栃木県宇都宮市に本拠を置く株式会社YTW。単年度経営計画で策定した目標数値を、創業2年目から現在まで7年連続で売上高、利益とも達成している。課題山積みの在宅医療・介護業界で堅実に成長を続ける秘訣とは──。
ご承知の通り、在宅医療・介護業界は厳しい環境下にある。にもかかわらず、地道かつ着実に成長を続けているのが栃木県を拠点に、訪問看護・居宅介護支援・訪問介護の3事業を展開する株式会社YTWだ。
2018年の創業からわずか7年で、年商2億円規模へ成長。業界全体が人材不足や収益性の課題に直面するなかで、同社が安定成長を実現できている背景には、現場力だけでは語れない"経営の仕組み"がある。
その中心にあるのが、「経営計画」を軸に据えた経営である。本稿では金田康弘社長の歩みを軸に、浜村智安顧問税理士、月次巡回監査を担当する佐藤啓好氏(巡回監査士)の視点を交えながら、YTWの経営の本質に迫る。
1.高校時代の友情から始まった
YTWの原点は、金田社長と高校時代の同級生、佐々木崇文氏とのつながりにある。2人はそれぞれ看護師としてキャリアをスタートし、大学病院で同時期に勤務していた。
金田社長は、3年ほど看護師として活動した後、飲食店経営を手掛けていた。そうした際、佐々木氏から訪問看護の会社を立ち上げるとの話を聞く。
「正直、すごくワクワクしました。病院とは違うフィールドで、人の生活そのものを支える仕事だと感じました」(金田社長)
金田康弘社長
18年、2人はYTWを立ち上げる。YTWという社名は、2人の名の頭文字「Y」「T」と、"Work"を意味する「W」に由来する。役割分担は明確で、佐々木氏が現場を、金田氏が経営を担う体制でスタートした。
YTWは現在、訪問看護ステーション「Fullness」を中心に居宅介護支援(ケアマネジメント)、訪問介護の3事業を展開する。金田社長は言う。
「在宅では、医療だけでも、介護だけでも足りない。だからこそ、この3つがそろっていることが大きな強みになっています」
ケアマネジャーを司令塔に、医療と介護を一体で提供できる体制は、利用者だけでなく医療機関や地域からの信頼につながり、顧客獲得の循環を生み出してきた。こうして、創業当初は数千万円規模だった売上高は、事業の拡大とともに着実に積み上がっていく。
2.コロナ禍を契機に予算策定
事業が加速したのはコロナ禍だった。病院での面会制限を背景に、在宅医療へのニーズが一気に顕在化したのである。
一方、金田社長が並行して行っていた飲食店経営は逆風にさらされる。結果として飲食事業を整理し、YTW一本に集中する決断を下す。
「今振り返ると、腹を括った瞬間でした。経営者として逃げられなくなったとも言えます」
しかし、好調なスタートダッシュの裏で、金田社長は強い不安を感じていた。
「創業当初は"根性論"でした。とにかく仕事を断らない。全部受ける。でも、これで本当に大丈夫なのかが分からなかった」
(左)心身共に利用者を支援、(右)創業メンバーの佐々木崇文氏(左)、和久井大輔氏(中)と金田社長
人は増えていく。拠点も広がる。しかし、判断のよりどころは感覚のみ。そのタイミングで、税務顧問である浜村税理士との関係が本格化する。
浜村税理士が言う。
「金田社長のやりたいことは明確でした。事業をどうしたいか。社員をどう守りたいか……ただ、それが"数字に翻訳されていなかった"のです。まずは経営計画として、社長の目標を言語化・数値化する必要がありました」
浜村智安税理士
そこで、本格的に取り組み始めたのが、『継続MASシステム(※)』を活用した単年度の経営計画の策定だ。次期の目標経常利益、売上高、限界利益率、従業員給与・賞与、期末の人数(役員含む)などを『継続MASシステム』に入力して、基本計画を策定。それを会計システム『FX2クラウド』に落とし込み、月次での予実管理を徹底する体制を整えたのである。
1年目は、浜村会計が主導で経営計画を組み立てたが、2年目からは金田社長から「今年はこれくらいを目標にしたい」と具体的な数字が出てくるようになった。「これは大きな変化でした」と浜村税理士は言う。
「われわれが技術的に数字を"直して整える"のではなく、"社長の意思を聞き切る"ことを大切にしています。社長の頭のなかを数字にするのです。計画は、社長自身のものでなければ意味がありません」
※ 継続MASシステム…経営者のビジョンに基づいた「中期経営計画」と、次年度の業績管理のための「単年度予算」、「短期経営計画」の策定を支援するシステム
3.「数字で考える経営」が形成
当初、経営計画を実践的に活用することは決して簡単ではなかった。だが、一つずつ説明・理解し、積み上げる中で、金田社長の中に「数字で考える経営」が形成されていった。
「最初はPLもBSも、正直よく分かっていませんでした。でも、計画を作る過程で、"なぜこの数字が必要なのか"が腹落ちしてきました」と金田社長。
数字は、ただ管理するためのものではなく、会社の舵をとるための指針だった。
現在、YTWの経営は明確だ。年度初めに経営計画を策定し、月次で予算と実績を必ず照合する。この運用を担っているのが、佐藤氏による巡回監査だ。
佐藤氏はこう言う。
「巡回監査では、単に"数字が合っている、合っていない"を見ているわけではありません。今月の数字が示している"経営上のメッセージ"を、社長と一緒に確認しています。つまり、なぜそうなったのか、来月どうするかまで話をするのです」
佐藤啓好巡回監査士
特に注視しているのが、人件費比率だという。この業界は人件費が経費の大半を占める。
金田社長は言う。
「人を1人増やしたら、売上高はいくら必要なのか。それが分かっていない経営は危険です」
人が足りないからといって、むやみに募集すると、思わぬ赤字に陥る危険性がある。人を採用することで、どのくらい生産性が上がり、売上高と利益をどの程度獲得できそうかを把握していないと、経営の根本を揺るがすことになる。
そうならないよう、経営計画の目標数値と実績を、月次決算で確認(予実対比)することによって、異常値を探知。そこに対して適切な手を打つことで、ズレは早期に修正される。
4.経営計画が未来への地図に
経営計画の策定は、3つの事業を担う管理者との関係性も変えた。以前は「もっと頑張ろう」という抽象論だったのが、今は「何件足りないのか」「どこがボトルネックか」を数字で共有できる。
緻密な経営計画をもとに成長軌道を形づくってきた
「感情ではなく、事実で話せる。これが大きい」と金田社長は言う。佐藤氏も「経営計画があるので社長の判断がブレないんですね。それが管理者の安心感にもつながっていると感じます」と続ける。
現在、金田社長は10年後を見据えている。目標とする年商5億円という数字だけでなく、3事業一体型モデルの強みを生かした他地域への展開も視野に入れつつある。浜村税理士が補足する。
「単年度の計画を積み重ねているからこそ、中長期の話が現実的になります。計画が、未来への地図になっていると感じます」
YTWの経営理念は「人を想い、共に創る」である。現場出身の経営者として、人を最優先に考えた姿勢は一貫している。そのためにこそ「経営計画」が必要だと金田社長は語る。
「理念だけでは人は守れません。利益を出し続ける仕組みがあってこそ、社員も家族も守れる」
現場で多くの命と向き合ってきた金田社長にとって、人が最優先であることは変わらない。だからこそ数字から逃げない姿勢を大切にしている。
佐藤氏も、現場での変化を強く感じている。
「社員の安心感は、離職率の低さにもつながっています」
会社全体のノウハウは順調に積み上がっている。創業2年目から策定している経営計画による目標数値は、昨期まで7年連続で達成。現場を知る経営者が、数字を味方につけるYTWの挑戦は、介護・医療業界における「経営計画」に基づいた経営の、ひとつの理想的モデルと言えるだろう。
(取材協力・税理士法人浜村会計/本誌・高根文隆)
| 名称 | 株式会社YTW |
|---|---|
| 業種 | 在宅看護・介護業 |
| 設立 | 2018年5月 |
| 所在地 | 栃木県宇都宮市陽南2-14-14 |
| 売上高 | 約2億円 |
| 従業員数 | 40名(パート含む) |
| システム | FX2クラウド |
| URL | https://ytw.co.jp |
| 顧問税理士 | 税理士法人浜村会計 所長・税理士 浜村智安 栃木県宇都宮市中戸祭町839 URL: https://www.kuroji.bz/office |
| 名称 | National Search Fund株式会社 |
|---|---|
| 設立 | 2022年6月月 |
| 所在地 | 東京都港区港南2-16-2 太陽生命品川ビル28階 |
| URL | https://ns-fund.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年6月号
記事提供
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