月次で業績を把握し、数字をよりどころに意思決定を重ねてきた老舗ヘアケア用品メーカー・キンバトの高松欣矢社長。コロナ禍を機に主力事業をOEMに舵を切った同社は、顧問税理士や金融機関との信頼関係を土台に、堅実成長への道を切り開いている。
(写真)右端が関西みらい銀行今里支店・緑橋支店の堀江篤氏
「足元の業績を把握しておかなければ、自社の現状や課題を正しく認識できません。その結果、誤った経営判断を下してしまう恐れがあります。ベースアップや設備投資といった意思決定を自信を持って行うためには、今どのくらい儲かっているのか、どれだけのキャッシュを蓄えているのかを常に把握しておくことが不可欠です」
シャンプー、トリートメント、ヘアオイルなど、美容室向けヘアケア用品の製造を主に手がけるキンバトの高松欣矢社長はこう語る。創業者の祖父、先代である父親と代々受け継がれてきた経営のバトンを2018年に受け取った3代目だ。
1.限界利益に注目する
高松社長は得田政臣顧問税理士(税理士法人PAL)のサポートを受けながら、月次で業績や資金繰りの状況を確認し、経営課題の把握や打開策の検討を進めてきた。なかでも重視しているのが限界利益(率)の動向だ。この指標を注視することで、材料を使いすぎてはいないか、生産ロスが発生していないかといった製造現場の課題について仮説を立て、改善策を検討している。こうした取り組みを地道に積み重ねた結果、この数年は黒字が継続するなど、業績を緻密に管理することの効果が着実に表れている。
このほか、業績管理が意思決定に生かされた例として、年明けから春先にかけて実施した社屋の外壁塗装工事がある。工事費用を支出しても経常利益の確保や、キャッシュフローに支障が生じないかを慎重に検証した結果、「業績への影響は限定的」と判断し、工事の実施に踏み切った。
「本社と工場機能をあわせ持つこの社屋は、修繕を重ねながら使い続けてきた思い入れのある建物です。塗装工事の判断を下すにあたってよりどころとしたのが『会計』でした。限界利益率が前年より高い水準で推移していたことから、投資の余力があると判断したのです」(高松社長)
高松欣矢社長
2.流行の移り変わりが経営を直撃
同社は1947年創業で、約80年にわたる業歴を誇る。その間、ヘアスタイルの流行は目まぐるしく移り変わり、同社もその変化に対応するべく、取り扱い製品を組み替えながら事業を展開してきた。その道のりは決して平たんではなく、市場の変化に翻弄されながらも、試行錯誤を重ねてきたという。
創業からしばらくの間は、男性向け整髪料のポマードが主力だったが、日本にパーマブームが到来すると、美容室向けパーマ液の製造・販売へと軸足を移した。「80年代を中心に『パンチパーマ』や『聖子ちゃんカット』が広く支持され、売り上げの大半をパーマ液が占める時期が長く続きました」と高松社長。しかし、90年代に入るとパーマの流行は下火となり、市場環境は大きく変化。以後、同社の経営は低迷期に突入する。
高松社長が後継者としてキンバトに入社したのは、業績が下降線をたどり始めた時期のこと。当時、苦境の真っただ中にある高松社長を支えたのが、会計事務所の職員として同社の巡回監査を担当していた得田税理士だった。
「そのころ、高松社長は後継者、私は税理士を目指す会計事務所の職員という立場でした。互いに"夢"を語り合う関係で、そうした将来像を描く一環として提案したのが経営計画の策定です。先代の高松剛史会長と高松社長から、会社の目指す姿やその実現に向けた施策についてヒアリングし、計画を作り上げていきました」(得田税理士)
当時策定した経営計画には、高松社長の目標や将来構想が数多く盛り込まれており、その一部が現在、実行に移されている。
3.顧客に徹底的に寄り添う
その一つがヘアケア用品の受託生産(OEM)である。コロナ禍を契機に、同社は事業の柱を自社製品の製造販売からOEMにシフトした。その理由を、高松社長はこう語る。
(左)大阪市内にある社屋は外壁塗装工事がこのほど完了した、(右)美容室向けヘアケア用品のOEMが主力事業
「OEMには以前から挑戦したいと考えていました。自社で販売機能を抱える必要がなく、製品づくりに専念できる点、製造機能をフル活用できる点に魅力を感じたからです」
コロナ禍で対面での営業活動が制限された結果、自社製品の受注量が下降の一途をたどる。工場の稼働率は悪化し、従業員の手待ち時間も増えた。しかし、高松社長はこの状況を反転攻勢に向けた好機と捉える。空いた時間を活用して製品の研究開発を進めるなど、かねての目標だったOEM事業に本格的に取り組むことを決めた。
「製品づくりにおいて常に念頭に置いているのは『お客さまに徹底的に寄り添う』ことです」と高松社長は語る。顧客が求める品質に達するまで試行錯誤を繰り返す。この積み重ねが委託元との信頼関係の醸成に結びつき、次第に同社に製造を委託する企業が増えていった。
実際に、同社と共同でトリートメントを製造しているヘアサロンTihraの石原英明代表は次のように話す。
(左)Tihraの石原英明代表取締役、(右)得田政臣顧問税理士
「お客さまに安心してヘアカラーを楽しんでいただきたいとの思いから、キンバトさんの力を借りて当サロンオリジナルの製品をつくっています。お客さまの要望は多岐にわたるため、キンバトさんに対して細かい意見や要望を出すことも少なくありません。それでも高松社長は私の意図を丁寧に汲み取り、『別の成分を配合しましょうか』『この成分は外しましょう』など、さまざまな提案をしてくださるので、こうしたやり取りを何度も繰り返すことで、最終的には納得のいく製品に仕上がっています」
こうしてOEM事業は軌道に乗り、低迷していた業績も回復基調へと転じた。売上高も5年で約2倍以上に伸長。「製品構成比ではOEMが自社製品を大きく上回っています」と、高松社長はOEMの広がりに確かな手ごたえを感じている。
4.適時の業績開示が迅速な支援に
暖かな陽光が差し込む春先のある日、高松社長、得田税理士、関西みらい銀行今里支店・緑橋支店の堀江篤氏が同社の応接室に顔を揃えていた。
この日行われたのは、金融機関を交えた業績報告会。得田税理士の進行のもと、TKCの会計システムに搭載されている《365日変動損益計算書》をモニターに映しながら、月次業績の報告が行われた。堀江氏から直近の受注動向について問われると、高松社長は「時期によって波があるものの、前年に比べて微増のペースで推移しています」と回答。その後、当面の受注予定や今後の事業展開などについて意見交換が行われ、業績報告会は和やかな雰囲気のうちに終了した。
(左)《365日変動損益計算書》を映しながら業績報告が行われた
「月次で業績を管理されていることが、会社の堅実な成長につながっていると思います。また、『TKCモニタリング情報サービス(MIS)』を通じて、毎月の試算表と決算書を共有いただいているので、当行としてもキンバトさんの状況が手に取るように分かり、支援策の検討を素早く進めることができています」と、堀江氏は同社の透明性の高い業績開示の姿勢を高く評価する。
「従業員のリストラに踏み切ったり、流行に合致した商品を販売してみたりと、これまで紆余曲折がありましたが、今ようやく成長の兆しがみえてきました。今後も得田先生や関西みらい銀行さんのサポートを得ながら、さらなる飛躍を目指していきたいですね」
そう未来を見据える高松社長のまなざしは、力強さに満ちていた。
(取材協力・税理士法人PAL/本誌・中井修平)
| 名称 | 株式会社キンバト |
|---|---|
| 業種 | ヘアケア用品製造業 |
| 創業 | 1947年3月 |
| 所在地 | 大阪府大阪市生野区巽西2-5-5 |
| 売上高 | 2億4,000万円 |
| 従業員数 | 16名 |
| 利用システム | FX2 |
| URL | https://www.kinbato.co.jp |
| 顧問税理士 | 税理士法人PAL 得田税理士事務所 税理士 得田政臣 大阪府大阪市東成区大今里南5-20-5-102 URL: https://tokuda-tax.tkcnf.com |
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掲載:『戦略経営者』2026年6月号
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