2025年12月08日

自己資本比率とは?――企業の安定経営を支える体力を示す指標

自己資本比率とは?――企業の安定経営を支える体力を示す指標

💡この記事のポイント
 ☑自己資本比率は、借入に依存せず、どれだけ自社の資金で経営を維持できているかを示す数値
 ☑金融機関は融資判断において、自己資本比率で企業の経営の健全性を見極める
 ☑改善には、利益の積み上げや資産・負債の見直しが不可欠となる

1.自己資本比率とは?(しくみと基礎知識)

(1) 経営の「体力」を示す指標

 企業の経営体力を測る代表的な指標の一つに「自己資本比率」があります。
 自己資本比率とは、会社の資本のうちどのくらいを自前の資金でまかなっているかを示す割合であり、経営の安全性や返済余力を判断するうえで欠かせません。
 また、中小企業にとって自己資本比率は、融資の可否や条件に直結する重要な数値でもあります。比率が高ければ「返済余力がある」「倒産リスクが低い」と評価され、金融機関との交渉で有利になります。一方で、比率が低い場合は「借入依存が強い」と判断され、資金調達が難しくなる傾向があります。

(2) 計算方法

 自己資本比率は、次の式で表されます。

自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資本 × 100

総資本・他人資本・自己資本を図示

 ここでいう「自己資本」とは、株主からの出資や過去の利益の蓄積(利益剰余金など)といった返済義務のない資金を指します。これに対し、借入金など返済が必要な資金は「他人資本」と呼ばれます。「総資本」とは、自己資本と他人資本を合わせた会社全体の資金の総額です。

【例】総資本1億円、自己資本3,000万円の会社の場合を図示したもの

【例】総資本1億円、自己資本3,000万円の会社の場合
→ 自己資本比率は30%(1億円のうち3割が自社資金、7割が外部資金)

 比率が高い企業は損失への耐性があり、突発的な赤字でも自己資本で吸収できます。比率が低い企業は、少しの赤字でも資金繰りが悪化し、借入の返済が難しくなるリスクが高まります。

(3) 制度、指標としての位置づけ

 中小企業に関連する制度では、経済産業省が公表する「ローカルベンチマーク」において、企業の経営状態を把握するための主要な財務指標の1つとして自己資本比率が採用されています。

 参考記事
中小企業の経営力を高めるロカベン活用術─経営者自身が語れる経営を実践するために

 また、中小企業庁が毎年実施している「中小企業実態基本調査」では、全産業加重平均値としての自己資本比率が公表されており、財務の安全性を示す指標として位置づけられています。

中小企業実態基本調査では自己資本比率は安全性の指標と位置付けられる

出典:「中小企業実態基本調査 令和6年確報 調査の概況(主要項目の調査結果)」

 さらに、金融機関に対して一定水準の比率維持を求める「自己資本比率規制(バーゼル規制)」という制度もあります。これは金融機関に向けたルールですが、資本に厚みを持たせて経営の安定を図るという考え方は、一般企業にも通じるものです。

 このように自己資本比率は、行政や金融機関においても、企業の健全性を測るための客観的な指標として位置づけられています。
 一言でいうと、自己資本比率は「借入に依存せず、どれだけ自社の資金で経営を維持できているか」を示す数値です。単なる会計上の数字ではなく、金融機関や取引先との信頼関係を築くうえでの基礎指標といえるでしょう。

2.中小企業の自己資本比率の現状

 自己資本比率は、業種や企業規模によって大きく異なります。中小企業庁の「中小企業実態基本調査」では、業種別・規模別に財務指標が集計されており、そこから次のような傾向が見えてきます。

(1) 業種による違い

 「中小企業実態基本調査」に掲載されている数値を見てみると、情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業などは比較的、自己資本比率が高い傾向があります。
 一方、小売や宿泊、飲食サービス業などは自己資本比率が相対的に低く、10~20%台にとどまる企業も少なくありません。
 このような違いには、設備投資額の大きさや、利益を内部留保しやすいかどうかなど、業種ごとの特性が関係しています。そのため、同業他社との比較により自社の比率が業界のどの位置にあるかを把握することが重要です。

産業別の自己資本比率

出典:「中小企業実態基本調査 令和6年確報 調査の概況(主要項目の調査結果)」

(2) 規模による差と債務超過のリスク

 同じ業種でも、企業規模が小さくなるほど自己資本比率は低下する傾向があります。小規模事業者の場合、日々の資金繰りを借入に頼る割合が高く、利益を内部留保に回す余力が限られることなどが理由と考えられます。
 赤字が続けば債務超過(資産より負債が多い状態)に陥り、金融機関からの新規融資が極めて難しくなるほか、取引先の信用にも影響します。財務体質を立て直すには、まず現状を把握し、改善に向けた課題を明確にすることが必要です。

(3) 改善には積み重ねが必要

 中小企業の多くは、借入が経営を支える重要な資金源となっています。しかし、借入に過度に依存すれば返済負担が重くなり、財務の安定性が損なわれることになります。
 そのため、借入に依存しない資金繰りの仕組みを整えながら、長期的には黒字経営によって自己資本を積み上げていくという、段階的な取り組みが求められます。
 利益の確保と計画的な負債の削減を繰り返すことで、少しずつ財務体質を強化することができます。
こうした地道な改善の積み重ねが、結果として金融機関からの信頼にもつながります。

3.金融機関が自己資本比率を重視する理由

 中小企業が金融機関から融資を受けようとするとき、判断材料となるさまざまな指標がありますが、ほぼ必ず確認されるのが自己資本比率です。金融機関がこの指標を重視するのは、返済余力や財務の健全性に加え、経営者の姿勢までも読み取ることができるからです。理由としては次の(1)~(3)のようなことが考えられます。

(1) 返済可能性の目安になるため

 融資判断で最も重要なのは「貸した資金が確実に返済されるかどうか」です。自己資本比率が高い企業は、損失が出ても自己資本で一定のダメージを吸収できるため、返済余力が高いと評価されます。逆に比率が低い企業は、わずかな赤字でも資金繰りが悪化しやすく、返済遅延のリスクが高まります。
 金融機関は自己資本比率によって「総資本のうち、どれだけが借入に依存しているか」を確認することで、その企業がどれほど安定しているかを判断します。比率が低い企業は借入依存体質と見なされ、追加融資の判断は慎重になりがちです。

(2) 銀行自身も同じ規制を受けているため

 金融庁は、銀行などの金融機関に対して「自己資本比率規制(バーゼル規制)」を課しています。銀行自身が一定以上の自己資本比率を維持する厳しい基準を課されているため、融資先企業にも「同様に健全な財務体質を保ってほしい」という目線で評価するのは自然なことです。

(3) 「経営者保証ガイドライン」との関係

 金融庁と中小企業庁が定める「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者個人が過度な保証を負う状況を減らすことを目的としています。
 ガイドラインで定める要件の一つには「財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で借入金の返済が可能であること(財務基盤の強化)」という項目があり、金融機関によって詳細な数値は異なりますが、黒字化できているか、自己資本比率が一定以上あるかといった基準があります。
 つまり、自己資本比率がある程度高いことは、経営者保証を外すための前提条件の一つともなり得ます。金融機関はこのガイドラインを踏まえ、融資先の自己資本比率を通じて財務の健全性を確認しているのです。

(4) 金融機関が持つ「おおむねの目安」は?

 自己資本比率の理想的な水準は、業種や企業規模によって異なります。中小企業庁の「中小企業実態基本調査」や経済産業省の「ローカルベンチマーク」では、おおむね30%前後であれば財務的に安定した企業と評価される傾向があります。株式会社TKCが提供する「TKC経営指標(BAST)」でも、優良企業の一つの条件として「自己資本比率30%以上」を掲げています。
 ただし、これらはあくまで一般的な目安にすぎません。業種や事業構造によって必要な資本の厚みは大きく異なるため、金融機関は「業種平均」や「同業他社との比較」を重視します。
 したがって、ある程度の目安はあるものの、自社の比率を単体で判断するのではなく、同業他社と比べてどの位置にあるのかを把握することが、より実態に即した評価につながります。

4.自己資本比率を改善するための具体策

 自己資本比率は、短期間で大きく改善するのが難しい指標です。しかし、正しい方向性を押さえて取り組めば、時間をかけて着実に高めることができます。ここでは、中小企業が実践しやすい主要な改善策を整理します。

(1) 利益を積み上げる(内部留保の強化)

 最も基本的で効果的な方法は、黒字を継続して利益剰余金を増やすことです。利益が積み重なれば自己資本が厚くなり、総資本に占める割合(=自己資本比率)も自然に高まります。
 そのためには、単年度の利益確保にとどまらず、長期的に安定した収益構造を築くことが重要です。価格設定の見直し、コスト管理の徹底、収益性の低い取引の整理など、日常的な経営改善の積み重ねが、財務の強化を後押しします。

(2) 資産の効率化と借入依存の見直し

 自己資本比率は「自己資本 ÷ 総資本」で求められます。したがって、分母となる総資本の増加(特に過大な資産や借入)を抑えることも改善には有効です。使われていない土地や老朽化した設備など、収益を生まない資産を整理・売却すれば、総資本を圧縮し、財務構造の改善につながります。
 また、棚卸資産や売掛金の回転率を高めて資金化を早めることも、財務の効率化に有効です。
 さらに、借入金が多い企業は返済計画の見直しが欠かせません。複数の借入を一本化して金利負担を軽減する、あるいは返済条件を金融機関と相談して調整するなど、実行可能な改善策を検討しましょう。
 加えて、政府系金融機関などで活用が進む「資本性借入金(資本性ローン)」の活用も選択肢の一つです。これは通常の借入よりも返済順位が低く、一定の条件を満たすと金融機関による格付上で自己資本に準じて扱われる融資形態であり、財務健全性の評価を高める効果があります。

(3) 公的支援制度の活用と中長期的視点

 中小企業庁が推進する「経営改善計画策定支援(405事業)」や「早期経営改善計画(バリューアップ支援事業)」の活用も効果的です。

参考記事
専門家とつくる経営改善計画──費用補助を受けられる「バリューアップ支援事業」活用法

 税理士や中小企業診断士などの専門家の支援を受けながら、財務改善の計画を立て、金融機関と共有することで、返済条件の見直しや新規融資が円滑に進む可能性が高まります。これらの制度は、自己資本比率を直接高めるものではありませんが、長期的な財務体質の改善を後押しします。また、専門家の関与により、経営者自身が財務状況を定量的に把握できるようになる点も大きなメリットです。
 中長期的には、親族や役員からの出資を受けて増資を行い、資本強化を図ることも有効です。出資による株主構成や経営権への影響を考慮しながら、段階的に資本を厚くしていくことが望まれます。

(4) 複数の施策を組み合わせて改善を

 自己資本比率の改善には、利益の積み上げ、資産の効率化、借入の見直し、増資や公的支援の活用といった複数の施策を組み合わせることが重要です。
 なかでも「資本性借入金」や「経営改善計画支援事業」は、金融機関との協調を前提にした現実的な手段です。
 目安である自己資本比率30%以上を目指すことは、決して一朝一夕ではありませんが、安定した経営基盤を築くための確実な道筋です。企業の成長を支えるのは、外部資金ではなく自社の財務体力です。小さな改善の積み重ねが経営の信頼と持続性を育てます。

5.ポイントのおさらい

 自己資本比率は、企業の財務体質を最も端的に表す指標です。単なる会計上の数値ではなく、金融機関の融資判断や取引先・従業員からの信頼を支える基盤でもあります。
 金融庁の「自己資本比率規制(バーゼル規制)」や中小企業庁の「中小企業実態基本調査」、経済産業省の「ローカルベンチマーク」なども、自己資本比率を経営の健全性を測る指標として活用しています。したがって、この数値を理解し、維持・改善することは、国の政策にも沿った健全な経営努力です。

経営改善は「数字の理解」から
 中小企業の多くは、資金繰りや人手不足に追われ、財務分析を後回しにしがちです。
 しかし、金融機関との交渉で重視されるのは「数字の裏づけ」です。自己資本比率が低ければ融資条件が厳しくなる一方で、着実に比率を高めていけば信頼が積み上がります。改善の第一歩は、自社の財務状況を正しく把握することです。

「30%」が安定経営の目安
 中小企業庁や経済産業省の調査によれば、自己資本比率30%以上が安定した経営基盤の目安とされています。この基準は、株式会社TKCの「TKC経営指標(BAST)」でも優良企業の条件として採用されています。
 ただし、企業規模や業種による差があるため、同業他社と比較することも重要です。
 まずは自社の現状を確認し、利益の積み上げや資産の効率化、借入の見直し、公的支援制度の活用など、現実的な改善を進めることが大切です。

財務の強さが企業を支える
 自己資本比率の改善は、単に借入を減らす取り組みではなく、危機に強い経営体質を築くための姿勢の表れです。財務の強化は最も地道でありながら、最も確実な成長戦略です。今日からできる小さな改善を積み重ねることが、企業の安定と信頼につながります。

参考リンク

金融庁:自己資本比率規制等(バーゼル規制)について
中小企業庁:中小企業実態基本調査
株式会社TKC:TKC経営指標(BAST)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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