💡この記事のポイント
☑どんな法人でも税務調査対象法人になる可能性がある。
☑AI(人工知能)導入により追徴税額が過去最高に。
☑普段から「日々の適時・正確な記帳」と「適正な申告・納税」を徹底していれば税務調査は怖くない。
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- 1.税務調査の概要
- 2.税務調査の流れ
- 3.税務調査で重視される税目
- 4.税務調査への対策は
- (1) 日々の記帳を正しく行う
- (2) 月次決算を行い、税理士等による巡回監査を受ける
- (3) 税理士に「書面添付制度」の活用を依頼する
- 5.まとめ
1.税務調査の概要
多くの経営者にとって、税務調査はできれば避けたいものではないでしょうか。税務調査があると、その対応で時間が取られるだけでなく、万一申告内容に間違いが見つかり追加の納税が発生する可能性もあるからです。
しかし、日ごろから正しく会計処理を行い、申告・納税をしていれば、必要以上に恐れることはありません。本記事では、株式会社等の法人に対する税務調査について解説をします。
(1) 税務調査には強制調査と任意調査がある
税務調査には、大きく分けて「任意調査」と「強制調査」があります。強制調査は対象法人の許可を得ずに行う調査で、担当するのは税務署ではなく国税局査察部(マルサ)です。強制調査の対象となるのは悪質な脱税犯なので、本記事では割愛します。
一方「任意調査」は、大きく「実地調査」と「簡易な接触」に分かれています。
①実地調査…調査官が会社を訪れ、代表者等から事業内容のヒアリングを行った後、申告内容や帳簿、書類等の確認を行い、疑問点等について説明を求めます。また、必要に応じて棚卸資産の保管状況、工場の稼働状況の現場確認等を行います。調査終了時には、申告内容の誤り等があればその点について調査結果の説明を行います。
②簡易な接触…調査官が電話や書面で納税者に来署を依頼し、納税者が資料等を持参して税務署を訪問してもらう調査方法です。そこで申告漏れや計算の誤り等がある申告について、納税者に対して自発的な修正申告を促します。
(2) 「簡易な接触」の申告漏れ所得金額が過去最高に
国税庁が公表している「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和6年11月)によると、「実地調査」は令和4事務年度の62,000件に対し、令和5事務年度は59,000件と件数が減っています。ただし、申告漏れ所得金額や調査1件当たりの追徴税額は増加しており、追徴税額は直近10年で2番目です。
一方「簡易な接触」は、令和4事務年度66,000件に対し、令和5事務年度が70,000件と増加しています。申告漏れ所得金額や調査1件当たりの追徴税額も増加しており、特に「簡易な接触」における申告漏れ所得金額は過去最高となっています。
〇実地調査の状況
項目 | 令和4事務年度 | 令和5事務年度 |
実地調査件数 | 62,000件 | 59,000件(前年対比94.6%) |
申告漏れ所得金額 | 7,801億円 | 9,741億円(前年対比124.9%) |
追徴税額 | 3,225億円 | 3,197億円(前年対比99.1%) |
調査1件当たりの追徴税額 | 5,241千円 | 5,497千円(前年対比104.9%) |
(注2) 追徴税額には加算税、地方法人税及び地方消費税(譲渡割額)を含みます。
(注3) 調査1件当たりの追徴税額は、法人税・消費税の各実地調査1件当たりの追徴税額(本税及び加算税)を合計したものです(Ⅲ 参考計表 1 法人税・法人消費税等の調査事績 別表1「11 欄」及び別表3「6欄」の合計。)。
〇簡易な接触の状況
項目 | 令和4事務年度 | 令和5事務年度 |
簡易な接触件数 | 66,000件 | 70,000件(前年対比105.0%) |
申告漏れ所得金額 | 78億円 | 92億円(前年対比117.9%) |
追徴税額 | 71億円 | 92億円(前年対比129.9%) |
(注2)令和5事務年度の簡易な接触事績は、令和5年2月1日から令和6年1月31日までの間に事業年度が終了した法人を対象に令和5年7月から令和6年6月までの間に税務署等において実施した簡易な接触に係るものを集計しています。
【出典】国税庁『令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要|国税庁』
(3) 税務調査にAI(人工知能)が導入される

国税庁「令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和6年11月)によると、税務調査の対象選定にAIを活⽤するなど、効率的に調査を実施した結果、申告漏れ所得⾦額の総額および追徴税額の総額が過去最高を記録したことを公表しました。
AIの活用というのは、過去の申告書や調査データをAIが分析し、申告漏れのリスクが高いと判断された対象に調査を集中させるというものです。令和4事務年度から令和5事務年度にかけて実地調査件数が減少したにもかかわらず、申告漏れ所得金額が増加したのは、AI活用の効果が一因であると考えられています。
2.税務調査の流れ
税務調査(実地調査)の流れは下記の通りです。
調査対象法人選定 ⇒ 準備調査 ⇒ 調査予約 ⇒ 実地調査 ⇒ 調査のまとめ
【出典】『元国税調査官が明かす 深度ある税務調査の手法』(法令出版、2018年)(1) 調査対象法人選定
税務署では、さまざまな基準に基づき調査対象法人を選定しているので、「こうすれば調査対象にならない」という基準はありません。どんな法人でも対象になり得ます。ただし、一般的に次のような法人は対象になりやすいと考えられています。
・同族会社で社長の権力が強い(ワンマン社長)の法人
・売上が伸びているのに、申告所得が低調な法人
・利益調整に使われやすい勘定科目(固定資産除却損や貸倒損失等)が多額な法人
・過去の調査で不正計算等が確認された法人 等
(2) 準備調査
準備調査とは、あらかじめ調査項目を絞り、目星をつけることです。提出された直近3~5年間の申告書をもとに比較・検討します。例えば、売上金額の増減率、売上原価や販売費・一般管理費等の増減率を比較します。その結果、例えば売上が伸びているにもかかわらず仕入が減っているなど、不自然な数字がある場合には、特にその項目を確認するために税務調査の選定候補として挙がります。
(3) 調査予約

調査対象法人の選定先が決まったら、まず調査官が対象法人に電話連絡をします。顧問税理士がいる法人には、「税務代理権限証書」を税務署に提出している税理士に対しても、連絡が入ることになります。
その際の通知内容は下記の通りです。
■事前通知内容
①調査開始日時
②調査開始場所
③調査目的
④調査対象税目
⑤調査対象期間
⑥調査対象となる帳簿書類その他の物件等
税務署から必要な書類の準備を要請された場合は、税務署からの指示に従いましょう。一例として、下記の資料を準備するよう依頼されることがあります。
・3年分の決算書
・申告書
・総勘定元帳
・請求書
・領収書の控え
・証憑書綴り
・賃金台帳 など
事前に指示される会計資料以外にも、税務調査では、社員の日報、社長のメモ、タイムカード、社員名簿等、当日は訪問した調査官に社内にあるものは何でも見られる可能性があります。また、税務調査時に別資料を求められたら、滞りなく提示できるようにしておきましょう。
(4) 実地調査
実地調査では、まず調査官から身分証明書が提示されます。その後、あらかじめ準備しておいた会計資料等を見ながら調査が行われます。
一般的な実地調査の流れは、次の通りです。
①青色申告の要件である複式簿記にもとづく帳簿の確認。
※電子帳簿申請の場合は電子帳簿で内容を確認。
(修正している場合は履歴が残っているか、規定の検索要件を満たしていることなど要件を満たしたソフトウエアである必要がある)
②帳簿査閲後、帳簿と補助簿、各種証憑書類との突合せを行い、帳簿の記載内容に問題がないか確認される。調査官から指示された補助簿や証憑書類についてはすぐに示すことができるよう普段から準備しておく。
調査官は、書類の突合をするだけでなく、社長や経理担当者に対し、税務上の関連事項についてさまざまな質問をしたり、資料の提出を求めたりします。また、場合によっては工場や店舗などの現場に出向いて必要事項を確認したり、得意先・仕入先・外注先等に反面調査(取引先等の関係先に対して行われる調査のこと)を実施することもあります。
(5) 指摘事項への対応
企業規模により異なりますが、実地調査は約1~3日かかります。しかし、調査において不正行為が発見された場合は、多項目にわたり調査がおよび、さらに長期間となる場合もあります。
実地調査が終了すると、調査官から調査結果を通知されます。税法に照らして間違いが明確な場合、修正申告の対象となります。その場合、必ず顧問税理士に相談した上で、確かに修正が必要であるとされた事項については、速やかに修正申告を行うようにしましょう。
なお、顧問税理士に相談した結果、税法に照らして疑義がある旨を調査官に伝えても納得してもらえない場合は、意義申立てなどの権利救済手続きもあります。
3.税務調査で重視される税目
税務調査で特に重視される税目は、法人税・消費税・源泉所得税です。これらの税目は、申告漏れや誤りが生じやすいためです。
(1) 法人税
法人税は、企業の利益(益金)に課税される税です。税務調査では、損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)、売上・経費計上が適切といった点がチェックされます。また、交際費や減価償却費、役員報酬など、経費処理が正しい基準で処理されているかどうかも重点的にチェックされます。
(2) 消費税
消費税は、売上に対する消費税の課税と、仕入れに対する控除(仕入税額控除)の適正性が重点的にチェックされます。インボイス制度導入後は、適格請求書の保存状況も調査対象になります。
(3) 源泉所得税
源泉所得税は、給与や報酬、利子・配当などの支払時の源泉徴収が義務付けられている税です。従業員や外部委託者等への支払いに対し適切に源泉徴収し、納付しているかどうかをチェックされます。
4.税務調査への対策は
「対策」といっても、原則としてすべての法人が税務調査の対象となり得るので、絶対に調査を受けないための方法はありません。その上で、対策といえるものがあるとすれば、税務調査があっても、何も指摘されず調査が終わるためには何ができるのか、という視点となります。
下記のように、毎日適切な会計処理を行い、正しく申告・納税をしていれば、税務調査を恐れる必要はありません。
(1) 日々の記帳を正しく行う
日々の記帳を正しく行うことが大前提です。毎日の正しい記帳の積み重ねが、信頼性のある決算書・申告書の作成につながるからです。日々自社で正しい記帳と現金・預金の残高確認等を行い、証憑書類等もきちんと整理・保存されている経理体制を確立しておきましょう。
売上や費用にかかわる証憑書類は、時系列で整理・保存しておくことが大切です。加えて、契約書や見積書、作業記録等、取引先との取引や作業にかかわる原紙記録も、帳簿、決算書類とともに保存する義務があります。
(2) 月次決算を行い、税理士等による巡回監査を受ける

毎月、月次決算を行うようにしましょう。さらに、顧問会計事務所の月次巡回監査(税理士等が顧問先企業を毎月及び期末決算時に訪問し、会計事実の真実性、実在性、網羅性を確かめ、かつ指導すること)を受けることで、スムーズに正確な決算書を作成できます。また、消費税等の納税予測も立てやすくなります。
なお、税務調査では、自社がどれくらいの頻度で顧問税理士(会計事務所)とコンタクトをとっているのかについて聞かれることがあります。これは、税理士の関与度合いが、決算書・申告書の信頼性に関係してくるためです。
月次決算を行い、毎月の巡回監査を受けていれば、そうした質問にも安心して答えられます。「毎月、客観的な視点でチェックを受けていること=経営の透明性が担保されていること」の証にもなります。
(3) 税理士に「書面添付制度」の活用を依頼する
上記のように、会計事務所の指導のもと、日々適時に正確な記帳を行ったうえで、毎月その巡回監査を受けている場合、税理士法第33条の2に規定されている通称「書面添付制度」を活用できる可能性があります。
書面添付制度とは、顧問税理士が申告書の作成に関して計算・整理し、相談に応じた事項等について記載した書面を、その申告書に添付できる制度です。もし税務当局が申告書の内容について疑問が生じた場合、この添付書面に理由が書いてあれば疑問が解消するので、結果として税務調査の対象から除外される可能性が高くなります。
また、この書面が申告書に添付されていると、税務調査前に、顧問税理士に意見を述べる機会が与えられます(意見聴取制度)。税理士が意見を述べた結果、申告書の内容等についての疑問が解消すれば、実地調査の省略あるいは調査期間が短縮されることがあります。ちなみに、実地調査が省略された場合、税務署から税理士に対し「調査省略通知」という書面が発行されます。この書面によって、「そもそも税務調査の対象ではなかった」のではなく、「対象になったものの、申告書の信頼性が高いので調査の必要性がなくなった」ということが分かります。
なお、この添付書面を作成できるのは税理士だけです。会社が独自に作成し、申告書に添付することはできません。現在書面添付制度を活用していない場合は、顧問税理士に活用を相談してみるのも一つの手です。
TKC全国会のご紹介
5.まとめ
ほとんどの経営者が「税金を誤魔化すことなど考えたこともなく、税務調査はできれば受けないで済むほうがよい」と考えていると思います。日々適時に正確な記帳をし、月次決算を行うことが、税務調査における不安軽減だけでなく、自社の業績のタイムリーな把握にもつながります。
税務調査への対策は、そのまま自社の経営力を強化することにもつながるという意識を持ち、日々の経営を行いましょう。
【参考資料】
・『事務所通信』2017年(平成29年)3月号
・事務所通信デジタル版2025年(令和7年)8月号「備えあれば、憂いなし 「税務調査」も怖くない! 3つの「備え」」
・「経営者が知っておきたい 法人税税務調査の流れと対応のポイント」(TKC出版)
・「巡回監査担当者のための 法人税税務調査と巡回監査のポイント」(TKC出版)
・国税庁『令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要|国税庁』
・国税庁「法人税|国税庁」
・国税庁「No.6355 課税売上げと課税仕入れ|国税庁」
・国税庁「No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収|国税庁」
・『元国税調査官が明かす 深度ある税務調査の手法』(法令出版、2018年)

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