💡この記事のポイント
☑405事業は、金融支援を伴う本格的な経営改善計画策定を支援する国の制度
☑認定支援機関のサポートを受けて、実行可能性の高い計画を策定できる
☑費用の2/3が補助される(区分ごとに上限額あり)
☑計画を基に金融機関と協議し、返済条件や保証の見直しにつなげられる
☑モニタリングで継続改善を実現できる仕組み
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- 1.経営改善計画策定支援(405事業)とは?
- 2.405事業のメリットとは?
- (1) 本格的な改善計画を専門家と共に立案できる
- (2) 金融機関と建設的な交渉が可能に
- 3.導入と申請の具体的な流れ
- (1) まずは身近な専門家・活性化協議会に相談を
- (2) 申請の進め方
- (3) 効果的な進め方(5月決算企業の例)
- 4.経営改善計画書を作成するには
- (1) 計画書作成の具体的な流れ(一例)
- (2) これって経営改善計画になるの?
- 5.まとめ
1.経営改善計画策定支援(405事業)とは?
(1) 制度の概要
「正式名称:経営改善計画策定支援(通称:405事業)」は、
財務面で課題を抱え、自ら経営改善を図ることが難しい中小企業・小規模事業者が、国の認定を受けた税理士などの専門家(認定支援機関)の支援を受けながら、本格的な経営改善計画を策定することができる制度です。
策定にかかる費用の一部を中小企業活性化協議会が負担する仕組みとなっており、金融機関からの返済条件の見直しや新たに資金調達を行う際等に活用されます。
通称の405という数字は、事業開始時の予算が405億円であったことに由来しています。
制度の概要は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
| 対象者 | 借入金の返済負担や資金繰りに課題を抱える中小企業・小規模事業者 |
| 支援内容 | 現状分析、収益力改善策の検討、数値計画の策定、金融機関との協議支援 |
| 支援者 | 認定支援機関(税理士、公認会計士、中小企業診断士、商工会議所など) |
| 補助内容 | 計画策定費用および伴走支援費用の2/3を補助(経営者保証解除に取り組む場合は金融機関交渉費用も対象) |
本制度には中小企業庁「収益力改善支援に関する実務指針」に基づく計画策定の支援(通常枠)と、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」に基づく計画策定の支援(中小版GL枠)があります。
(2) 制度のポイント
405事業の主な特徴は以下のとおりです。
・金融支援を伴う本格的な経営改善支援(返済条件の変更や新規融資を目的)
・計画策定費用等の2/3を補助
・中小企業活性化協議会(※)による関与(支援内容の品質確保、統括責任者による指導・助言)
・計画策定後にも継続して伴走支援を実施(モニタリングにより進捗確認と改善支援)
・金融機関との調整支援(経営者保証の見直しやリスケジュールを含む)
※中小企業活性化協議会とは…
中小企業の活性化支援のため各都道府県に設置されている公的機関。金融機関や民間の専門家等と連携し、中小企業の経営改善や事業再生、再チャレンジを支援している。
(3) 補助対象となる費用
本制度では、認定支援機関に支払う以下の費用について、2/3を補助対象としています。
| 支援枠 | 補助対象経費 | 補助率 | 備考 |
| 通常枠 | デューデリジェンス・計画策定支援費用 | 2/3(上限200万円) | 金融機関交渉費用は、経営者保証解除を目指した計画を作成し、金融機関交渉を実施する場合に対象。(任意) |
| 伴走支援費用(モニタリング費用) | 2/3(上限100万円) | ||
| 金融機関交渉費用 | 2/3(上限10万円) | ||
| 中小版GL枠 | デューデリジェンス費用 | 2/3(上限300万円) | 中小版GLに基づいた取組が対象。また、その取組の際に必要となる第三者支援専門家の手続きに係る費用も補助対象。 |
| 計画策定支援費用 | 2/3(上限300万円) | ||
| 伴走支援費用 | 2/3(上限100万円) |
(4) 認定支援機関とは?
405事業を活用するには、「認定支援機関(正式名称:認定経営革新等支援機関)」の関与が必須となっています。
認定支援機関とは、中小企業等経営強化法に基づき、国が認定した経営支援の専門家です。税理士、公認会計士、中小企業診断士など、企業の財務や経営支援に関する専門的な知識と経験を持つ者が認定を受けています。
制度の利用にあたっては、こうした支援機関が企業と伴走しながら、経営状況の把握、計画の立案支援、金融機関との調整、モニタリングの実施といった各段階でサポートを行います。
事業者は、自社の業種や課題に合った支援機関を選定することができ、すでに顧問契約を結んでいる税理士等が認定を受けていれば、そのまま依頼することも可能です。
認定支援機関は全国に多数登録されており、以下の検索システムから探すことができます。
認定支援機関検索システム(中小企業庁)
また、認定支援機関制度そのものについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になります。
解説記事|中小企業の応援団!「認定支援機関」制度とその役割
2.405事業のメリットとは?
(1) 本格的な改善計画を専門家と共に立案できる
405事業は、資金繰りに不安を抱え、金融機関からの支援が必要な段階で、認定支援機関とともに現状を整理し、経営改善に向けた「本格的な経営改善計画」を立てられる制度です。
この制度の特長は、単なる書類作成ではなく、専門家との対話を通じて、収益改善や資金繰り改善の道筋を具体化できる点にあります。現状分析から改善策の立案、数値計画の策定までを専門家と進めることで、実行可能性の高い計画に仕上げることができます。
(2) 金融機関と建設的な交渉が可能に
405事業の大きなメリットは、金融機関との協議を前提とした制度であることです。
経営者にとって、金融機関に自社の状況を説明するのは大きな負担であり、資金繰りが厳しい局面ではなおさら対話を避けたくなるものです。しかし、本制度では計画策定そのものが金融支援につながるため、自然に金融機関と話し合う機会を持つことができます。
例えば、返済条件の変更(リスケジュール)を希望する場合でも、専門家と作成した経営改善計画をもとに協議を進められるため、金融機関側も「実効性のある計画」として受け止めやすくなります。さらに、一定の条件を満たせば「経営者保証の解除」や「新規融資」の交渉につながる場合もあります。
3.導入と申請の具体的な流れ
405事業を活用するには、認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)と連携しつつ、中小企業活性化協議会の手続に沿って進めます。ここでは、制度の導入から申請、計画策定、実行・伴走支援までの流れを順に整理します。なお、申請様式は〈利用申請/支払申請/伴走支援費用支払申請〉が基本セットです。(※申請様式は中小企業庁のWebサイトより最新版を取得してください)
(1) まずは身近な専門家・活性化協議会に相談を
制度活用の入口は、顧問税理士などの認定支援機関または都道府県の中小企業活性化協議会への相談です。企業の現状(資金繰り、返済負担、再生の必要性等)を共有し、通常枠か中小版GL枠(ガイドラインに基づく取組)かといった支援メニューを確認します。相談窓口や連絡先は中小企業庁サイトに集約されています。
(2) 申請の進め方
405事業は、概ね次のステップで進みます。各段階で認定支援機関と活性化協議会が関与し、必要書式は中小企業庁サイトの「申請様式」に掲示されています(2025年4月1日改定)。
ステップ1:初期相談・スキーム確認
認定支援機関・活性化協議会に現状を相談し、対象要件や支援枠(通常枠/中小版GL枠)を確認します。
ステップ2:〈利用申請〉の提出
企業と認定支援機関が連名等で利用申請を行います(申請様式は中小企業庁サイト内の手引き等に掲載)。提出後、協議会側の確認や必要に応じた面談等を経て、計画策定に着手します。
ステップ3:デューデリジェンス(調査分析)・経営改善計画の策定
「収益力改善支援に関する実務指針」(2023年4月以降、利用申請時の必須準拠)に沿って、現状分析・課題抽出・改善施策・数値計画を詰めます。中小版GL枠では、ガイドラインに基づくデューデリジェンスと計画の整合性が必要です。
ビジネスモデル俯瞰図・アクションプラン・資金実績・計画表や損益計画などが盛り込まれます。
ステップ4:金融機関との協議・合意形成
策定した計画をもとに、返済条件の変更(リスケ)や新規融資、経営者保証の見直しなどについて金融機関と協議します。計画は「実行可能性」「モニタリングの枠組み」まで含めて説明できる内容に仕上げます。金融機関は、ここで共有される計画書により、事業者の現状や今後の課題、目標などを知ることができます。
ステップ5:〈支払申請〉による補助精算
計画策定支援に要した費用について、所定の支払申請を行い、補助の精算手続きを進めます。様式・添付書類は中小企業庁サイトの申請様式に整理されています(2025年4月1日改定)。
ステップ6:計画の実行と伴走支援(モニタリング)
計画は策定がゴールではありません。認定支援機関が伴走支援(モニタリング)を行い、実績と計画の差異分析、改善策の再設定、金融機関への説明を継続します。
ステップ7:〈伴走支援費用支払申請〉
伴走支援に係る費用について、所定の伴走支援費用支払申請を行います(上限や補助率は支援枠ごとに定めあり)。
※申請様式一式(通常枠・中小版GL枠)および手引き・マニュアル・FAQは、中小企業庁の「経営改善計画策定支援」ページに最新改定(2025年4月1日)版が掲載されています。実務は必ず最新様式・手引きに従ってください。
(3) 効果的な進め方(5月決算企業の例)
制度活用を円滑に進めるには、決算月から逆算した工程表を引き、デューデリジェンス→計画合意→実行・モニタリングのサイクルを定着させるのが有効です。以下は5月決算を想定した一例です(実務は業況・関係金融機関との調整により前後します)。
| 時期 | 内容 | 目的・ポイント |
| 6月 | 初期相談(キックオフ) | 認定支援機関・活性化協議会へ初回相談、支援枠(通常/GL)確認 |
| 7月 | デューデリジェンス開始・論点整理 | 実務指針に沿って現状分析・課題抽出 |
| 8月 | 計画素案レビュー | 施策・数値計画を詰め、金融機関ヒアリングへ |
| 9月 | 計画最終化・金融協議 | リスケ・融資・保証見直し等の合意形成 |
| 10月以降 | 実行・モニタリング | 予実管理・差異分析・対策更新を月次で継続 |
進め方のポイント
・金融機関との対話を段階設計:素案共有→意見反映→最終合意の順で合意形成を図る。
・実務指針の活用:計画の妥当性・実行可能性・モニタリング体制を明確化する。
・様式は最新版を使用:利用申請/支払申請/伴走支援費用支払申請は、必ず最新改定版で
4.経営改善計画書を作成するには
405事業では、認定支援機関とともに企業の現状を精査し、金融機関との協議に耐えうる本格的な経営改善計画を策定します。ここでは、計画書作成の一般的な流れをご紹介します。
なお、実際の作成は専門家がサポートしますので、経営者がすべてを一人で用意する必要はありません。
(1) 計画書作成の具体的な流れ(一例)
①自社の現状を分析する
まずは、過去の業績・財務データを整理し、売上・費用構造、資金繰りの問題点を洗い出します。
「ローカルベンチマーク」等を活用して、経営環境などを分析、事業の強み・弱みを客観的に把握します。販売先・仕入先の依存度やキャッシュフローの状況を俯瞰的に見える化することが、改善の出発点となります。
②財務目標と改善の方向性を設定する
現状分析を踏まえて、課題を明確化し、収益改善や資金繰り改善に向けた数値目標を定めます。
たとえば、売上や利益率の改善水準、債務返済の見通し、資金残高の安定ラインなどを明確にします。効率的・実行可能性が高いことが重要で、同業他社の水準や過去実績との比較も活用されます。
③アクションプランを策定する
目標達成のために必要な施策を具体的な行動計画に落とし込みます。
不要な経費の削減、新規販路の開拓、商品・サービス改善、人員配置の見直しなどを列挙し、それぞれ「誰が・いつまでに・どのように実施するか」を明文化します。金融機関は「実行可能性」を重視するため、計画の現実味を裏付ける根拠を示すことが求められます。
④金融機関と共有、支援内容の検討
完成した経営改善計画書は、金融機関との協議に用いられます。
ここでの目的は、返済条件の変更(リスケジュール)や追加融資、経営者保証の解除などについて、金融機関から合意を得ることです。認定支援機関は、金融機関とのやりとりをサポートし、交渉を円滑に進める役割を担います。
⑤実行とモニタリングで改善を定着させる
計画を提出して終わりではなく、実際の経営に落とし込み、定期的に進捗を検証します。
月次や四半期ごとの実績を計画と比較し、必要に応じて修正を加える「モニタリング」を行います。認定支援機関も継続的に関与し、改善策の見直しや新たな打ち手を提案します。こうした伴走支援によって、計画が机上の空論で終わらず、事業再生や資金繰り改善に直結するようになります。
(2) これって経営改善計画になるの?
「経営改善計画」と聞くと大掛かりな再建策を想像しがちですが、実際には比較的身近な取り組みも計画に含めることができます。
たとえば、「既存借入の借換による経営改善」、「経営改善サポート保証を活用した返済条件緩和で資金繰り安定を図る」、といった計画が想定事例として挙げられています。
本制度では、こうした改善策を具体的かつ確定的に定めて「実行可能な形」にまとめ、金融機関に提示することが重視されます。
参考:中小企業庁「経営改善計画策定支援事業(405事業・ポスコロ事業)の支援の想定事例集~収益力改善支援に関する実務指針の活用~」
5.まとめ
制度を活用した本格的な経営改善を
405事業を利用することで、以下のような効果が期待されます。
・自社の財務状況や課題を定量的に把握できる
・専門家の支援を受けながら、実現可能性の高い改善計画を策定できる
・金融機関との協議を通じて、返済条件の変更や新規融資、経営者保証の見直しが進む
・補助制度の活用により、計画策定や伴走支援の費用負担を大幅に軽減できる
・モニタリングを通じて「実行と検証」の経営体制を定着させることができる
制度の活用には、認定支援機関および中小企業活性化協議会の関与が不可欠です。相談から計画策定、金融機関との交渉、そして申請・伴走支援まで、一貫したサポートを受けることができます。
経営環境が変化し、資金繰りや返済に課題を抱える中小企業にとって、405事業は再建や持続的成長のための現実的な選択肢のひとつです。単なる改善計画にとどまらず、金融支援を前提とした本格的な経営改善につながる制度として、積極的な活用を検討してください。
参考リンク
中小企業庁│経営改善計画策定支援
中小企業庁│認定経営革新等支援機関検索システム
中小機構│経営改善計画策定支援事業
中小機構│中小企業活性化全国本部
記事提供
株式会社TKC出版
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