2026年05月20日

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人材マネジメント「株式会社山田製作所 様」 作業スキルの数値化を徹底し働き手の“不公平感”を排除する

人材マネジメント「株式会社山田製作所 様」 作業スキルの数値化を徹底し働き手の“不公平感”を排除する

製品加工から資材調達、人材評価まで、広範にわたる業務を女性従業員が主体となって担う山田製作所。女性ならではの強みを生かした精緻なものづくりで、取引先からの信頼は厚い。従業員の9割超を女性が占めるメーカーの人材マネジメント法に迫る。

(写真)左から山田誠社長、遠田将丈監査担当

 茨城県県央の那珂市に本社工場を構える山田製作所は、50年以上にわたりワイヤーハーネスの加工をなりわいとしてきた。家電製品や医療機器などの内部配線として用いられるワイヤーハーネスは、しばしば人間の血管にたとえられる。不具合が発生すれば、製品の誤作動や発火事故につながりかねないため、慎重な取り扱いが求められる重要な部品だ。高齢者人口の増加にともない、同社では医療機器分野が伸長しており、業績は堅調を維持している。

ワイヤーハーネスの利用用途は多岐にわたる

ワイヤーハーネスの利用用途は多岐にわたる

 ワイヤーハーネスはリード線の切断、圧着、組み立て、検査という主に4つの工程を経て生産される。業務内容は労働集約型のものづくりながら、その陣容は異色といえる。なにしろ作業の中核を担っているのは、60名をこえる女性従業員。業務の特性を鑑みた結果、女性が大半を占める体制になったと山田誠社長は語る。

 「ワイヤーハーネスづくりには細かな手作業が必要で、品質を担保する上で女性の持つ繊細さが欠かせません。ひととおりの工程をこなせるようになるまで、およそ半年ほどかかります。圧着以外の全ての工程は立ったまま行いますが、持ち前の集中力と継続力をいかんなく発揮してくれています。緻密なものづくりと迅速なレスポンス、これらがうちの強みです」

 男性社員は山田社長と常務をはじめ4名のみ。工場と管理部門を統括するリーダー2名を含む女性従業員が、経営以外の業務全般を担当している。

工程ごとに整然と区画された工場内

工程ごとに整然と区画された工場内

1.「1on1」でヒアリング

 山田社長が入社したのは1995年にさかのぼる。当時の女性従業員比率は7割程度で、休憩時間に野球ができるほどの男性従業員が在籍していたという。

 「扱う商品が白物家電向けの量産品から小ロット品へシフトし、より細かな作業が増えていきました。繊細な作業が苦手な男性従業員が多く、生産性はあまり上がりませんでした。そうしたなか、女性従業員に徐々に適性を見いだすようになっていったんです。ただ、当初はなかなか定着しませんでした」(山田社長)

 2017年に代表に就任した山田社長は、女性が働き続けられる職場を目指し、試行錯誤を重ねた。はじめに着手したのは、従業員一人一人の考えを聞くこと。1対1で向き合い、仕事に対する価値観やキャリアプラン、家庭環境などを丹念にヒアリングした。いわゆる「1on1」である。この従業員面談は現在も継続しており、リーダーが部下と定期的に面談を行っている。面談内容はリーダーから社長と常務へ報告される仕組みだ。

 「従業員との面談は、基本的にリーダーに任せています。私自身、職場で従業員と会話する機会はほとんどありません。かつて私が個別に話していた時期には、不公平に感じる従業員がいたようです。私が全従業員に向けてメッセージを発するのは、月初に行っている朝礼の場だけ。周囲を気にせず、自身の役割と仕事に集中してほしいと伝えています。入社後、取引先の大手メーカーに4年半出向して資材調達を担当しましたが、そこで学んだ人材マネジメント法は最大の財産です」(同)

 

2.21の作業を4段階評価

 あわせて組織体制も見直した。製造、品質保証など業務別に細分化していたグループを工場部門と管理部門の2つに集約。「グループを細かく分けると派閥が生まれ、一体感を醸成できなかった」(山田社長)ためである。各部門にリーダーとサブリーダーを1名ずつ配置する、簡素な体制へと改めた。この4名の管理職は、同社で10年以上業務経験を積んできた、要といえる人材。能力を評価し、パートや派遣社員から正社員へ登用した。

 「育児中あるいは育児休暇を終えて職場に復帰した従業員も少なくありません。お子さんの成長度合いを考慮しつつ、本人のキャリアプランを踏まえてスキル評価を行い、正社員への移行も実施しています」(同)

 従業員のスキルを評価する際に用いているのが「作業スキルマップ」と呼ばれる1枚のシートである。この資料には、各従業員の有する技能が詳細に網羅されている。例えば、製造工程では挿入、結束、圧着、ねじ締めなど21の作業に分け、AからDの4段階で評価する。 

 さらに、正社員として働く意思のある従業員には「キャリアアップ評価表」をもとに面談を実施する。評価表はスキルマップ同様、同社オリジナルの資料。完成品不良率、取得済みの作業スキル数が数値として記載されるほか、仕事量や業務遂行の速さ、創意工夫度などが盛り込まれる。スキルの数値化をここまで徹底しているのは「各従業員を好き嫌いで評価していないことを示す」(山田社長)意図もある。これらの評価査定や面談を行うのも、やはりリーダーを務める女性従業員だ。従業員への権限移譲を推し進める根底には、山田社長の幹部社員に寄せる信頼がある。

正社員希望者との面談時に使用する「キャリアアップ評価表」(一部抜粋)

正社員希望者との面談時に使用する「キャリアアップ評価表」(一部抜粋)

 「従業員の仕事ぶりを熟知しているのは、ほかならぬリーダー層の社員です。われわれ経営サイドはリーダーから提出された作業スキルマップを、昇給、賞与支給額の判断材料にしています。今では採用面接や面接時の工場見学などもリーダー陣に委ねています」

 自社サイトやハローワークでの人材募集時、女性に限定しているわけではない。ママ友同士の口コミを通して、女性の働きやすい会社として広まりつつあるのが、女性比率がここまで高まった要因では、と山田社長はみている。

3.利益を賃上げの原資に

 客観的な指標を重視する山田社長の姿勢は、業績面でも顕著な成果をもたらしている。23年に増山会計事務所と顧問契約を結んで以降、自計化体制を構築。TKC自計化システムに自ら仕訳入力を行い、業績の推移を確認するのが習慣になっている。

 「当初はシステム運用を従業員に担当してもらおうと考えていましたが、自計化は未知の領域だったため、私自身が担当することにしました。業績が気になったときに即座に確認でき、毎月の監査で改善点をアドバイスいただけるのはありがたいです」(山田社長)

 月次監査を担当する増山会計事務所の遠田将丈氏によれば、システムの運用が軌道に乗るまで時間を要しなかったという。

 「山田社長はもともと鋭い計数感覚をお持ちだったので、簿記の知識を短期間で身につけ、操作も迅速に習得されました。月次決算を継続し、課題に対する打ち手を早期に講じていることで好調な業績に結びついています」(遠田氏)

 代表就任時、山田社長が掲げたスローガンは「一新」だった。組織と評価制度、そして経理体制を刷新し、体質転換を成し遂げた山田製作所。女性従業員の定着率は年々高まり、近年の離職率はほぼゼロという。創業半世紀を過ぎ見据えるのは、永続する企業体である。

 「近年は黒字に転換し、利益を賃上げや設備投資に充てられるようになりました。私でなければ経営できない会社ではなく、私以外の人間もトップの務まる会社にすることが目標です」

(取材協力・増山会計事務所/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社山田製作所
業種 ワイヤーハーネス加工業
設立 1970年10月
所在地 茨城県那珂市後台富士山3049
売上高 10億2,000万円(2025年9月期)
従業員数 70名(パート、派遣社員を含む)
会計システム FX2クラウド
URL https://www.harness-ymd.co.jp
顧問税理士 増山会計事務所
顧問税理士 増山英和
茨城県水戸市千波町1258-2増山ビル
URL: https://www.ma-g.co.jp

掲載:『戦略経営者』2026年5月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

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