2025年12月08日

経営者保証を外すには

経営者保証を外すには

💡この記事のポイント
 ☑金融機関は長年の慣行として融資の際に経営者個人の保証を求めてきた。
 ☑「経営者保証に関するガイドライン」の公表により、金融機関には、経営者保証なしの新規融資や、経営者保証を外せる可能性があるかどうかの検証が求められている。
 ☑経営者保証を必要としない借入れのためには「企業と経営者との関係の明確な区分・分離」「財務基盤の強化」「財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示」を満たす経営状態であることが重要。
 ☑保証を外すための詳しい条件は金融機関に確認し、納得するまで説明を求める。

1.はじめに

 中小企業融資の慣行とされてきた経営者保証ですが、その弊害が問題視されており、個人保証を求めない融資制度を目指した「経営者保証に関するガイドライン」(以下、経営者保証ガイドライン)が公表・運用されています。

 この経営者保証ガイドラインは、経営者保証を提供せずに融資を受ける際や保証債務の整理の際の「中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール」です。中小企業庁と金融庁の後押しで、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が事務局となり、策定・公表されました。法的な拘束力はありませんが、中小企業やその経営者、金融機関が自主的・自律的に運用すべき基準とされ、経済産業省等もその積極的な活用を促しています。

 これにより、経営者にとっては、経営者保証を提供せずに借入れを行うために具体的に何をすればよいのかがわかりやすくなり、金融機関にとっては、慣行ではなく一定の基準に従って経営者保証を取り扱う方針に舵を切ったといえます。
 経営者と金融機関が歩み寄ることによって、新規の借入れを経営者保証なしで契約することはもちろん、既存する経営者保証付きの借入れであっても、経営面・財務面の改善により経営者保証を外すことが可能です。
 本記事では、この経営者保証を外すための3つのポイントとして、経営者による具体的な対応策を解説します。
 経営者保証ガイドラインは、以下の全国銀行協会ウェブサイト内で閲覧可能です。
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/

2.なぜ金融機関は経営者保証を求めるのか

 中小企業が借入れをする際、経営者保証が求められる理由は、大企業に比べて財務基盤が充実していないことが大きいものの、それ以外にも「法人と経営者個人との関係が明確に区分されていない」「事業の状況や財務内容に関する情報が適時適切に金融機関に示されていない」など、中小企業に多く見られる以下のような特性があり、その経営実態が不透明なため、と考えられます。

(1) 企業と個人の一体性

 中小企業には、企業の費用と経営者の個人的な支出が混同されている場合や、経営者個人所有の資産が企業経営に使用されているなど、企業と経営者個人の関係が明確に区分されていないことが多くあります。そのような場合、金融機関は、企業と経営者個人を一体とみなして、経営者に個人保証を求めることになります。

(2) 企業の状況を適時適切に判断する情報が不足

 金融機関は、企業の事業状況や財務内容により、融資等の適否を判断していますが、中小企業の場合、これらの情報が適時適切に示されていないことが多く、金融機関の判断材料が不足していること、また、示された財務内容も「中小会計要領」などの会計ルールに準拠しておらず、信頼性に問題がある場合が多いことも、経営者保証が求められる一因となっています。

(3) 中小企業融資の慣行として定着してしまっている

 経営者・金融機関ともに、これまで当然のように経営者保証を提供・徴求してきました。中小企業が借り入れを行う際には、経営者保証を提供することが長年の融資慣行として定着してしまっていることも、一因と考えられます。

 なお、経営者保証ガイドラインの公表により、(3)の慣行としての定着は薄まり始めています。残る(1)と(2)が、金融機関が経営者保証を求める主な理由であり、経営者保証を外すために注目すべき点といえるでしょう。

3.経営者保証がもたらす弊害

 問題視されている経営者保証の弊害は3つあります。

(1) 「経営者による思い切った事業展開」を阻害する

 経営者が新しい事業にチャレンジしようとする場合や、事業を拡大しようとする場合に、失敗したときに経営者保証により「自分の財産」を失ってしまう可能性があることは、積極的なチャレンジを躊躇してしまうことになりかねません。

(2) 「経営者の再チャレンジ」を阻害する

 経営者保証を提供していることにより、経営が困難に陥った場合には、金銭的にも、精神的にも、経営者に相当な負担がかかることになります。また、法的な手続きを行うような場合には、相当な時間も必要となります。このことは、経営者が早期に再チャレンジをする妨げとなってしまいます。

(3) 「円滑な事業承継」を阻害する

 借入れの際の経営者保証について、現経営者は当たり前のように考えているかもしれませんが、後継者にとっては、その保証を引き継ぐことは大変な負担となります。特に、親族以外の従業員等に事業を承継するような場合には、経営者保証の存在が円滑な事業承継を妨げる要因になります。

 以上のような弊害は、材料費の高騰や設備故障などで判断を迫られる経営者を静かに襲います。新たな製品開発、従業員確保、賃上げといった、企業が前に進むための策を阻害することにもなるでしょう。
 当然のように求められてきた経営者保証ですが、「外せるならば外したい」とまず経営者が強い意志で向き合うことが大切です。

4.経営者保証を外すための3つのポイント

 ここでは、経営者保証を外すために経営者が取り組むべきことを解説していきます。

(1) 企業と経営者との関係の明確な区分・分離

 経営者保証に外すためのポイントの1つ目は、企業と経営者の「財布」を明確に分けることです。
 まずは次のチェックリストの項目を確認してみましょう。

【チェックリスト:企業と経営者との関係が明確に区分されていますか?】

企業と個人の明確な区分 チェック
① 企業の事業に利用している資産は、企業名義となっている Yes ・ No
② やむを得ず個人名義の資産を企業で利用している場合には適正な賃料を支払っている Yes ・ No
③ 経営者個人の遊興費等は経営者自身の財布で支払っている Yes ・ No
④ やむを得ず経営者個人の遊興費等を企業で支払った場合には、すぐに精算している Yes ・ No
⑤ 事業上の必要性が認められない企業から経営者個人への貸付けを行っていない Yes ・ No
⑥ 経営者が企業の現金・預金を自由に使うことができないよう、社内のチェック体制が整備されている Yes ・ No
⑦ 企業の重要な事項については、経営者だけの判断によらず、取締役会等で検討している Yes ・ No
⑧ 毎月、顧問税理士による監査を受け、財務情報及び企業の運営が適正であることが検証されている Yes ・ No

 一つでも「No」がある状態では、企業と経営者との関係が明確に区分されているとはいえません。まずは経営者が自律的に、企業と個人の資金を明確に区分していくことが求められます。なお、原因は経営者自身にあるケースがほとんどです。自身が創業した企業であったとしても、経営者自身が強い意志を持って、企業と個人の区分を意識しましょう。
 また、企業の事業に必要な「本社・工場・営業車等の資産」は企業所有とすることが望ましいものと考えられます。自宅が店舗を兼ねているなど、やむを得ない場合には、企業から経営者に適切な家賃を支払っていることが求められます。

■ 企業と経営者との関係が明確に区分されていない具体例とその対応策

具体例 対応策等
経営者個人の飲食代を企業の経費として計上している。 経営者個人の遊興費等を企業の経費として計上することは厳禁です。
事業と関係のない経営者個人のゴルフプレー費が企業のクレジット・カードで支払われ、立替金として計上されている。 たとえ立替金として計上されていても、精算されていなければ明確に区分されているとはいえません。経営者個人の遊興費等は経営者自身の財布から支払うようにしましょう。やむを得ず企業のクレジット・カードで支払った場合には、すぐに精算するようにしましょう。
営業車が経営者個人名義となっている。 営業車を企業所有とするようにしましょう。やむを得ない場合には使用料を支払いましょう。
店舗の敷地は経営者個人名義となっているが、地代は支払っていない。 敷地を企業の所有とすることが望ましいのですが、困難な場合は、賃貸借契約を締結し、適正な地代を支払うようにしましょう。
企業の資金を経営者が好き勝手に使い、社員は誰も資金使途を把握していない。 経営者が自由に企業の資金を使える状態では、企業と経営者の資金を明確に区分することが困難です。経営者であっても、企業の資金を持ち出すときには経理責任者の承認を得るようにするなど、牽制機能を働かせ、自律的な経営を行うことが重要です。

(2) 財務基盤の強化

 経営者保証に外すためのポイントの2つ目は、財務基盤の強化です。具体的には、「企業のみの資産や収益力で借入金の返済が可能」と金融機関が判断できる、以下のいずれかのような財務状況が期待されています。

①キャッシュ・フロー:〇 内部留保:〇
 ……業績が堅調で十分な利益(キャッシュ・フロー)を確保し、内部留保も十分である。

②キャッシュ・フロー:△ 内部留保:〇
 ……業績はやや不安定だが、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢である。

③キャッシュ・フロー:〇 内部留保:△
 ……内部留保は潤沢であるとはいえないものの、好業績が続いており、今後も借入れを順調に返済し得るだけの利益(キャッシュ・フロー)を確保する可能性が高い。

 返済可能と診断される具体的な数値基準については、個々の金融機関により異なることが予測されますが、常に財務状況および経営成績の改善に向けた努力を継続し、経営基盤を強化していく必要があります。そのためには、経営計画を策定し、事業の「磨き上げ」を行っていきましょう。また、策定した経営計画も金融機関と共有し、金融機関からのアドバイスも参考に、業績改善を行っていきましょう。

(3) 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示

 経営者保証に外すためのポイントの3つ目は、財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保です。
 自社の財務状況を正確に把握するためには、日々の正確な記帳に基づく月次決算が重要となります。
 まずは下記のチェックリストをもとに、日々の会計処理を振り返りましょう。

【チェックリスト:適時・正確な財務状況を把握できていますか?】

項目 正確な月々の会計処理 チェック
売上高 入金時ではなく、納品した時に売掛金として計上していますか? Yes ・ No
仕入高 代金支払い時ではなく、仕入れた時に買掛金として計上していますか? Yes ・ No
諸経費 代金支払い時ではなく、請求書により未払金として計上していますか? Yes ・ No
棚卸資産
(商品など)
毎月、棚卸しを実施し、洗い替えしていますか? Yes ・ No
減価償却費 年間の減価償却額の12分の1の金額を毎月計上していますか? Yes ・ No
賞与引当金 年間の賞与支給予定額の12分の1の金額を毎月賞与引当金として計上していますか? Yes ・ No

 「No」の項目は、計上を後回しにしたり、月単位の財務状況を把握できていなかったりするものです。「日々遅滞なく正しい記帳を行う社内体制」を築き、遅くとも翌月中には月次決算を行い、自社の状況を把握するようにしましょう。
 月次決算体制を築く際や毎月の月次決算前には、顧問税理士等にアドバイスしてもらうことが有効です。

 また、把握した財務状況は、社長自ら定期的に金融機関に説明することが重要です。月次決算体制ができたら、年1回の決算時だけではなく、定期的に試算表や資金繰り実績表により期中の状況を報告するようにしましょう。経営者自身が自社の状況を説明することで、金融機関との信頼関係はより強まるでしょう。
 なお、従来、これらの財務情報は決算書や試算表をコピーして提供されていましたが、最近では、FinTechサービスを活用し、電子データとして金融機関に提供することが一般的になってきました。適時正確な財務情報の提供のため、FinTechサービスを積極的に活用しましょう。

TKCモニタリング情報サービス | TKCモニタリング情報サービス | TKCグループ

財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示

【決算書の信頼性向上のために】
中小会計要領に準拠した決算書を作成しよう

 「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」には、経営者が自社の経営状況を把握し、金融機関等の利害関係者に適切に報告するために、中小企業が参照すべき会計処理方法が記載されており、ガイドラインでも、この中小会計要領に準拠して作成された決算書等は、信頼性が高いものとして推奨されています。

 日本税理士会連合会は、中小企業の決算書等について、中小会計要領の適用状況を確認するための書類として「『中小企業の会計に関する基本要領』の適用に関するチェックリスト」を公表しています。顧問税理士による中小会計要領への適用状況の検証結果を示す書類として、決算書とともに金融機関に提出するようにしましょう。

■『中小企業の会計に関する基本要領』の適用に関するチェックリスト

中小会計要領チェックリスト1枚目
中小会計要領チェックリスト2枚目

5.金融機関との対話が大切

 経営者保証ガイドラインは、債務者である中小企業やその経営者に対して「企業と経営者との関係の明確な区分・分離」「財務基盤の強化」「財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示」という”3つのポイント“を満たす経営状態を求める一方で、債権者の金融機関に対しても対応について言及しています。

(1) 経営者保証ガイドラインが金融機関に求めている対応とは

 経営者保証ガイドラインでは金融機関に対し、“3つのポイント” を将来にわたり満たすと見込まれ、経営の改善が図られている中小企業について、「経営者保証を求めない(解除する)可能性」や、「経営者保証に代わる融資手法※を活用する可能性」について検討することとされています。
※ 停止条件付保証契約(主たる債務者が特約条項【コベナンツ】に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約)または解除条件付保証契約(主たる債務者が特約条項【コベナンツ】を充足する場合は保証債務が効力を失う保証契約)、ABL(Asset Based Lending:企業が保有する在庫や売掛金等を担保とする融資手法)、金利の一定の上乗せ等があります。なお、特約条項【コベナンツ】には「試算表等の財務状況に関する書類の対象債権者への提出義務」などがあります。
 金融機関が、経営者保証を求めない可能性を検討する要件は、以下のとおりです。

①企業と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
②企業と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
③企業のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
④企業から適時適切に財務情報等が提供されている。
⑤経営者等から十分な物的担保の提供がある。

 なお、これらすべての要件が充足されていなければ、経営者保証を求めない可能性が検討されないということではありません。そして、⑤の要件は①〜④の要件を補完するもので、「経営者等が十分な物的担保を提供しなければ、経営者保証の提供が求められる」という趣旨ではなく、経営者による物的担保の提供を推奨するものでもないとされています。

(2) 保証解除の詳しい条件は金融機関に直接確認を

 経営者は、“3つのポイント” を充足させるよう経営努力を続けながら、借入れを行っている金融機関に対し、経営者保証がなぜ必要なのか、また、どのような改善を行えば、保証契約の解除の可能性が高まるのか等について金融機関に説明を求めるようにしましょう。

 経営者保証を求めない可能性等を検討したが、やむを得ず、経営者保証を求めざるを得ない結果になった場合でも、次のような点について、丁寧かつ具体的な説明を行うことが金融機関には求められています。

■ やむを得ず「経営者保証」を求める場合の金融機関の説明事項
①保証契約の必要性
②企業や経営者のどの部分が十分でないために、保証契約が必要なのか
③どのような改善を行えば保証契約の変更・解除の可能性が高まるのか
④経営者保証の必要性が解消された場合には、保証契約の変更・解除の見直しの可能性があること

 従来、経営者保証を提供することが当然のように行われてきたため、経営者保証の必要性等について、経営者が金融機関に説明を求めることはあまりされてこなかったかもしれません。しかしながら今後は、経営者は金融機関に詳しい説明を求め、金融機関はそれに丁寧に応えることがスタンダードとなります。納得し、金融機関と対話を重ねながら経営努力を続けることが大切です。

6.おわりに

 本記事では、経営者保証ガイドラインに沿って、経営者保証を必要としない借入れのためのポイントを解説しました。
 決算書等の信頼性が高まれば、経営者保証が外れる可能性がより高まるはずです。“3つのポイント”が充足されていることを示すためにも、検証・証明をしてくれる税理士等の外部専門家を活用しましょう。

参考文献

・『Q&A「経営者保証ガイドライン」活用のための3つのポイント』TKC全国会中小企業支援委員会監修、TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

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 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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