「日本一挑戦するベンチャー型町工場」を掲げ、産業用機械装置や設備等に用いられる金属部品の加工を手掛けるタシロは、20代の若手社員が中心となって同社の成長を牽引している。多くの若者を引き付け、定着している秘訣は何か。田城功揮社長に聞いた。
(写真)田城功揮社長
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夏の暑さがやわらぎ、過ごしやすい気候となった9月のある日。タシロの従業員約20名が工場の2階にある会議スペースに集まっていた。
この日行われていたのは全員が一堂に会しての全体ミーティング。自社の中長期的な目標や足元の業績、今後の課題や具体的な改善策を共有し、会社と個人の目標をつなげることを目的に、年3回程度開催しているイベントだ。
ミーティングのなかでも目玉となるプログラムが優秀社員の表彰である。同社では、全体ミーティングの際にもっとも感謝の気持ちが集まった社員をMVPとして毎回表彰している。投票基準は「特に感謝を伝えたい人」「成長が見られ、頑張っていると感じた人」の二つだ。
「それではMVP社員を発表します。今回、MVPに輝いたのは……製造課の○○さんです。おめでとうございます」
田城功揮社長から指名された社員が、恥ずかしげな表情を見せながら前方へと歩み出る。拍手が湧き起こるなか、田城社長より報奨金が授与された。続けて、「MVPに選ばれてとてもうれしいです。これからも全員で一丸となって働けるよう、周囲に目を配りながら仕事に励みます」とMVPを受賞した従業員がスピーチし、全体ミーティングは幕を閉じた。
MVP表彰式は年3回の全体ミーティング内で開催される
1."美点凝視"を習慣化する
田城社長がMVP表彰制度を創設した狙いは何か。それは、ともに働く仲間の良い点を意識的に発見する"美点凝視"の習慣化にあるという。
「普段一緒に働いている仲間の良いところを意識的に発見し、それを言葉にして伝えるところにこの制度の狙いがあります。一度ネガティブな面が目に留まると、その印象を拭えないまま日々顔を合わせることになり、結果として人間関係の悪化につながる可能性があります。小さい組織であればあるほど、人間関係の悪化が離職率の上昇に直結します。このような事態を招かないためにも、同僚や上司・部下の良い点を発見し、言語化し、それを全員の前で称える仕組みを設けました」
投票用紙にはMVPにふさわしい社員とその理由を記入する欄を設けている。同僚からどのように評価されているかを把握できるよう、記入済みの投票用紙は表彰式後に全員にフィードバックしているという。
「票は1人につき2名まで投じることができます。私は社長として全社員の頑張りを見る立場なので、全社員に1票ずつ投票しています。最も多くの票を獲得した社員がMVPとして表彰されます」(田城社長)
このように、同社では個人の目標や評価を言葉にして伝える習慣が定着している。例えば、年3回の社長面談では独自の「スキルシート」を活用しながら、従業員がすでに習得しているスキル、今後の目標や課題などについて、社員自身の認識と上司や経営側の認識とのギャップを確認し、互いの認識をすり合わせることを大切にしていると田城社長は言う。
「『何ができるのか』『次に何を身につけるべきなのか』をスキルシートにもとづいて社員と対話しています。面談で意識しているのは、評価している点と頑張ってもらいたい点をセットで伝えること。時には社員の自己評価と会社の評価が一致しない場合もありますが、その際には『なぜこの評価に至ったのか』をお互いに話し合うことで認識のギャップを埋めています」
2.成長を実感できる職場づくり
創業は1966年。田城社長の祖父である俊雄氏が手がけていた自動車部品の製造業が同社のルーツだ。現在は産業用機械・装置、設備に用いられる金属部品の製造を主力事業としており、レーザー加工から曲げ、溶接、研磨までを社内で対応する一貫生産体制、受注から最短で24時間以内に納品する短納期を強みとしている。
田城社長が人材紹介会社、国際協力関係のNGOを経てタシロに入社したのは2019年のこと。当時取締役として同社の経営を担うなかで、ある課題意識を覚えたと田城社長は言う。
「人材採用に苦慮していたのです。そこで、会社の方向性を示すビジョン・ミッション・バリューの策定、社員主導による製品開発事業の立ち上げ、人事評価制度や福利厚生制度の導入など、働く人にとって魅力的な職場づくりに取り組みました」
完全週休2日制への移行、給与体系の見直し、メンター制度の導入や従業員教育プログラムの充実など、田城社長は社内の"改革"を進めるとともに、ホームページやSNS、プレスリリース等を通じて、これらの取り組みを積極的に発信した。
特に、自社製品の開発事業は多くの若者を引き付けた。20年に自社製品を初めて製作・販売したのを皮切りに、これまでに20種類以上の商品を開発。なかでもピザ窯・燻製器・たき火台の三つの用途で使用できる「3WAYピザ窯」は、パーソナルギフトと生活雑貨の国際見本市「東京インターナショナル・ギフト・ショー」の「LIFE&DESIGNアワード」で大賞を受賞した。自社でのPRやメディアでの紹介等を通じて、こうした取り組みが広く知られるようになると、主に工学・デザイン系の学部出身の若者が同社の採用選考にエントリーするようになった。
「製品の企画・製造に興味のある若者を中心に応募が相次ぐようになりました。22年以降、20代の社員を毎年採用しており、現在の平均年齢は28歳と同業者と比べて若いです」と田城社長。こうした若手社員の活躍が同社の成長を支える原動力となっている。
20代の若手社員が会社の成長を牽引している
「人材定着というと社員の待遇向上に目が行きがちですが、私は『自己の成長につながる』『自分が誰かの役に立っていると実感できる』職場が、社員の定着に結び付くのではないかと考えています」(田城社長)
同社が若手人材の積極採用と定着を実現した背景には、従業員にとって魅力的な職場づくりを、就業規則や福利厚生制度といった「ハード」と、MVP表彰や社長面談などの「ソフト」両面からの取り組みがあった。
(本誌・中井修平)
| 名称 | 株式会社タシロ |
|---|---|
| 業種 | 金属加工業 |
| 創業 | 1966年4月 |
| 所在地 | 神奈川県平塚市入野284-1 |
| 売上高 | 約2億5,000万円 |
| 従業員数 | 約20名 |
| URL | https://tasiro.co.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年10月号
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