2025年05月26日

社内不正を防止する仕組みづくりのポイントとは?

社内不正を防止する仕組みづくりのポイントとは?

💡この記事のポイント
 ☑社内の管理体制の現状を把握する。
 ☑社内不正の実態と特徴を理解する。
 ☑どのような会社で不正が起きやすいのかを把握する。
 ☑不正の未然防止・早期発見のための仕組みづくりのポイントを確認する。
 ☑ケース別の対応策を確認する。

1.社内不正を未然防止・早期発見する仕組みづくりは不可欠な経営課題

 近年、物価高騰、人材不足等の影響もあり、中小企業にとっては厳しい経営状況が続いています。こうしたなか、適正な利益を確保するためには、経費削減等への取り組みが一層、重要になっています。そして、その一環として、社内不正を未然防止・早期発見する仕組みづくりは、不可欠な経営課題の1つといえます。

問題点の発見

2.まずは社内の管理体制の現状を確認・把握することからはじめよう!

 現時点で自社が、どれぐらい社内不正が起きにくい仕組みになっているのか、どのようなことが足りないのか等を、的確に把握することが大切です。具体的には、下記に上げた項目について、「できているか・できていないか」をチェックしてみましょう。

取引の処理は、必ず2人以上の手を経て完結するようにする。
初期チェック、定期・臨時チェックを徹底している。
回数券や商品券などの換金性の高い社内物品については、その購入と管理を 同じ部署、または同じ担当者に任せず、それぞれの役割を分担している。
営業所や支店で預金口座を開設している場合、銀行からの「残高証明書」は コピーではなく原本を直接入手し、確認している。
交際費・交通費の支出は必ず事前に申請させている。また、交際費・交通費 の仮払いの精算は短期間で行わせている。
売掛金の回収は、現金で直接回収するのではなく、銀行振込で行っている。 また、領収証は、あらかじめ連番を打って管理している。
現金商売を行っている場合、1人の従業員にレジ締めを任せるのではなく、2人以上で行っている。
適正な棚卸しを毎月行い、数量不足等があれば、その原因を徹底究明している。また、倉庫管理者が1人で商品を扱わないような工夫をしている。
多店舗展開している場合、各店舗を定期的に訪問し、実際にアルバイトやパートの人数などを確認している。

 上記にあげたものは一例です。しかし、1つでも該当していない場合、社内不正が起きやすい体制になっている可能性があります。きちんと対応策を講じて、不正が起きにくい仕組みを構築し、経営者と従業員がお互いに信頼し合える職場をつくりあげることが大切です。

3.社内不正の実態と特徴を確認しよう!

 社内不正の多くは、従業員による会社財産の横領・着服によって行われることが多いです。主に次の3つのパターンがあげられます。

(1) 従業員が単独で行う不正

 1人の従業員が極秘裏に会社のチェックをかいくぐって行うもので、一般的に大きな金額にはなりにくい不正です。しかし、従業員による不正で最も多いのがこのパターンなので、注意が必要です。

(2) 従業員同士の共謀による不正

 複数の従業員が共謀して行う不正は、単独の不正に比べて大規模・複雑になってきます。たとえば、出納担当者と承認者が共謀すれば、出納事務手続きがフリーパスになり、不正が発見しにくくなります。

(3) 従業員と会社外部の者との共謀による不正

 従業員が取引先など会社外部の者と共謀して不正を行うケースは、最も不正を発見しにくいパターンだといえます。たとえば、ある従業員が取引先と共謀して、取引先から受け取る請求書を偽造させて不正をはたらいた場合、会社内部の資料からではチェックが及ばず、不正発見は非常に難しくなります。

横領のイメージ

4.注意が必要な従業員のタイプとは?

 従業員のなかで、以下のようなタイプは、不正発生の可能性を示す危険信号といえます。すべてがそうであるとは限りませんが、こうした人物に注意することは、不正の未然防止・早期発見につながります。

①本人または家族が身分不相応で贅沢な生活をしているという風評を持つ人。
②頻繁に高級な飲食店に出入りし、身分不相応な遊興をするという風評を持つ人。
③異性関係が派手であるという風評を持つ人。
④悪評のある人物と交友関係があるという風評を持つ人。
⑤サラ金・手形割引商といったところに出入りしているという風評を持つ人。
⑥ギャンブル、株式・商品相場等に熱中しているという風評を持つ人。
⑦土地家屋の購入や保証債務の弁済などのため、金銭的に困っているという風評を持つ人。
⑧多額の蓄財・散財があるが、その資金の出所に現実性がないという風評を持つ人。
⑨勤務中の外出、休日出勤が頻繁にある人。
⑩勤勉性、快活性、明朗性に欠け、日常の勤務態度に異常な変化がみられる人。等

 また、実際に不正が起きると、社内にも以下のような兆候が現れてきます。

①従業員の入れ替わりが早くなる。
②従業員のモラルが低下してくる。
③修正仕訳を裏付ける書類がすぐに用意することができない。
④銀行勘定調整表が迅速に完成できない。
⑤顧客等からのクレームが増えてくる。
⑥業界全体の景気や、会社全体の業績は伸びているのに、利益は悪化傾向にある。
⑦原因を確かめずに棚卸資産の減耗を処理する。
⑧監査上の問題点が多数ある。
⑨サプライヤーに対する支払い裏付けのために請求書の複製を用いる。
⑩単独の業者から調達している。

5.どんな会社で不正が起きやすいのか?

 不正が起きやすい会社にはいくつかの問題点があります。確認していきましょう。

(1) 職務が1人の従業員に集中している会社

 多くの中小企業は、従業員数が少ないため、日常業務を細かく分けて複数の従業員に分担させることができません。つまり、1人の従業員がまとまった複数の職務を任されているのが現状です。結果、その職務についての一切の権限を持つようになります。
 また、長年勤務している従業員に対しては、経営者も過度の信頼を寄せ、職務を任せきりにする傾向が強くなります。
 こうした会社では、日常業務に経営者のチェックが入りにくく、不正が行われる可能性が高くなります。また、不正が行われていても発見されないことがあります。

(2) 経営者自身が金銭的にルーズではありませんか?

 中小企業では、経営者が会社のオーナーであることが多く、その場合、経営者は会社財産を自由に使うことができる立場にあります。しかし、このような公私混同は、会社全体に金銭的にルーズな雰囲気を生み出し、従業員による不正が発生しやすい土壌をつくります。
 経営者は自らの襟を正し、従業員との信頼関係の構築に努めることが重要です。

横領のイメージ

(3) 不正を防止する仕組みが十分ではない会社

 中小企業では、大企業のような業務管理の仕組みを確立することは、物理的にも経済的にも困難で、経営者の不正に対する意識が欠如しがちです。そのため、不正を未然防止・早期発見する仕組みが十分に整えられていないケースが多く見られます。このような会社では、それだけ不正が発生する可能性が高くなります。
 経営者と従業員がお互いに信頼し合える職場とするためには、少なくとも管理を区別する仕組みを確立しておく必要があります。

(4) 会計事務所による月次巡回監査を受けていない会社

 中小企業では、外部の会計・税務の専門家の毎月のチェックが大変有効です。仮に、従業員に不正を行おうとする気持ちがあっても、「外部の専門家により発見されるのではないか」という牽制機能がはたらきます。また、不正が小さいうちに発見されるという効果があることからも、毎月、専門家が会社を訪問し、監査を行う巡回監査は非常に大切です。

<月次決算とは?>
 月次決算とは、経営管理を目的とする毎月行われる決算です。具体的には、試算表、月次貸借対照表、月次損益計算書、その他必要な書類を作成します。
 月次決算を行うことにより把握された実数数値は、予算と比較され、予算管理に活用されます。また、月次決算の積み重ねが本決算となることから、期末決算の数値予測が可能となります。

会計事務所による巡回監査のイメージ

6.不正の未然防止・早期発見のための仕組みづくりのポイント

 不正を未然防止・早期発見するためには、一定の事務、業務を1人の従業員の絶対的支配下に置かないような仕組みをつくることが重要です。これは、2人以上の者が同時に同じ過ちを犯すことは、極めて稀であるという事実に基づいています。
 不正を起きにくくするために、最低限必要な経理の仕組みは以下のとおりです。

(1) 取引の処理は必ず2人以上の手を経て完結するようにする

 不正が発生する最大の原因は、1つの取引の処理を1人の従業員が完結して行うことにあります。そこで、取引の処理については、必ず2人以上の担当者を設け、1人だけで取引の処理が完結しない仕組みをつくることが大切になります。
 例えば、営業マンだけに売掛金台帳の記帳や値引の権限を与えない、預金出納簿記帳者だけに請求書・領収証の発行や銀行印の保管をさせないなどの決まりをつくることで、個人の判断のみで取引処理が完了するということがなくなり、担当者による不正を防止することができます。

相互チェックをする担当者

(2) 初期チェック、定期・臨時チェックを徹底する

 同一の業務の担当を、同一人が長期間行うことは、不正が行われる余地を残すことになりますが、中小企業では担当者を定期的に変えることが難しい現状にあります。そこで、以下のように初期チェック、定期・臨時チェックを徹底することが大切です。

・銀行取引や銀行口座の新設は必ず、上司の承認のもとで行う。
・得意先・仕入先と新たに取り引きするときは、担当者以外の者がチェックする。
・必ず相見積りをとる。等

 また、抜き打ちで以下に取り組むことも不正防止には有効です。

・現金実査、預金通帳実査を行う。
・帳簿の記帳状況をチェックする(記帳が遅れている、鉛筆書き、不明なメモ書き等は要注意)。
・倉庫を視察する。

7.ケース別の対応策を確認しよう!

(1) 回数券や商品券など換金しやすい社内物品に関する不正

 デジタル化が進む昨今ですが、それでも商品券、切手及び印紙など換金性の高い社内物品はまだまだ現場に残っていることと思います。その担当者が必要以上に購入し、金券ショップなどで換金するといった手口で、不正が行われます。
 主な対応策は下記のとおりです。

①購入担当者と管理担当者を分ける。
②「受払簿」を作成して管理する。
③ストック量の上限を決める。

(2) 預金の使い込みに関する不正

 チェックシステムが行き届かない営業所や支店が預金口座を開設している場合においては、その口座から使い込みが行われるケースがあるようです。実際、営業所の経理担当者が預金の使い込みを行い、営業所の帳簿残高と銀行の残高を合わせるために、銀行からの「残高証明書」を改ざんし、そのコピーを本店に送っていたため、使い込みがわからなかったという事例もあります。
 主な対応策は下記のとおりです。

①営業所ごとに預金口座を開設する必要があるかどうかを再検討する。
②銀行の「残高証明書」はコピーではなく原本を本社が直接入手する。
③預金通帳の抜き打ちチェックを行う。

(3) 請求の水増し・カラ出張等に関する不正

 個人的な飲食代を交際費としたり、請求の水増しやカラ出張により交通費を使い込むといった不正があります。
 交際費や交通費のような小口現金からの支出は金額が少額であり、件数も多いので、不正は防止しにくい面があります。交際費をまったく認めないなど、あまりにも厳しい決まりをつくると、取引先との関係に支障をきたす可能性もあります。
 下記のような対応策を組み合わせ、会社に合った仕組みを考えることが大切です。

①交際費・交通費の支出は必ず事前に申請させる。
②交際費の予算を役職別・個人別に設定する。
③交際費・交通費の仮払いの精算を短期間で行わせる。

交通費の清算

(4) 売掛金回収代金の着服に関する不正

 売掛金の回収担当者による不正は発見しにくいといわれています。
 例えば、売掛金の回収担当者がある取引先から、売掛金の回収代金を着服し、その穴埋めのために、他の得意先からの回収代金を充当していくという手口で使い込みが行われるケースが多く、仮に経理担当者が、「少し売掛金の回収が遅れているのかな」と思ったとしても、遅れはしても表面上は売掛金が回収されてくるので、不正が発見しにくいのです。
 主な対応策は下記のとおりです。

①現金による回収を避ける。
②領収証は連番を打って管理する。
③顧客に対して売掛金の「残高確認状」を発行して残高確認を行う。

(5) 売上金の使い込みに関する不正

 現金商売を行っている飲食店頭では、売上金の使い込みに注意が必要です。売上金を使い込む不正は、レジを通さない現金売上がある場合に多く行われます。
 主な対応策は下記のとおりです。

①伝票は連番で管理する。
②レジ締めは2人で行う。
③商品在庫を把握し、商品の出庫と売上金の整合性を確認する。

(6) “仕入れの水増し”に関する不正

 仕入業者と共謀して行う“仕入れの水増し”という不正があります。この手口は、例えば、仕入担当者が商品を10個仕入れるという納品書を仕入業者に作成してもらい、実際には9個しか納品されないようにします。そして、経理担当者には商品10個分の請求書が回り、10個分の仕入代金が仕入業者に支払われます。その後、仕入業者から1個分の代金の一部をリベートとして、仕入担当者が手に入れるというものです。
 主な対応策は下記のとおりです。

①経理担当者を含めた部外者が、抜き打ちで時々納品現場に立ち会う。
②売上高との対応を見ながら仕入量及び在庫量が適切かどうかの分析を行う。

実地棚卸のイメージ図

 中小企業の社内不正を排除するためには、まず社内不正の特徴、パターン等を理解し、適切な対応策を事前に講じておくことが非常に重要です。経営者と従業員がお互いに信頼し合えるような職場環境づくりを進めましょう。

(参考)

「社長が必ず知っておきたい!!Q&A不正が起きにくい経理の仕組みづくり」(TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。