2026年03月23日

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業務改善「株式会社大岡鉄工所 様」 「現状維持」は衰退への第一歩 絶え間ない改善で強靱な経営体質に

業務改善「株式会社大岡鉄工所 様」 「現状維持」は衰退への第一歩 絶え間ない改善で強靱な経営体質に

大岡鉄工所の松百(まつとう)豊社長は業績管理体制の確立、製造技術の錬磨、業務品質の向上など、数々の“改善”を通じて堅固な経営基盤を築き上げてきた。「ビジネスに現状維持という言葉はない。成長を志向しなければ、会社は衰退していく」──松百社長はそう力強く語る。

(写真)松百豊社長(右)と後継者である松百洋樹取締役

 兵庫県姫路市の郊外に大岡鉄工所の工場はある。同社は製鉄・プラント向け機械設備や大型機械製缶部品などの製造を主力事業としており、主要顧客として日本製鉄、山陽特殊製鋼、JFEホールディングスなどの大手鉄鋼メーカーに加え、鉄鋼系の商社が並ぶ。

 「われわれが得意としているのは大型金属製品の精密加工です。大径・長尺の内径加工や溝入れ加工といった高度な加工を、短納期で対応することができます。当社は1963年の創業以来、長きにわたって蓄積してきた知識や加工技術、最新鋭の機械設備を駆使して、お客さまの要望に対応してきました」(松百豊社長)

 製鉄は、鉄鉱石から銑鉄を生み出す「製銑」、銑鉄を強靱な鋼に変える「製鋼」、鋼を薄く延ばして成形する「圧延」という三つの工程で構成されている。同社が手がけているのは、鉄鋼メーカーがこれらの工程を行うための装置で、なかでも圧延関連の装置が売上高の7割を占めているという。

1.業績管理体制に課題あり

 石川県七尾市出身の松百社長は金沢大学大学院を卒業後、大手工作機械メーカーに勤めたのち、97年に大岡鉄工所に入社。2012年に先代から経営のバトンを受け継ぎ、社長に就任した。入社当時の社内の雰囲気を、松百社長はこう振り返る。

 「いわゆる“職人気質”の会社だと感じていました」

 同社は強みである技術力を武器に、大手鉄鋼メーカー等からの信頼を獲得し、細かな要望にも応えてきた。

 一方で課題も抱えていた。その一つが業績管理体制の構築である。松百社長が入社した当時は、記帳自体は適時・正確に実施していたものの、足元の業績にもとづく意思決定の習慣が根づいておらず、決算書以外で業績を把握する手段が乏しかった。かろうじて毎期黒字で着地していたものの、受注量の伸びに対して利益の伸長が伴っていないこと、債務が増加傾向にあることが懸念事項だったという。

 「原価計算も緻密に行っていなかったため、利益の出ていない取引も数多くありました。そんな状態が長く続いていたので、業績を迅速かつ詳細に把握するための仕組みを早急に整備しなければならないと、強く感じていました」(松百社長)

2.「見える化」で意思決定を迅速に

 その後、役員に就任した松百社長は業績管理体制の確立に向け、旧知の間柄である中野徹税理士を頼る。税務顧問を、当時中野税理士が勤めていた会計事務所に変更し、TKCの会計システムを導入。足元の業績を“見える化”するための施策を矢継ぎ早に実行した。

 「中野先生の支援のもと、最新業績を適時に確認できる仕組みを構築しました。その結果、製造原価、必要工数にもとづく受注金額の決定、採算の取れていない取引からの撤退といった打ち手を、素早く講じられるようになりました。およそ5年かけて財務体質を改善し、現在は自己資本比率を高め、無借金経営による安定した事業運営が可能になりました」(松百社長)

 緻密な業績管理と堅い財務基盤を背景に、高利益体質へと変貌を遂げた同社。経常利益が着実に積み上がり、キャッシュフローが安定したことで意思決定の幅も広がった。特に最新鋭の機械や設備に積極的に投資できるようになったことが、技術力のさらなる向上につながったと松百社長は言う。

工場には最新鋭の機械設備が並ぶ。積極的な設備投資を通じて内製化を推進したことにより、形状を問わず精緻な加工が可能となった

工場には最新鋭の機械設備が並ぶ。積極的な設備投資を通じて内製化を推進したことにより、形状を問わず精緻な加工が可能となった

 「手元の資金が厚くなったことで、設備投資に関する意思決定を迅速に下せるようになりました。これまでは国や自治体等の助成事業を活用し、主に製造工程の内製化につながる設備を積極的に導入してきました。現在はより一層の高精度加工を社内で実現すべく、新たな設備投資の計画と加工方法の高度化に着手しています」

 取引先の要望やニーズに絶えず応え続けていくには“得意技”を増やす必要がある。その点、同社は内製化を積極的に推進したことで、納期の短縮とコスト削減を実現した。結果として限界利益(率)が一段と向上するなど、現場改善と収益改善の好循環を生み出している。

3.技能検定の取得を奨励

 もう一つの大きな課題が「世代交代」である。高い技術力で顧客の信頼を勝ち取ってきた同社も、職人の引退が相次ぎ、技術の継承が急務となった。若手社員の多くが製造未経験者だったことから、松百社長は社内外の教育プログラムを活用した育成メニューを整備し、技術力の底上げに取り組んだ。

 「社内では先輩社員によるOJTに加え、勉強会を定期的に開催しました。一方、業界団体やメーカー、地元の教育機関が主催する研修にも参加させるなど、社外の教育プログラムも積極的に活用しました」

 特に力を注いだのが、技能士資格の取得である。技能士とは業務上必要な技能レベルを評価する国家検定制度で、「建築大工」「酒造」「プラスチック成形」など133の職種で実施されている。同社は主に「機械加工」に関する検定の合格を目標に掲げ、学習機会を提供。実際に、「機械検査作業1級」「普通旋盤作業1級」「マシニングセンタ作業1級」など、多くの社員が1級資格を保有している。

4.「現状維持」という言葉はない

 業績管理の高度化、積極的な設備投資、技術の継承と錬磨を通じて“ものづくり”の基盤をより強固にしてきた同社は、次なる段階として業務品質、作業環境のさらなる向上に踏み出した。ISO認証の取得である。

 松百社長は松百洋樹取締役兼製造技術マネージャーをリーダーとするプロジェクトチームを編成し、業務の標準化を推進。24年9月に品質マネジメントシステムであるISO9001を、25年9月に環境マネジメントシステムであるISO14001を取得した。

 「ビジネスに『現状維持』という言葉はありません。会社は成長を志向しないと必ず衰退していきます。会社を成長に導くために、あらゆる手を尽くすのが経営者の責務ではないでしょうか」と、力強く語る松百社長。最近は取引先の一層の拡大に向けて、自治体・官公庁主催の商談会やマッチングイベントに積極的に参加している。

 業務改善や業績管理、人材育成の仕組みをたゆまず磨き続ける――その積み重ねが、強靱な経営体質をいっそう確かなものにしている。

コンサルタントの眼
税理士 中野 徹
中野徹税理士事務所 兵庫県姫路市増位新町2-42荻原ビル202号
https://nakano-taxo.tkcnf.com

 松百社長とはかれこれ20年以上のお付き合いになります。というのも、お互いの子どもが幼なじみで、学校行事などでたびたび顔を合わせる関係でした。

 松百社長から「業績の見える化と金融機関との関係強化に取り組みたい」と相談を受けたことをきっかけに、当時私が勤務していた税理士事務所が税務顧問に就きました。私が税理士として独立して以降も、引き続き月次顧問先として経営をサポートしています。

 大岡鉄工所さんには毎月20日過ぎに訪問し、巡回監査と業績の振り返りを行っています。会計システムは『FX2クラウド』を利用しており、「証憑保存機能」など仕訳を効率的かつ正確に計上できる機能を活用しているため、監査業務そのものよりも社長との面談に多くの時間を割けています。これまで製造工程の内製化に積極的に取り組んできたことから、面談では特に限界利益率の推移を確認いただき、これまで進めてきた施策の検証を行っていました。

 松百社長は「単月で黒字を出すことが目標」と口癖のように話されます。ただ、大岡鉄工所さんの場合、受注から納品までの期間が長い製品を多く手がけているため、単月では製造原価が売上高を上回ることがあります。その際には、「単月では赤字ですが予定どおりに納品できれば年間で黒字になります」といったように、今後の見通しも含めて説明しています。このほか、自社の給与水準が同業種・同規模の企業の平均を下回らないよう、毎年1月に『賃金BAST』(中小企業の賃金指標)を参考にしながら、給与の支給額を検討されています。

 松百社長が数々の改善に取り組まれてきた背景には、「社員はもちろん、その両親や配偶者に安心してもらいたい」という思いがあります。その思いを形にし続けられるよう、引き続き大岡鉄工所さんの経営を支えてまいります。

右端が中野徹税理士

右端が中野徹税理士

(取材協力・中野徹税理士事務所/本誌・中井修平)

会社概要
名称 株式会社大岡鉄工所
業種 製鉄用機械設備の製造
創業 1963年10月
所在地 兵庫県姫路市青山6-12-1
売上高 約3億円
社員数 16名(役員含む)
利用システム FX2クラウド
URL https://www.oooka.info

掲載:『戦略経営者』2026年3月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。 TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

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