会社経営の「付加価値」を高めるには「限界利益」が源泉になります。「限界利益」とは「会社が儲けたお金であり、自社のために使えるお金」のことで、「売上高-変動費」によって算出できます。売上高を伸ばし変動費を抑えることで「限界利益」を増やし、会社経営の「付加価値」を高めていきましょう。
💡この記事のポイント
☑会社の「限界利益」を増やすことで、付加価値経営の土台を築くことができる。
☑「売上高における限界利益率を高める」「変動費を減らす」ことが「限界利益」を増やすポイント。
☑「限界利益」が多いと、会社は人材の採用・研修、新事業への挑戦などにお金をかけることができ、将来に向けた経営の選択肢を広げることができる。
閉じる開く
- 1.はじめに
- 2.「付加価値経営」を行うためには?
- (1) 「付加価値経営」の具体例
- (2) 会社の付加価値を高める「限界利益」
- (3) 「限界利益」を確かめる方法
- 3.「限界利益」を増やすためのポイント
- 4.付加価値経営で成功した企業事例
- 5.まとめ
1.はじめに
売上高は毎年伸びている、決算書上も黒字で順調、それなのに資金繰りに余裕がなく、賃上げや設備投資、新たな事業への挑戦に踏み切れない――このような悩みを抱える中小企業等は決して少なくありません。その背景には、原材料費や外注費の高騰、人件費の上昇、価格競争の激化など、中小企業等を取り巻く経営環境の変化があります。
こうした時代において、単に「売上高を増やす」「黒字を維持する」だけの経営では、会社の安定や持続的発展・成長を実現することが難しくなっています。そうしたなか、注目されているのが、「付加価値経営」という考え方です。
付加価値経営とは、会社が生み出す価値の源泉を正しく捉え、その価値を人材、設備、財務体質の強化といった将来につながる分野へ循環させていく経営のあり方を指します。本記事では、会計実務の視点を踏まえながら、付加価値経営の考え方と実践のポイントを詳しく解説します。
(1) なぜ今、「付加価値経営」が重要なのか―売上高中心の経営が限界を迎えている理由
これまで多くの中小企業等では、「売上高の拡大」が経営の目標の中心に置かれてきました。売上高は事業規模を示す分かりやすい数字であり、金融機関や取引先からの評価にもつながるものです。しかし、現在においては、たとえ売上高が増えたとしても、次のような事態が起こりやすくなっています。
○材料費や商品仕入高、外注費といった売上原価の上昇
○給与や法定福利費など人件費の増加
○地代家賃や水道光熱費など固定費の負担増
○値引きや無償対応の常態化による利益率の低下
結果として、「売上高は増えているが、会社にお金が残らない」「忙しさの割に経営に余裕が生まれない」という状況に陥るわけです。
このような環境下では、売上高の多寡よりも、「会社がどれだけの価値を生み出し、その価値がどこに配分されているのか」を把握することが重要になります。この視点こそが、付加価値経営の出発点です。
2.「付加価値経営」を行うためには?
(1) 「付加価値経営」の具体例
会社は付加価値経営ができるようになると、新事業の立ち上げやWeb上におけるECサイトを経由した新たな販売方法の着手、大幅な値上げや値引き条件の見直しなどに着手することができます。また、主力商品・サービスを絞り込み、広告宣伝やブランディングを強化するなど、将来の成長につながる有効策を選べる幅が広がります。付加価値の向上はそのまま「会社経営の選択肢を増やすこと」につながるのです。
(2) 会社の付加価値を高める「限界利益」
こうした付加価値経営を行うためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。
それは「限界利益」を増やすことです。「限界利益」とは、「会社が儲けることのできたお金」のことで、売上高から変動費(売上高や生産数量の違いによって変動する費用)を引くことで算出できます。
会社は「限界利益」を増やすことができると、社内外の分配に回せるお金の余裕が生まれます。すると「資金がないからできない」と諦めていたことにも挑戦できるようになり、会社経営における自由度が高まり、より一層強い会社として事業を行うことができます。
たとえ売上高が大きくても、変動費が売上高とほぼ同じ程度かかってしまえば、会社に残る「限界利益」はわずかしかありません。反対に、同じ売上高でも変動費を抑えることができれば、その分だけ「限界利益」=「経営に付加価値をつけることのできるお金」が増え、給与や設備投資、借入金の返済などに回せるお金を厚くすることができます。まずは「売上高をいくら上げられるか」だけでなく、「変動費を引いたあとにいくら残っているか」という視点を持つことが重要です。
(3) 「限界利益」を確かめる方法
具体的に「限界利益」を確かめる方法として役に立つのが、「変動損益計算書」(変動P/L)です。これは簡単にいうと、
①「いくら売上高が入ってきて(売上高)」
②「そのうち売れた分だけかかった費用(変動費)がいくら出ていき」
③「毎月必ずかかるお金(固定費)がいくらかかって」
④「最後にいくら残るのか(経常利益)」
を上から順に表示した表です。このように表示することで、「どのくらい売れば、どれだけ限界利益が残るのか」「どこまで売上高が減ると赤字になるのか」等が一目でわかるようになります。具体的には下記のような表になります。
上記に示すように、「変動損益計算書」は売上高の増減、変動費の推移の確認、固定費の見直し等にも活用することができます。
3.「限界利益」を増やすためのポイント
具体的に「限界利益」はどのように増やすことができるのでしょうか。本項では、その方法について見ていきます。
(1) 仕入・外注などの変動費を下げて限界利益を増やす
「限界利益」を増やすポイントは、「変動費を見直す」ことです。変動費が高すぎてしまうと、いくら売上高が増えても会社に残るお金はなかなか増えません。
そのためには、外注費や仕入の条件を見直し、「同じ品質のままで、もう少し安くできないか」を考えます。例えば、「仕入先を変える」「まとめて買って単価を下げる」「外注の方法を変える」といった方法です。
また、無料で行っているサービスの中で、追加での作業や急ぎ対応、サポートなどがないかを確認することも効果的です。もし負担が大きいものがあれば、有料化を検討するか、「ここまでは無料、ここから先は有料」とルールを決めておくと安心です。
(2) 商品構成(プロダクトミックス)を見直して限界利益率を上げる
「限界利益」を増やすには、売上高における限界利益率(売上高に占める「限界利益」の割合を示しており、「限界利益 ÷ 売上高 × 100」で求めることができる)を高めること、つまり「限界利益を多く残す」工夫が重要です。
限界利益率が高ければ、同じ売上高でも会社に残るお金の量を増やすことができます。こうした意識づけが「限界利益」を伸ばす第一歩となります。
限界利益率の重要性について、ここでは一例としてそれぞれ限界利益率と売上高が異なる商品を比較し、実際の利益額を見ていきます。
(単位:万円)
| A商品 | B商品 | C商品 | 全社合計 | |
| 売上高 | 1,000 | 500 | 200 | 1,700 |
| 変動費 | 650 | 245 | 40 | 935 |
| 限界利益 | 350 | 255 | 160 | 765 |
| 限界利益率 | 35% | 51% | 80% | 45% |
⇩
(単位:万円)
| A商品 | B商品 | C商品 | 全社合計 | |
| 売上高 | 1,100 (+100) |
550 (+50) |
220 (+20) |
1,870 (+170) |
| 変動費 | 715 (+65) |
269.5 (+24.5) |
44 (+4) |
1028.5 (+93.5) |
| 限界利益 | 385 (+35) |
280.5 (+25.5) |
176 (+16) |
841.5 (+76.5) |
| 限界利益率 | 35%(±0) | 51%(±0) | 80%(±0) | 45%(±0) |
⇒売上高を各商品10%伸ばすと、全社の「限界利益」は841万5,000円になる。
表の通り「(下段の表「限界利益」行における増加額(+○○)に注目)」、A商品、B商品、C商品のいずれも同じ10%の売上高アップですが、限界利益率が高い商品ほど、売上高の伸びに対して会社に残るお金(「限界利益」)の増え方が大きくなります。このように限界利益率の高い商品やサービスを意識的に伸ばしていくことが重要なポイントになります。
4.付加価値経営で成功した企業事例
本項では、中小企業の付加価値経営を成功させた事例として、3社の事例を挙げます。
いずれも独自の経営手法で「限界利益」を高めることで、自社の経営に付加価値を与え、会社としての価値を高め、強い会社として成功しています。
(1) 製造業の例
栃木県に所在するA社はビーチボール・浮き輪などの空気入りビニール製品の製造会社。
同社が主に手掛けていた量産品の空気入りビニール製品は1980年頃が国内生産の最盛期であったが、業界全体として徐々に生産拠点が海外に移転し、安価な海外製品も国内に広く流通するようになった。その結果、価格競争が激しくなり、1個あたりの「限界利益」が圧迫され、1983年には同社の受注金額は最盛期の約半分にまで減少した。
そこで、同社では「限界利益」がほとんど残らない量産品への依存から脱却するために、1980年代後半から、多品種小ロットで従来よりも複雑な製品の受注を増やしていった。多様な形状への溶着・印刷・再現技術を蓄積し、難易度の高い製品開発を実現することで、1製品あたりの「限界利益」を高めていった。
以前は売上高の大半が数社の固定客によるものであったが、現在の販売先は数十社に増え、特定顧客への依存度も低下した。また、低価格ではなく、品質や独自性を売りとすることで、新規案件では適正な価格で受注ができるようになった。1件あたりの「限界利益」を確保することができ、売上高も1980年頃の国内生産最盛期と比べても1.2倍にまで増加した。
(2) 専業メーカーの例
京都府に所在するB社は1963年に創業した洋樽専業メーカー。
創業当初は伏見の酒造メーカー向けに一升瓶の木箱の製造を行っていたが、プラスチック製の一升瓶箱の普及に伴い木箱事業が低迷したことをきっかけに、洋樽の製造・販売事業に参入。また、2000年代前半までは、酒造メーカーからの業務請負事業も行っており、同事業が売上高の大半を占めていた。
しかし、2004年に製造業での労働者派遣が解禁されたことを契機に、業務請負事業の売上高がなくなり、同社の売上高はピーク時の20億円強から、2008年度には2億円にまで落ち込んだ。また、洋樽事業でも、当時は専業4社間での価格競争に陥っており、1本あたりに会社へ残る「限界利益」も薄くなっていた。苦境を受けて、樽材を再利用した箸を販売する新事業にも進出したが、十分な採算を確保するには至らなかった。
現社長は当初、洋樽は衰退産業であると思い込んでいたが、競合も少なく、磨き上げれば「限界利益を上げられる」ことに気づいた。
気付きを活かし、製品バリエーションの拡大に取り組んだ。焼酎などの蒸留酒は、もともとは無色透明で、樽によって色や香り、フレーバーが異なる。従来、樽の焼き加減はミディアムが通常であったが、焼き加減をライトにすればバニラ香、ヘビーにすればカラメル香になることが分かり、これを顧客に提案していった。
さらに、従来は加工が難しかった日本の木材を用いた洋樽の開発にも成功。日本の木材を用いた洋樽は、海外の酒造メーカーからもプレミアム洋樽として引き合いがあり、この樽を用いたウイスキーや焼酎も発売されている。単価のみならず「限界利益率」も高く、同社の収益基盤を支える重要な柱になっている。
(3) 電装業の例
北海道に拠点を置くC社は電装事業、通信事業を行う会社。
電装事業では、自動車向けのエアコンなどの電装品修理、大型農業機械などの産業機械修理のほかに、自動車の修理部品の販売や、地域の農家向けに農業用ドローンの販売も行っている。通信事業でも携帯電話の販売代理店4店舗を運営しており、地域を軸に多様な事業を展開している。同社では道内や国内の他地域への進出は控え、地域に根ざしたサービス提供を行う一方で、国外では日系大手自動車部品メーカーのサービス拠点としてミャンマーへ海外進出を果たしている点に特徴を有する。
地域のニーズに即した事業展開を心掛ける同社は、日頃からのコミュニケーションの中で、主要顧客である地元の農業・漁業従事者のニーズをきめ細やかに把握し、新たな商材の導入や顧客への情報提供にいかしている。こうした関係性の積み重ねにより、「価格だけで選ばれる取引」ではなく、サービス内容も含めて選んでもらえる取引が増え、無理な値引きに頼らずに「限界利益」を守ることができている。また、ネット通販との単純な価格競争に踏み込まないことで、売上高は確保しつつも1件あたりの「限界利益」を削らない経営を心掛けている。
5.まとめ
会社の「限界利益」が増えると、人材の採用・教育や設備投資、新商品づくり等に充てることができます。「限界利益」を増やす主な方法は、「売上高における限界利益率を高める」「変動費を減らす」です。「変動損益計算書」等で月ごとの数字を確認し、「限界利益」と社内の貯金を増やすことで、付加価値経営を目指せる会社にしましょう。会社経営における付加価値を大きくすることができれば、自社独自の強みを最大限発揮できる会社として、効果的な会社経営につなげることができます。
【参考資料】
・『事務所通信』2022年10月号
・『事務所通信』2022年11月号
・『事務所通信』2022年12月号
・『Q&A社長がおさえておきたい資金繰り改善に必要な視点』(2025年、TKC出版)
・中小企業庁「中小企業庁:2020年版「中小企業白書」 第2部第1章第1節 企業が生み出す付加価値と労働生産性」
・中小企業庁「中小企業庁:2020年版「中小企業白書」 第2部第1章第2節 中小企業の競争戦略」
記事提供
株式会社TKC出版 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。


