犬と猫の飼育頭数は1,500万頭を超え、世界有数のペット大国といわれる日本。長寿命化にともない高度医療のニーズが高まるなか、かかりつけ医、飼い主から厚い信頼を寄せられているのが「KyotoAR動物高度医療センター」だ。地域の駆け込み寺といえるセンターを訪ね、ゆえんを探った。
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JR京都駅からクルマで20分ほどの幹線道路沿いに、その医療センターはある。茶色を基調としたモダンな外観が目印だ。同じ久御山町内から現在の場所に移転したのは2022年のこと。移転を機に、神経病に特化した医療施設から、7つの診療科を擁する総合病院へ衣替えを果たした。
「二次診療施設として動物病院から紹介を受け、動物の診察、治療にあたっています。地域における動物医療の中核となる大学病院のような存在です」と神志那弘明センター長は施設の位置づけを説明する。
二次診療とは、かかりつけ医では対応の難しい高度な専門治療を、特殊な設備を用いて行う医療を指す。同センターの診療対象は犬と猫にかぎられる。近畿エリアはもちろん、北陸、東海地方からも飼い主が訪れる。
1.7月から放射線治療を開始
前身のKyotoAR獣医神経病センター創設者でもある小澤剛代表は、医療センターの経営において飼い主との関係づくりと同様、ホームドクター(かかりつけ医)との関係性を重視している、と強調する。
「われわれは特殊な設備を使用して診察するため、ホームドクターと診断結果が異なったり、新たな病気を発見したりするケースもあります。そうした場合でもホームドクターをリスペクトしつつ、飼い主さまに納得いただけるよう説明を尽くしています」
かかりつけ医との信頼構築に向けた取り組みとして、オリジナルの「診療報告書」の作成がある。報告書には身体、血液検査等の所見が記され、MRI検査やCT検査による画像も貼り付けられる。A4判用紙5枚ほどに達するときもあるという。
「各診療科のドクターが症例ごとに詳細な報告書を作成しています。読み物としても成立するような内容に仕上げており、二次診療施設がホームドクターに提出する報告書としては、質、量ともに充実しているのではと自負しています」(小澤代表)
近年は高齢化にともない、腫瘍や心臓病を患う犬や猫が増えている。22年の施設移転時に腫瘍科を設けていたものの、腫瘍治療に特化した施設を新たに立ち上げる必要性に迫られていた。こうして今年4月に、医療センターの隣に「KyotoARどうぶつ総合がんセンター」を新設。センター長に、腫瘍科に非常勤獣医師として勤務していた岩﨑遼太氏が就任した。
開設まもない総合がんセンターで際立つのは、最先端の設備である。放射線治療装置を備える民間動物病院は異例といえる。
「このほど導入した放射線治療装置は、人医療でもトップクラスの性能を持つ機械で、腫瘍に対して放射線をピンポイントで照射できる特長があります。犬、猫の場合、腫瘍の大きさは人よりも小さいため、より高い精度が求められます。犬や猫は息を止めて動かないよう指示できませんから、放射線治療時には全身麻酔が欠かせません。麻酔回数を減らして、体にかかる負担を軽減できるのも大きな利点です」(岩﨑氏)
この放射線治療装置は、6月上旬に開催された内覧会でお披露目され、7月中旬からの運用を予定している。
2.独自のインターン制度
KyotoAR動物高度医療センターでは、獣医師の育成、研修事業も柱に据えている。施策のひとつが一般の獣医師を対象とするセミナーの開催だ。センター所属の獣医師が講師となり、呼吸器疾患や腫瘍治療等多岐にわたるテーマを取り上げている。「オンライン形式で定期的に開催しており、ホームドクターの方々を中心に参加いただいています。若い獣医師の先生が講師を務めることで実力がつくし、モチベーションアップにもつながっているのでは」と、小澤代表は手応えを語る。
獣医師養成のためのトレーニング講習「インターン・レジデントプログラム」を設けているのも特色といえる。獣医師が同医療センターに3年間常勤の勤務医として所属し、総合外科医を目指す。各診療科の専門医の指導のもと、幅広い知識を身につけられるとあって好評を博している。神志那氏によると4期目に入ったいま、2名の修了生が医療センター所属獣医師として活躍しているという。
「獣医師免許取得後2年目以降の方を対象とし、はじめの2年間は7つの診療科を約3カ月ごとにローテーションを組んで担当してもらいます。そして3年目は外科手術の執刀医を務めるなど、実践的なカリキュラムとなっています。一緒に診療、手術して伴走指導するところが特徴です」(神志那氏)
今後は、獣医学部の新卒者に対象を拡大させていく意向だ。
3.信用力で資金を調達
国内ではまれな放射線治療が可能な動物医療施設として、50名に迫るスタッフを抱えるまでに成長したKyotoAR動物高度医療センター。二次診療施設における放射線治療装置の導入という画期的な試みの背景には「長年温めてきた思いもあった」と小澤代表は明かす。
「30年ほど前に米国の獣医大学を視察した際、放射線治療の存在を知り、非常に感銘を受けました。これからの日本の獣医療を考えると、放射線治療が必要になる日はやって来るだろうと。CT、MRI装置と順番に導入してきましたが、放射線治療装置は費用面でハードルが高かったのです。診療科を増やし、神志那先生と岩﨑先生を迎えることで経営の見通しがたち、装置を導入できました」
放射線治療装置は導入に数千万円から数億円を要し、維持コストも発生する。まとまった資金が必要になったが、金融機関との交渉の末、融資を引き出した。巡回監査のため医療センターを毎月訪問している粟津英昭税理士は内幕を語る。
「小澤代表は組織設立以来、17期にわたり黒字経営を継続され、近年では月次試算表を取引金融機関に毎月送信しています。特筆されるのは、設備投資資金をメイン行からプロパー融資として調達されたこと。金融機関との信用の積み重ねと、小澤代表の経営手腕によるところが大きいと思います」
日本で古来愛玩されてきた犬と猫。家族の一員として、ときに人生の伴侶として存在感は高まるばかりだ。総合がんセンターで放射線治療が始まれば、かけがえのない動物の生存率は一層高まるだろう。小澤代表はこう意気込む。
「民間の動物病院における放射線治療装置の導入は、動物医療業界にかなり大きなインパクトを与えるでしょう。装置が本格的に稼働すれば、治療例が積み上がり、ノウハウも蓄積していきます。後進の獣医師の育成にも注力し、将来的には、農林水産省や各種学会指定の教育病院認定を取得したいと考えています」
(取材協力・税理士法人アチーブメント/本誌・小林淳一)
| 名称 | 株式会社京都動物高度医療センター |
|---|---|
| 設立 | 2009年8月 |
| 所在地 | 京都府久世郡久御山町佐山中道33番 |
| 売上高 | 4億8,000万円 |
| 従業員数 | 49名 |
| URL | https://www.kyotoar.com |
| 顧問税理士 | 税理士法人アチーブメント 代表社員佐藤正行 京都府京都市西京区川島有栖川町97番地2 URL: https://www.tkcnf.com/achieve/index |
掲載:『戦略経営者』2026年7月号
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