2026年08月31日

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中小企業オーナー退職金の税務上の注意点

中小企業オーナー退職金の税務上の注意点

役員退職金の支給は、不相当に高額でなければ損金算入できるほか、後継者へ贈与する株式の評価下げ策になります。先代経営者が代表取締役を退任して役員退職金の支給を受け、これを法人の損金に算入して自社株式の評価額が下落するタイミングで、自社株式を後継者に贈与するのが一般的です。この役員退職金の損金算入にあたっては、税務上の留意点がいくつかあります。本記事では、損金算入が否認される可能性のあるケースと、否認されないための対策例、そのほか税務上の留意点について説明します。

💡この記事のポイント
 ☑退職の事実がないと判断されると、退職金の全額の損金算入が否認となる。
 ☑不相当に高額な部分の金額があると判断されると、“不相当に高額な部分”に当たる金額分のみ損金算入が否認される。
 ☑退職金を受け取った者には、一定の退職所得控除がある上、他の所得と分離して課税されるという税務上のメリットがある。
 ☑退職所得としてみなされない場合があるため、受取方法等に注意が必要。

1.役員退職金の支給がもたらす株式の評価減

 経営者が生前に退任し、株主総会決議を経て会社から役員退職金規程により退職一時金を受け取った場合、その支払われた退職金のうち妥当と認められる金額は会社の損金に算入することができます。よって、支給した期に大きな特別損失が生じることとなり、法人税の納税額を減額することができるほか、翌期には株式の類似業種比準価額が大きく下がります。また、退職金の金額だけ内部留保が減るため、1株当たりの純資産価額の減額も見込めます。もしも後継者への株式の贈与を予定している場合は、評価額が大きく下がったタイミングで株式を贈与することで節税対策となります。
気をつけないといけないのは、法人税法上、不相当に高額な退職金は損金不算入となることです。妥当な額とみなされる役員退職金を支給することが、重要なポイントとなります。

2.役員退職金の損金算入が否認されるケース

 法人税法上は支払った退職金は原則として損金算入されますが、役員に対して支給した退職金の額のうち、損金算入を否認された額については損金算入することができません。妥当とみなされる役員退職金を支給する、とは、言い換えれば、税務調査で損金算入が否認されるような役員退職金を支給しない、ことになります。

(1) 役員退職金が否認されると株式の贈与に影響あり

 もし、税務調査で役員退職金の一部が過大であるとして否認されると、その後に後継者等へ株式の贈与を予定している場合には、その贈与に係る贈与税にも影響が及びます。
 否認された過大役員退職金を加算した後の課税所得金額を基に自社株式評価額を計算し直して、生じた差額について贈与税の納税が必要になるほか、非上場株式等の贈与税の納税猶予の適用を受けていて、役員退職金の損金算入の一部が否認された場合には、損金不算入によって計算し直した評価額との差額に対応する贈与税についての納税猶予が適用されません。そしてこの贈与税については、過少申告加算税・延滞税とともに納税する必要があります。

(2) 損金算入が否認されるケースとは

 実際に損金算入が否認されるのは、主に次の2つのケースです。

・退職の事実がないと判断されるケース
・不相当に高額な部分の金額があると判断されるケース

①退職の事実がないと判断されるケース
 会社の経営を後継者に引き継ぐ過程で、いきなり後継社長に全面的に経営を委ねるには不安があることから、先代社長が代表取締役を退任した後、代表権は返上するもののなんらかの役員として残ることがよくあります。この代表取締役退任時の役員退職金の支給は、いわゆる役員の分掌変更による退職金支給となります。しかし、取締役として残った場合、退職の事実がないと判断され、役員退職金として支払ったものが退職金と認められない可能性があります。この場合、退職の事実がないと判断されるということは、退職金の全額の損金算入が否認となることを意味します(役員の分掌変更による退職金支給の要件の詳細は3.にて説明)。

②不相当に高額な部分の金額があると判断されるケース
 役員に対する給与の額は、もともと株主総会の決議等によって決められるものです。しかし、税務上は、同業種・同規模の役員給与と比較して過大な役員給与の額については損金に算入できないこととされており、役員退職金についても同様です。「退職の事実がないと判断されるケース」と異なり、“不相当に高額な部分”に当たる金額分のみ損金算入が否認されます。ただし、退職金は受け取る側の所得税法上のメリットが大きいため、この否認を必ず回避しなくてはと保守的になる必要はありません(妥当とされる役員退職金の額の目安については3.にて説明)。

3.役員退職金を否認されないための対策

(1) 退職の事実がないと判断されないためには

 否認を受けないようにするためには、分掌変更によりその役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる必要があります。例えば次のような事実があることです。

分掌変更による退職金の要件
①常勤役員が非常勤役員となったこと
 ただし、常勤していなくても代表権があったり、実質的にその法人の経営上主要な地位にあったりする場合は除かれます。

②取締役が監査役になったこと
 ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている場合や、使用人兼務役員として認められない大株主である場合は除かれます。

③分掌変更等の後におけるその役員の給与がおおむね50%以上減少したこと
 ただし、分掌変更の後においても、その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合は除かれます。

 ただし、これらの事実があったとしても、実際にはその法人の重要な経営意思決定の際に先代経営者の意向が反映されていると、その退職金の損金算入が否認されることになります。実際にそのような例で否認されて納得できず、国税不服審判所に持ち込む事例も少なくありません。
 そのようなことにならないよう、代表取締役を退任した後は、役員にはとどまらないのが望ましいでしょう。やむを得ず取締役として残る場合には、会社への出勤頻度を抑え、経営への参画になるような行為は厳に慎まなければなりません。

(2) 不相当に高額な部分の金額があると判断されないためには

 役員退職金規程を定めてそれに従っていれば、すべて損金算入が認められるというわけではありません。過去の国税不服審判所裁決事例や裁判例から、次の金額が一つの目安とされているようです。

最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

 代表取締役の場合の功績倍率は、3倍が一つの目安といわれています。当然のことながら、創業社長で長期にわたってその会社の成長に大きく貢献している場合と、比較的短期間の就任期間である場合とでは倍率が大きく異なります。退職する役員が過去に会社に対して行った貢献について文書化しておくことが、あとで税務上問題にならないようにする上で大事なポイントです。
 なお、最終月額報酬の金額を大幅に上げた場合、退職金と同様に、役員報酬についても、不相当に高額な部分は否認され損金算入できない可能性があります。

4.受け取る側における税務上のメリットと注意点

(1) 退職金は退職所得控除後の金額の2分の1が分離課税に

 退職金を受け取った役員にとっては、その所得(退職所得)は所得税の対象になりますが、一定の退職所得控除がある上、他の所得と分離して課税されますので、税金負担の軽い有利な受取方法となります。多額の退職金を受け取る場合には、役員報酬として報酬を受け取る場合の所得税率に比べて税率が有利に計算されます。
 勤続年数が20年以下の場合には「40万円×勤続年数」の金額、勤続年数が20年を超える場合には、「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」の計算式で算出した金額の退職所得控除があります。退職所得控除後の金額は、他の所得と分離して、その2分の1の金額に対し、所得税の累進税率を適用して所得税が課税されることになります。住民税は退職所得控除後の金額の2分の1の金額に対して10%の税率が適用されます。

■退職所得の計算方法

所得金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2※1
退職所得控除額
• 勤続年数20年以下・・・40万円×勤続年数※2
• 勤続年数20年超・・・・800万円+70万円×(勤続年数※2-20年)

※1 ただし、役員としての勤続年数が5年以下の役員退職金等は1/2課税とならない。
また、一般社員等としての勤続年数が5年以下の退職金等の300万円を超えた部分は1/2課税とならない。
※2 年数の1年未満の端数は1年とする。

退職所得に係る所得税(住民税を含む)の税額の計算例
●退職金の額 5,000万円
●勤続年数 40年
●所得控除の額 総合課税所得金額から全額控除済み
●退職所得控除額
800万円 + 70万円 ×(40年 − 20年)= 2,200万円
●所得税額
(5,000万円 − 2,200万円) ÷ 2 = 1,400万円
1,400万円 × 33% − 153万6千円 = 308万4千円
308万4千円 × 1.021 = 314万8千円
●住民税額 1,400万円 × 10% = 140万円
●合計額 454万8千円

(2) 一定期間内に退職金を受け取っていると退職所得控除が少なくなる

 退職所得控除には、「前年以前に受け取った退職金がある場合、重複する勤続(加入)期間分は控除額から差し引く」という調整規定があります。

重複期間がある場合の退職所得控除額の調整
退職所得控除額
=(本年分の退職手当等の勤続年数に基づき算出した退職所得控除額)
-(重複期間の年数に基づき算出した退職所得控除額相当額)

※重複期間に1年未満の端数がある場合は切捨て。

以下の①・②の重複期間がある場合に調整。

①前年以前にその支払者または他の支払者から支払いを受けた退職手当等の勤続期間を通算して計算されている場合の、本年分の退職手当等の勤続期間と前年以前に支払いを受けた退職手当等の勤続期間との重複期間

②本年分の退職手当等の勤続期間と1~3に挙げる前の退職手当等の勤続期間との重複期間
 1) 前年以前4年内に支払いを受けた退職手当等(2、3は除く)
 2) 前年以前9年内にDC一時金(令和8年1月1日以後に支払いを受けたものに限る)の支払いを受けた場合(3の場合を除く)における次の退職手当等
  (イ)令和8年1月1日以後に支払いを受けた退職手当等であって前年以前9年内に支払いを受けたもの
  (ロ)令和8年1月1日前に支払いを受けた退職手当等であって前年以前4年内に支払いを受けたもの
 3) 前年以前19年内に退職手当等の支払いを受け、本年中にDC一時金の支払いを受ける場合における、前年以前19年内に支払いを受けた退職手当等

 つまり、①確定拠出年金(DC)一時金を受けた後に10年経たずに退職一時金の支給を受ける場合や、②退職一時金の支給を受けた後に5年経たずに退職一時金の支給を受ける場合、③退職一時金の支給を受けた後に20年経たずにDC一時金を受ける場合などは、重複する勤続期間分・加入期間分を退職所得控除の控除額から差し引かれることになります(ここでの「退職一時金」はDC一時金を除いたもの)。
 この退職一時金には、企業退職金のほか、小規模企業共済の共済金・解約手当金、中小企業退職金共済の退職金なども含まれます。退職金を受け取るタイミングを調整することで差し引かれる額を少なくできるため、退職所得控除をできるだけ活用したい場合は事前に税理士などの専門家にご相談ください。

(3) 死亡するまで在任し、死亡退職金を相続人が取得する場合のメリット

 生前に退職して退職金の支給を受けると、その分財産が増加します。4. (1)の「退職所得に係る所得税(住民税を含む)の税額計算例」でいえば5,000万円から所得税を引いた4,545万2千円財産が増加し、将来の相続税の課税対象が増加することになります。

〈死亡退職金の非課税枠〉
500万円×法定相続人の数※
※養子については、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までしか法定相続人の数に加えることはできない。

〈弔慰金の非課税枠〉
①業務上の死亡の場合
 …最終報酬月額の36カ月分
②業務上以外の死亡の場合
 …最終報酬月額の6カ月分

 死亡するまで在任し、死亡退職金を相続人が取得した場合、所得税は課税されません。また、相続財産ではありませんが、会社が支給した退職金については、相続税法上は「みなし相続財産」となり、相続税の課税対象となります。しかし、この死亡退職金や弔慰金に関しては、以下の金額は非課税扱いとされています。

 もっとも、生前退職金を支給すれば株式評価額は下がり、生前のうちに株式を後継者に移転しやすくなります。本来、早い時代の流れに対応できる真に経営力のある後継者を育てた上で、生前に退職し会社の経営を次代に引き継ぐことが望ましいといえます。

(4) 退職所得とみなされない場合とは

 税務上有利な退職所得控除ですが、そもそも退職金が退職所得としてみなされない場合は有利な税率が適用されないことになります。退職所得控除の恩恵を受けたい場合は注意が必要です。
 退職所得としてみなされない場合は主に次のケースです。

・役員退職金を分割支給されているケース
・分掌変更によって役員退職金が支給されたケース

①役員退職金を分割支給されているケース
 退職金を年金形式で受け取る場合、一時金とは異なり「雑所得」とみなされます。そのため、毎年の収入としてほかの所得と合算されて累進課税が適用されることとなります。

②分掌変更によって役員退職金が支給されたケース
 原則としては退職所得となりますが、前述した「分掌変更による退職金の要件」を満たしていない場合は退職所得とならず、賞与として給与所得となります。

5.おわりに

 本記事では、損金算入が否認される可能性のあるケースと、否認されないための対策、そのほか税務上の留意点について説明しました。
 否認されないための対策は一朝一夕でできるものではないため、退職間近になってからではなく、早いうちから社長退任後の見通しや規程の見直しを行っておくことが大切です。
 後継者への株式贈与のための退職金支給であれば、株式の評価下げのタイミングも重要となってきますので、税理士と一緒に計画的に取り組むことをおすすめします。

参考文献

・『事業承継ニュース』vol.7、vol.22、vol.34、vol.35(TKC出版)

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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