笹本敬介専務(左)と有泉真顧問税理士
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「小さいからこそできるホンモノづくり」をコンセプトに、宝石・貴金属製品の一大産地である山梨県でジュエリー事業を展開するコダマ。同社がクラウドファンディングを実践したきっかけは、コロナ禍による経営危機だった。
2020年3月。新型コロナ感染症の蔓延による1回目の緊急事態宣言が発令された際、ジュエリーの催事販売が主力事業であるコダマの笹本敬介専務は途方に暮れた。
「先行き4カ月の間に予定されていた50以上もの催事がすべてキャンセルされたのです。当然、その間の売り上げはほぼゼロ。当時の固定費は月約600万円だったので、その時点で少なくとも2,000万円以上の損失が見込まれました」
1.目標金額を1週間でクリア
山梨県の多くの宝石業者は製造を外注しているが、コダマは自社で職人を抱えていることもあり、売り上げが上がらなければ固定費だけがかさばっていくばかりである。そのため、コロナ融資や雇用調整助成金を活用しながらも、「なんとか売り上げをつくらなければ」と考えた笹本専務。外出が制限されるなか“巣ごもり需要”狙いしかないが、テレビショッピングやネット販売はすぐには難しい。そんな時、コネや特別な準備がなくともチャレンジできるクラウドファンディング(CF)がふと頭に浮かんだ。笹本専務が続ける。
「とにかく挑戦してみようとゴールデンウィーク明けにチームで準備をはじめました。取引先の金庫で眠っていた宝石(サファイア)の提案を受け、デザインを新たに考え、非常事態だけにコストを抑えたかったので、自宅の庭で妻にモデルになってもらって商品撮影をしました」
当時、ジュエリー業界からのCF参戦は珍しく、また値段の張るジュエリーは「対面販売」が常識と思い込んでいただけに、当初、笹本専務は半信半疑だった。にもかかわらず、ふたを開けてみて驚いた。7月にCFプラットフォーム「マクアケ」に出品すると、1週間で165名の支援を受け、トータル227万円の支援を得たのだ。「衝撃的だった」と笹本専務は表現する。
成功の要因は何だったのか。
「ジュエリー販売の基本は“信用”です。サイト上では商品の詳細を噓偽りなく情報開示し、文章の組み立ても含め、当社の根幹が真面目なものづくりであること、そして日本でも指折りの職人が想いを持って一つ一つ丁寧につくっていることを伝えようとしました」
キャッチフレーズは“山梨のジュエリー職人の想いと技術で創られたあなただけのカラーのネックレスを!”。ジュエリーの研磨・加工・流通のそろった一大産地・山梨のすばらしさを訴え、製造技術を後世に残したいとの想いも込めた。
創業以来、コダマが手掛けてきたのはヘビーユーザー向けのいわゆる「ハイジュエリー」が中心。しかし、高額製品をネットだけの情報でご支援いただくのは難しい。そのため、初めてジュエリーを身に着けるようなマス・ターゲットに訴えかける2〜3万円前後で日常使いのシンプルな製品をそろえた。
1回目の大成功を受けて、間髪入れず2回目のプロジェクトの構想に入ったチームコダマ。10月半ばのスタートで11月下旬終了、12月にリターンを送付するようスケジューリングし、12月の誕生石のタンザナイトをテーマにした。結果、30万円の目標金額に対して134名のユーザーから306万円超の支援金が集まった。
その後も、オパールやベリルなどの製品をテーマにし、22年の秋までに計6回プロジェクトを実施。合計で1,000万円超の支援を得た。繰り返し購入してくれるユーザーも少なくなかったという。
このようにして、コロナ禍による危機を、CFという新たな販売手法にチャレンジすることで、売り上げの確保のみならず社内のモチベーションを保つことに成功したのである。

ベテランの職人たちが一つ一つ丁寧に仕上げる
2.「ものづくりを止めない」
顧問税理士の有泉真氏は言う。
「コロナ禍の際には、コロナ融資や助成金に頼って何もしない会社が多かったように思います。そうしたなか、コダマさんは後ろに下がるのではなくあえて前に出た。CFもそうだし、nokimという新ブランドの立上げに動いたのもコロナ禍の最中でした。実際、CFは大成功だったし、ノキムもじわじわと人気が出てきている。市場環境は厳しいですが、“この会社は大丈夫”と確信しています」
そもそもコダマは、K-dionやLas.selといった50〜200万円前後を中心価格帯とするヘビーユーザー向け高価格ブランドを催事メインで販売するBtoBtoCのビジネスモデルを展開していた。しかし、ジュエリーマーケットの縮小にともなう構造不況によって高価格帯の製品が伸び悩むのを見たチームコダマは、価格帯が3~30万円のノキムというユーザーに直接販売するBtoCのブランドを企画・開発したのである。
「ものづくりを止めたらメーカーとして当社の存在意義はなくなると考えていました。苦しくても前に進むことが重要だと。新しいものを作り続け、得意先やエンドユーザーに喜んで頂ける製品を提案することをずっと続けています。これは、優秀な職人たちを社内に抱えているからこそチャレンジできることです」と笹本専務。
コロナ禍で製造を止めた多くのメーカーは、いざ再開しようとしても、材料費が大幅に上昇するなど市場環境が悪化しており、うまくスタートダッシュが切れない状況が続いている。一方、コダマはもがきつつも、ものづくりを続けたおかげで、立ち直りも早かったと考えている。
ここ数年の業績は好調で、今年度の売上高は昨年度比で10%超上回り3億円に達する見込み。コロナ禍をCFや新ブランドの展開など積極施策でしのいだ経験値が、コダマの成長の原動力となっているのかもしれない。
(取材協力・有泉会計事務所/本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社コダマ |
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業種 | 宝石・貴金属製造・卸 |
創業 | 1986年10月 |
所在地 | 山梨県甲府市住吉5丁目4-3 |
売上高 | 2億7,000万円(2025年3月期) |
従業員数 | 11名(内役員3名) |
URL | https://kodama-collection.jp |
顧問税理士 |
有泉会計事務所
所長 有泉 真 山梨県甲府市相生1丁目2-1 URL: https://www.ari-tax.net |
掲載:『戦略経営者』2025年9月号
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