2026年03月23日

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ブランディング「有限会社ビゴーレ・カタオカ 様」 フレームビルダーの手によるメードイン京都の自転車が快走中

ブランディング「有限会社ビゴーレ・カタオカ 様」 フレームビルダーの手によるメードイン京都の自転車が快走中

先々代が約1世紀前に立ち上げた片岡自転車商会をルーツに持つ、ビゴーレ・カタオカ。フレームビルダーが手がける自転車は、すべて“1点モノ”。運搬車、競技車を経て、快適に移動できる乗り物へ……時代と並走する老舗メーカーの変革の過程を追った。

(写真)左から片岡有紀さん、片岡聖登社長、小杉將之顧問税理士

 「40年間乗りつづけられている方や親子3代にわたって乗り継がれている方など、長く愛用される方が多いのがうちの自転車の特徴です」

 こう語るのはフレームビルダーを務める片岡聖登社長。フレームビルダーとは、自転車フレームの設計、製作を手がける職人を指す。オリジナルブランド「VIGORE」は、50年以上にわたりスポーツ自転車愛好家たちを魅了してきた。片岡社長の手による自転車はすべてオーダーメード。顧客からヒアリングした生活スタイル、自転車の用途などを元に最適の車種を提案し、カスタマイズしていく。その範囲はフレームサイズ、カラー、パーツの選定まで細部におよぶ。片岡社長が自転車製作で重きを置くのは、土地に見合う1台をつくることだ。

オーダーメード自転車の製作期間は2~4カ月ほど。中心価格帯は40万~50万円

オーダーメード自転車の製作期間は2~4カ月ほど。中心価格帯は40万~50万円

 「自転車をふだん利用するのは舗装道路なのか、荒れた路面なのか。サイクリング用なのか、競技用なのか……一人一人の乗り手の方と話し合い、京都ならではの感性を注いだものづくりを大切にしています。フレームの交差する角度ひとつとっても、単なるデザインにとどまらず意味があります。機能性を突きつめていくと、無駄を省かなければなりません。引き算の美学ですね」

 愉しみのための自転車文化をつくる──。そんな思いから、イタリア語で「活力」を意味するブランド「ビゴーレ」が立ち上がったのは1968年。80年代にフレームビルダーとして活動しはじめた片岡氏は、乗り手の感覚をつかもうと、国内外のマウンテンバイク選手権やトライアスロン大会を転戦した。「さまざまな現場に赴き、スポーツ自転車に乗る人たちと交流するからこそ納得ゆく1台をつくることができる。その繰り返しです。競技のジャンルにより自転車に求める性能は変わるので、新たな発見につながり楽しいです」と片岡社長。注力するジャンルは、マウンテンバイクや競技用自転車など変遷をたどり、近年は市街地を快適に走れる自転車づくりを追求している。

 とはいえ、スポーツ自転車初心者にとってオーダーメードとなると、敷居が高く感じられるもの。ビゴーレの魅力を発信する要の役割を担っているのが、四代目フレームビルダーとして研さんを積んでいる片岡有紀さんである。

1.歴史と特長を言葉に

 京都市営地下鉄国際会館駅ほど近くにあるビゴーレ京都本店。工房を併設する同店では、乗り比べ試乗会を定期的に開催している。「クロモリレーサー」「山と旅の自転車プラス」といった看板モデルで、店舗近くの約1.9キロのコースを周回できるイベントだ。「スポーツ自転車に対する心理的なハードルを下げ、気軽にふれてもらう機会をつくろうと昨年から始めました。やはり乗り物なので、実際に乗ってみて初めて体感できるよさがあります。東京をはじめ遠方から足を運ばれる方も増えてきました」と語る有紀さんは、女性向けの試乗会「VIGORE for W」も企画。男性ユーザーが9割を占めるといわれるスポーツ自転車市場に風穴を開けようとしている。

 当初は家業を継ぐつもりはなかったと明かす有紀さん。大学卒業後、機械メーカー勤務を経て、21年にビゴーレ・カタオカに入社した。折しもパンデミック下で、自転車需要が世界中で急増する。大手メーカーが自転車パーツの生産工場を軒並み押さえるなか、原材料が逼迫。サドルの調達に2年を要する時期もあった。

 「経営状況が厳しくなって初めて、家業の将来を考える機会を得ました。当時感じたのは平たく言うと、家業がなくなるのは嫌だなと。曽祖父が興した会社を次代につないでいこうと腹をくくるまで、1年ほどかかりました」(有紀さん)

 経営に関する知識を身につけるべく大学院に通う傍ら、ブランドの言語化に着手する。

 「父をはじめ、作り手が信念をもって自転車を製作していることは、以前から認識していました。ただ、入社した当時は商品に関する情報が錯綜していて、ビゴーレの魅力を十分に伝えられていない印象があった。毎月、顧問税理士の小杉將之先生や金融機関の方に加わってもらい、“壁打ち”しながら当社の歴史や商品の特長を整理していきました」(同)

 話し合いを重ね導き出したのが“特別な時間を過ごす”というキーワードだった。速さ、軽さ、デザイン性……スポーツ自転車に求められる性能はさまざまだが、移動手段であることに変わりはない。取りも直さず移動時間をいかに快適に過ごせるかが肝となる。「社外の方々の視点も元に、当社の強みなどを共に分析してもらいながら言語化を進め、新たなサービスを検討するときに立ち戻る軸ができました」と有紀さんは壁打ちの効果を話す。言語化の作業なくしてブランディングはあり得なかった、と片岡社長も口をそろえる。

 「われわれは職人ですからアイデアを練ったりするのは得意でも、企画書にまとめたりするのはなかなかむずかしい。その点、彼女は言葉に落とし込むのが得意なので、イベント企画やウェブサイト制作等で能力を発揮してくれています」

2.分業化による雇用創出も

 ブランディングにひと役買っている取り組みのひとつに、コラボ自転車の開発がある。「70next 知足」は京都在住の漆芸家、服部一齋氏がフレームデザインを担う。フロントやサドル付近などフレームの随所に、服部氏の手作業による金蒔絵と螺鈿が施される。もともとビゴーレユーザーだった服部氏にコラボを持ちかけたところ意気投合。70年代に用いていたラグ溶接フレームを片岡社長が再設計して完成した、こだわりの詰まった1台だ。

京都在住の漆芸家とのコラボにより生まれたフラッグシップモデル「70next 知足」(左、丸囲み部分は金蒔絵の一部)、ショールームと工房を兼ねた店舗(右)

京都在住の漆芸家とのコラボにより生まれたフラッグシップモデル「70next 知足」(左、丸囲み部分は金蒔絵の一部)、ショールームと工房を兼ねた店舗(右)

 「京都らしい新たな自転車を製作しようと、伝統工芸の工房を回ったりしていました。そうしたタイミングで服部さんが店に立ち寄られ、デザインをお願いしてみたのです。コラボするなら、この土地の空気感がわかる地元の方と組みたいとかねて考えていました」(片岡社長)

 街乗り仕様への変更、子どもに譲るためのカスタマイズといったリメイク需要が盛んなのも同社の特徴である。トライアスロンを通してビゴーレに出合ったという小杉將之税理士もそのひとり。

 「パーツを変えたり、フレームカラーを塗り直したりして40年ぐらい乗っています。ハンドメードによるスポーツ自転車は世界的にも珍しく、100年ブランドとして永続してほしいですね」(小杉税理士)

豊富なカラーバリエーションでフレームの塗り直しにも対応

豊富なカラーバリエーションでフレームの塗り直しにも対応

 有紀さんの入社により、ブラックボックス化しがちだった製作工程を社内で共有できる体制も整いつつある。「われわれの手がける作業を細かく分解すると、フレームビルダー経験の浅い人でも担当できる工程がたくさんあります。分業化を進めれば地元の方を雇うこともできるし、フレームビルダーの養成にもつながるでしょう」と将来を見据える片岡社長。3年後にひかえる100周年を念頭に、記念モデルも構想中という。

(取材協力・小杉税理士事務所/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 有限会社ビゴーレ・カタオカ
業種 スポーツ自転車製造、販売業
創業 1929年
所在地 京都府京都市左京区岩倉南四ノ坪町55
役社員数 3名
URL https://vigore.co.jp
顧問税理士 小杉税理士事務所
顧問税理士 小杉將之
京都府京都市左京区下鴨本町12-3 洛北ビル3F
URL: http://kyotoshimogamo.q-tax.jp/

掲載:『戦略経営者』2026年3月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

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戦略経営者

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