国税庁はAI・データ分析を導入し、税務調査を効率化・高精度化しています。売上除外や外注費水増し等の不正パターンや業界平均との異常値を検出することで、法人税の実地調査1件あたりの追徴税額は直近10年での最高値となり、「簡易な接触」も前年比13%増と急増しました。事業者は誤認されないための対策として、申告内容等についての説明の補足を行うなど、どうしてその数字になったのかを第三者にわかりやすくしておく必要があります。
💡この記事のポイント
☑令和6事務年度(令和6年7月~令和7年6月)で簡易な接触の件数が急増
☑AI・データ分析の活用と調査官の知見により「調査必要性の高い法人」が抽出され実地調査されている
☑今後簡易な接触は増加する可能性がある
☑日頃から根拠のある正確な記帳を行い、変化に対して理由を説明できる状態を整えておくことが最大の防衛策となる
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- 1.法人税の税務調査件数がAIで増加
- 2.AIはどう使われているのか
- (1) AI・データ分析の具体的な活用場面
- (2) 追徴課税まで行われた事例
- 3.事業者への影響は
- (1) 不正と判断されないためのポイント
- (2) 簡易な接触がさらに増加する可能性あり
1.法人税・消費税額の税務調査の件数は増加
(1) 実地調査での追徴税額は直近10年で最高値に
国税庁が公表している「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年11月)によると、税務調査による法人税・消費税の追徴税額は令和4事務年度(令和4年7月~令和5年6月)以降、3,000億円超となっており、令和6事務年度(令和6年7月~令和7年6月)における法人税・消費税の追徴税額は3,407億円(直近10年での最高値)となりました。
○追徴税額(法人税・消費税)の推移
(2) 簡易な接触の件数は急増、実地調査は調査必要性の高い法人に
一方で、「簡易な接触」と「実地調査」※の件数については、簡易な接触が前年よりも13%(10,000件)増加し、実地調査は前年よりも8%(5,000件)減少しています。これについて国税庁は「令和6事務年度においては、AIも活用しながら、あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」としており、AI活用により、多くの法人を分析することが可能となった上、申告内容の異常性の高い法人を高精度に抽出していることが見て取れます。
〇簡易な接触の状況(法人税・消費税)
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
| 簡易な接触件数 | 75,000件 |
85,000件 (前年対比113.4%) |
| 申告漏れ所得金額 | 344億円 | 565億円 |
| 追徴税額 | 227億円 | 265億円 |
(注1) 令和6年7月から令和7年6月までの間に処理を終了した簡易な接触に係るものを集計しています。
(注2) 法人税・消費税の追徴税額には、加算税及び地方消費税(譲渡割額)を含むほか、源泉所得税の追徴税額には、加算税及び復興特別所得税を含みます。
(注3) 法人税・消費税の各項目は、本発表から調査課所管法人分を含むため、令和5事務年度については、昨年の報道発表資料の数値をかっこ書きで記載しています。
(注4) 法人税・消費税の申告漏れ所得金額、追徴税額は令和6事務年度から集計方法を変更したため、前年比較はできません。
〇実地調査の状況
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
| 実地調査件数 | 59,000件 |
54,000件 (前年対比92.6%) |
| 申告漏れ所得金額 | 9,741億円 |
8,198億円 (前年対比84.2%) |
| 追徴税額 | 3,197億円 |
3,407億円 (前年対比106.6%) |
| 調査1件当たりの追徴税額 | 5,497千円 |
6,342千円 (前年対比115.4%) |
(注1) 令和6年7月から令和7年6月までの間に処理を終了した実地調査に係るものを集計しています。
(注2) 追徴税額には加算税、地方法人税及び地方消費税(譲渡割額)を含みます。
(出所:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」)
※「簡易な接触」と「実地調査」の違いについては、「これでもう怖くない? 税務調査のキホン」をご参照ください。
2.AIはどう使われているのか
(1) AI・データ分析の具体的な活用場面
調査先の選定および最適な接触方法の予測にて、AI・データ分析が活用されています。
調査先の選定では、過去の申告内容や調査事績、資料等の情報のほか、民間情報機関や外国政府から入手される情報などを基にAIが加工・分析を行い、その結果と調査官の分析を組み合わせて、調査実施の要否を判断します。
また、最適な接触方法の予測では、滞納者の情報(規模・業種等)や過去の架電履歴などをAIが分析し、応答されやすい曜日や時間帯を予測します。この予測に基づいて調査官による電話催告が実施されています。
(2) 追徴課税まで行われた事例
以下は、公表されているAI・データ分析活用事例です。AIを活用した予測モデルにより調査必要度の高い法人を抽出し、実際に調査を行い追徴課税が行われたものとなっています。
| No. | モデルが想定した 不正パターン |
調査により把握した不正の手口 | 追徴税額 (法人税・消費税) |
| 事例1 | 売上 | 売上伝票を破棄することにより、破棄した分の現金売上げを除外 | 約7千万円 |
| 事例2 | 売上 | 売上代金を代表者の個人口座に入金させることにより、売上げを除外 | 約1億円 |
| 事例3 | 原価 | 偽りの請求書を作成し、金銭の貸付けを原価(外注費)に仮装して計上 | 約1億円 |
| 事例4 | 原価 | 不正加担者に単価を水増しした請求書を発行させ、原価(外注費)を過大に計上 | 約9千万円 |
| 事例5 | 経費 | 偽りの出勤表等を作成し、架空の経費(人件費)を計上 | 約1億5千万円 |
| 事例6 | 経費 | 関連会社に偽りの請求書を作成させ、資金援助として渡した金額を経費(支払手数料等)に仮装して計上 | 約1億3千万円 |
3.事業者への影響は
(1) 不正と判断されないためのポイント
AI・データ分析では、過去の申告情報などのその法人固有の情報に加え、業界平均などの資料と照合されます。不正と判断されやすいパターンには以下のようなものがあります。
不正と判断されやすいパターン
・売上の急減や経費の急増など、不自然な数値の変動がある
・同業他社と比べて原価率や経費率の比率が大きく離れている
・架空の外注費・人件費の計上や、売上除外などの典型的なパターンに該当する
注意したいのは、もし、故意によるものやうっかりミスがない場合でも、どうしてその数字になったのかが第三者にわからなければ、不正として判断される可能性があるということです。
したがって、不正と判断されないためには、「数字の根拠の明示」と「変化の理由を説明できる状態にしておくこと」が不可欠です。
【税務調査の回避・対策のポイント】
○ 請求書や領収書などの証憑資料を確実に保存する
○ 業績変化や大型支出があった場合は決算書に理由(注記)を明記する
○ 業務の取引実態が証明できるよう、発注書や納品書などの記録を残す
日頃から根拠のある正確な記帳を行い、変化に対して理由を説明できる状態を整えておくことが最大の防衛策となります。
(2) 簡易な接触がさらに増加する可能性あり
法人税・所得税・消費税・相続税など税目ごとに管理されてきた申告情報等が、新システム稼働によって紐づけされる体制になりました。また、AI・データ分析で複数の税金の申告情報も横断的に分析されることになります。このことから、例えば、法人税申告情報とその法人経営者の相続税申告情報を分析して法人から個人への資金移動を予測されることも考えられます。
こうしたAI・データ分析の精度向上により、簡易な接触の件数がさらに増加する可能性があります。万が一お尋ねの郵便物や電話があっても、落ち着いて速やかに対応しましょう。
参考文献
・国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要―報道発表資料―」(令和7年12月)
・国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」(令和5年6月23日)
記事提供
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