2026年06月17日

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中小企業が押さえたい 社員の副業・兼業のルール作り

中小企業が押さえたい 社員の副業・兼業のルール作り

副業・兼業は、一部の限られた働き方ではなくなりつつあります。中小企業でも、採用や定着の面から無関係ではいられません。会社として何も決めないままにしておくと、長時間労働や健康管理、情報漏えい、競業といった問題が起こりやすくなります。この記事では、副業・兼業の広がりを踏まえながら、中小企業が整えておきたい社内ルールや、運用上の注意点を分かりやすく解説します。

💡この記事のポイント
 ☑副業・兼業は広がっており、中小企業でもどう対応するか考えておきたい
 ☑厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業を一律禁止にするのではなく就業規則や届出で条件を整備して運用する考え方が基本となっている
 ☑副業・兼業を認める場合は、労働時間や健康管理、情報漏えい・競業の確認まで含めて考えることが大切になる

1.中小企業でも無関係ではない副業・兼業

 副業や兼業は、働き方の変化や収入を得る手段の多様化などによって、以前より身近になってきました。中小企業では日常業務のなかで強く意識しないこともあるかもしれませんが、採用や定着、労務管理を考えるうえで、無関係ではいられないのが現状です。まずは、その広がりと背景を見ておきましょう。

(1)副業・兼業の広がり

 総務省の2022年就業構造基本調査では、副業がある人は305万人、現在の仕事を続けながら別の仕事もしたい「追加就業希望者」は493万人でした。副業・兼業は、一部の人だけの特別な働き方ではなく、すでに広がりのある選択肢になっていることが分かります。

 また、副業・兼業をする理由は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、「収入を増やしたいから」が54.5%で最も多く、「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから」が38.2%で続いています。新しい経験を積むためという面はあるものの、生活を支えるための手段であることがうかがえます。

(2)中小企業も考え方を持っておきたい

 会社側の対応も少しずつ分かれてきています。2024年の中小企業白書による調査結果では、「雇用による副業・兼業」を認めている、または今後認める予定の会社は約3割でした。一方で、「認める予定はない」「検討していない」とする会社も少なくありません。現時点では、会社ごとにスタンスが分かれている段階だといえます。
副業・兼業は、労務管理やリスク管理にも関わってきます。会社が把握していない副業が行われていた場合、長時間労働や健康面への影響が見えにくくなることがありますし、仕事内容によっては情報漏えいや競業の問題も考えられます。会社としては、副業・兼業を認める・認めない以外にも整備すべき事項が多くあるということです。
 一方で、副業・兼業には会社側・労働者側の双方にメリットもあります。会社にとっては、人材確保や定着の面で柔軟な働き方を示しやすくなるほか、社員が社外で得た経験や知識が本業に生きることもあります。労働者にとっても、収入の補完に加えて、スキル向上やキャリアの幅を広げる機会になりえます。だからこそ、単に認める・認めないではなく、メリットとリスクの両方を踏まえて社内ルールを整えることが大切です。
 次章では、その考え方を社内ルールとしてどう整えればいいのかをご紹介していきます。

2.まず整えたい副業・兼業の社内ルール

 副業・兼業に対応するうえで、まずは社内ルールの整備が大切です。会社としてどう扱うのかが決まっていないと、相談を受けたときに対応が遅れたり、一貫した対応ができないことが考えられます。

(1)一律禁止ではなく、考え方を明確にしておく

 厚生労働省では、会社と労働者に向けた副業・兼業に関するガイドラインやモデル就業規則を公開していますので、これらを参考に、会社として何を考えればいいのかを整理していきます。

厚生労働省「副業・兼業」

 このガイドラインでは、基本的な考え方として「裁判例を踏まえ、副業・兼業は原則として認める方向とすることが適当」と最初に示されています。
 背景には、過去の裁判例でも示された「労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由」という考え方があります。そのうえで、本業への支障や秘密漏えい、競業、信用毀損などの問題がある場合には、例外的に禁止や制限がありうるとされています。
 つまり、最初から一律に禁止するのではなく、原則は認めつつ、問題が生じる場面を就業規則や運用で明確にしていく考え方が基本になっています。
 モデル就業規則でも、従来の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業に関する規定を新設しており、この考え方に沿った見直しが行われています。

 中小企業では、これまで慣行として「副業は禁止」としてきた会社もあるでしょう。もちろん、会社の事情によって一定の制限が必要になることはあります。ただ、その考え方が就業規則などに十分に落とし込まれていないと、採用時にも在職中にも説明しづらくなります。たとえば、ある社員には認めて別の社員には認めないとなれば、その違いをどう説明するのかという問題も出てきます。

(2)就業規則と届出で、運用できる形にする

 このように、副業・兼業は原則として認める方向で考えるとしても、会社として何も決めないまま運用することはできません。そこで必要になるのが、就業規則で「どのような場合に制限できるのか」を明確にしておくことです。
 ガイドラインでは、例外的に禁止または制限できる場合として、

①労務提供上の支障がある場合
②業務上の秘密が漏えいする場合
③競業により自社の利益が害される場合
④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を壊す行為がある場合

 この四つを挙げています。
 ここで大切なのは、就業規則に単に副業禁止とだけ加えるのではなく、これらの例外事項と照らし合わせて自社では何が問題になるのかを具体的にしておくことです。
 たとえば、同業他社での勤務は競業の観点から慎重に扱う、顧客情報に触れる仕事は秘密保持の観点から制限する、本業に影響する長時間の副業は認めない、といった具体例を想定しておきましょう。判断基準が分かる形になっていれば、個別の相談があったときにも判断理由を説明しやすくなります。

 ただ、就業規則を整備するだけでは十分ではありません。実際に副業を始めた社員がいたとしても、どんな副業をしているのかを会社側が分かっていないと、基準に当てはめて判断できないからです。
 そこで必要になるのが労働者から届出によって申告をしてもらう仕組みです。
 副業先、業務内容、契約期間、働く時間など、最低限の情報を届け出てもらって把握できるようにしておけば、その後の判断や確認もしやすくなります。

厚生労働省の届出様式例
(出所:厚生労働省「副業・兼業に関する届出様式例」)

 中小企業では、最初から独自様式を細かく作るより、厚生労働省で公開されている届出様式例(※Word形式でダウンロード可能)や合意書様式例を参考にしながら、自社で使いやすい形に直す方が進めやすいでしょう。
 原則的な扱い、制限する場面、届出の仕組みがそろってはじめて、社員の副業・兼業の内容を把握しやすくなります。次章では、それを把握しておくことがなぜ大切なのか、労働時間と健康管理の面から見ていきます。

3.労働時間と健康管理などで注意したいこと

副業のイメージ

 副業・兼業を認める場合は、就業規則や届出の仕組みを設けるだけでは十分ではありません。実際の働き方によっては、労働時間の管理や健康面への配慮、税務や社会保険への注意も必要になります。

(1)副業先でも雇用される場合は、労働時間を通算して考える

 副業・兼業でまず注意したいのは、副業先でも雇用契約のもとで働く場合です。この場合は、本業と副業先の労働時間を通算して考える必要があるため、会社としても、副業先でどのように働くのかを確認しておくことが大切になります。

雇用契約のある副業・ない副業の例

働き方 勤務形態
雇用契約のある副業 副業先に雇われ、勤務日や時間が決められ、業務の指示を受けて働く 他社でのアルバイト、パート、契約社員としての勤務
雇用契約のない副業 業務委託や請負などで仕事を受け、自分の裁量で進める 原稿執筆、デザイン、講師業、システム開発の受託など

 つまり、本業の勤務時間だけを見ればよいわけではありません。たとえば、他社で継続的にアルバイトやパートをしている場合や、副業先でも残業がある場合は、疲労の蓄積や集中力の低下につながりやすくなります。副業・兼業を認めるなら、本業とあわせた働き方を把握しておくことが大切です。
 また、所定労働時間を通算した結果、法定労働時間である1日8時間または1週40時間を超える部分があれば、その部分は時間外労働になります。ガイドラインでは、この場合、時間的に後から労働契約を結んだ会社が、自社の36協定の範囲でその時間外労働を行わせることになると示されています。
さらに、労働時間の管理方法には、通常の通算管理の考え方に加えて、「管理モデル」と呼ばれる方法もあります。これは、副業・兼業の労働時間管理について、労使双方の負担を軽くするために、本業と副業の時間の上限をあらかじめ決めて運用する方法です。管理モデルを用いる場合も含め、通算した時間外労働には単月100時間未満、複数月平均80時間以内という上限規制があり、これはあくまで法律上の上限であって、実際には長時間の時間外労働にならないようにすることが望ましいとされています。

項目 確認しておきたいポイント
労働時間の通算 副業先でも雇用されている場合は、本業と通算して考える
法定外労働 通算した結果、1日8時間、1週40時間を超える部分があるか
36協定・割増賃金 原則的には、通算により法定労働時間を超えた部分について、時間的に後から契約した会社側で対応が必要になる
上限規制 通算した時間外労働が単月100時間未満、複数月平均80時間以内に収まっているか

 数字だけを見ると難しく感じるかもしれませんが、実務でまず大切なのは、本業と副業先を合わせて無理のない働き方になっているかを確認することです。副業先でどの程度働いているのかが分からなければ、本業側でどこまで時間外労働を認められるのかも判断しにくくなります。

(2)健康管理まで含めて考えることが大切

 もう一つ大切なのが健康管理です。副業・兼業を認める場合は、労働時間の管理だけでなく、過重労働を防ぎ、健康を損なわないようにする視点も欠かせません。ガイドラインでも、会社と労働者がコミュニケーションをとり、副業・兼業によって健康を害していないか、本業に支障が出ていないかを確認することが望ましいとされています。
 会社として意識したいポイントは、たとえば次のようなものです。

・健康管理を本人任せにせず、無理な働き方になっていないかを確かめる
・体調や疲れに変化があれば、早めに相談できる状態をつくる
・副業先との兼ね合いも踏まえ、本業側の残業や休日労働を抑える
・必要があれば、もう一段丁寧な健康管理も考える

 ガイドラインで挙げられている健康確保措置も、特別に難しいものばかりではありません。

・労働者に、健康保持のための自己管理を促す
・心身の不調があれば、その都度相談してよいことを伝える
・副業・兼業の状況に応じて、必要があれば法律を上回る健康確保措置を行う
・自社での労務と副業先での労務の兼ね合いを踏まえ、時間外・休日労働の免除や抑制を行う

 中小企業でも、まずは面談の機会を設ける、相談先を明確にする、残業が重ならないよう調整するといった運用からが始めやすいでしょう。本業に目立った支障が出てから対応するのではなく、疲れや不調のサインを早めに拾えるようにしておくことが大切です。

(3)税務・社会保険の手続きも確認しておく

 副業・兼業では、労務管理だけでなく、税務や社会保険の手続きにも注意が必要です。副業が給与所得に当たる場合は、住民税の取り扱いがきっかけで、本業先に副業の存在が伝わることもあります。また、副業先でも社会保険の加入要件を満たすと、二以上事業所勤務の手続きが必要になる場合があります。実際の取扱いは働き方や勤務先の条件によって異なるため、副業を認めるかどうかの社内方針を決める段階から、顧問税理士や社会保険労務士に相談しておくと安心です

4.トラブルを防ぐために確認しておきたいこと

 後から副業先や働く時間、業務内容が変わることもあるため、開始時だけでなく、変更時の見直しまで考えておくことが大切です。

(1)申出があったときに確認したいポイント

 副業・兼業に対応するうえでは、制度を設けるだけでなく、実際に申出があったときに何を確認するのかを決めておくことが大切です。就業規則や届出の仕組みがあっても、個別の内容を確認しないままでは、適切な判断はしにくくなります。
 申出があったときは、たとえば次のような点を確認します。

・副業先での働き方が、雇用契約によるものか、業務委託など雇用以外の形か
・勤務日数や時間帯、業務量が、本業に無理のない範囲か
・長時間労働や睡眠不足につながり、本業の集中力や体調に影響するおそれがないか
・同業他社や類似業務に当たり、競業の問題が生じないか
・顧客情報や営業秘密に触れる業務で、情報漏えいのリスクがないか
・会社の名誉や信用を損なうおそれのある内容ではないか
・就業規則で定めた基準に照らして、認められる内容か

 ここで確認したいのは、副業そのものを一律に認めるかどうかではなく、どこで、どのような仕事をするのかという点です。副業先が雇用か非雇用かで労働時間管理の考え方は変わりますし、仕事内容によっては、競業や情報漏えいのリスクの大きさも変わります。会社としては、就業規則で定めた基準に沿って、一件ずつ確認しながら、必要に応じて認める範囲や条件を考えていくことになります。
 その場の印象だけで判断するのではなく、申出ごとに確認する項目をそろえておけば、判断のばらつきを抑えやすくなります。開始時にこうした確認を行い、必要に応じて変更時の再申告や定期確認につなげていくことが、無理のない運用につながります。

(2)変更時の再申告と定期確認まで決めておく

 副業・兼業は、開始時に一度確認して終わりではありません。副業先、業務内容、働く時間は変わることがあるため、変更時の再申告や定期的な確認まで含めて流れを作っておく必要があります。開始時には問題がないと判断した副業でも、時間数が増えたり、仕事内容が変わったりすれば、本業への影響やリスクの大きさも変わるからです。
 中小企業では、制度を細かくしすぎると運用が追い付かないこともあります。だからこそ、最初から完璧な仕組みを目指すより、開始前の届出 → 変更時の再申告 → 定期確認という最低限の流れを作ることが大切です。届出書や合意内容、面談の記録を残しておけば、後から判断理由を説明しやすくなります。採用時や社内周知の段階から、副業・兼業をどう扱うかを明確にしておくことも、後のトラブル防止につながります。

項目 決めておきたい内容
届出のタイミング 開始前に提出するか
変更時の対応 副業先・時間・業務内容が変わったら再申告するか
確認頻度 毎月、四半期ごとなど、どの頻度で確認するか
記録方法 届出書、合意書、面談記録をどう残すか
情報開示 採用時や社内で方針をどう伝えるか

 副業・兼業をめぐる実務では、開始前に副業先や仕事内容を確認し、変更時の再申告や定期確認まで組み込んでおくことで、安定した運用につながります。

参考

厚生労働省「副業・兼業」
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
中小企業庁「2024年版『中小企業白書』全文」
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「調査シリーズNo.245『副業者の就労に関する調査』」
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「調査シリーズNo.231『副業者の就業実態に関する調査』」
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査の結果」

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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