中小企業の親族外承継(M&A)は、「他社グループへの参画(グループイン)」を通じ、さらなる成長を目指す手段の一つでもある。1992年創業の健康食品OEM会社、ニホンバイオフーヅ製造と再春館共創ラボラトリーの事例をレポートする。
(写真)ニホンバイオフーヅ製造の四田三雄社長(左)と再春館共創ラボラトリーの綾部隆一社長
ニホンバイオフーヅ製造は1992年に宮崎県で創業し、健康食品やサプリメントのOEM製造に特化し成長を遂げた会社である。健康食品のOEM工場としては西日本最大級の規模を誇り、短納期と多品種・小ロットでの柔軟な対応力が強みだ。2代目の四田三雄社長は、父親である先代の病をきっかけに同社に入社し2019年に社長に就任。就業環境の改善や残業時間の削減、採用活動の積極化、評価基準の整備、企業内研修の充実など「人が辞めない会社」づくりに注力してきた。
健康食品のOEM製造では西日本最大級の工場を有する
事業承継後にさまざまな社内改革を行った四田社長だが、懸念材料も多く抱えていた。独自技術や営業力への不安、サプライヤーとの連携不足、OEMのビジネスモデルの宿命である取引先の戦略に売り上げが左右されるリスク、近い将来に顕在化する後継者問題――などである。
「端的に言うと業績が伸び悩んでいたのです。父が創業したこの会社を残し、さらに大きくするためにはどうしたらよいか。私だけでなく社員の生活もかかっています。私一人で新しい価値を創造するには限界もある。そこで、事業承継と経営戦略の選択肢の一つとして、M&Aが頭に浮かびました」
1.まず顧問税理士に相談
実はここ数年、四田社長は多くのM&A仲介会社から営業攻勢を受けていたが、すべて断っていた。自宅にダイレクトメールを郵送してきた会社に対し、「不用意に家族を心配させることになる」と抗議したこともある。四田社長はまず、顧問税理士の原隆雄税理士に相談した。
「中小企業のM&Aをめぐるトラブルが多発しているなどのニュースもあり、知らない人に相談するのは不安でした。その点、原先生は毎月監査で来てくださり、信頼して何でも話せますし、先代の時代から会社の内情もよく把握されています。その原先生を通じて紹介を受けたTKCグループの株式会社TBCは、仲介方式ではなく譲り渡し企業の立場にたってM&A(第三者承継)を支援しているとのことで、安心して相談できました」
同社とアドバイザリー契約を締結したTBCは、連携している買い手アドバイザーに候補探索を依頼し、再春館グループの再春館共創ラボラトリーとのマッチングを行った。
再春館グループは、漢方薬の販売で1932年に創業した再春館製薬所を母体とする企業グループだ。「ドモホルンリンクル」を中心としたダイレクトマーケティングで成長してきた通信販売の草分け的存在で、顧客満足度を徹底的に追求する経営姿勢に定評がある。再春館共創ラボラトリーは、グループ100周年を迎える2032年に向け、外部の知見を取り込むオープンイノベーションを推進する戦略会社として期待されている。綾部隆一社長は言う。
「再春館グループは現在、『ポジティブエイジカンパニー』というスローガンを掲げ、前向きに年齢を重ねるためのお手伝いができる企業を目指しています。そのためには医薬品や化粧品だけでなく、食品分野にも積極的に進出し、健康に関する取り組みの幅を広げることが不可欠でした。今回のM&Aにはそうした背景があります」
2.理念経営の価値観を共有
初回面談は25年4月23日。四田社長が再春館製薬所本社「再春館ヒルトップ」に赴き、工場(「薬彩工園」)見学も行った。その時の衝撃は忘れられない。同社の歴史や製品が案内される「歓迎館」での心温まるもてなし、建物のスケールの大きさ、整理整頓が行き届いた工場内と最新の設備の数々、礼儀正しい従業員一人一人の所作――四田社長は見学中、「子どものように『すごい』を連発していた」という。
見学後は会議室に場所を移し、綾部社長をはじめ、ずらりと並んだ同社経営幹部と面談。「理念をどう現場に浸透させているか」「品質管理の仕組みを教えてほしい」など経営幹部からの具体的な質問に対し、四田社長は一つ一つ誠実に回答した。
「規模はもちろん、企業文化や社内の雰囲気などあらゆる面で当社との差を痛感し、帰り道では自然と涙が出てきました。自分たちがやりたいと思っていたことがすでに実現されており、今までの苦労がある意味否定されたような悔しさ、この中で自分たちがやっていけるのかという不安、『この会社と一緒になりたい』という期待――さまざまな感情が入り混じった涙でした」
一方、綾部社長の感触はどうだったか。
「自社を過大に見せることもなく、逆に卑下しすぎることもなく、飾らない印象の実直な方だと感じました。ものづくりの会社にとって『実直さ』は極めて重要なポイントで、非常に好感度が高い初回面談でした」
1カ月後の5月21日、今度は綾部社長がニホンバイオフーヅの本社工場を訪問した。好印象は確信に変わる。
オリジナル製品も手がける(右)
「オフィス内に『掃除経営』『感謝経営』『共存経営』の3つの経営理念が掲示されていましたが、その理念が現場にしっかり根付いていると強く感じました。再春館製薬所の西川通子会長はよく会社を木に例え、『会社を大きくするためには、商品やサービスなどの目に見える枝葉ではなく、根がしっかりしていなければならない。その根とは理念である』と言って常に理念の重要性を口にしています。経営理念に対する価値観を共有できること、ともに同じ方向を向いて成長できると感じたことが、今回のM&Aを決断する大きな理由の一つとなりました」
実は再春館製薬所ラボラトリーはM&Aの検討にあたり、ほかにも数社候補企業があったが、実際に面談まで進めたのはニホンバイオフーヅ製造だけだったという。
その後ウェブ面談やQ&Aのやり取りを重ねた後、再春館共創ラボラトリーは、取引の基本条件や双方の意向を文書化した「意向表明書」を提示。四田社長が応諾して、デューデリジェンス(DD)のプロセスに移った。財務や法務担当者など多くの関係者を前にヒアリングを受け、さまざまな書類の提出を求められたが、何しろ初めての経験である。不安が付きまとうなか、四田社長には心強い味方がいた。
「原先生にご同席いただき、適切なフォローをしていただいたこともあり、DDは問題なく終えることができました。月次決算で毎月監査を受けていたので、財務や棚卸しが正確に整っており、DDチームからの質問も最低限で済んだと感じました」
3.「100日プラン」で統合へ
その後M&Aの手続きはスムーズに進み、9月29日、ニホンバイオフーヅ製造は再春館共創ラボラトリーによる100%株式の取得により、再春館グループの一員となった。引き続き代表取締役として新体制構築に邁進している四田社長は、後継者不足に悩みを抱える経営者に次のようなメッセージを送る。
「M&Aという言葉だけをとらえると、『会社を売る』というネガティブな印象が強いかもしれません。でも自社だけでは実現が難しい、『会社を残したい』『成長させたい』『従業員の待遇を良くしたい』という社長の願いをかなえる前向きな選択肢です。だからM&Aというより『グループイン』したと前向きに捉えた方がよい。必要なのは、意中のお相手と力を合わせて会社を発展させようという『社長の覚悟』だと思います」
現在両社は、M&A成立後に策定した「100日プラン」に基づいた経営統合プロセス(Post Merger Integration=PMI)に入っている。11月には主要メンバーが宮崎県、熊本県の両社工場を視察、合同合宿を行った。再春館グループの従業員との交流を通じ、ニホンバイオフーヅ製造では社内ミーティングなどで「再春館グループの社員に比べ当社の人間は全然動いていない」「もっと『自分ごと』として統合を考えるべき」「議題の提案や資料作成をもっと積極的にやろう」という声が自発的に上がってきているという。社員の成長に四田社長は確かな手ごたえを感じている。
コンサルタントの眼
税理士 原隆雄
原隆雄税理士事務所 宮崎県宮崎市松橋1丁目1-32コーポはまゆう701号
https://www.tkcnf.com/hara-takao-zeirisizimusyo

ニホンバイオフーヅ製造さまとは、創業時からのお付き合いになりますが、先代が西日本最大級の健康食品のGMP(適正製造規範)工場を造り上げ、2代目の現社長がさらなる飛躍のための改革を行う中で、前向きな選択肢として第三者へのM&Aを決断されました。
ニホンバイオフーヅ製造さまは、見積・製造原価管理を行っている自社システムとTKCの『FX2』『SX2』との整合性チェック、棚卸管理まで月次で実施されており、私が毎月、巡回監査で訪問する際には、監査上必要な資料もしっかり事前準備しています。M&Aの最終契約前の現地デューデリジェンス(買収監査)には私も同席しましたが、監査チームの公認会計士等の方からも「経理レベルが高く、依頼した質問にも関連資料とともに迅速に回答いただいた」との評価をいただき、大変誇らしく思うとともに、「月次決算体制の構築がすべての基本」であることを改めて感じました。
今回のM&Aは、再春館共創ラボラトリーさまとの本当に良いご縁にも恵まれ、年明けにTKC中小企業事業承継支援部(TBC)に相談してから約9カ月という短期間での成約となりました。先代と現社長の2代に渡り経営を見守ってこられた先代の奥様の四田智恵子さまに、一番安心いただけたのではないかと思っています。新体制でのますますのご発展を期待しつつ、ニホンバイオフーヅ製造さまの親身な相談相手として、これからも伴走支援していきたいと思います。
(取材協力・原隆雄税理士事務所/本誌・植松啓介)
| 名称 | ニホンバイオフーヅ製造株式会社 |
|---|---|
| 業種 | 健康食品やサプリメントの製造販売 |
| 創業 | 1992年12月 |
| 所在地 | 宮崎県宮崎市田野町字桜ヶ丘乙1730-10 |
| 売上高 | 約7億円 |
| 従業員数 | 約30名 |
| 利用システム | FX2、SX2 |
| URL | https://www.n-biofoods.com |
| 名称 | 株式会社再春館共創ラボラトリー |
|---|---|
| 設立 | 2024年4月 |
| 所在地 | 東京都港区高輪4-10-58 |
| 従業員数 | 6名 |
| URL | https://scclab.co.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年2月号
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