2025年07月22日

  • Xでシェア
  • facebookでシェア

専門家とつくる経営改善計画──費用補助を受けられる「バリューアップ支援事業」活用法

専門家とつくる経営改善計画──費用補助を受けられる「バリューアップ支援事業」活用法

💡この記事のポイント
 ☑バリューアップ支援事業は、経営改善に早期に取り組む中小企業を対象とした国の支援制度
 ☑専門家のサポートを受けながら、簡易な経営改善計画を策定できる
 ☑計画策定や伴走支援にかかる費用の2/3(最大80万円)が補助される
 ☑経営課題の整理や資金繰りの見える化により、今後の方針が明確になる
 ☑金融機関との関係構築や伴走支援を通じた継続的な経営管理にもつながる実用的な仕組み

1.バリューアップ支援事業の概要

(1) 制度の概要

「正式名称:早期経営改善計画策定支援(通称:バリューアップ支援事業)」は、中小企業・小規模事業者が資金繰りや経営の見直しに取り組む際、国の認定を受けた専門家(認定支援機関)の支援を受けながら簡易な経営改善計画を策定することができる制度です。 策定にかかる費用の一部を国が補助する仕組みとなっており、経営改善の初期段階での活用が期待されています。 制度の概要は以下のとおりです。

項目内容
対象者経営や資金繰りに課題を抱える中小企業・小規模事業者
支援内容資金繰り計画、損益計画、ビジネスモデル俯瞰図、アクションプラン、伴走支援計画などの策定
支援者認定支援機関(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)
補助内容支援費用の2/3(上限80万円)を国が補助

この制度は平成29年に「プレ405事業」として開始され、その後「ポスコロ事業」などを経て、現在の「バリューアップ支援事業(Vアップ事業)」へと発展しています。

(2) 制度のポイント

バリューアップ支援事業の主な特徴は以下の5点です。

・簡易な計画の作成が可能(本格的な経営改善計画よりも手続きが簡便)
・計画策定費用の2/3(上限50万円)、伴走支援費用の2/3(上限30万円)が補助される(上限合計80万円)
・自社の経営状況を客観的に把握できる
・計画策定後3年間、伴走支援を通じて進捗のフォローアップが受けられる
・必要に応じて他の支援制度の紹介を受けることができる

(3) 補助対象となる費用

本制度では、認定支援機関に支払う以下の費用について、2/3(上限80万円)が補助されます。

項目内容補助上限額
計画策定支援費用資金繰り計画、損益計画、基本的な改善計画作成にかかる費用50万円
伴走支援費用(期中)計画実行中(期中)の進捗確認やアドバイス30万円

なお、事業承継先探索に伴う企業概要書作成費用や、経営者保証解除に向けた金融機関交渉費用については、それぞれ上限10万円が加算される場合があります。

(4) 認定支援機関とは?

バリューアップ支援事業を活用するには、「認定支援機関(正式名称:認定経営革新等支援機関)」の関与が必須となっています。

認定支援機関とは、中小企業等経営強化法に基づき、国が認定した経営支援の専門家です。税理士、公認会計士、中小企業診断士など、企業の財務や経営支援に関する専門的な知識と経験を持つ者が認定を受けています。
制度の利用にあたっては、こうした支援機関が企業と伴走しながら、経営状況の把握、計画の立案支援、金融機関との調整、伴走支援の実施といった各段階でサポートを行います。

事業者は、自社の業種や課題に合った支援機関を選定することができ、すでに顧問契約を結んでいる税理士等が認定を受けていれば、そのまま依頼することも可能です。

認定支援機関は全国に多数登録されており、以下の検索システムから探すことができます。

認定支援機関検索システム(中小企業庁)
また、認定支援機関制度そのものについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になります。

解説記事|中小企業の応援団!「認定支援機関」制度とその役割

2.バリューアップ支援事業のメリットとは?

(1) 経営改善の第一歩は、専門家との対話から

バリューアップ支援事業は、経営や資金繰りに不安を感じ始めた段階で、認定支援機関とともに現状を整理し、改善に向けた計画を立てられる制度です。
この制度の特長は、計画を「作る」こと自体よりも、専門家との対話を通じて、自社の課題や方向性に気づくプロセスにあります。資金繰りや損益計画の作成を通じて、経営状態が見える化され、対応すべきポイントが明確になります。
実際の利用事例では、売上の減少要因を数値から把握できた、経費の使い方に偏りがあると気づいた、思い描いていた方向性と現実のギャップを認識できた、などの声があり、専門家の視点が経営者の"気づき"につながっていることがわかります。
また、策定した計画は金融機関との共有にも活用され、将来像を具体的に示すことで、信頼関係の構築や支援体制の強化にもつながります。

(2) 「銀行デビュー」のきっかけに──対話を始める第一歩

打ち合わせをする経営者と金融機関の担当者

この制度の大きなメリットは、金融機関との対話の場を自然に持てることにあります。ふだん金融機関に出向く機会が少ない経営者にとって、自社の事業内容を説明することは心理的なハードルが高く、つい敬遠しがちです。しかし、計画の提出を通じて事業の内容や将来の展望を伝えることで、信頼関係を築く一歩になります。
たとえば、ある2代目経営者は、これまで金融機関に出向くのに抵抗がありましたが、顧問税理士の勧めでこの制度を活用し、初めて自らの言葉で自社の事業を説明する機会を得ました。短時間の面談ではありましたが、本人にとっては大きな前進であり、自信にもつながったといいます。

このように、制度の活用は単なる書類作成にとどまらず、経営者自身が「外に向けて経営を語る力」を育てる機会でもあります。金融機関との関係づくりや資金調達の基盤づくりにもつながる、実践的な制度といえるでしょう。

(3) 利用事業者の傾向と効果

「中小企業白書2021」によると、本制度を利用した事業者のうち、年商1億円未満の小規模事業者が約60%を占めています。
この層では、制度活用後に売上高の増加が見られるなど、明確な成果が出ていることが報告されています。制度の活用が、事業の見直しや成長のきっかけとなっていることがわかります。

早期経営改善計画策定支援事業の利用効果

早期経営改善計画策定支援事業の利用効果

資料:中小企業庁作成、出典:「中小企業白書2021」

3.導入と申請の具体的な流れ

バリューアップ支援事業を活用するには、認定支援機関との連携を前提として、いくつかの手続きが必要です。ここでは、制度の導入から申請、計画書の作成、伴走支援までの流れを順を追って紹介します。

(1) まずは身近な専門家に相談を

制度の利用には、「認定支援機関」の支援が不可欠です。
まずは、顧問税理士や最寄りの商工会、金融機関、または中小企業活性化協議会に相談し、制度についての説明を受けましょう。

(2) 申請の進め方

バリューアップ支援事業は、下図にあるように主に7つのステップを通じて認定支援機関・金融機関・中小企業活性化協議会と連携しながら進めていきます。以下では、各ステップの内容を順に紹介します。

本事業のスキームの概要

本事業のスキームの概要

ステップ1:メイン金融機関への事前相談
まず、メインまたは準メインの金融機関に制度活用の意向を伝え、「事前相談書」の発行を依頼します。
・発行までに1週間程度かかる場合があります。
・この金融機関が、計画書の提出先にもなります。

ステップ2:中小企業活性化協議会への相談と「利用申請書」の提出
認定支援機関と連名で「利用申請書」を作成し、中小企業活性化協議会に提出します。
・「事前相談書」(ステップ1で取得)もあわせて提出。
・必要に応じて、経営者と協議会との面談が行われます。

ステップ3:経営改善計画の策定
認定支援機関と連携し、以下を含む計画書を策定します。
・ローカルベンチマークやビジネスモデル俯瞰図による現状分析
・損益・資金繰り計画
・経営課題と対応策をまとめたアクションプラン
・実態貸借対照表
・伴走支援計画

ステップ4:メイン金融機関への計画提出
作成した早期経営改善計画案を、金融機関へ提出する前に中小企業活性化協議会へ提出します。必要に応じて助言を受けたうえで、早期経営改善計画書をステップ1で相談した金融機関に提出します。
・金融機関から「受取書」を発行してもらいます。
・一部の金融機関では、独自様式が指定される場合があります。

ステップ5:中小企業活性化協議会への書類提出
補助を受けるために、支払申請書、早期経営改善計画書、業務別請求明細書、従事時間管理表、実務指針に基づく実施確認表、認定支援機関の請求書類、契約書の写し、費用負担額の支払いを示す証憑類、金融機関の受取書などを中小企業活性化協議会に提出します。
これにより、制度に定められた補助金交付手続きが進みます。

ステップ6:計画の実行と伴走支援
計画は策定して終わりではなく、実行と進捗管理を継続することが求められます。
・計画を単年度予算として運用し、毎月の実績と比較・評価を行います。
・認定支援機関が進捗確認や助言を行い、計画の実効性を高めていきます。
・行動計画や目標の進捗を定期的に見直すことで、より実効性のある経営改善が図れます。

ステップ7:「伴走費用支払申請書」の提出
伴走支援実施後は、「伴走支援費用支払申請書」を提出することで、伴走支援費用について補助を受けることができます。
・伴走支援は、計画策定後最初の決算時から3年間、決算期を含め年2回以上実施します。

以上の7つのステップを通じて、専門家の伴走のもとで計画を策定・実行し、伴走支援を重ねることで、継続的な経営改善につなげることができます。

(3) 効果的な進め方(5月決算企業の例)

制度活用をスムーズに進めるためには、決算月に合わせてスケジュールを立てるのが効果的です。
5月決算の企業を例にとると、以下のような進め方が参考になります。

時期内容目的・ポイント主な準備資料例
6月事前相談(キックオフ)金融機関・支援機関との初回打ち合わせ。制度の説明と顔合わせ・最新の決算書・会社概要資料
7月第1回ミーティング(決算報告会)経営者の意向共有、金融機関の意見聴取・決算書・ローカルベンチマーク・計画の原案
8月第2回ミーティング(計画案の確認)計画案を協議会へ提出し、必要に応じて修正したうえで、金融機関に提出し、「受取書」を取得・最終版の経営改善計画書・損益計画・資金繰り計画
以後3年間伴走支援決算期・中間期を中心に、年2回以上、実績と計画の比較や改善策を検討・最新の決算書・予算実績比較表・再確認したローカルベンチマーク

★進め方のポイント
金融機関との対話を重視:計画書の提出は単なる書類作業ではなく、信頼関係を築く場と捉えましょう。
段階的な合意形成:原案の共有 → 意見反映 → 最終合意という流れが、実効性を高めます。
伴走支援で成果を確認:制度は「作って終わり」ではなく、実行と検証のサイクルが大切です。

4.早期経営改善計画書を作成するには

バリューアップ支援事業では、認定支援機関とともに現状を見つめ直し、将来に向けた経営改善計画を策定します。ここでは、計画書作成の一般的な流れをご紹介します。
なお、実際の作成支援は専門家がサポートしますので、ご自身だけで全てを準備する必要はありません。

(1) 計画書作成の具体的な流れ(一例)

①自社の現状分析をする

計画づくりの第一歩は、自社の現状を正しく知ることです。
過去の業績や財務情報を振り返りながら、ローカルベンチマークなどを活用して、強みや課題を整理します。
事業の全体像を整理する際には、販売先・仕入先・経費構造などを図で見える化する「ビジネスモデル俯瞰図」を用いることもあります。
このように、定量・定性の両面から自社を分析することで、改善の方向性を明確にしていきます。

②財務目標を設定する

現状分析の結果を踏まえ、今後目指すべき収益や資金繰りの数値目標を設定します。
たとえば、売上目標や必要利益の水準、資金残高の見通しなどを整理し、無理のない範囲での改善シナリオを構築していきます。
同業他社のデータとの比較を行うことで、どの程度の数値を目指すべきかの参考にもなります。支援機関の助言を得ながら、実現可能性の高い中期的な目標を立てていきます。
必要に応じて、実態貸借対照表を作成し、資産や負債の状況を実態に近い形で確認します。

③アクションプランを考える

目標達成のためには、日々の経営で何をどう変えるかという行動計画(アクションプラン)が必要です。
ここでは、削減すべき経費や新たに取り組む販路開拓・商品開発など、主な対策を洗い出し、それぞれの対策について実行可能な形で整理します。
行動の内容はもちろん、いつ・誰が・どのように実施するのかも計画に含め、「実行に移せる計画」に仕上げていきます。
また、計画策定後の確認時期や支援内容を整理するため、伴走支援計画もあわせて作成します。

④「早期経営改善計画書」を協議会へ提出し、その後金融機関へ提出する

⑤伴走支援で実行状況を確認する

計画書を提出して終わりではなく、計画策定後最初の決算時から3年間、伴走支援を通じて実行状況を確認します。
月次の実績を計画と比較し、進捗を評価しながら必要に応じて見直しを行うことで、計画の実効性を高めていきます。

この伴走支援も、認定支援機関がサポートする形で進められます。計画が「絵に描いた餅」にならないよう、継続的な経営改善を目指す仕組みが整っています。

(2) これって早期経営改善計画になるの?

「経営改善なんてうちには無理」と感じる方も多いかもしれませんが、実はもっと身近な取り組みもアクションプランとして認められます。たとえば、中小会計要領を導入して正確な決算報告ができるようにしたり、部門別損益を把握するために会計ソフトを導入することも、立派な改善計画の一環です。こうした対応を通じて、金融機関との信頼構築や経営の見える化が進みます。実行には一定の費用がかかることもありますが、本制度では計画策定支援費用や伴走支援費用の2/3が補助されるため、負担を抑えて取り組むことが可能です。

5.まとめ

制度を活用した経営改善の第一歩を

この制度を利用することで、以下のような効果が期待されます。

自社の現状や課題を可視化し、客観的に把握できる
経営者の意向をもとにした具体的な数値目標を設定できる
金融機関と将来像を共有することで、信頼関係の構築が進む
国からの補助により、計画策定や伴走支援の費用負担を軽減できる
伴走支援を通じて、実行と検証の経営体制を整えることができる

制度の活用には認定支援機関の関与が必要であり、相談から計画策定、申請までを一貫して支援してもらうことができます。
経営環境が急激に変化する中、課題の早期発見と対応が求められる場面は増えています。本制度は、そうした状況に対し、小規模な改善から無理なく取り組める実用的な支援策の一つです。

参考リンク

中小企業庁|早期経営改善計画策定支援
認定支援機関検索システム(中小企業庁)
ローカルベンチマーク|経済産業省

参考文献

中小企業庁|早期経営改善計画策定支援
TKC出版『ポストコロナ持続的発展計画のつくり方-国の支援策を活用して経営改善計画を作成しよう!-』

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

  • Xでシェア
  • facebookでシェア
税理士事務所を探す