2025年11月04日

目指せ!100億企業 右肩成長という経営者の本能、魂に火をつける

目指せ!100億企業 右肩成長という経営者の本能、魂に火をつける
【OPENING INTERVIEW】中小企業庁長官官房企画調整室長 赤松寛明

デフレ経済を脱した今、より高い水準の成長企業を、もう一段の高みに引き上げ、地域経済を牽(けん)引するような存在に育てる目的で企画された「100億宣言」。今年5月に申請を受け付けて以降、すでに2,000社近くが宣言をしており、遠からず大きなうねりとなりそうな勢いだ。

──「100億宣言」を企画された意図は?

赤松 これまでの中小企業政策は、コロナ禍による業績不振からの回復や、リスケをベースに経営改善・事業再生を促すことに力を注いできました。もちろんそれも大事ですが、経済がインフレに向かう中で、デフレ時代の経営手法や金融慣行、あるいは施策を一気に変えていく必要があります。物価上昇、人手不足の中でも成長を持続し、国内での賃上げや投資を続け、地域経済にインパクトを与えることができるのは、大企業よりも地域の中堅・中小企業の経営者の皆さまです。「100億宣言」は、デフレマインドを払拭し、右肩成長という経営者の本能、魂に火をつけることができないか、そうした機運をつくれないか、と言うのが意図です。

1.デフレ時代の経営から脱する

──内外に成長宣言することで、経営者を本気にさせると。

赤松 はい。自分を含めてこの30年間のデフレ時代しか知りません。多くの経営者は、リスクのある投資を控え、コストカットをはかり利益を確保する経営を行ってきました。実際にDXや人材投資を「もったいない」という感覚でやってこなかった企業も多くあると思います。物価上昇、賃金上昇、人手不足……経済の回転が変わった今でも、デフレ型の経営を続けていては、競争に負けます。個々の企業レベルだけではなく、日本経済全体としてもそうです。
 この状況から転換するには、まずは経営者のマインドセット、そして成長シナリオの経営戦略への落とし込み、それを実行できる仕組み、すなわち組織力が不可欠です。「人あまり」の時代は終わり、人材が最大の希少資源となりました。賃上げにより人材を確保し、若手の成長意欲を満たし、活躍できるフィールドを広げて1人当たりの付加価値を増やし、労働生産性を上げる仕組みを作れた企業が勝つ時代になりつつあります。

──反応は?

赤松 実際に宣言を行った経営者の言葉としては、「宣言をしたら地域との関係、従業員の関係でもう逃げられない」や、他方で「従業員は目の色が変わる。金融機関の理解も深まる。細々と続けていくのと、100億を目指すのでは日々の行動、投資の方角が違ってくる」「とにかくアドレナリンが出る」などがあります。
 現在全国で2,000社近く表明をいただき、大変勇気づけられています。毎月100社ずつ増えていて、売上高規模で言うと、30億円未満が40%を占めています。今後、より多くの経営者の方々の賛同を得て、うねりとしていければと思います。

令和3年経済センサスー活動調査

──なぜ、国が?

赤松 企業経営、金融機関も含めて1、2年で変化に対応する必要があります。市場任せで5年、10年かかっては、もう手遅れです。このため国が全面に出て100億宣言、さらには言っているだけでは十分進めないので、起爆剤として成長加速化補助金を用意しました。重要なことはこうした取り組みを通じて何を残すかであり、企業が成長資金を調達できる金融慣行、こうした企業体を創れる一流のコンサルや支援機関、さらにはわれわれ中小企業庁や支援機関の職員自身も、これらの取り組みを通じて経営者の皆さまの胸をお借りしながらレベルアップしていく必要があります。

──環境さえ整えば、中小企業にはそれができるポテンシャルがあると。

赤松 10月7日に行われた「100億企業創出シンポジウム」の模様を配信しますので、ぜひご覧いただければと思いますが、冨山和彦さんの基調講演では、賃上げにより人材確保を起点とする仕組みを作った企業が勝つ、さらにAI時代の到来により中堅・中小企業に有利な時代となっているというお話がありました。日本では、諸外国と違って、やろうと思えば何でもできます。インフラやサプライチェーンは整っているし、製造業をはじめ産業のすそ野はとても広く、さまざまな技術があり、観光資源も多い。これを生かすことができるのは大企業よりも中堅・中小企業の経営者です。

2.経営者の“本気”が必要

──「成長加速化補助金」がプロジェクトの目玉ですね。すでに第1次の採択が行われました。

赤松 はい。9月中旬に211社(申請1,270件)が採択されました。補助上限額は最大5億円で、補助率は2分の1です。

──5億円とはすごいですね。

赤松 それだけの潜在的成長力やインパクトが求められ、経営シナリオの勝負であり、倍率も6倍と高いものとなりました。審査委員が投資家としての目線で評価するので、経営者のビジョンやシナリオ、その実現可能性、市場分析の解像度などはもちろん、経営者の言葉で質問に答えられているか、数字の根拠や実現するための仕組み、人材確保等の手段がとられているかなど、さまざまな角度から事業経済性を審査します。そのためハードルは決して低くありません。少なくとも、これまでの中小企業庁の補助金とは異なりますし、「補助金ありき」という考え方では採択は難しいと思います。

──補助金ありきとは?

赤松 「補助金がなければ何もしない」あるいは「設備投資を予定していたらたまたま補助金があったので使いたい」という考え方では難しいということです。経営者が〝本気〟で100億を目指す、そのためにこれまでの経営を変えて、従来路線を蹴り上げ、非連続の成長にどう挑戦していくか、金融機関の融資だけでは限界もあり、その成長戦略としてこの補助金をどう組み込むかという視点が大切だと思います。

──どのような採択案件が?

赤松 業種・業態によってさまざまです。審査委員からは「計画は多少粗削りであっても、意欲的で不連続な成長につながり、産業や地域に有意義な変化をもたらせるか」という視点を特に重視したという声もありました。
 図表2をご覧ください。成長加速化補助金採択者と一般の中小企業(売上高10億円以上)の比較数値です。これを見ると、賃上げや投資額など採択企業のインパクトは大きく、今後も、こうした中小企業を何百、何千と増やしていくことができれば、確実に地域経済、日本経済は変わっていくと思っています。

成長加速化補助金採択者と一般の中小企業(売上高10億円以上)の比較数値

3.成長ソフトインフラを整備する

──金融機関の意識変革も必要になりますね。

赤松 新たな事業に進出しても、利益を出すまでには数年かかります。他方、預金を原資とする金融機関にとって簡単な話ではありません。
 しかし、その事業が将来どうなっていくかを評価しつつ、成長企業や産業を創っていくのが金融機関の本来の役目であり、そうした金融機関、一流のコンサル・支援機関による〝成長ソフトインフラ〟を創っていく必要があります。

──100億宣言は、金融機関へのアピールにもなっているということですね。

赤松 100億宣言をすることによってフラグが立ちますから、金融機関としても有望な中小企業支援に取り組みやすくなると思います。実際「社長が何を考えているかがわかり、対話ができるようになった」という金融機関の声もあり、すでに動き始めている印象です。

──地域振興にはどうつながりますか。

赤松 100億宣言は経営者にフォーカスするものですが、表裏一体で地域経済の活性化につながるものと確信しています。
 前出のシンポジウムで、たくさんの経営者とお話をさせていただいたのですが、かなりの熱量でしたし手ごたえもありました。と同時に、経営者は孤独だという印象が強く、同じような境遇にある人たち、特に地域の経営者が、全国の経営者とつながることの意味は大きいと感じました。今後、100億宣言によって巻き起こる流れを全国各地域に広げていきたいと考えています。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2025年11月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

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戦略経営者

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 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。