2026年01月13日

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キャッシュ・フロー計算書からわかること

キャッシュ・フロー計算書からわかること

💡この記事のポイント
 ☑キャッシュ・フロー計算書は、ある一定期間のキャッシュの流入と流出を、営業活動・投資活動・財務活動の3つに区分してまとめた帳表。
 ☑健全な経営であれば、営業活動によるキャッシュ・フローはプラス、投資活動によるキャッシュ・フローはマイナスの数字となる。
 ☑キャッシュ・フロー計算書を読む際は、「利益は出ているか?」「運転資金は増加していないか?」「投資活動や財務活動は適正か?」に注視しながら3つのキャッシュ・フローのバランスの良しあし、原因の特定、対策の検討を行うことが大切。

1.はじめに

 現在の企業会計は、お金が動いたときではなく、取引の事実が発生したときに記帳する「発生主義」により計算されており、連続する企業の活動を暦で区切って、年度ごとの決算を行っています。このため、収益や費用の発生とお金の受取・支払いには期間的なズレが生じてしまいます。その結果、決算書に表される損益の動きと実際のお金の動きが直結しなくなり、
 「利益が出ているのになぜお金がないの?」
 「計算がどこか間違っているのでは?」
 「儲かったお金はどこにあるのだろう?」
 といった経営者の素朴な疑問が出てくることになります。

 例えば、売上の増加に伴い、売掛金や在庫が増えればお金はそこに流れてしまいます。借入金を返済すれば、外部にお金が出ていってしまいます。どのような利益が数字の上で出ていようと、経営者にとって安心して使えるのは、手元にある自分のお金(キャッシュ※)しかありません。そのため、会計上の「利益」ではなく、目の前に存在する「キャッシュ」に基づいて正しい経営判断を行うべきであるといえます。  ある一定期間のキャッシュの流れ、つまり、キャッシュの流入(収入)と流出(支出)とその量を、3種類の活動別にまとめた帳表を「キャッシュ・フロー計算書」といい、これを用いることで、貸借対照表や損益計算書では見えないお金の流れを容易に把握することができます。中小企業には法令上の作成義務はないものの、「中小企業の会計に関する指針」では、「経営者自らが会社の経営実態を正確に把握するとともに、金融機関や取引先からの信頼性の向上を図るため、キャッシュ・フロー計算書を作成することが望ましい」とされています。
 本記事では、この「キャッシュ・フロー計算書」から何がわかるのか、記載項目と活用方法を解説します。


 ※キャッシュとは、「現金及び現金同等物」をいいます。この「現金」とは、円、外貨、当座預金、普通預金、通知預金を、「現金同等物」とは小切手および期日3か月以内の定期預金・譲渡性預金、コマーシャルペーパー等をいいます。

2.資金繰り表とキャッシュ・フロー計算書の違い

 なお、キャッシュ・フロー計算書と混在しやすいものに「資金繰り表」があります。
 資金繰り表とは、売掛金の回収、買掛金の支払い、借入金の返済、手形の返済などの入出金について、過去から現在までの資金の流れを把握することで将来的に発生する資金を予測するものです。日単位、週単位、月単位などで作成し、手元の資金が不足しないように管理をすることができます。
 一方で、キャッシュ・フロー計算書は、短い期間ではなく1会計期間中に発生した資金の流れを表しており、どのような項目でどれくらいの入出金があったか、企業全体の資金増加・減少はどのくらいかを把握できます。
 すなわち、資金繰り表が未来の資金の流れを予測するものであるのに対し、キャッシュ・フロー計算書は過去に発生した資金の流れを見るためのものです。いずれも企業の資金の流れを見る重要なツールですが、キャッシュ・フロー計算書は企業の財務体質の把握や根本的な改善策の検討に適しているといえます。
 資金繰りについてはコラム「資金繰りを改善するには?-中小企業の資金繰りの基本」をご覧ください。

3.キャッシュ・フロー計算書の構造

 キャッシュ・フロー計算書は貸借対照表と損益計算書から作成し、1会計期間中のキャッシュ・フローを以下の3つに区分して表示します。

(1) 営業活動によるキャッシュ・フロー
(2) 投資活動によるキャッシュ・フロー
(3) 財務活動によるキャッシュ・フロー

キャッシュ・フロー計算書サンプル

 活動別に期首と期末で生じた差、つまり経営活動で生み出された(消費された)キャッシュを「売上債権の増減額」「棚卸資産の増減額」など項目ごとに表示し、活動別キャッシュ・フロー別の合計額をそれぞれまとめています
 なお、キャッシュ・フロー計算書が対象とする資金の範囲は「現金及び現金同等物」であり、貸借対照表の「現金及び預金」の数字を調整する必要があります。貸借対照表上の現金、当座預金、普通預金、定期預金の合計額から、資金に該当しない「預金」と預入期間が3か月を超える定期預金を控除し、有価証券のうち資金に該当するものを加算した金額が「現金及び現金同等物」の金額となります。

※上の「キャッシュ・フロー計算書サンプル」は1会計期間の数字をまとめたものですが、TKC会員事務所からは3会計期間の数字をまとめた「3期比較キャッシュ・フロー計算書」を提供しています。

4.3つの活動別キャッシュ・フロー

 3つに大別したキャッシュ・フローについて、その数字が何を表し、何がわかるかを、順に見ていきましょう。

(1) 営業活動によるキャッシュ・フロー

 1つ目は「営業活動によるキャッシュ・フロー」です。
 本業でどれだけの現金預金が生み出されているかが表示される、最も重要な項目です。健全な経営であればプラスになりますが、マイナスであれば、本来の営業活動で現金を生み出す能力がないことを示しています。営業キャッシュ・フローがマイナスの状態が長期間継続している場合は、経営そのものがうまくいっていない証拠であり、企業の存続すら危うい状況といえます。事業撤退を含め、抜本的な対策が必要となります。

 この「営業活動によるキャッシュ・フロー」の数字は、純利益をベースとして、以下の項目を加減算して算出しています。

・支出を伴わない費用の加算
・収入を伴わない収益の減算
・投資活動や財務活動に関連する損失の加算と利得の減算
・営業活動に関連して生ずる流動資産や流動負債の増減額の調整

 構成する項目は、営業損益計算の対象となった取引、投資活動および財務活動以外の取引の2つに大別できます。
 小計欄はおおむね営業損益計算の取引にかかるキャッシュ・フローの合計額を意味します。


<営業活動によるキャッシュ・フローの一例(3期比較)>

営業活動によるキャッシュ・フローの項目

(2) 投資活動によるキャッシュ・フロー

 2つ目は「投資活動によるキャッシュ・フロー」です。投資活動とは、固定資産や株式等の購入や売却をいい、ここでは有価証券、有形固定資産、投資有価証券、貸付金等の投資活動に係る勘定科目が表示されます。
 企業の将来のために、どのようなものにどれだけ資金を投下しているか、あるいは過去に行われた投資活動の変更を知ることができます。
 本業が順調な企業ほど積極的な設備投資や有価証券の購入で「投資活動によるキャッシュ・フロー」はマイナスになる傾向があります。逆に資金を確保するために固定資産や株式等を売却することによりプラスとなる場合があります。


<投資活動によるキャッシュ・フローの一例(3期比較)>

投資活動によるキャッシュ・フローの項目

(3) 財務活動によるキャッシュ・フロー

 3つ目は「財務活動によるキャッシュ・フロー」です。財務活動とは、金融機関等からの資金調達に関する活動で、ここには借入金、資本金といった財務活動に係る勘定科目が表示されます。
 本業が不調で資金繰りが苦しく、銀行借入で資金調達をした場合はプラスになります。本業が好調でキャッシュが豊富にあり、本業で稼いだキャッシュを返済にあてた場合はマイナスになります。


<財務活動によるキャッシュ・フローの一例(3期比較)>

財務活動によるキャッシュ・フローの項目

5.キャッシュ・フロー計算書からわかる経営の状態

 3つの活動別キャッシュ・フローのプラスとマイナスの組み合わせは下のように8つあります。多くの健全な企業の場合、②または④のパターンとなります。
 逆に、⑤、⑦、⑧のパターンは極めて不健全な経営の状態を示しており、倒産リスクの高い状況になっているといえます。

■キャッシュ・フロー計算書からわかる経営の状態 8つのパターン

キャッシュ・フロー計算書からわかる経営の状態 8つのパターン

①本業は好調な上、保有資産を売却して現金を増やし、借入金で現金を増やしている。
②本業で生み出した現金を、投資や借入金の返済に回している。
③本業で生み出した現金と保有資産を売却した現金で、借入金の返済を行っている。
④本業で生み出した現金と借入等で調達した現金を、投資活動に回している。
⑤本業で現金が生み出せないため、保有資産の売却や借入金でその不足を賄っている。
⑥本業で現金が生み出せないが、借入金で現金を作り、投資を行っている。
⑦本業で現金が生み出せないので、保有資産を売却し、借入の返済にあてている。
⑧本業で現金が生み出せないが、投資活動も行っており、借入金の返済も行っている。


 「TKCキャッシュ・フロー計算書」は3年間の表示ですが、これを5年間~10年間ほどを時系列で見ることにより、経営の大きな流れが見えてくるはずです。

6.キャッシュ・フローを改善するための具体的な着眼点

 「売上は順調に伸びているのに資金が減っている」という場合を想定しながら、キャッシュ・フローを改善するためのポイントを確認しましょう。

 キャッシュ・フロー計算書から資金の流れを把握して資金減少の原因を突き止め、その対策を検討します。このとき、次の3つの項目を点検することが重要になります。

(1) 利益は出ているか?
(2) 運転資金は増加していないか?
(3) 投資活動や財務活動は適正か?

(1) 利益は出ているか?

 何といっても、資金の最大の源泉は「利益」です。適正な利益が獲得されているかどうか損益計算書(変動損益計算書)を分析し、問題点を抽出します。
① 売上総利益率(限界利益率)は低下していないか。また、利益額は減少していないか?
  利益率が低下している場合、「売上単価のアップ」「原価率(変動費率)のダウン」「販売ミックスの改善」などを検討し、利益率のアップを目指します。
② 固定費が増加していないか?
  固定費が増加している場合、費用対効果の観点からの見直しが必要です。特に前年比や予算比あるいは純売上高の伸びを上回っている経費を中心に、その増加原因と削減方法を検討します。適正な利益を獲得するためには、経営計画を策定し、予算と実績を比較検討することが大切です。

(2) 運転資金は増加していないか?

 掛売が多い企業の場合、売掛金が回収されるまでの間の資金を一時的に負担していると考えることができます。同様に、一定の在庫を持たなければならない企業の場合、在庫商品が販売されるまでの間の資金は一時的に負担しているものといえるでしょう。このような「営業活動を遂行するために会社が一時的に負担しているお金」、いわゆる「運転資金」を把握することが大切です。
 運転資金は以下の算式で把握できます。

運転資金の計算方法

 売上が増加すると、それに伴い、売上債権や棚卸資産が増加します。また仕入れも増えるので仕入債務も増加しますが、売上債権や棚卸資産の増加のほうが仕入債務の増加より大きくなるため、必要な運転資金が増加します。
運転資金の増加が売上増による利益の増加を上回った場合は、資金繰りに悪影響を与えることになります。


売上増加にともなって生じている増加運転資金はないか

 売上が増加しても売上債権や棚卸資産が増えず、運転資金が増加しない対策を講じることが大切です。原因に応じて以下のような対策を行いましょう。

・回収サイトの長い得意先へサイト短縮の申し入れをする。
・支払条件の良い得意先への売上を増加させる。
・不良債権化した売掛金の貸倒れ処理をする。
・不良在庫や陳腐化した在庫、廃棄すべき在庫を処分する。
・支払いサイトが短くなった仕入先にサイトを長くするよう申し入れをする。
・不要不急な現金仕入を安易にしない。
・必要以上の在庫を持たないための計画的な仕入を行う。
・売れ筋商品を中心とした販売活動を行い、在庫を減らす。

(3) 投資活動や財務活動は適正か?

 企業は本来の営業活動以外に、将来の利益獲得のために設備投資を行ったり(投資活動)借入金の返済(財務活動)を行ったりしています。その際、本来の営業活動により獲得した資金の範囲内で設備投資や借入金返済を行うことが理想的ですが、そうでない場合には注意が必要です。

 キャッシュ・フロー計算書で確認する点は次のとおりです。

① 投資活動によるキャッシュ・フローの減少が営業活動によるキャッシュ・フローの範囲内に収まっているか。

 ・投資活動キャッシュ・フローの減少>営業活動キャッシュ・フローの増加 の場合
 新規の設備投資が将来の利益や資金の獲得にどう影響するかを事前に検討することが重要なポイントです。特に金融機関からの借入れにより設備投資を行う場合、借入金の元本返済額が、将来の営業活動によるキャッシュ・フローの範囲内に納まるかどうかを検討する経営計画を策定し、将来のキャッシュ・フローの計画を立てることが大切です。

投資活動キャッシュ・フローの減少額と営業活動キャッシュ・フローの増加額の確認

② 財務活動によるキャッシュ・フローの減少額が、(営業活動によるキャッシュ・フロー)-(投資活動によるキャッシュ・フロー)の範囲内に収まっているか。

 ・借入金返済額が多額であるため資金全体が減少している場合
 借入金の元本返済額が多額であるため、キャッシュ・フローに悪影響を及ぼしている場合は、金融機関の協力を得て借入金の返済額圧縮を検討します。
 借入金返済額圧縮が借入金の条件変更などを伴う場合は、経営改善計画書などを作成し、将来のキャッシュ・フローの計画を立てることが必要になります。

財務活動によるキャッシュ・フローの減少額の確認

7.おわりに

 本記事では、キャッシュ・フロー計算書を用いたキャッシュ・フロー改善のためのポイントを解説しました。
 実際に、会計事務所などの認定支援機関が策定を支援する中小企業の経営改善計画書ではキャッシュ・フローが重視されており、中小企業庁が公開している経営改善計画書のサンプルでは、損益計算書、貸借対照表と並んでキャッシュ・フロー計算書の作成が求められています。また、中小企業活性化協議会では、キャッシュ・フローの改善を重視して、再生計画の条件のひとつとして、計画期間終了時に有利子負債に対するキャッシュ・フローの比率が概ね10倍以下であることとしています(中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2)。
 売上や利益ばかりに翻弄されず、キャッシュ・フローという観点からも日々、経営課題を見直してはいかがでしょうか。


参考文献

・中小企業庁「中小企業の会計31問31答(平成19年4月指針改正対応版)」
・『Q&A「利益ベース」から「キャッシュベース」へ これならわかる!キャッシュ・フロー経営』(TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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