの分析指標を用いて「現時点において支払資金が十分に確保されているかどうか」を確認する
 ☑動態的分析では、経常収支比率を分析指標として「ある一定期間における仕入や諸経費等の支払いを売上代金等の資金収入でまかなえるかどうか」を確認する
 ☑「長期の資金繰り」を安定させるためには、自己資本比率・借入金対月商倍率・固定比率・固定長期適合率・債務償還年数などの分析指標を用いて「資金調達の健全さ」を確認する
 ☑TKC経営指標(BAST)における指標の平均値を紹介

1.はじめに

 企業経営において「利益が出ているのに資金が足りない」という状況は、めずらしいものではありません。売上や利益だけでは見えにくい資金の流れや財務体質を把握するために重要となるのが「安全性分析」です。
 安全性分析では、企業が短期的に支払能力を維持できているか、また長期的に安定した経営基盤を築けているかを、財務諸表をもとに客観的に確認します。短期の視点では日々の資金繰りや運転資金に無理がないかを、長期の視点では借入金と自己資本のバランスや返済余力を見極めることがポイントです。本テーマでは、安全性分析の基本的な考え方を踏まえながら、短期・長期それぞれの資金繰りをどのように読み解き、経営判断に活かしていくのかをわかりやすく解説していきます。

2.「短期」と「長期」、両方の資金繰りを確認できる安全性分析

(1) 資金繰りには「短期」と「長期」がある

 経営者の関心事である「資金繰り」は、「短期的な資金繰り」と「長期的な資金繰り」という2つの視点で考えられます。
 「短期的な資金繰り」では、社長の目線は「明日~1年先」に向けられており、以下のような支払能力に関する心配事が多いといえます。

 ・明日支払分の資金は足りているのか?
 ・月々の銀行返済等に関する資金の準備は十分か?
 ・月々の給与の支払いのための資金は足りているのか?

 一方、「長期的な資金繰り」では、社長は「1年以上先」の長期的な展望を見ており、以下のような資金調達の見通しや収支バランスに関する心配事が多いといえます。

 ・将来の設備投資や新事業展開等を見据えて、資金準備はできているのか?
 ・将来資金が必要になったとき、銀行から借り入れはできるのか?
 ・会社全体として収支のバランスはとれているのか?

 このような社長の心配事を解決するのに役に立つ財務分析が「安全性分析」です。

(2) 安全性分析の概要

 安全性分析では、短期の資金繰りと長期の資金繰りを同時に分析することができます。

■安全性分析の概要

安全性分析の概要を示した図

 安全性分析における安全性とは「短期的な資金繰りの安全性」と「長期的な財務構造の安全性」に分けられます。
 短期的な資金繰りの安全性は「支払能力の大きさ」を示しています。短期の資金繰りを安定させるためには、静態的分析と動態的分析を組み合わせて確認することが重要です。静態的分析では、流動比率・当座比率・預金対借入金比率などの分析指標を用いることで「現時点において支払資金が十分に確保されているかどうか」がわかります。また、動態的分析では、経常収支比率を分析指標として「ある一定期間における仕入や諸経費等の支払いを売上代金等の資金収入でまかなえるかどうか」を確認することができます。
 一方、長期的な財務構造の安全性とは「資金調達の健全さ」を示すものです。自己資本比率・借入金対月商倍率・固定比率・固定長期適合率・債務償還年数などの分析指標を用いることで「債務超過に陥る危険性が高いかどうか」「回収に長期間を要する固定資産への投資が“返済不要な自己資本+返済期間の長い固定負債”の範囲内かどうか」がわかります。
 安全性分析は、経営者が早めに資金繰りの課題に気づき、適切な対策を講じるための有効なツールといえるでしょう。続いて、「短期的な資金繰りの安全性」を確認する安全性分析の各指標について、より具体的に確認していきましょう。

3.安全性分析~短期的な資金繰りの安全性を分析する~

(1) 流動比率とは

 会社経営では、仕入代金や人件費、家賃、借入金の返済など、毎月必ず発生する支払いがあります。流動比率は、こうした短期の支払いに耐えられるかどうか(一時点での支払能力)を見るための代表的な指標であり、次の算式によって導き出すことができます。

流動比率の計算式

 流動資産とは、現金や預金のほか、売掛金や在庫など、通常1年以内に換金または回収される資産を指します。一方、流動負債は、買掛金や短期借入金など、1年以内に支払う必要のあるものです。
 この流動比率が高いほど短期的な支払能力があり、安全性が高いことを意味します。かつては「2対1の原則」(流動比率が200%あれば、短期の返済資金に困らないという意味)をクリアすることが望ましいといわれていました。
 しかし、注目すべきは数字よりも、流動資産の中身です。売上債権に不良債権がないかどうか、また、棚卸資産に不良在庫が計上されていないかどうかをチェックする必要があります。実際には、受取手形、売掛金、棚卸資産などのうちに現金化に時間がかかるものも多く存在するため、200%とはいいませんが、せめて150%は目指したいものです。

「流動比率が低くても安全性に問題がない場合」は次のとおりです。

 ①売上のほとんどが現金売上である、または、売掛金の回収サイトが短い場合
 ②在庫が不要、または、在庫の回転が早い場合
 ③買掛金の支払サイトが長い場合
 →上記のような場合は、売掛金や棚卸資産が少なくなるため、または買掛金が多くなるため、流動比率は低くなりますが安全性に問題があるとはいえません。

 一方で「流動比率が高くても安全性に問題がある場合」は次のとおりです。

 ①売掛金の回収が遅い、または、売掛金に不良債権が含まれている場合
 ②在庫が過剰、または、不良在庫が多い場合
 ③仕入の支払サイトが短すぎる場合
 →上記のような場合は、売掛金や棚卸資産が多くなるため、または、買掛金が少なくなるため、流動比率は高くなりますが、安全性が高いとはいえません。

 このように、流動比率は会社の「現在の資金繰りの安全度」を測る最初の物差しといえるでしょう。

(2) 当座比率とは

 当座比率とは「今すぐにでも支払いが必要になった場合、どこまで対応できるか」を確認するための指標です。流動比率が「短期の支払いに耐えられるか」を見る指標だとすると、当座比率はそこからさらに一歩踏み込んで、より厳しい条件で資金繰りをチェックする指標であり、流動比率の補完的指標といえます。当座比率は次の計算式により導き出すことができます。

当座比率の計算式

 当座資産とは、現金・預金、売掛金、受取手形、電子記録債権、有価証券など、すぐに現金化できる資産を指します。ここでは、すぐに現金化しにくい在庫は含めません。在庫は売れなければ現金にならず、売れるまでに時間がかかることもあります。値引きをしなければ売れないケースもあり、「いざという時に本当に使える資金」とは言い切れません。そのため、当座比率では在庫に頼らずに支払いができるかを確認します
 一般的には、当座比率が100%前後であれば、「急な支払いが発生しても、ひとまず対応できる状態」と考えられます。できれば100%以上、少なくとも70%以上は確保したいものです。
 当座比率が低い場合は、売掛金の回収が遅れている、借入金の返済負担が重いなど、資金繰りに無理が生じている可能性があります。流動比率とあわせて当座比率も確認することで、より実態に近い短期の資金繰り状況を把握することができるでしょう。

(3) 預金対借入金比率とは

 会社経営では、借入金は成長のための有効な手段ですが、返済が続く以上、資金繰りへの影響は避けられません。預金対借入金比率は「借りているお金に対して、どれくらいの預金を持っているか」を見る指標です。言い換えると、今ある預金で借入金をどこまでカバーできるかを確認することができ「対銀行の信用力を見る指標」といえます。
 預金対借入金比率は次の算式で導き出すことができます。

預金対借入金比率の計算式

 会社経営では、借入金は成長のための有効な手段ですが、返済が続く以上、資金繰りへの影響は避けられません。預金対借入金比率は、借入に対する“余力”を知るための、わかりやすい物差しといえます。
 この比率が高い場合は、資金調達に余裕があると判断されます。昨今ではあまり重要視されていない指標ですが、企業の当座の返済能力(借入金のうち、現在、企業が直接返済をできる金額)を把握する上では重要な指標です。預金対借入金比率を確認することで、経営者は「借入金に依存しすぎていないか」「手元資金は十分か」といった点を、感覚ではなく数字でつかむことができます。

(4) 経常収支比率とは

経常収支比率は「日々の事業活動で得たお金で、必要な支払いをきちんとまかなえているか」を見る指標です。預金残高のように「今いくらあるか」を見るのではなく、お金がきちんと回っているか、つまり資金繰りの流れを確認できる指標であり、一定期間における支払能力を見る重要な指標といえます。
 経常収支比率は、次の算式から導き出すことができます。

経常収支比率の計算式

 経常収支比率は、100%以上が原則です。経常収支比率が100%以上であれば「本業から得たお金で、日常的な支払いをまかなえている状態」と考えられます。資金余剰があり、資金蓄積・借入金返済・設備投資に回すことができます。
 一方、100%を下回っている場合は、事業活動だけでは資金が足りず、自己資金の取り崩しや借入金に頼っている可能性があります。この状態が続くと、見た目は黒字でも、手元資金は徐々に減っていき、資金繰りが苦しくなっていきます。
 「流動比率」「当座比率」などの一時点での支払能力の分析だけでは資金ショートの予知は困難です。経常収支比率のチェックとその原因分析は、資金繰りの安全性を図る上で非常に重要であるといえます。
 続いて、「長期的な財務構造の安全性」を確認する安全性分析の各指標について、より具体的に確認していきましょう。

4.安全性分析~長期的な財務構造の安定性を分析する~

(1) 自己資本比率とは

 会社の資産は、大きく分けると「自己資本(返さなくてよいお金)」と「借入金などの他人資本(いずれ返す必要のあるお金)」で成り立っています。自己資本比率は、このうち自己資本がどの程度を占めているかを示します。自己資本比率は次の算式で導き出すことができます。

自己資本比率の計算式

 長期的な資金繰りを考える上で重要なのは、「多少の売上減少や景気の変動があっても、経営を続けられるかどうか」です。自己資本比率が高い会社は、返済の必要がある借入金への依存度が低く、資金繰りが安定しやすい傾向があります。一方、自己資本比率が低い場合は、売上が落ちたときでも借入金の返済は続くため、資金繰りが一気に苦しくなるリスクがあります。自己資本は、いわば倒産から企業を守る「最後の防波堤」です。これが脆弱だと、経済情勢が悪化したような時にはもろくも崩れ去るということにもなりかねません。
 目標としては、自己資本比率50%くらいを目安にしたいものです。これまで日本の中小企業は、自己資本の充実を怠り、資金調達の多くを土地担保や連帯保証等による金融機関からの借入金にゆだねる傾向にあり、この比率が低い傾向があります。遊休資産の売却による総資産の圧縮、増資、利益をきちんと確保する、など自己資本の充実を心がけることが大事です。

(2) 借入金対月商倍率とは

 借入金が月商の何倍あるかを示すのが「借入金対月商倍率」です。企業の借入余力の判定に役立つ指標で、金融機関にとっては貸付限度額を決定する際の主要な比率の1つとなります。借入金対月商倍率は次の算式で導き出すことができます。

借入金対月商倍率の計算式

 借入金対月商倍率が高い場合、売上に対して借入金の負担が重く、将来の返済が資金繰りを圧迫する可能性があります。反対に、この倍率が低ければ、売上規模に見合った無理のない借入水準と考えられます。
 借入金対月商倍率は、新事業展開・設備投資をする場合の資金調達の目安としても活用できる指標です。

(3) 固定比率とは

固定比率は「会社が保有している設備や建物などの固定資産を、どのようなお金で賄っているか」を見る指標です。つまり、長く使う資産を、返済不要の自己資本でどれだけカバーできているかを確認するためのものです。固定比率は次の算式で導き出すことができます。

固定比率の計算式

 固定資産とは、建物、機械、設備、車両など、すぐには現金化しない資産を指します。固定資産への投資は資金の回収に長期間を要します。そのため、その購入資金は返済不要な自己資本でまかなうことが理想です。固定比率は100%以下を目指したいものです。
 自己資本の枠を超えて固定資産投資をすれば、経営状況が悪化したときに、金融機関から引き締めにあう可能性があり、資金の状態が不安定になりがちです。

(4) 固定長期適合率とは

固定長期適合率とは、固定比率の基準を少し緩めた指標で、分母に長期借入金等の固定負債を加えて計算したものです。
 固定資産への投資を自己資本でまかないきれない場合、不足分は返済期間の長い「長期借入金等の固定負債」でまかなうことが原則です。固定長期適合率が100%以下の場合は、この原則に従っているといえます。
 しかし、固定長期適合率が100%超の場合(裏を返せば、流動比率が100%未満の場合)、固定資産投資が「短期借入金等の流動負債」でまかなわれており、短期的な資金繰りの安全性が損なわれています。

■流動比率と固定長期適合率のイメージ図

流動比率と固定長期適合率のイメージ図

 設備や建物は、数年から十数年にわたって使い続けるものです。これを短期借入金など、早く返さなければならないお金で賄ってしまうと、返済が先に来てしまい、資金繰りが苦しくなるリスクがあります。固定長期適合率を見ることで、「長く使うものを、長く使えるお金で賄えているか」がわかります。

(5) 債務償還年数とは

債務償還年数は、有利子負債をキャッシュ・フロー額(営業利益+減価償却費)で返済すると何年かかるかを示す指標です。この年数が短いほど、金融機関の信用は高くなります。債務償還年数は次の算式で導き出すことができます。

債務償還年数の計算式

 なお、有利子負債には短期借入金、長期借入金のほか、社債等も含みます。
 企業の業態にもよりますが、債務償還年数はできるだけ10年以内の年数を維持したい指標です。一般的には15年を超えると注意が必要です。
 また、製造業等の場合には、固定資産と有利子負債のバランスを見ることも大切です。固定長期適合率と併せて、設備投資と借入金の割合等も確認してみてください。

5.安全性分析の指標~覚えておきたい平均値~

 最後に、TKC会員(税理士・公認会計士)の関与先企業の経営成績と財政状態を分析したTKC経営指標(BAST)より、各産業における安全性分析の指標の平均値を掲載します。

 令和7年版「TKC経営指標(BAST)」のデータを見ると、コロナ緊急融資の返済が本格化したものの、依然として流動比率や当座比率はすべての業種で高い数値を維持できています。また、借入金対月商倍率を見ると、すべての業種で令和5年と比べ減少しています。

BASTにおける各産業の安全性分析の指標
(『「TKC経営指標」から見た産業別経営動向(BAST別冊)』p42より引用)

 上記を参考に、業界の平均値と自社の数字を照らし合わせて確認していきましょう

6.まとめ

 安全性分析は、単に決算書の数字を確認するためのものではなく、経営判断の質を高めるための実践的な分析です。短期的な視点では、流動比率や当座比率、経常収支比率を通じて「今の資金繰りは無理なく回っているか」を確認します。一方、長期的な視点では、自己資本比率や固定長期適合率、債務償還年数などから「将来にわたって安定した経営を続けられる体力があるか」を見極めます。
 重要なのは、どれか一つの指標だけで判断しないことです。静態的分析で足元の状態を確認し、動態的分析でお金の流れを把握することで、資金繰りの実態がより明確になります。数字は、問題点を責めるためではなく、次の一手を考えるためのヒントです。経営者が安心して意思決定を行うために、安全性分析をぜひ経営管理の一部として活用してください。

参考文献

・『わかる財務分析 できる経営助言 第3版』(TKC出版)
・『「TKC経営指標」から見た産業別経営動向(BAST別冊)』

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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