💡この記事のポイント
☑資金繰りとは資金の流れを管理し、必要に応じて資金を確保できるよう調整すること。
☑資金繰り表を作成して入出金を「見える化」し、将来の不足を早期に把握する。
☑売掛金回収や支払条件の見直し、在庫圧縮などで資金繰りを改善できる。
☑経常収支を黒字に保ち、返済や投資はその範囲で行うことが重要。
☑公的な支援制度や日本政策金融公庫のツールを活用すれば改善が進めやすい。
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- 1.なぜ資金繰りが経営に欠かせないのか
- 2.資金繰りの基本的な考え方
- 3.資金繰り表の作り方と活用法
- (1) 基本的なフォーマット
- (2) 公的機関が提供するひな形
- (3) 作成のポイント
- (4) 活用のメリット
- 4.資金繰りを改善する具体策
- (1) 売掛金回収の改善
- (2) 支払条件の調整
- (3) 在庫・仕入のコントロール
- (4) 借入金の見直し・活用
- (5) 利益体質の改善
- 5.金融機関が見る資金繰りのポイント
- 6.公的支援制度の活用法
- 7.資金繰りを経営戦略に生かす
1.なぜ資金繰りが経営に欠かせないのか
資金繰りとは、企業が資金の流れを管理し、必要な時に必要な資金を確保できるように調整することです。たとえ決算上は利益が出ていても、売掛金の回収が遅れたり、在庫や設備投資に資金が固定されたりすると、手元に使える現金が足りず、支払いに行き詰まることがあります。これが「黒字倒産」と呼ばれる状態です。
特に中小企業は、大企業と比べて内部留保が少なく、数か月資金が不足するだけでも経営に大きな影響が出ます。そのため、日ごろから資金繰りを日常的に管理し、資金の流れを把握しておくことは、会社の「健康診断」ともいえる重要な作業です。
また、資金繰りは金融機関との関係にも大きな影響を与えます。銀行は利益よりも「きちんと返済できるだけの現金があるかどうか」を重視しており、正しく資金繰りを行い、将来の見通しを計画的に説明できる企業は、「管理能力が高い」と評価され金融機関からの信頼を得やすくなります。金融機関が重視するのは、単なる利益ではなく、本業で稼いだ収入から経費を差し引いた「経常収支」です。経常収支が黒字であることが、返済や投資を行う前提になります。
本コラムでは、資金繰りの基本的な考え方、管理の手法、改善策、支援制度の使い方を解説し、経営者が実務で役立てられる知識を整理していきます。
2.資金繰りの基本的な考え方
資金繰りを理解する第一歩は、資金の「入口」と「出口」を整理することです。入口とは売上の回収や借入、補助金など会社に入ってくる資金を指し、出口は商品仕入代金や原材料費、人件費、税金、借入金の返済など支払う資金を意味します。経営者はこの両者のバランスを常に把握し、手元資金が途切れないように管理する必要があります。
ここで注意すべきなのは、利益と現金の流れは必ずしも一致しないという点です。会計上は売上が計上されても、実際の入金は数か月先になることが一般的です。一方、仕入や給与はすぐに支払う必要があり、入金と出金の「タイムラグ」が生じます。このズレが資金繰り悪化の大きな要因となります。売掛金の回収遅延や在庫の滞留が重なると、利益が出ていても資金不足に陥る、いわゆる黒字倒産につながります。
資金繰りを健全に保つための基本的な考え方は二つです。第一に、本業による収入と支出の差である「経常収支」を黒字にすること。第二に、借入金の返済や設備投資は、その経常収支の範囲内でまかなうことです。この二つを守ることが、長期的に安定した資金繰りの土台となります。
また、資金繰りは時間軸ごとに考えることも重要です。
・短期的な視点
今月・来月の支払いに対応できるか。給与や仕入代金、借入返済に十分な現金があるかを確認する。
・中期的な視点
数か月先に資金不足が生じないか。売上の季節変動や賞与、税金などの大きな支払予定を織り込み、余裕を持った計画を立てる。
・長期的な視点
数年単位で資金計画を考え、設備投資や借入金返済のスケジュールを見据えて資金調達のタイミングを戦略的に決める。
資金繰りは単なる経理作業ではなく、会社の成長戦略に直結するテーマです。短期的な安定を確保しつつ、中期・長期の視点で計画を立てることで、安心して新規投資や人材採用に踏み出すことができます。その意味で、資金繰りは「会社の経営体力を測るバロメーター」といえるでしょう。
3.資金繰り表の作り方と活用法
資金繰りを具体的に管理するうえで欠かせないのが「資金繰り表」です。資金繰り表とは、一定期間における現金収入と現金支出を一覧化し、収支の動きや資金残高を管理するためのツールです。これを作成することで、資金不足の兆候を事前に把握し、早めの対策を講じることができます。
(1) 基本的なフォーマット
資金繰り表の基本構成はシンプルで、次の要素から成り立ちます。
・期首残高:期首時点の現金・預金残高
・入金予定:売掛金回収、現金売上、借入金、補助金など
・出金予定:仕入代金、外注費、人件費、家賃、水道光熱費、借入返済、税金など
・期末残高:期首残高+入金-出金
これを月単位、さらに精度を高めるなら週単位で作成します。特に資金繰りに余裕のない中小企業では、週単位の管理が有効です。
▼資金繰り表フォーマットの一例…(日本政策金融公庫が提供するフォーマット)
(2) 公的機関が提供するひな形
日本政策金融公庫では、中小企業向けに資金繰り表のフォーマット(Excel形式)を公開しています。このフォーマットを利用すれば、ゼロから表を作る手間を省き、自社の実態に合わせて資金計画を立てることが可能です。
(3) 作成のポイント
まずは過去の実績を参考に、売上回収や支払のタイミングを洗い出します。取引先ごとに入金サイトが異なる場合は、回収予定日を具体的に記載しましょう。支出についても、給与や社会保険料、借入返済、税金などの固定的な出費を漏れなく書き出すことが重要です。
また、資金繰り表は「予定」で終わらせず、実際の入出金を記録して差異を確認することが大切です。予定と実績のズレを繰り返し検証することで、資金繰り予測の精度が上がり、経営判断に役立ちます。
(4) 活用のメリット
資金繰り表を作成するメリットは大きく3つあります。
①将来の不足を早期に把握できる
数か月先に資金ショートが起こる可能性を事前に見つけ、融資相談や支払条件の調整を早めに行える。
②経営判断に役立つ
新規投資や採用を行う際、資金繰りへの影響を具体的にシミュレーションできる。
③金融機関の信頼を得られる
銀行は利益よりも返済能力を重視するため、きちんとした資金繰り表を提示できる企業は「経営管理が行き届いている」と評価されやすい。
4.資金繰りを改善する具体策
資金繰り表を作成すると、将来の不足時期や資金の偏りが明確になります。では、実際に資金繰りを改善するにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、中小企業でも取り組みやすい具体策を整理します。
(1) 売掛金回収の改善
資金繰りを改善する第一歩は「入金を早める」ことです。売上が計上されても、入金が遅ければ資金は不足します。得意先ごとの回収条件を整理して、改善することが重要です。
▼回収サイトの短縮交渉
取引額の大きい主要取引先に対し、支払条件を「60日後→30日後」に短縮できないか交渉する。
▼分割入金の導入
大型案件の場合、納品後一括払いではなく、契約時や中間時点での一部入金を依頼する。
▼売掛金管理表の活用
得意先ごとに支払条件・売上規模・利益率を一覧化することで、改善ポイントが明確になります。特に回収サイトが長く資金負担の大きい取引先は重点的に見直す必要があります。
▼保証サービスの活用
売掛金を保証するサービス等を利用し、回収不能リスクを減らす。
(2) 支払条件の調整
入金を早めることとは逆に、出金を遅らせる工夫も有効です。
▼支払サイトの延長
仕入先や外注先と交渉し、支払期限を少しでも延長する。(※仕入先に不安を与える場合もあるので、慎重に行う必要があります)
▼分割払いの活用
大口設備投資などは一括払いではなくリースや分割を選択し、キャッシュの流出を平準化する。
▼税金・社会保険料の猶予制度
資金繰りが厳しい場合、税務署や年金事務所に納付の猶予を相談できる場合があります。
事業税などの地方税にも猶予制度があります。(※各自治体等により異なります)
(3) 在庫・仕入のコントロール
過剰な在庫は資金を固定化し、資金繰りを圧迫します。
▼適正在庫の維持
販売計画に基づいた在庫管理を徹底し、不要な在庫を減らす。
▼仕入条件の見直し
必要に応じて小口発注や効率的な仕入方法を導入する。
▼不良在庫の処分
過剰な在庫は資金を固定化し保管コストも増やすため、数年間塩漬け状態になっている在庫や陳腐化リスクのある商品は早期に処分することが重要です。
(4) 借入金の見直し・活用
金融機関からの借入も資金繰り改善の重要な手段です。借入の返済条件を見直す際にも、必ず経常収支とのバランスを意識する必要があります。経常収支を超える返済や投資は長期的に資金繰りを悪化させるからです。
▼返済条件の変更(リスケジュール)
返済が厳しい場合、金融機関に返済期間の延長や元金返済据置きを相談する。
▼短期融資の活用
賞与や季節要因で一時的に資金需要が増える場合、短期融資で対応する。
▼制度融資・保証制度の活用
中小企業庁が紹介する「資金繰りにお悩みの皆様へ」というパンフレットでは、信用保証付き融資や日本政策金融公庫の特別貸付など、公的制度が一覧化されています。これらを上手に活用すれば、民間融資よりも有利な条件で資金を確保できます。
(5) 利益体質の改善
資金繰りの根本改善には、以下のような地道な利益率の向上が欠かせません。
▼原価管理の徹底
仕入コストや外注費を精査し、粗利率を改善する。
▼販路拡大・新規顧客開拓
売上の安定性を高め、現金収入の見通しを明確にする。
▼固定費の削減
毎月発生する家賃や光熱費、通信費の見直しは効果的。
5.金融機関が見る資金繰りのポイント
資金繰りは企業内部だけの問題ではなく、金融機関との関係にも直結します。銀行は融資を判断する際、決算書上の利益よりも「返済に必要な現金を生み出せるか」を重視します。つまり、資金繰りの実態を把握し、返済可能性を示せるかどうかが信用力を左右します。 多くの金融機関が注目するポイントとして考えられるものには大きく3つあります。
① 営業キャッシュフロー
本業でどれだけ現金を稼いでいるか。利益が出ていても在庫や売掛金が膨らんでいると資金繰りは悪化します。
② 資金繰り表の整備状況
月次・週次の資金繰り表を作成し、将来の見通しを数値で示せる企業は「管理能力が高い」と評価されます。
③ 早期対応の姿勢
資金ショートが目前になってから相談するのではなく、不足の兆しが見えた段階で銀行に伝えることが信頼につながります。
中小企業庁が実施している「早期経営改善計画策定支援」は、こうした金融機関との信頼関係を築く上で有効です。専門家と共に資金繰り計画や経営改善計画を作成し、それを銀行に提示することで、金融機関側も安心して支援を継続できます。補助制度を活用すれば、計画策定にかかる費用の一部を負担してもらえるため、中小企業の利用メリットは大きいといえます。
金融機関との関係を良好に保つには、「資金繰りをしっかり管理し、必要な時に透明性のある資料を提示すること」が不可欠です。銀行にとって最も信頼できる経営者とは、問題が起こってから慌てる人ではなく、事前に準備し、冷静に対応できる人です。資金繰り表はその信頼を築くための最良のツールといえるでしょう。
6.公的支援制度の活用法
資金繰りに課題を抱える中小企業にとって、公的な支援制度を上手に活用することは大きな助けになります。金融機関からの融資や社内の改善努力だけでなく、国や自治体が提供する制度を組み合わせることで、より安定的な資金管理が可能になります。
経済産業省・中小企業庁が運営する情報サイト 「ミラサポPlus」には資金繰りに関する特設ページがあり、資金繰り改善に役立つチェックポイントや事例、専門家への相談窓口が紹介されています。単なる情報提供にとどまらず、課題に応じた解決方法を選びやすいように整理されている点が特徴です。
また、中小企業庁が公開している 「資金繰りにお悩みの皆様へ」パンフレットも実務に役立ちます。この資料には、日本政策金融公庫や信用保証協会を通じた制度融資、特別保証制度など、中小企業が利用できる具体的な資金繰り支援策が一覧化されています。各制度の対象者や利用条件、相談窓口がわかりやすく整理されているため、経営者が必要に応じてすぐに行動に移せる内容となっています。
さらに、資金繰り表や経営改善計画の作成を専門家と一緒に進められる 「早期経営改善計画策定支援」 (いわゆるバリューアップ支援事業)や、より本格的な再生支援を目的とした 「経営改善計画策定支援(405事業) 」 といった制度も用意されています。これらの制度では、専門家への報酬の一部を公的に補助してもらえるため、企業側の費用負担を抑えつつ、実効性の高い計画を策定することが可能です。
このように、公的支援制度は「資金を借りるための仕組み」にとどまらず、「資金繰りを改善し、経営体質を強化する仕組み」として活用できます。経営者が早めに情報を収集し、自社に合った制度を選択することが、資金繰り不安の解消と長期的な成長につながります。
7.資金繰りを経営戦略に生かす
資金繰りは単なる経理作業ではなく、企業の存続と成長を左右する重要な経営課題です。帳簿上は黒字でも現金不足に陥る「黒字倒産」があるように、日々の資金の流れを把握しなければ健全な経営は続きません。
本コラムで紹介したように、資金繰り表の作成・入出金の管理・改善策の実践を行えば、将来の資金不足を早期に察知し、適切な対応を取ることができます。さらに、金融機関に資金繰り計画を示すことで信頼関係を築き、融資交渉も有利に進められるでしょう。
加えて、公的な制度を積極的に活用すれば、専門家の支援を受けながら資金繰りの安定化を図ることも可能です。
資金繰りは「お金の管理」以上に、企業が未来に挑戦するための戦略的な基盤です。経営者は一人で抱え込まず、早めに情報収集と相談を進めることで、安心して次の成長ステージへ進むことができるはずです。
参考リンク
・ミラサポplus│資金繰りを安定させたい
・ミラサポplus│事例から学ぶ!「資金繰り」
・ミラサポplus│資金繰りにお悩みの皆様へ
・中小機構 J-Net21│経営ハンドブック 資金繰りを改善したい
・中小機構 J-Net21│ビジネスQ&A 資金繰りを改善したい
参考文献
・TKC出版「Q&A資金繰り改善に必要な視点」
記事提供
株式会社TKC出版 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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