創業から約30年。国際旅行通信は、旅行業で出発し、大学構内にラックを設置して広告媒体を募るビジネスを経て、現在は自動車免許の合宿による取得をワンストップで支援するサービスを主力に据えるなど、変幻自在に業態を磨き続けてきた。髙橋隆二社長の独特の経営戦略を多方面から解析する。
(写真)髙橋隆二社長
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外から見ると、「変幻自在」とも思える国際旅行通信の業態の変遷。髙橋社長は「言われるほど変えている意識はない。やっていることは創業時からほぼ同じ。環境の変化に応じて工夫を重ねただけ」と言う。しかし、その“同じ”ことを続けるために、同社は参入すべき市場や収益構造、あるいは会計の手法を精緻に組み替えてきた。
1.ラック事業に着目する
出発点は通常の旅行代理店業だったが、髙橋社長は、会社設立前から大学構内のパンフレットラックに着目していた。パンフレットの駅前での手配りは人件費がかさみ、反響も薄い。ラックに置けば「欲しい人しか取らない」ため、反応率は「街頭配布の100人に1人以下から5〜10人に1人に跳ね上がる」(髙橋社長)からだ。
「サラリーマン時代に駅前で大学生向けのチラシを配布していて、“大学構内にスタンドがあれば効率的”と感じたのです。会社にも提案しましたが理解されず却下されました」
前職での発想を、自らの会社で実践した形である。
大学への飛び込み営業によって、学生が集まる食堂などにラックを設置する活動を続けた。1カ月に1校程度の割合で取引先(学校)を増やしていき、100、200と積み重ねていくうちに、次第に広告媒体としての存在感を増していった。そして、そのラックを、フリーペーパーや教習所、旅行、留学などをテーマに学生にリーチしたいと考える会社に「場所」として販売することで売り上げが急伸。「広告代理店」としての収益計画が成り立つようになった。
東京・赤羽の本店(左)、「ラック」ビジネスが成長の引き金に(右)
2000年前後には売上高の約9割が広告、旅行は1割という構成にまで転換。ターゲットとなる学生数は約100万人に上った。
とはいえ、この「ラックビジネス」の好調は、フリーペーパーブームの終焉によって、次第に落ち着いていく。さらなる成長には次なる変化が必要である。そうこうするうち、ラック事業の顧客であった教習所との縁から、当時のラック販売の責任者であった小林靖専務が新しいアイデアを提案した。大学生の合宿による免許取得をワンストップで支援する「合宿免許」事業である。
2.合宿免許事業に参入
事業の立ち上げにとりかかったのは07~08年ごろのこと。既存のラック事業によって大学生に“自然接触”する仕組みは、合宿免許のメインターゲット(18〜22歳)に極めて適合的だった。さらに、コールセンターや受付システムの運用など旅行業で培ったオペレーションがそのまま流用でき、営業以外の追加コストを抑えられたことも、事業の立ち上げを後押しする大きな要因となった。
髙橋社長は言う。
「(合宿免許事業成功の)ポイントは①学生の効率的集客②教習所との提携開拓の二つ。これらをどう展開するのかです。前者は集客媒体の確保にやや苦労したものの自社インフラでなんとか対応できましたが、自慢の営業力を持ってしても、教習所との提携網の構築には約5年を要しました」
髙橋社長以下、経営陣が収益化できたと実感したのは12〜14年ごろだという。現在、東北から四国まで40近い教習所と契約を結んでいる。同社の特徴として季節要因(春・夏休み)を踏まえつつ、料金・宿泊の嗜好変化や、インバウンドでホテルが取りにくいといった外部環境の変化も織り込みながら供給をチューニングしていく細かさがある。また、山形県では「村山西口ホテル」の運営をスタートするなどして、教習所と宿泊施設が一体となった企画づくりを実践していった。
左から、自社で運営する村山西口ホテル、セット料金で合宿免許のワンストップサービスを提供、全国の教習所と提携
市場は少子化で縮小に向かう一方で、特に首都圏での通学免許の取得期間長期化、授業料の高騰が顕在化。合宿免許への予約の前倒し・即完売が常態化している。宿泊費・食事代・光熱費の上昇で単価が上がる状況のなか、申し込み経路も対面からスマホ経由へ移り、パンフレットは認知装置、申し込みはサイトで、と役割分担が進んでいく。同社では、「専業」の強みを生かし、そうした細かな環境にその都度適切に対応しつつニーズを柔軟に取り込んでいった。
3.緻密な会計で危機を乗り切る
同社の経営基盤は、顧問税理士の阿部大亮公認会計士・税理士の指導による月次決算の徹底にある。15年ほど前から税務顧問を務めている阿部氏は、TKCの会計システム(『FX4クラウド』)による自計化によって発生主義での業績把握を実施しながらキャッシュフローの可視化、半年先までの資金予測などを支援。また、銀行信販データ受信機能による預金取引データの自動受信や証憑保存機能の活用など、経理業務の合理化による迅速かつ正確な計数管理体制を構築。
阿部大亮 公認会計士・税理士(左)
そうした体制の恩恵を受ける高橋社長は「異変は数字が先に教えてくれる」と言い、利益予測の誤差は期末でプラスマイナス10%程度まで詰める。繁忙・閑散の波が激しい事業柄、投資の最適なタイミングも、業績にもとづいて判断している。
また、阿部氏は、月次巡回監査、書面添付(※)などによって会計プロセスの信頼性を担保し、結果として税務調査の省略、さらには金融機関との信頼構築をもたらしている。
さて、20年3月、新型コロナ感染症の蔓延により、すべての予約がキャンセルされ、半年間ほぼ売り上げがゼロとなった。地方では「東京から人を連れてくるな」という受け入れ反対の声も出た。そんな中で同社は、受領済みの手数料を返金する判断を貫き、教習所との信頼を厚くした。ちなみに東日本大震災の時にも、髙橋社長は同様の顧客対応を行っている。
長引くコロナ禍のなか、資金面ではメインバンクの融資でつなぎ、ウェブへの投資を前倒しした。やがて「Go Toトラベル」がスタートし、一気に復調する。「危機のたびに信頼が増え、結果として売り上げも伸びた」と高橋社長はほほ笑む。
社長の口癖は「調子に乗らない」「タイミングのよい時に投資する」。ラック事業が最盛のころから、次の柱づくりを既に始めていた。まったく未知の新規事業には手を付けず、既存の仕組みが生きる領域で勝負する。
この30年、同社が実践してきたのは、端的に言えば「仕組みで売り、会計で支える」という経営だ。ラックで“配る”のを仕組み化し、合宿免許で“売る”対象をすげ替え、日々の会計で未来を読む。危機では目先の利益より信頼を優先し、その信頼を資本に次の成長へつなげる。
「変わったのはクライアントとターゲットだけ。やっていることは同じ」。冒頭の言葉の意味は、そういうことである。
※ 書面添付…税理士が税理士法第33条の2に基づき、関与先企業の税務申告書の提出に際して、自ら「計算し、整理し、又は相談に応じた事項」を記載した書面を添付する制度
コンサルタントの眼
公認会計士・税理士 阿部大亮
税理士法人阿部会計 埼玉県所沢市北有楽町11-1
https://www.abekaikei.co.jp
「会計ベースの経営」が社長の意思決定を助ける
合宿免許を主力に据える国際旅行通信さんの強みは、発生主義に基づく月次決算と資金繰り予測を中核に据えた“会計をベースにした経営”にあります。売上高・費用を発生ベースで計上し、入金・支払予定を可視化して広告費や人件費の投下量を機動的に調整することで、繁忙・閑散の振れが大きい業態でも利益水準を保てる体制を作ってこられました。
これに加えて、公私混同を排し、税務上の線引きを厳格化。顧客との関係づくりで発生しがちな“グレーな経費”は、経費算入可否を都度判断し、不可の場合は社長の私費処理とするルールで決算書の信頼性を守ってきました。
もちろん、月次巡回監査による現場訪問を実践しつつ、オンラインでは拾いにくい「経営者自身が重要性に気づいていない情報」を対面の雑談や現物確認などですくい上げ、会計処理と資金計画に反映しています。結果として計数管理が過去の確認ばかりではなく、未来の意思決定インフラとして機能するようになっています。
コロナ禍における売り上げゼロ・大量返金という危機においても、平時からの月次決算と金融機関との関係構築(決算書の信頼性確保やTKCモニタリング情報サービスによる情報共有による)が奏功し、迅速な融資確保に結びつき、危機を乗り越えることができました。いつ資金需要が生じても即時に借りられる状態が企業の理想ですが、国際旅行通信さんは、その理想に近い会計の体制を築くことで、成長路線を快走されています。
(取材協力・税理士法人阿部会計/本誌・高根文隆)
| 名称 | 国際旅行通信株式会社 |
|---|---|
| 業種 | 旅行業・広告代理業 |
| 設立 | 1995年10月 |
| 所在地 | 東京都北区赤羽西1-41-4 |
| 従業員数 | 35名 |
| URL | https://www.aitec-group.com |
BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者~未来を切り拓く 経営者と税理士の挑戦~」
2月21日放映のBS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」をTKCホームページで公開しています。あわせてご覧ください。
掲載:『戦略経営者』2026年4月号
記事提供
戦略経営者 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。


