2025年05月26日

「フリーランス法」のキホンの「キ」を確認しよう

「フリーランス法」のキホンの「キ」を確認しよう

💡この記事のポイント
 ☑「フリーランス法」はフリーランス事業者の適正取引と就業環境を守るために整備された。
 ☑発注事業者に課せられた7つの義務項目を確認する。
 ☑発注事業者の特性に応じて義務付けられる項目は異なることを理解する。
 ☑違反した場合の罰則を確認する。
 ☑発注事業者はフリーランス事業者と取引する場合の具体的な取り組みを確認する。

1.フリーランス事業者の取引の適正化と就業環境の改善が大きな目的

フリーランス事業者と協力する経営者

(1) 「フリーランス法」施行までの経緯

 令和6年11月1日に「フリーランス法」が施行されたことをご存じでしょうか。これは、発注事業者(業務を委託する事業者)とフリーランス事業者(業務を受託する事業者)との取引の適正化等を目的に整備されたものです。
 もともとの経緯としては、内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(令和4年6月7日)」のなかで、業務委託事業者(発注事業者)とフリーランス事業者の取引の適正化と、フリーランス事業者の就業環境の改善を目的とした法整備の必要性が盛り込まれたことによります。これを受けて、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省において議論等が進められ、令和5年4月に法案が成立し、同年5月に公布されたのが「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、これが、いわゆる「フリーランス法」と呼ばれるものです。

<「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(令和4年6月7日)」とは>
 第1次岸田内閣発足時、岸田文雄元総理大臣は所信表明演説において、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとする新しい資本主義の実現を目指すことを表明しました。その後、新しい資本主義実現会議等における検討を踏まえ、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を閣議決定しました。
 この「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、新しい資本主義の基本的な考え方(グランドデザイン)と、その基本的な考え方に基づく具体策(実行計画)をまとめたものです。
 具体的には、人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX・DXへの重点投資を官民連携のもとで推進することや、資産所得の倍増、経済社会の多極集中化、社会的課題を解決する経済社会システムの構築等に取り組むことが示されました。そのなかで「従業員を雇わない創業形態であるフリーランスの取引適正化法制の整備」も盛り込まれました。
 なお、令和4年から現在(令和7年4月末時点)までで、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は2回、改訂(令和5年改訂版・令和6年改訂版)されています。

参考:内閣官房Webサイト「新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議」

(2) フリーランス事業者全体の約2割が取引先と何らかのトラブルを経験している

 そもそも「フリーランス法」が施行された背景としては、業務を受託する側であるフリーランス事業者の立場の弱さがありました。
 公正取引委員会・厚生労働省の「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査(令和5年度)」によると、フリーランス事業者全体の約2割は、取引先と何らかのトラブルを経験しているとされています。特に、報酬支払の遅延や一方的な業務内容の変更が大きな問題となっていました。
 これまで発注事業者とフリーランス事業者との間で、適正な取引が損なわれたりしたことがある事項、または発注控えや取引が損なわれる懸念のある事項としては、主に以下のようなものがあげられます。

・期間又は提供の期日(納期)
・支払方法
・契約の終了事由
・契約の中途解除の際の条件
・交通費や諸経費の取扱い
・著作権・著作隣接権の取扱い 等

参考:「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査(令和5年度)」

(3) そもそも「フリーランス」とは何か?定義はあるのか?

 「フリーランス」というキーワードは、日頃からよく見聞きすると思いますが、これはそもそもどういう意味なのでしょうか。端的にいうと、企業や団体に所属せず、個人で仕事等を請け負う人のことを指します。「自由業」または「自由職業」とも呼ばれています。英語では「freelance」と表記します。「freelance」の語源は、自由を表す「free」と槍を表す「lance」が組み合わさったものです。この形態により請け負った業務を遂行する人を「フリーランサー」または「フリーエージェント」とも呼ばれています。
 また、厚生労働省では「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」のなかで、フリーランスについて以下のように定義しています。

「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。

出典:厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」

2.「フリーランス法」の対象となる取引とは?

 「フリーランス法」は原則として、事業者間(BtoB)における委託取引を対象としています。つまり、消費者からの委託や売買契約等は含まれないことをしっかり確認しておきましょう。対象となる取引としては、例えば、以下のようなものがあげられます。

<事業者間委託取引の例>
・社内広報誌の制作作業をフリーの編集者に委託する。
・自社のホームページ制作をフリーのWebデザイナーに委託する。
・自社のホームページに掲載する写真撮影をフリーカメラマンに委託する。
・自社商品のパッケージデザインを、フリーデザイナーやフリーのイラストレーターに委託する。 等

 上記の例を見ていくと、意外とフリーランス事業者との取引に該当するものがあるかもしれません。社内の業務を洗い出して、しっかりと把握し適切な対応を行うことが大切となります。

3.発注事業者に課せられた7つの義務項目を確認しよう

(1) 発注事業者の特性によって義務付けられる項目は異なる!

 「フリーランス法」では、フリーランス事業者の適正取引の実現と、立場等の改善のために、発注事業者には、フリーランス事業者に対して以下のような7つの義務項目を定めています。

<7つの義務項目>
①委託業務の内容・報酬額・支払期日等の取引条件を書面等により明示すること。
②発注した物品等を受け取った日から起算して60日以内の期日に報酬を支払うこと。
③特段の理由なしに、「発注した物品等を受け取らない」「発注時に決めた報酬額を後に減額する」等の行為をしないこと。
④フリーランス募集の広告などに「虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならない」「内容を正確かつ最新のものに保たなければならない」こと。
⑤フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと。
⑥フリーランスに対するハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備などの措置を講じること。
⑦継続的業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければならないこと。

 上記の7つの義務項目を1つひとつ確認してみると、発注事業者にとってはなかなかハードルが高いものに感じるかもしれません。しかし、ここでのポイントは、発注事業者の特性に応じて義務付けられる項目は異なるということです。つまり、すべての発注事業者が、すべての義務項目(7つ)を満たさなくてもよいということになります。どんな発注事業者にどの義務項目が課せられるのか、以下の表を確認しましょう。

業務委託事業者(発注事業者)義務項目
・フリーランスに業務委託する事業者 ・従業員を使用していない ※フリーランスに業務委託するフリーランスも含む。
・フリーランスに業務委託する事業者 ・従業員を使用している①②④⑥
・フリーランスに業務委託する事業者 ・従業員を使用している ・継続的業務委託をする ※継続的業務委託とは、一定の期間以上行う業務委託のこと。③1か月、⑤⑦は6か月。契約の更新により一定の期間以上継続して行うこととなる業務委託も含む。①②③④⑤⑥⑦

 上記の表を見ていくと、例えば、「従業員を使用していて、フリーランスに業務を委託する」場合は、「①②④⑥」の義務項目を満たす必要があるということです。
 ここで注目したいのは、7つの義務項目のうち「①委託業務の内容・報酬額・支払期日等の取引条件を書面等により明示すること」については、すべての発注事業者がその義務を負うことになりますのでしっかり確認しましょう。
 また、同じフリーランス事業者に業務を委託する場合であっても、一定期間以上の業務委託なのか、単発の業務委託なのかで、対象となる義務項目は異なるため、注意が必要になります。
 詳細については、中小企業庁Webサイト「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和6年7月1日現在)」厚生労働省Webサイト「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ(令和6年7月1日現在)」をご確認ください。

(2) すべての発注事業者に義務付けられている「取引条件の書面での明示」、その具体的な内容は?

 すべての発注事業者に義務付けられている「①取引条件の書面での明示」については、業務を発注した場合、書面等により、ただちに、フリーランス事業者に次の取引条件を明示することとされています。ここはきちんと認識し、おさえておくことが重要です。

・業務の内容 ・報酬の額 ・支払期日 ・発注事業者
・フリーランス事業者の名称 ・業務委託をした日
・給付を受領/役務提供を受ける日 ・給付を受領/役務提供を受ける場所
  ・(検査を行う場合)検査完了日
・(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項

(3) 発注事業者の禁止行為を確認しておこう!

 7つの義務項目のうち「③特段の理由なしに、『発注した物品等を受け取らない』『発注時に決めた報酬額を後に減額する』等の行為をしないこと」については、いわゆる禁止事項が示されています。発注事業者は、フリーランス事業者に対し、1か月以上の業務委託をした場合、次の7つの行為をしてはならないことになっています。しっかり確認しましょう。

・受領拒否 ・報酬の減額 ・返品 ・買いたたき ・購入・利用強制
・不当な経済上の利益の提供要請 ・不当な給付内容の変更・やり直し

(4) ハラスメント行為に対する措置とは具体的に何をすればいいの?

 7つの義務項目のうち「⑥フリーランスに対するハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備などの措置を講じること」については、実際にどのような取り組みをすればよいか迷うことかもしれません。具体的には、発注事業者はフリーランス事業者に対するハラスメント行為に関して、次の措置を講じることとされています。

・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
・相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 等

4.もし「フリーランス法」に違反した場合はどうなるの?

 もし「フリーランス法」に違反してしまった場合(違反者)は、次のような罰則が科されることになっています。注意しましょう。

・義務項目に違反した場合
公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣から違反行為についての助言・指導・報告徴収・立入検査・勧告・公表・命令
・命令違反や検査拒否等をした場合
50万円以下の罰金が科される可能性

 なお、法人両罰規定により、同法に違反した場合には、違反行為をした行為者だけでなく事業者自体にも罰金刑が科される可能性があります。

5.フリーランス事業者と適正な取引を行うために取り組むべきこと

 発注事業者は、フリーランス事業者とスムーズに取引等ができるように、社内で事前に必要なことをチェックしておくことが大切になります。また、運用していくなかでも業務フローや委託内容等は適時、見直すなどの対応が重要です。

<確認しておきたいこと>
・「フリーランス法」の適用対象事業者となる取引先をきちんと確認しているか。
・「フリーランス法」の適用対象事業者に漏れはないか。
・「フリーランス法」の適用対象事業者に、どのような内容の業務を、どの程度の期間で依頼しているかを確認しているか。
・「フリーランス法」の適用対象事業者に対する報酬の額はどれぐらいか。
・「フリーランス法」の適用対象事業者に対する報酬について、支払期日はいつになっているか。
・「フリーランス法」の適用対象事業者に依頼している業務内容の条件等は適正か、見直すべき点はないか。  等

 上記にあげたものは一例ですが、このような確認・チェックを継続的に、しっかり行っておくことで、フリーランス事業者との思いもよらないようなトラブルを回避することにつながります。
 詳細な法律の内容や最新の情報については、厚生労働省や中小企業庁などのWebサイトを確認し、業務上でフリーランス事業者に仕事を依頼するときにスムーズな取引ができるようにきちんと対応しましょう。

(参考)

内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(令和4年6月7日)」
内閣官房Webサイト「新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議」
中小企業庁Webサイト「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
公正取引委員会・厚生労働省「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査(令和5年度)」
厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
厚生労働省Webサイト「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ(令和6年7月1日現在)」

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。