2026年01月05日

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「中小企業こそ備えたいBCP ―事業を止めないための基本と公的支援の活かし方―」

「中小企業こそ備えたいBCP ―事業を止めないための基本と公的支援の活かし方―」

💡この記事のポイント
 ☑BCPは非常時でも事業を止めないための経営維持の仕組みである
 ☑中小企業でもテンプレートや公的支援を使えば、無理なく策定できる
 ☑実行できる計画を作り、最低でも年1回の見直しで更新していくことが重要

1.予測不能な時代に求められる「備え」

 大地震や異常気象による災害、感染症のパンデミック…。これらの出来事は、もはやどこか遠い話ではなく、日常の経営に影響を与え得る現実的なリスクとなっています。
 こうしたリスクに対して、あらかじめ備えを持つ企業と、場当たり的に動く企業とでは、事業継続の可否に大きな差が生まれます。その“非常時でも事業を止めない仕組み”こそが、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)です。
 近年では、大企業や自治体の多くがBCPを策定済みであり、取引先企業に「BCPの有無」を確認する動きも広がっています。サプライチェーンの一角を担う中小企業にも、事業継続の姿勢が以前にも増して求められるようになっています。
 BCPは、単なる危機対策ではなく「会社を守る経営の仕組み」です。こうした備えがあることで、万一のトラブルが起きても取引や信用を守ることにつながります。

2.BCPとは何か ― 防災対策との違い

 「BCP」という言葉は聞いたことがあっても、「防災対策と何が違うのか」と疑問に感じる方も多いかもしれません。実はこの2つは目的が異なります。
防災対策の目的は、主に「人命の安全確保」と「被害の最小化」です。火災や地震が発生した際に、従業員をどう避難させるか、どの経路を使うか、どこに集合するかといった、命を守るための行動手順を定めたものです。
 一方、BCP(事業継続計画)は、その先を考えるための計画、つまり「人の安全を確保したうえで、事業をどう続けるか」「止まってしまった業務をどう再開するか」を定めるものです。どんなに安全に避難できても、会社の機能が長期間止まってしまえば、顧客対応や資金繰りに支障が生じ、最悪の場合は事業の存続自体が危ぶまれます。

 BCPでは、次のような視点から準備を行います。

・優先すべき中核業務は何かを明確にする
・復旧までの時間や、どの程度まで復旧させるかを決めておく
・必要な人・モノ・設備・データをどう確保するかを整理する
・緊急時に誰が指揮を執り、どこで連絡を取り合うかを決めておく

 このように、BCPは単なる“安全対策”ではなく、経営を維持するための仕組みづくりです。企業規模を問わず、経営者が主体となって「事業の生命線」をどう守るかを定めておく必要があります。また、BCPは「一度つくれば終わり」ではありません。社会情勢や取引環境の変化に応じ、見直すことが大切です。その意味では、BCPは継続的に取り組むべき経営活動の一部といえるでしょう。

3.国の指針と中小企業向け支援制度

 BCP(事業継続計画)は、大企業だけに必要な取り組みではありません。国としても、災害時に経済活動を止めないための仕組みづくりを重要政策に位置づけており、中小企業のBCP策定を後押しするための指針や制度が整えられています。

● 内閣府「事業継続ガイドライン」

 国が示す最も基本的な考え方が、内閣府(防災担当)がまとめた「事業継続ガイドライン」です。最新版(令和5年3月改訂)では、近年の感染症やサイバーリスク、テレワーク環境の脆弱性など、近年の新しいリスクにも対応した内容となっています。このガイドラインでは、BCPの作成にとどまらず、“運用・検証・改善”を繰り返すBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)の重要性が強調されています。
 経営者が基本的な考え方を理解しておくことで、災害や障害が発生しても「経営判断の軸」をもって対応できるようになります。

● 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」

 「BCP策定にどこから手をつければいいかわからない」という中小企業に向けて、中小企業庁は『中小企業BCP策定運用指針』を公表しています。
 この指針では、段階的な策定方法、各種書類のテンプレートといった実務的な情報が整理されています。記入しながら進められるひな型(Word形式)も公開されており、初めてでも取り組みやすくなっています。

● 「事業継続力強化計画(認定制度)」

 中小企業に注目されているのが、「事業継続力強化計画(略称:ジギョケイ)」という制度です。これは、BCPの考え方を簡易化した形で中小企業が計画を策定し、国(経済産業省・中小企業庁)の認定を受ける仕組みです。認定を受けると、次のようなメリットがあります。

・認定ロゴを活用した取引先への信頼アピール
・設備投資に必要な資金調達での金融支援(低利融資)
・防災・減災に関する設備投資税制優遇
・一部の補助金での加点措置
など

「本格的なBCPまでは難しい」という企業にとっても、取り組みの第一歩として活用しやすい制度です。

● 自治体・商工会・商工会議所による支援
 さらに、全国の商工会・商工会議所、自治体では、BCP策定や事業継続力強化計画の作成支援セミナーが頻繁に開催されています。また、認定支援機関(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)による個別サポートも受けられます。身近な自治体のWebサイトなどで確認してみましょう。

4.BCPの基本構成 ― 何を決めておけばいいのか

BCPを策定するイメージ

 BCPを立てるといっても、最初から完璧な計画を作る必要はありません。大切なのは、「自社が止まったとき、何を守るべきか」「どうすれば早く立ち直れるか」を考えることです。ここでは、BCPを構成する主な要素を5つに整理して紹介します。

① 重要業務を特定する

 まず最初に行うのは、「何を最優先で守るか」を決めることです。すべての業務を同時に再開することはできません。そのため、自社の事業の中で特に重要な業務を選び出す必要があります。たとえば、製造業なら「主要製品の生産ライン」、卸売業なら「受発注・在庫管理」、サービス業なら「顧客対応」や「システム運営」といったように、売上や顧客満足に直結する業務を中心に考えます。

② 復旧目標時間(RTO)・目標復旧レベル(RLO)を決める

 次に、その重要業務を「どれくらいの時間で再開したいか」を考えます。これをRTO(目標復旧時間、Recovery Time Objective)といいます。たとえば、受注システムは「24時間以内」、顧客対応は「3日以内」、製造ラインは「1週間以内」など、現実的な目標を設定します。復旧の優先順位が決まることで、限られた人員や資源をどこに集中させるかが明確になります。
 復旧までの時間とともに、重要業務をどの水準まで復旧させるかを考えておくことも重要です。こちらはRLO(目標復旧レベル、(Recovery Level Objective)とも呼ばれます。

③ 必要リソース(人・モノ・カネ・情報)の代替手段を考える

 災害や障害が起きたときに備え、業務継続に必要なリソースの代替手段を準備しておくことも重要です。こうした代替策は、BCPの“実効性”を高めるための鍵となります。

 【一例】
 人の代替:主要担当者が不在でも業務を回せるよう、複数人で仕事を共有する
 モノの代替:主要設備や仕入先が使えなくなった場合に備えて、別ルートを確保する
 情報の代替:データをクラウド上にバックアップしておく、在宅でもアクセスできる環境を整える

④ 緊急時の行動・指揮体制を明確にする

 BCPがあっても、実際の現場で誰も動けなければ意味がありません。緊急時に「誰が指揮を執るのか」「どのように連絡を取るのか」を明文化しておくことが大切です。特に中小企業では、経営者が現場対応に追われてしまうケースが多いため、「経営」と「現場」を分けた体制づくりが望まれます。日ごろから会社内でのコミュニケーションを重ねておくことも大事です。

 【一例】
 ・社長不在時の指揮代行者を決める
 ・主要メンバーの連絡先を常に最新化しておく
 ・通信が途絶した場合の代替連絡手段を準備する

⑤ 見直しと改善を繰り返す

BCPは作って終わりではなく、定期的に点検・更新することが重要です。正しく機能するのか、陳腐化していないか等、少なくとも年に1回は運用方法を確認しましょう。自社の事業や自社を取り巻く環境に大きな変化があった際にも見直しは必要です。
 こうした見直しと改善のサイクルを回すことで、計画が社内に根付き、「使えるBCP」になります。BCPは“分厚いマニュアル”である必要はありません。A4数枚でも、実際に動ける内容であれば十分です。「経営者の意思を形にする計画」として、シンプルにまとめましょう。

 【一例】
 ・緊急時の連絡訓練を行う(実際に連絡網を使ってみる)
 ・非常時を想定した訓練・演習を行う
 ・新入社員にBCPの内容を説明する
 ・新しい取引先・システムが増えたら内容を更新する

5.BCPを作ることで得られるメリット

 BCPというと、「万が一のための備え」「コストがかかるだけの対策」と思われがちです。しかし実際には、BCPを策定することで得られるメリットは非常に大きく、平時の経営改善や信頼向上にも直結します。ここでは、主な5つの効果を紹介します。

① 取引先からの信頼向上

 取引先を選ぶ際に「BCPを持っているか」を確認する企業も増えています。特に製造業や物流業では、供給網の一部が止まると全体に影響が及ぶため、「災害が起きても取引が続けられる企業」を選ぶ傾向が強まっています。自社のBCPを提示できれば、「この会社は万一のときも安心だ」という信頼を得られ、新規取引や入札の際にも有利になります。

② 金融機関からの評価が上がる

 BCPを策定している企業は、金融機関からの信用評価でもプラスに働きます。金融庁や中小企業庁も、BCPを「経営の安定性を示す指標」として重視しており、一部の金融機関では、BCPを策定している企業を対象に優遇融資金利引き下げ制度を設けています。
 また、災害発生時の資金繰り計画を事前に作っておけば、いざという時に金融機関とのコミュニケーションを円滑にできます。資金繰り計画では、売上が急減した場合に会社は何日持ちこたえることができるのか、非常時の体制での固定費や変動費の洗い出し、必要な運転資金、どこからどの程度融資を受ける必要があるのか、といった内容をまとめておきます。平時からこういった情報や資金需要などを整理しておけば、災害時に特例で発動される融資制度(災害貸付、セーフティネット保証制度4号等)を受ける際にも、スムーズに申請の準備を行うことができます。

③ 従業員の安心感と定着率の向上

 BCPを整えることで、従業員は「会社が自分たちの安全と雇用を守るために動いている」と実感できます。これは、緊急時の不安を軽減するだけでなく、日常のモチベーション向上にもつながります。特に中小企業では、従業員が「もし何かあったらこの会社はどうなるのだろう」と不安を感じがちです。経営者がBCPを整え、訓練や周知を行うことで、会社全体の一体感が生まれます。

④ 経営の「見える化」が進む

 BCP策定の過程では、自社の業務を一つひとつ洗い出し、「どの業務が重要で、どの資源に依存しているか」を整理します。この作業を通じて、これまで気づかなかった業務のムダやリスクの偏りが見えてくることがあります。結果として、在庫や人員配置の見直し、外部委託の最適化など、日常の経営改善にもつながるケースが多くあります。

⑤ 補助金・優遇制度を活用できる

 BCPをベースにした「事業継続力強化計画」の認定を受けると、設備投資に対する税制優遇や、一部の補助金での加点評価などを受けることができます。たとえば、ものづくり補助金では事業継続力強化計画に関する加点項目が設けられている公募もあります。このように、BCPは「守るためのコスト」ではなく、“経営強化のための投資”として位置づけることができます。

6.中小企業のよくある悩みと乗り越え方

中小企業のイメージ

 BCPの重要性は理解していても、実際に取り組もうとすると壁にぶつかる経営者は少なくありません。「どこから手をつけていいかわからない」「人手も時間もない」といった声は、多くの中小企業に共通しています。ここでは、そうした課題に対して、無理なく始められる実践的な考え方を紹介します。

① 何から始めればいいかわからない → “簡易版”から始める

 最初の一歩としておすすめなのが、中小企業庁が公開している簡易なBCPフォーマットを使う方法です。テンプレートに沿って、重要な業務、想定されるリスク、緊急時の連絡先、復旧までの手順などを整理するだけで、“最初のBCP”として十分な形になります。
 また、「事業継続力強化計画」も、BCPの考え方を簡易的に取り入れられる国の制度です。申請するかどうかは別として、その様式やチェック項目を参考にすることで、初めての企業でも抜け漏れなく概要をまとめることができます。

② 担当者がいない → 経営者が主導し、骨格だけ決める

 人手の足りない中小企業では、BCP担当者を専任で置くのは難しいのが現実です。そのため、経営者自身が中心となって“骨格だけ”を定めるのが現実的です。たとえば、優先的に守る事業は何か、指揮命令系統をどうするか、緊急連絡手段は何を使うかといった「最低限の判断」を経営者が示すだけでも、社員の行動は大きく変わります。その上で、実務的な部分は社員に分担すれば十分です。

③ 時間が取れない → “年1回の見直し”を目安に、必要時は随時更新する

 BCPは「作って終わり」ではなく、会社の状況に合わせて維持・更新していくことが重要です。しかし、中小企業が頻繁に見直しを行うのは現実的ではありません。
 中小企業庁の指針では、大きな事業変化がない場合でも「年1回の見直し」が望ましいとされています。決算時や経営計画の見直しのタイミングに合わせて、次のような点を確認しましょう。
 ・事業内容・優先業務に変化はないか
 ・主要取引先や供給網に変更はないか
 ・指揮命令系統・連絡網に更新が必要な項目はないか
 ・新たなリスク(災害・システム変更・ルール改定)が発生していないか
 また、従業員の連絡先などの安否確認に関わる情報は、変更があれば即時更新することが望まれます。
 このように、「年1回の見直し+必要に応じた随時更新」の仕組みをつくることで、多忙な中小企業でも無理なくBCPの実効性を保つことができます。

中小企業が取り組む際のポイント:完璧よりも、実行できる計画を

 BCPは、分厚いマニュアルをつくることが目的ではありません。本当に大切なのは、「有事に動けるかどうか」です。いきなり完璧な計画を作ろうとせず、まずは「簡単でも動ける計画」を持つこと、そして少しずつ内容を充実させていくことが、現実的で確実な方法です。

7.外部の専門家とともに進める“実効性のあるBCP”

 BCPは、災害や事故から会社を守る「危機対応の仕組み」であるだけでなく、平時の経営を安定させ、取引先や従業員からの信頼を高める“経営戦略”でもあります。しかし、実際に策定を進める際には、「数字面の整理」「資金計画」「書類づくり」など、専門的な判断が求められる場面も少なくありません。そのため、中小企業診断士・税理士・商工会議所・金融機関担当者など、外部の専門家の助言や支援を受けながら進めることが有効です。

● 経営を止めないための「数字の備え」

 BCPを実効性のあるものにするには、災害発生時の売上減少に備えた資金繰りや、固定費の見直し、資金調達のシミュレーションなど、財務面の検討が不可欠です。
 専門家の支援を受けることで、
 ・売上が止まった場合の持久力の把握
 ・資金繰りの見える化
 ・金融機関への相談タイミングの整理
 といった実効性のあるBCPをつくるうえでの判断材料が整い、緊急時の意思決定が大きく変わります。

● 事業継続力強化計画の専門サポートを活用する

 BCPの取り組みの一環として事業継続力強化計画に取り組む場合は、中小機構が提供する専門のサポート体制「ジギョケイ・ハンズオン支援」を活用できます。専門家の派遣など支援体制などが整っており、初めてでも無理なく進められる仕組みです。こうした支援を利用することで、BCP全体の精度や実行可能性を高めることができます。

● 信頼される会社をつくるために

 BCPに取り組む企業は、取引先・金融機関・従業員など、すべての関係者から「信頼できる会社」と評価されます。これは、災害対応に限らず、日々の経営判断にも良い影響を与えるものです。
 外部の専門家の助言を取り入れることで、現場で実際に使えるBCPへと磨き上げることができ、自社の信頼性と安定性を継続的に高めていくことができます。

参考リンク

内閣府│企業防災のページ(内閣府防災担当)
中小企業庁│中小企業BCP策定運用指針
中小機構│BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう
東京都産業労働局│BCP策定支援
J-Net21│ビジネスQ&A強い組織を作りたい

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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