左から三木武裕顧問税理士、辻尾英昭常務、藤井利宏所長代理・監査担当
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ドライバーの時間外労働上限規制、モーダルシフトへの対応……経営環境激変のただ中にある運送業界で、吉富運輸は右肩上がりの成長を続けている。7月には、兵庫県加東市に県内7カ所目となる営業所を開設。「大規模物流拠点構想」実現に向け、視界は良好である。
発祥の地は、広島県広島市。創業当初は酒瓶の保管と、地元酒造会社への輸送をなりわいとしていた。そこから取扱品目は、飲料缶、ペットボトルへと広がっていく。「飲食料品は保管に際して、ほこりやにおい等で厳格な基準が求められます。ご要望にきめ細かくお応えしてきた結果、取引先の業種は食品・菓子メーカーにまでおよんでいます」と辻尾英昭常務は語る。近年、引き合いが高まっているのが“門前倉庫”(※)の用途。取引先の工場で組み立てる部品を吉富運輸の倉庫でいったん保管し、生産計画に沿って工場へ運ぶ。
「空のペットボトルや缶、ボトルキャップなどを当社の最寄りの倉庫で保管して、1日に複数回工場へ輸送する業務が増えています。高品質な倉庫を保有して、24時間体制で納品できるのが強みです」(辻尾常務)
全国11カ所の営業所にある倉庫の合計面積は、約3万坪に達するなど業容は拡大中だ。目下推進しているのが、兵庫県加東市と小野市の営業所を中核とする「大規模物流拠点構想」である。
※門前倉庫…取引先や納入先の近くに納入品を在庫しておく倉庫のことを指す。
1.175号沿線を一大拠点に
兵庫県沿岸部の明石市から県央の加東市や小野市を抜け、京都府舞鶴市に至る国道175号。同社は今年3月、小野市に1万3,000坪の広大な土地を取得し、営業所を新設する。拠点を立て続けに建設する背景には、顧客の旺盛なニーズがあるという。

神戸市西区にある神戸営業所には 飲料缶などが整然と保管されている
「営業所は、これまで3〜5年に一度のペースで開設してきました。ただ、最近は取引先さまの好調な業績を反映して、保管スペースの拡張を求められるケースが増えています。当社はそうした状況に対応するべく、投資サイクルを早め、足元では2年に1度ほどのペースで営業所を開設するようになっています」(辻尾常務)
小野営業所が竣工した暁には、隣接する加東営業所や県南の明石営業所と国道175号で行き来できることになる。また、国道175号は山陽自動車道や中国自動車道と接続しているため、東西へのアクセス向上も期待できる。各地の営業所がタテとヨコに結ばれ、利便性の高いネットワークが構築できるわけである。取引金融機関から「100億宣言」の話がもたらされたのは、大規模物流拠点構想を具体的な計画に落とし込もうとしていたときだった。
「かねてより、取引先さまからお預かりした品物を自動で入出庫できる倉庫を建設したいと考えていたので、ちょうどいいタイミングでした。『中小企業成長加速化補助金』が採択されれば、倉庫の自動化を推進していきたい。大規模物流拠点構想の進展により売上高の相当程度の上昇が見込めるため、年商100億円達成は夢ではないと見込んでいます」(同)
2035年の売上高100億円実現を目標に据え、30年に売上高77億円という青写真を描く。喫緊の課題ととらえているのは、人材の確保と育成である。倉庫業務に携わるスタッフの大半を正社員が占めるなど、人材面でも業務品質の高さを担保してきた同社。将来を見据え、若手人材の採用に乗り出した。20年から新卒採用を開始し、来年は5名の社員が加わる。「10月1日に開催した内定式では、100億宣言に関する資料も配布し、向こう10年間で年商100億円を目指すことを周知しました」と辻尾常務は話す。人材育成については、中堅、若手社員がグループディスカッションなどを行う研修や、社外研修の開催を通して注力しているところだ。
2.地域社会への貢献を追求
あわせて労働環境の改善にも着手。先述した加東営業所の天井と外壁には、遮熱塗装が施してある。さらに倉庫内の天井にファンを設置することで、気温が5度ほど低下した。倉庫内の気温は、設置前には40度に達する日もあったため、従業員からおしなべて好評だ。遮熱塗装と天井ファンは、他の営業所へ順次導入する予定という。もっとも、この施策は、働きやすさの追求だけでなく、日本国内の物流業界に対する危機感もあったと辻尾常務は明かす。

倉庫の遮熱塗装や天井ファン設置が話題の加東営業所(左)、60台超のトラックを保有(右)
「欧州の運送会社を視察すると、倉庫の屋根に太陽光パネルが設置されていたり、屋上緑化されていたり、脱炭素の取り組みが盛んです。日本の物流業界は脱炭素や自動化、省人化の観点で、海外の同業企業の後塵を拝しているのを痛感します」
物流企業の拠点開設時には行政との折衝が欠かせないが、吉富運輸は雇用創出にとどまらない地域貢献のあり方を模索している。加東市への進出に際しては、市と連携して市内の公園整備計画を推し進めている。同社の経営を30年以上にわたり支援している、税理士法人TM三木会計の三木武裕顧問税理士は「事業面で特筆されるのは、地域貢献の視点を常に念頭に置かれているところです。今後も地域経済の発展に貢献されれば、年商100億円はおのずと達成できると思います」と期待する。また、藤井利宏監査担当も「吉富運輸さまでは、研修の一環として海外視察を頻繁に実施されており、ビジネスのヒントとして役立てられています」と称賛を惜しまない。
建設の進む小野営業所は、地盤改良工事等を経て、26年中の開設を目指している。辻尾常務はこう意気込む。
「経営基盤が強固なものとなり、労働環境の改善や賃上げといった待遇面を一層向上させていきたいと考えています。そのためにも、目下進行中の大規模物流拠点構想をしっかり立ち上げ、軌道に乗せていきたいです」
(取材協力・税理士法人TM三木会計/本誌・小林淳一)
| 名称 | 株式会社吉富運輸 |
|---|---|
| 業種 | 運輸・倉庫業 |
| 創業 | 1959年10月 |
| 所在地 | 兵庫県神戸市西区高塚台2-10(西神工業団地) |
| 代表者 | 上田勇次 |
| 売上高 | 54億円(2024年11月期) |
| 従業員数 | 200名 |
| 使用システム | FX4クラウド |
| URL | https://www.yoshitomi-logi.co.jp/ |
| 顧問税理士 |
税理士法人TM三木会計
顧問税理士 三木武裕 広島県広島市中区加古町7-11 URL: https://www.mytaxpro.jp/5xz2mvmais8n/ |
掲載:『戦略経営者』2025年11月号
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