2026年04月20日

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シリーズ優良企業の流儀「株式会社木村寝具店 様」 月次決算で「攻め」と「守り」を見極める老舗寝具店

シリーズ優良企業の流儀「株式会社木村寝具店 様」 月次決算で「攻め」と「守り」を見極める老舗寝具店

物価高により消費者の生活防衛意識が高まり、高価な製品の多い寝具業界は厳しい経営環境が続いている。そんな逆風下でも、月次決算を基軸に攻守のタイミングを見極めているのが、創業136年の木村寝具店だ。会計事務所、金融機関との三位一体で経営の質を高め続けている。

(写真)左端は江﨑麻紀絵監査担当、右端が寺越愼一税理士

 広島県広島市に本社を構える木村寝具店は、1890(明治23)年創業の老舗寝具店である。地域の婦人会などに出向いて布団を割賦販売する営業手法で1950年代に売り上げを大きく伸ばしたが、その後業績は下降線をたどっていた。2002年に入社し14年に事業承継した5代目の木村純士社長はいう。

 「かつて主力だった婦人会市場が、ピーク時の1980年代から縮小し続けたのです。婦人会の会員は高齢化し、新規の方も入らなくなりました。これは長く続けられないと感じました」

1.AIを活用し眠りの質高める

 そこで木村社長は、08年ごろから、一般消費者向けの販売への事業転換を推進。自作のホームページを立ち上げ、単なる寝具販売だけではない「眠りの専門家」として相談される店づくりに注力している。

本社店舗では1階で羽毛布団や季節寝具、2階でオーダー枕や敷き寝具を販売している

本社店舗では1階で羽毛布団や季節寝具、2階でオーダー枕や敷き寝具を販売している

 最近では店舗オリジナルの布団メンテナンスブースを設けた。除菌・消臭・乾燥を行う専用ボックスを機械メーカーに注文し、4年前に店内へ設置。購入後のアフターサービスを手厚くし顧客満足度を高めている。

 さらに東京大学発ベンチャーのSapeetが開発したAI姿勢分析システム「シセイカルテ」を導入。顧客に計測スペースに立ってもらい、iPadで正面と側面の2枚の写真を撮影する。撮影した画像は自動的にクラウドへ送信され、AIが数秒で解析を実行。結果画面には、姿勢のゆがみやストレートネック傾向の有無、推奨されるストレッチや生活習慣のアドバイス、その人に合った敷き寝具の硬さなどをまとめたレポートが自動表示される。

 「姿勢のクセが分かれば、どの部分に負荷がかかっているか、お客さま自身も理解しやすい。AIが示す客観的なデータは、提案の説得力を高める大きな武器になります」(木村社長)

木村純士社長

木村純士社長

 さらにこのシステムは、姿勢が悪化しやすい生活傾向まで分析するため、単なる寝具提案を超え、睡眠習慣・身体の使い方まで踏み込んだ総合的なカウンセリングが可能になる。木村社長は「『この枕が合います』ではなく、『あなたの姿勢だからこの枕とこの敷き寝具が必要です』と説明できます」と語る。

 オーダー枕の作成では、まず「レーザー7点計測」を行う。頸椎弧と腰椎のライン、肩幅など背面の凹凸をレーザーで7カ所スキャンし、横になった際に頭部と背中がどのような角度をつくるか数値化する。この計測結果から 「普段は横向き寝が多いのでは」 といった睡眠姿勢の癖が推測できるという。

 次に、専用のベッドに横になってもらい、スキャン結果に基づいて枕の高さを微調整していく。この時、首の角度が数ミリ高すぎても低すぎても、翌朝の首肩の張りにつながるため、木村社長が丁寧に確認する。

①背面の凹凸をレーザーで7カ所計測、②枕の高さを数ミリ単位で調節する、③撮影画像からAIが姿勢を分析、④寝具を乾燥、除菌、消臭できる特注のメンテナンスボックス

①背面の凹凸をレーザーで7カ所計測、②枕の高さを数ミリ単位で調節する、③撮影画像からAIが姿勢を分析、④寝具を乾燥、除菌、消臭できる特注のメンテナンスボックス

 枕の中材も顧客に合わせて選ぶ。通気性の高いパイプ素材、柔らかいわた素材など5種類の素材から、睡眠の悩みや季節ごとの使い方をヒアリングしながら決めていく。完成したオーダー枕は、その日のうちに持ち帰り可能で、使用後に違和感があれば再調整は無料だ。

 こうした科学的アプローチによる接客を裏付けるのが、木村社長が取得した「睡眠環境・寝具指導士」の資格だ。睡眠メカニズムや寝具の素材特性、湿度・光・音など環境要因などが睡眠に与える影響などの専門知識を伝えながら、「納得していただける接客」を目指している。

2.着地予想参考に広告費を抑制

 年明け間もない平日午前。店内2階の応接スペースで、木村社長と顧問税理士の寺越慎太郎氏、監査担当の江﨑麻紀絵氏が向き合っていた。月次巡回監査後の業績報告会が始まったのである。江﨑氏は『FX2』から出力した資料を机に広げ、一通り説明し終えた後、単刀直入に聞いた。

 「2025年12月単月の売り上げが前年より落ち込んでいます。要因をどのようにお考えですか」

 木村社長は資料を一瞥し、一呼吸置いてから答えた。

 「来店客数が昨年より少なかったことが大きいですね。それに、ちょうど従業員の退職と入社が重なり、教育に手が取られた結果、私自身が販売促進に割く時間が不足してしまいました。24年12月が例外的に売れたことも影響していると思います」

 寺越税理士が続けて、8~11月の売上推移について質問した。

 「8月、9月は伸び悩みましたが、10月と11月は持ち直しています。何か手を打たれましたか」

 木村社長は表情を引き締めて応える。

 「物価高でも消費があまり落ち込まないと予想される既存顧客を対象に、ムートンラグなどの上位製品の提案とムートンのお手入れ相談をセットにしたイベントをDMでご案内しました。10月に開催したそのイベントが非常に好調で、多くのお客さまから『次はいつ開催するの』と声をかけていただくなど、成績の良かった前年同月の売上高を上回ることができたのです。気温が例年より早く下がったこともあり、11月も好調を維持することができました」

変動損益計算書の数字をもとに活発に議論が交わされる

変動損益計算書の数字をもとに活発に議論が交わされる(右)

 一方で年度全体では減収となった。寺越税理士はその要因について広告宣伝費に注目した。

「広告宣伝費の累計が、前期に比べ大きく減少しています。売り上げが伸び悩む一因になっている可能性はありますか」

 再び木村社長の回答。

 「寝具業界全体で25年は厳しい状況が続きました。そうした状況を踏まえ意識的に広告宣伝費を抑えたのです。コロナのときもそうでしたが、先行きが不透明な時期は『攻める時』ではなく、現金を手元に積む『我慢の時』と判断しています」

 「売り上げと仕入れは常に確認している」という木村社長は、限界利益を意識した経営を実践している。売り上げが伸び悩んだ25年夏、江﨑氏に「このままだとどれくらい赤字になるか」とシミュレーションを依頼。提示された数字をもとに、販促費の抑制や経費の再配分を判断したのだという。

 「コロナ禍のときも上・中・下3パターンの業績予測を作成してもらいました。複数シナリオの中で、最善の打ち手を選ぶことができたため、とても安心したことを覚えています。数字を根拠にすれば、こわがらずに経営判断を下すことができます」(木村社長)

 木村寝具店は法人化して25年12月で68期目となった。寺越慎太郎税理士事務所は祖父の時代から数えて創業78年目。同社は法人設立当初から同事務所と顧問契約を結んでいる。互いに3代以上にわたり続く強い結びつきが、「月次決算を軸にした経営」を支えている。

3.決算情報共有で融資も迅速に

 業績報告会終了後、応接スペースに、もう一つ椅子が追加された。メインバンクである広島市信用組合堺町支店の宮﨑亮多支店長が加わり、今度は25年12月期の決算報告会をするためだ。木村社長と同学年の宮﨑支店長を迎え、寺越税理士が、25年12月期の業績報告書を手に説明を始めた。

 「今期は残念ながら減収となりましたが、利益率はやや上昇しました。利益率が改善したのは、高価格帯商品の販売が健闘した結果と思われます。最終的になんとか黒字で着地しそうです」

 一通り説明が終わると、宮﨑支店長が「同業他社の状況はどうですか」「物価高による買い控えの影響は」「在庫の水準は健全ですか」などと矢継ぎ早に質問した。木村社長は、その一つ一つに丁寧に答えた後、広告宣伝費を抑制した理由について次のように説明した。

 「宮﨑支店長に夏場にお会いした時に、『他業種でも売り上げが伸びていない』と聞いていたので、その段階で『今年は相当厳しくなるだろう』と覚悟しました。あの情報が、広告宣伝費を抑える『守り』の判断をする重要な材料の一つになりました」

 宮﨑支店長は、情報共有の重要性についてさらに続ける。

 「このような月次決算での情報共有があるからこそ、我々金融機関は正しくサポートできます。数字の裏付けがなければ、貸したくても貸せませんからね。しかし木村寝具店さんは、毎月の巡回監査で精度の高い数字を出されている。さらに『TKCモニタリング情報サービス』(MIS)でタイムリーに申告書も共有いただけるので、融資判断も迅速に行えます」

宮﨑亮多支店長、寺越慎太郎税理士

宮﨑亮多支店長、寺越慎太郎税理士

 その言葉を受けて寺越税理士が言う。

 「当事務所でも関与先企業さまのキャッシュの見通しを月次で確認しながら、半年先にリスクが生じる可能性があれば早めに相談するようにしています。切羽詰まってからでは金融機関も動きにくいですからね。月次決算の実践によって避けられるリスクはかなり多いと思います」

 月次決算を起点に三者が同じ方向を見つめることで、的確な打ち手を施す経営基盤が形づくられているのである。

4.メディア露出増え知名度向上

 最近、プロ野球選手が同社製品を愛用していることや、地元テレビの番組で紹介されたことなどをきっかけに話題になるなど、メディアでの露出度が増えつつある。有限会社寺越コンピューター会計事務所の2代目であり、現会長の寺越愼一税理士は、地域での同社の知名度は大きく向上したと話す。

 「『テレビで見た』という人が多く来店するようになりました。日ごろの丁寧な接客があったからこそ、メディアにも評価され、多くの反響が寄せられているのだと思います」

 一つ一つの誠実な対応の積み重ねが、今日の木村寝具店の信頼を形づくっているのだろう。木村社長は言う。

 「まずはお店の認知度をもっと上げたいですね。寝具は悩みから始まる商材なので、足を運んでもらって初めて商品の価値が伝わります。専門知識に裏付けされた最適な提案を今後も続けていきたいと思います」

 地域に根ざした老舗の信頼、5代目社長の改革と専門性、そして月次決算を軸とした3者の連携――。木村寝具店はこれからも、地域の「眠り」を支える専門店として進化を続けていく。

(協力・寺越慎太郎税理士事務所/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社木村寝具店
業種 寝具販売業
創業 1890年6月
所在地 広島県広島市中区十日市町1-5-17
従業員数 3名
使用システム FX2クラウド(取材時はFX2)
URL https://www.e-nedoko.com
顧問税理士 寺越慎太郎税理士事務所
所長税理士 寺越慎太郎
広島県広島市西区観音本町1丁目7番24号
URL: https://www.tkcnf.com/terakoshikaikei

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掲載:『戦略経営者』2026年4月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

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