💡この記事のポイント
☑定年制廃止、定年引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれかを選択し、65歳までの雇用を確保する!
☑就業規則の賃金・労働条件、シニア人材の支援体制等を整える!
☑従業員が定年を迎える際、継続雇用の希望の有無等について、書面等の記録に残るものを通じて事前の意思確認が必要!
☑シニア人材が培った知識や経験は、企業等にとって大きな財産!
☑健康状態の把握や配属先の決定には十分な配慮が求められる!
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- 1.深刻化する人手不足、高齢者の力を頼る時代に
- 2.令和7年4月から65歳までの雇用が完全義務化
- 3.具体的に何をすればいいの?
- (1) 3つの措置から1つを選択する!
- (2) 「就業規則」を見直す!
- (3) 対象となる従業員の賃金・労働条件を見直す!
- (4) 継続雇用の意思確認を対象者と実施!
- (5) シニア人材がいきいきと働ける環境整備を!
- 4.シニア人材を雇用することの効果を確認する
- (1) 人手不足の解消につながる
- (2) 知識や経験を活かした業務を任せられる
- (3) 助成金等の支援を受けられるケースも
- 5.シニア人材を雇用する際はどんなことに留意しなければならないの?
- (1) 健康面や基礎体力に不安がある
- (2) 配属先になじめないおそれがある
- (3) 給与体系の見直しが必要となる場合がある
- 6.「よし!シニア人材を雇用しよう!」 困ったときはどうすればいい?
1.深刻化する人手不足、高齢者の力を頼る時代に

令和5年における日本の総人口における65歳以上の割合は、過去最多となる29.1%となっています。内閣府の『高齢社会白書』によると、少子高齢社会の進展により「生産年齢人口」(15~64歳)は減少し、平成27年から20年間で人口が1,000万人以上減るとみられている一方で、65歳以上の人口は約600万人増えると推測されています。このような状況を背景に今、人手不足に悩んでいる企業等が増加の一途をたどっています。
また、令和6年の厚生労働省「財政検証」によると、現状と同じペースで経済成長と少子高齢化が進めば、約30年後には年金の受給水準を指す「所得代替率」(現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)に対する、年金を受け取り始める時点の年金額を示す割合)が10%現象すると試算されています。加えて、近年、問題視されている物価の上昇がさらに進むことで、年金だけでは生計が成り立たない高齢者が増加することも予測されています。
このような状況下のなかでは、シニア人材の知識や技術をどのように活用していくか、戦力化していくかが企業等だけでなく、社会全体として重要な視点となっています。
2.令和7年4月から65歳までの雇用が完全義務化
少子高齢化対策として平成25年に改正高年齢者雇用安定法が施行されました。これは、端的に言うと、継続雇用を希望する従業員に対して、65歳までの「雇用確保措置」を企業等に義務づけるものとなっています。しかし、平成25年時点の同法においては、企業等に対する一定の配慮として経過措置が設けられ、令和7年3月までは継続雇用の対象者が限定されていた経緯があります。
そして、この経過措置の終了にともない、令和7年4月1日以降は、全事業者が、原則希望する全従業員に対して、65歳まで雇用することが「完全義務化」となりました。
違反した場合は、ハローワークからの指導や勧告、ハローワークでの求人不受理、助成金不支給等の処分が科されることになっています。
企業等においては、就業規則や待遇等の見直しを図り、いわゆる「シニア人材」と呼ばれる年齢層の力を活用して、人手不足解消や若手育成等につなげることが求められています。
3.具体的に何をすればいいの?

(1) 3つの措置から1つを選択する!
まず企業等においては、①定年制を廃止して継続雇用、②定年を65歳に引き上げて継続雇用、③希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を導入、のいずれかの措置を講じる必要があります。以下に詳しく見ていきましょう。
①定年制を廃止して継続雇用
定年制を廃止して雇用継続する際の特徴としては、従業員からの申出があった場合、または事業者が解雇する場合を除き、終身契約となることがあげられます。また、雇用形態の変更(例:正社員から契約社員に転換)は原則できません。
これを選択する場合、一定の年齢以上の従業員に対する給与体系の見直し(昇給抑制、成果報酬制の導入等)を検討することが大切です。特に、給与体系を年功序列型にしている企業等は要注意です。シニア人材とそれ以外の従業員双方に配慮した給与体系の設計が必要となります。
②定年を65歳に引き上げて継続雇用
定年を65歳に引き上げて雇用継続する際の特徴としては、従業員からの申出があった場合、または事業者が解雇する場合を除き、65歳までの継続契約となることがあげられます。65歳まで、雇用形態の変更は原則できません。また、上記①と同様に、給与体系の見直しが必要となります。
なお、「65歳定年後、希望者に対して70歳まで継続雇用する」等、後述の③と併用することも可能です。
希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を導入
希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を導入する際の特徴としては、従業員から継続雇用を希望する申出があった場合、下記のいずれかを適用することがポイントになります。
1)定年(60歳以上)を迎えても退職させず、65歳まで継続契約する「勤務延長制度」
2)定年を迎えた時点で一旦退職扱いとし、再び雇用する「再雇用制度」
上記1)の場合、雇用形態は原則変更されないため上記①②と同様に給与体系の見直しが大切になります。
上記2)の場合、退職を機に契約社員等への雇用形態変更や賃金等勤務条件の見直し等が可能です。
なお、多くの企業等ではこの③を採用しているケースが多くなっています。
<「65歳定年制」が完全義務化されるわけではありません>
定年の引き上げは、65歳までの雇用を確保する1つの手法であり、それが完全義務化されるわけではないことに注意しましょう。雇用形態や勤務条件を柔軟に変更できることから、前述の「再雇用制度」は多くの企業で選択されています。
<70歳までの就業確保は努力義務>
70歳までの就業確保は引き続き努力義務となっています。人口構造の変化を見据えると、今後は70歳まで雇用を確保しなければならなくなるかもしれません。今のうちに社内の制度を整えておくとよいでしょう。
なお、70歳までの就業確保のために事業者が講じるべき措置については、厚生労働省のWebサイトで解説されていますので参考にしてください。
(2) 「就業規則」を見直す!
労働時間と賃金、退職に関する事項は、就業規則に必ず記載することが重要です。また、定年制や雇用確保措置の変更や新設を行う場合、就業規則等を変更しなければなりません。
自社の実態にともなった就業規則を作成したうえ、常時10人以上の従業員を雇用する事業者は、就業規則変更の旨を所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
(3) 対象となる従業員の賃金・労働条件を見直す!
継続雇用後の賃金は、自社の経営状況に基づき、適切な金額を設定することが大切です。その他、雇用形態や業務内容、週の勤務日数や労働時間等も、本人と面談した上で見直しましょう。
なお、60~64歳の従業員への処遇改善のため、賃金の増額改定に取り組む企業等には、「高年齢労働者処遇改善促進助成金」が支給されますので確認しておきましょう。
<「高年齢雇用継続基本給付金」の縮小に注意>
「高年齢雇用継続基本給付金」とは、失業保険の基本手当等を受給していない60~65歳(未満)で、かつ「雇用保険の被保険者であった期間が通算5年以上」「60歳以後の賃金が60歳到達時点の賃金の75%未満」の雇用保険被保険者に国から給付されるものです。令和7年3月末までは、賃金の原則15%が給付されていましたが、4月1日以降は給付率が10%に縮小されました。給付金額を加味して賃金設定をしている場合は、見直しの検討が必要です。なお、「高年齢雇用継続基本給付金」は「高年齢労働者処遇改善促進助成金」との同時受給はできませんので注意してください。
(4) 継続雇用の意思確認を対象者と実施!
継続雇用の対象となるのは「希望者全員」です。再雇用制度または勤務延長制度を採用した場合、近々定年となる従業員に対して、継続雇用制度の内容や今後の賃金・労働条件等に関して説明し、遅くとも定年を迎える6か月以上前には、本人に継続の意思があるかどうかを確認しておく必要があります。なお、定年制の廃止、定年の引き上げを採用した場合、意思確認は不要です。
意思確認の際は、対象者と個別で面談を実施したうえ、「継続雇用に関する申出書」を書面やWebフォーム等を通じて本人に記入してもらい確認しましょう。口頭のみで済ませてしまうと、トラブルの元となります。
(5) シニア人材がいきいきと働ける環境整備を!
シニア人材の確保を優位に進めるためには、労働意欲の高いシニア人材がいきいきと働くことができる環境を整えることが大切です。継続雇用以降の処遇を一律にしたり、再雇用後に賃金を極端に下げたりせず、本人の能力や職務内容を考慮して賃金を設定するなど、活躍を後押しする人事制度を構築しましょう。
また、健康診断や安全衛生研修の実施、生活習慣改善の支援等で、体調管理をサポートすることも大切です。もし、継続雇用を機に従来とは違う業務を任せることになった場合は、新しい業務の研修も実施しましょう。
<中小企業による安全衛生の取り組みには補助金があるので活用しよう>
厚生労働省では、シニア人材の安全と健康確保のために、事業者および周囲の従業員が取り組むべき事項をまとめたガイドラインを作成しています。また、シニア人材を含む従業員が安全・安心な環境で働けるよう、労働災害防止や健康保持増進の取り組みを行う中小企業に対して支給される「エイジフレンドリー補助金」もあります(年度ごとに申請期間が設けられています)。
4.シニア人材を雇用することの効果を確認する

シニア人材を雇用するとなると、漠然とした不安などがあるかもしれません。しかし、シニア人材にはシニア人材ならではの強みがあります。雇用することの効果をしっかり認識しておきましょう。
(1) 人手不足の解消につながる
生産年齢人口の減少が課題となるなか、シニア人材の雇用を進めることが、人手不足解消の近道となります。シニア人材の新規採用も選択肢の1つです。「第2の人生は新しいことに挑戦したい」「家計を支えたい」など、明確な目的を持って応募する人が多く、そのような人材はすぐに離職するリスクも低いと言えます。
(2) 知識や経験を活かした業務を任せられる
シニア人材が培った専門知識や経験を若手従業員に伝えてもらうことで、育成につながります。特に、過去のトラブル対応経験や独自の人脈は、企業にとって大きな財産となります。
(3) 助成金等の支援を受けられるケースも
シニア人材の雇用を推進する企業等は助成金を受けられるケースがあります。確認しておきましょう。
5.シニア人材を雇用する際はどんなことに留意しなければならないの?

シニア人材を雇用する際は、配慮しなければならないこと、留意点等もあります。きちんと確認しておきましょう。
(1) 健康面や基礎体力に不安がある
若手社員と比べると、健康面や基礎体力に不安があり、病気による急な欠勤等のリスクも高まります。本人と相談のうえ、勤務時間や配属先を考慮したり、軽作業を中心に任せたりする配慮が必要です。
(2) 配属先になじめないおそれがある
若手社員中心の部署や、本人のスキルが十分に活かせない部署に配属してしまうと、その環境になじめない場合があります。また、配属先の社員等にも、シニア人材雇用の意義をあらかじめ説明しておくことが大切です。
(3) 配属先になじめないおそれがある
給与体系を年功序列型にしている場合、定年延長で契約を継続した人材の昇給が続くと、ほかの従業員との公平性が崩れるおそれもあります。トラブルを未然に回避する意味でも自社の給与体系を改めて確認しましょう。
6.「よし!シニア人材を雇用しよう!」 困ったときはどうすればいい?

シニア人材雇用において事業者が直面する困りごとや、相談窓口、助成金制度、事例等がまとめられた資料が、厚生労働省や(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のWebサイトで紹介されています。シニア人材の採用に関しては、ハローワークも受け皿となっています。困り事に応じて、どこで確認すればよいかを確認しておきましょう(下記で紹介しているのは一部です)。
(1) シニア人材の雇用確保措置について知りたい場合は?
厚生労働省のWebサイトで、「高年齢者雇用安定法Q&A」としてまとめられています。継続雇用制度の導入時や就業規則の変更時等に留意すべきポイントが紹介されています。
高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)|厚生労働省(2) 雇用継続に関する給付金について知りたい場合は?
雇用継続に関する給付金については、「高年齢雇用継続基本給付金」のほか、基本手当を受給していた60歳以上の方が再就職し、雇用保険の一般被保険者となった場合に条件つきで給付される「高年齢再就職給付金」があります。
ハローワークインターネットサービス - 雇用継続給付(3) 他社の継続雇用の事例を知りたい場合は?
JEEDが、70歳までの就業機会確保を推進する際のマニュアルや推進企業事例集を公開しています。同機構ではシニア人材雇用に関する相談・援助サービスを行っており、マニュアル・事例集内に都道府県別の窓口が掲載されています。
70歳超雇用推進マニュアル・70歳雇用推進事例集・65歳超雇用推進事例集|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(4) 70歳までの継続雇用を推進する場合の助成金はあるの?
JEEDが「65歳超雇用推進助成金」を設けています。各都道府県の窓口への申請方法や申請書の様式がWebサイトに掲載されています。
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(5) 自社の人事制度を整えたい場合は?
シニア人材雇用推進時の人事制度整備に役立つ「雇用力評価ツール」をJEEDが作成しています。シニア人材の強みを活かした人事管理ができているか、どのような課題があるかなど、チェックシート形式で把握することができます。
雇用力評価ツール参考
事務所通信「改正高年齢者雇用安定法特集号 令和7年4月施行 『65歳までの雇用確保』が義務化!中小企業の対応とシニア人材の活かし方」

記事提供
株式会社TKC出版 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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