ビルや地下鉄などで行う機械基礎工事というニッチな領域で高い技術力を誇るユー建築(東京都豊島区)。2023年3月の設立から業績は急拡大を遂げているが、その背景には「どんぶり勘定」から脱却した月次決算体制の構築が大きな役割を果たしていた。
ユー建築は、アパートやマンションの大規模修繕、外装改修、内装改修に加え、デパートや地下鉄の地下深くといった難度の高い現場における「機械基礎工事(設備基礎工事)」を得意とする建設会社である。創業者の片寄宏昭社長は、NTT局舎などの改修工事を行う建設会社で7年間キャリアを積み、その後父親が経営する工務店で携帯電話アンテナの設置工事やサブコン(設備・空調会社)向けの基礎工事を手掛けてきた。
1.自己流の事務作業では限界
同工務店で培った取引先からの信頼と施工ノウハウを携え、2023年3月に独立を果たした。自社の強みについて片寄社長は次のように語る。
「地下鉄の車両基地まで地上から400メートル以上配管を伸ばして生コンクリートを打設したり、夜間の限られた時間内に一晩で固まる特殊な材料を用いて駐車場スロープを補修したりといった、他社が敬遠する、手間がかかる難しい施工で多くの実績があります。こうした難工事を確実にやり遂げる対応力が評価され、特別な営業活動をしなくても口コミや既存取引先からの紹介で継続的に新規の取引先を獲得できています」

各種基礎工事、建築改修工事などを手がける
順調に見える滑り出しだったが、片寄社長は大きな不安を抱えていた。当初契約していた顧問税理士の主要顧客は個人事業主だったため、会社規模の拡大を志向する片寄社長との温度差があり、経理業務についても「領収書を数カ月に一度送ってくれればいい」という状態だったからである。
「自分なりにエクセルで入出金の管理はしていましたが、試算表が出てくるのが半年後以降という状態で、正しい収支を把握することができませんでした。本業の合間に慣れない自己流の事務作業に時間を取られることにも、限界を感じていました」(片寄社長)
2.週に1回以上は必ず確認
そんな折、ある経営者向けの異業種交流会の場で片寄社長は、税理士法人山岸会計の山岸崇裕税理士・公認会計士が「月次決算」についてプレゼンテーションを行っている姿を目にした。「会社の成長のためには、今のどんぶり勘定のやり方では絶対に立ち行かなくなる。当社にも月次決算のやり方が必要だ」と痛感した片寄社長は、すぐに山岸税理士に顧問契約の締結を依頼することを決意したという。
同社と顧問契約を結んだ山岸税理士がまず取り組んだのは、経営者の素早い業績把握と経営判断を可能にする「自計化」体制の構築だった。
TKCの会計システム『FXクラウドシリーズ』を導入し、片寄社長は週に1回以上、自ら画面を開き損益計算書や貸借対照表の数字を確認するようになった。
「1年に1回の決算時にしか分からなかった収支の状況が、月次で確認できるようになったのは大きな変化でした。最初のうちは粗利がマイナスになることもありましたが、数字が整うにつれ、月を追うごとに粗利がきれいに積み上がっていくのが目に見えて分かり、『しっかりと儲かっている』という強い実感が湧くようになりました」
月ごとに利益が出ていることをしっかりと認識できるようになったのは、正確な粗利が出せるようになったからである。それは毎月原価率が大きく上下することに疑問を抱いた監査担当の山本真愛さんが、「工事完成基準」を徹底したことによる。
「毎月の巡回監査時に、片寄社長に『この工事は今月完成しましたか』と必ず1件ずつ確認をとるようにしました。完成した工事の売上高と原価だけを計上し、未完成のものは『未成工事支出金』として適切に処理するルールを徹底することで、月次の正確な収支をつかむようにしたのです」
3.機動的な経営判断が可能に
同時に現場別損益を正確に把握する体制も整えた。売上高の工事名と原価の工事名がばらばらだったり、複数フェーズに分かれた工事を一つの工事として認識すべきかどうかあいまいだったりしたため、案件ごとに一貫した工事コードを設定し、正確なひも付けを行った。
「現在、これらの作業によってまとめた現場別の損益管理は、エクセルを通して行っています。データベースがきれいに整理されてきたこともあり、次の段階はこの管理をシステムで再現すること。できるだけ入力の手間などを省くことができる最適なシステムへの切り替えを検討しています」(山岸税理士)
さらに同社は、「継続MASシステム(※)」を通じて単年度予算を策定した。月次決算を通じた予実管理で「その時点での立ち位置が分かる」ことによって、機動的な経営判断が可能になったと片寄社長は話す。
「予算を達成できなかったときは、見積書の提出に漏れはないか、取引先に顔を出す機会を設けたかなどの振り返りを行います。また予算を超過した場合は、作業効率向上のための機材購入や暑さ対策のためのファン付き作業服の支給などを、素早く決断できるようになりました。実は昨年11月に既存の取引先からの紹介でこれまでにない規模の大型工事を受注しています。しかし現場数が急増した一方で人手がなかなか集まらず、マンパワー不足を痛感させられました。そこで現場で頑張ってくれる人材には惜しみなく投資を続けようと決めたのです」
人材はモノと違って、欲しい瞬間に急に集まるわけではない。片寄社長は、計画的な現場管理者の増員や社員向け各種研修・セミナーの実施など通じ積極的な人材投資を行っている。
※継続MASシステム…経営者のビジョンに基づいた「中期経営計画」と、次年度の業績管理のための「単年度予算」、「短期経営計画」の策定を支援するシステム
4.金融機関からの信用も向上
月次決算の定着は、金融機関との良好な関係維持にも好影響を与えている。起業直後の1期目、一時的な資金不足に直面した際、地元の信用組合が「入金が確実であること」を見極めて約1,300万円のプロパー融資を同社に実行。これを予定通り即座に返済したことに加え、「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」の利用を通じ、申告書データと同等の財務データを自動提供することで、同社に対する金融機関の信用は一気に向上したという。他の信用金庫などからも「保証協会の別枠を活用しませんか」などといった積極的な融資提案を受けるようになった。
会計事務所と二人三脚で強固な月次決算体制を築き上げたユー建築。「もし起業当初の経理状態のまま売り上げが急拡大する時期を迎えていたら、正確な数字を把握することができず、会社はパンクしていたかもしれません。親身になって共に数字に向き合い、経営アドバイスもしていただける山岸会計事務所は、本当に頼りになる存在です」と片寄社長は笑顔を見せる。

片寄社長は、自己資本比率を高めて「特定建設業許可」を取得し、売上高10億円を突破するという明確なロードマップを掲げている。会計の力を支えにしながら挑戦を続ける同社の今後に注目したい。
(協力・税理士法人山岸会計/本誌・植松啓介)
| 名称 | ユー建築株式会社 |
|---|---|
| 業種 | 総合建築業 |
| 設立 | 2023年3月 |
| 所在地 | 東京都豊島区東池袋2-4-8宮谷ビル3階 |
| 売上高 | 約3億円 |
| 従業員数 | 6名 |
| URL | https://kaishu-koji.com |
| 顧問税理士 | 税理士法人山岸会計 東京事務所 税理士・公認会計士 山岸崇裕 東京都新宿区神楽坂2-16軽子坂田中ビル URL: https://www.zyamagishi.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年8月号
記事提供
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「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
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