2026年06月01日

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石油不足は何をもたらすか 企業の「予防的行動」が石化製品需給に大きく影響

石油不足は何をもたらすか 企業の「予防的行動」が石化製品需給に大きく影響

中東情勢の混迷が続くなか、原油供給の不安は、石油化学製品の領域にも波及し始めている。プラスチックや化学素材の供給は今後どのように変化していくのか。丸紅経済研究所の桒名奈美氏に、ナフサ不足がもたらす影響や今後の見通しなどについて解説してもらった。

丸紅経済研究所 上席主任研究員 桒名奈美氏
くわな・なみ●東京大学法学部卒業。日系金融機関を経て2017年から鉄鋼系シンクタンクにて鉄鋼業を中心に環境・エネルギー政策や技術動向調査・需給分析を担当。2023年から丸紅経済研究所。主に金属・化学・エネルギー産業のサプライチェ―ン分析や環境・エネルギー政策分析などを担当。

 石油化学製品の主な原料であるナフサ不足がもたらす影響は、大きく2つに整理できます。

 1つは、石化サプライチェーン(供給網)の混乱が長期化するリスクです。ナフサは日用品・医療物資から半導体関連に至るまで、非常に多様な製品の源となっているので、供給不安が解消されたとしても、修復にはかなり時間を要するでしょう。

 例えば、国内全プラスチック需要の約15~20%を占める建築・土木向け化学品は、塗料や断熱材、塩ビ配管などの供給逼迫により、建設の完工遅延リスクが顕在化しました。また、自動車製造に欠かせない樹脂部品や溶剤、塗料、接着剤などの副資材の供給逼迫も製造ラインを直撃しています。食品や農業分野でも、包装用プラスチック、農業用ビニールなどが不足していると報じられています。

 もう一つは、原料変更に伴う品質問題や、製品バランスのゆがみです。ナフサの調達を中東産以外へ切り替えることで、分解するナフサの性状が大きく変われば、品質の違いから副生留分の生産量が変わり、特定の製品で予期せぬ供給逼迫が起こり得ます。たとえば軽質ナフサに代替することで、香料や溶剤原料などとなる芳香族(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)の生産量が減少するといったリスクです。原料変更に対応して石油化学プラントの改修工事が必要になることもあります。

1.危機収束後も高値は続く

 前述したように、川下では局所的に手に入りにくい製品があることは事実です。ただ直ちに国内のエチレンクラッカー(ナフサなどの原料を高温・水蒸気で分解し、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品を製造する装置)の操業が全面停止に陥るようなリスクがある状況ではありません。エチレンクラッカーの直近の稼働率は大きく落ち込んでいるものの、ポリエチレンやポリプロピレン(ポリオレフィン)の在庫は3カ月分程度確保できているとされています。川上製品は、川下製品の市場ほどの切迫感はないといえます。

 その一方で、川下に行けば行くほど使う資材の種類が増え、何がどれだけ不足するのかが見えにくくなります。体力の小さい企業ほど最悪のシナリオを前提に動かざるを得ず、在庫を積み増したり、受注や出荷を絞って混乱を避けるといった「予防的行動」が起きやすくなります。

 今後の見通しを考えるうえで重要なのは、ホルムズ海峡の実質的な封鎖がいつ収束するかだけではありません。仮に通航が改善しても、滞留していた船を戻したり、攻撃や操業への影響を点検したりするなど、供給制約が解消されるまでには時間がかかることが予想されます。また、どの原料がどれくらい足りないかという分析よりも、市場が何をメッセージとして受け止めるかが混乱の行方を左右するかもしれません。つまり「原料調達の不透明感が解消された」というマインドが市場参加者に共有されることが重要です。

 仮に、政府が示しているように「数カ月分の供給量を確保している」というメッセージが市場に浸透し、その期間内に事態が収束するならば、減産や需要減退は起きても、限定的な範囲にとどまるでしょう。価格は高騰し、一部資材の逼迫も起こりますが、いずれも一時的な現象として収束すると思われます。ただし、危機が収束しても地政学リスクが消えるわけではありません。化学品の価格が元の水準に戻るとは限らないのです。取引条件や価格形態が変更され、サーチャージ制が導入されるなど、川下の企業が価格変動を受け入れざるを得ない構図が生まれる可能性もあります。

 供給制約が長期化する場合は、局面が変わります。政府としても需要抑制策を検討せざるを得なくなり、中東外ナフサの調達が一時的なものではなくなるためです。事業者は中東外ナフサの調達拡大や、ナフサ以外の原燃料の利用拡大が求められるでしょうが、調達コストの高止まりの中で採算を維持できるのかが大きな問題となっていくでしょう。中長期で原料が変われば、製品バランスの変化も懸念されますが、どの川下製品の供給が詰まってくるのかは不透明です。結果として減産が長引き、資材不足に関するメディアの報道が続き、企業の予防的行動がさらに加速する――こうした状況になれば、消費者側でも買いだめが発生し、需給の混乱が深まるリスクが高まるでしょう。

2.輸入増に加え供給網再構築も

 さらに長期で見ると、供給不足だけでなく需要が破壊的に減少するシナリオも考えられます。世界経済が一気に景気後退局面に入れば、需要が大きく落ち込むことで供給逼迫のインパクトが相対的に小さく見える局面が起こるかもしれません。ただ、当然それは企業にとって本来好ましい状態ではありません。供給懸念から始まった危機が、需要減退と組み合わさることで、別の形で市場が調整を強いられるリスクがあるからです。

 それはサプライチェーンそのものが見直されるリスクです。中東情勢の影響は、原油やナフサの直接的な輸入制約にとどまりません。中東産の原燃料を用いた国内生産への制約や、第三国の精製・加工拠点を経由した間接的な波及、価格上昇や物流混乱を通じた二次的な影響も考えられます。そのため、企業には代替調達、在庫の持ち方、第三国ハブへの依存度、川中製品の輸入可能性などを含め、供給網全体を点検する動きが広がるでしょう。危機対応が長期化すれば、一時的な輸入にとどまらず、海外品も含めた調達・生産体制の見直しにつながる可能性があります。結果として、危機収束後も価格や商流が元に戻るとは限らず、国内生産体制の維持と代替調達をどう両立するかが課題になると思います。

ナフサ不足の主な影響経路、識者の見解

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2026年6月号

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