2026年03月30日

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生産性分析で利益体質を強化しよう

生産性分析で利益体質を強化しよう

限られた人員で「どれだけ稼ぎ、どれだけ利益を残せているか」を確認できるのが生産性分析です。労働分配率の考え方も踏まえながら、1人当たりの「売上高」「限界利益」「人件費」の3つの指標から経営の現在地を見える化し、課題を把握して業績改善につなげていきましょう。

💡この記事のポイント
 ☑ヒト/モノを活かして、どれだけ効率的に売上や利益をあげたかを見るのが「生産性分析」
 ☑生産性分析では「稼いだ成果をどう配分しているか(労働分配率)」という視点も重要
 ☑本記事では労働生産性にフォーカスするために「売上高」「限界利益」「人件費」の3つの指標について「1人当たり」に分解して整理する
 ☑「売上をつくる力(1人当たり売上高)」「利益を残す力(1人当たり限界利益)」「人への投資の水準(1人当たり人件費)」のバランスを整えることが利益体質の強化につながる

1.はじめに

 今は「売上を伸ばせば何とかなる」という時代ではなく、限られた人員でも利益を確保し、資金繰りに余裕を持てる体質づくりが経営者に求められています。そこで重要になるのが、今回紹介する生産性分析です。生産性分析は「同じ人数でどれだけ売上を上げ、どれだけ利益を残し、どれだけ人件費として配分しているか」を数字で見える化し、経営判断につなげるための手法です。感覚や経験だけに頼らず、月次で変化をとらえることで、価格設定や外注の使い方、業務の進め方など、利益を生み出す打ち手を具体化できます。さらに数字の変化は現場の課題を早期に発見するヒントにもなり、対策の優先順位が明確になります。
 今こそ、生産性を見直して「強い会社」をつくるための一歩を踏み出しましょう。

2.生産性分析で「稼ぐ力」を見える化する

(1) 生産性分析でわかること

 生産性とは、事業にどのくらいの労働力・設備を投入して、それによっていくら稼ぎ出したかの割合をいいます。つまり、ヒト・モノを活かして、どれだけ効率的に売上や利益をあげたかを見るのが「生産性分析」です。生産性はその経営資源によって、労働生産性、設備生産性、資本生産性などがありますが、財務分析では人を主体とする労働生産性の分析が中心となります。
 また、生産性分析では「どれだけ稼げているか」を見るだけでなく、「稼いだ成果をどう配分しているか」という視点も重要になります。生産性分析の代表的な指標が労働分配率で、以下の計算式で求めることができます。

■労働分配率の求め方

労働分配率の計算式

 計算式の分母である「限界利益」は売上によって獲得した利益のおおもとであり、人件費等の経費をまかなうものです(非製造業では一般に粗利益と合致します)。一般に「限界利益=売上高-変動費」で求めることができます。
 労働分配率が上昇したとすれば、それは人件費の伸び率が生産性の伸び率を上回っているということであり、生産性が悪化していることを示します。その場合に、労働分配率を抑えるために単純に人件費を減らせば、社員のモチベーションの低下を招きかねません。そうならないためにも、労働分配率は低く、かつ1人当たりの人件費は高くしたいものです。ここは、経営姿勢が問われるところであり「人件費の伸び以上に生産性を向上させる」という考え方が大切です。
 しかし、生産性を向上させようにも、売上や利益は単体で見ても増減の理由がつかみにくいことがあります。例えば「売上は伸びたのに利益が増えない」「忙しさの割に余裕が感じられない」といった状況は、数字の中身が変化している可能性があります。
 生産性分析の目的は、こうした変化を感覚ではなく数値で捉え「会社の稼ぐ力がどこで落ちているのか(または伸びているのか)」を明らかにすることです。本記事では、より現場で管理しやすい「労働生産性(1人当たりの稼ぐ力)」にフォーカスし、「売上」「利益」「人件費」を軸に1人当たりで分解して「見える化」していきます。具体的には、①1人当たり売上高で「売上をつくる力」を、②1人当たり限界利益で「利益を残す力」を、③1人当たり人件費で「人への投資の水準」を確認し、3つのバランスから経営の課題を整理します。

(2) 生産性分析を活用するメリット

 生産性分析を活用する最大のメリットは、改善の方向性が具体的になることです。例えば、「1人当たり売上高」が伸びているのに「1人当たり限界利益」が伸びない場合は、「単価が低い」「値引きが増えている」「材料費・外注費などの変動費が膨らんでいる」など、利益を押し下げる要因を疑うことができます。逆に、「1人当たり売上高」が伸びていないのに「1人当たり人件費」だけが増えている場合は、配置や業務量のバランスが崩れている可能性があります。
 また、生産性分析は月次で追うことで早期発見につながります。決算で初めて問題に気づくのではなく、毎月の数字の動きから兆しをつかめれば、価格改定や外注の使い方の見直し、人員配置の調整などの手を早めに打てます。さらに、社内でも共通言語がつくれる点は大きな効果です。「忙しい」「大変だ」といった感覚的な会話だけでなく、「1人当たり限界利益を上げるには何を変えるか」という建設的な議論に発展させやすくなります。生産性分析を活用することで、会社の現在地を確認するだけでなく、次に打つべき手を明確にし、強い利益体質づくりを後押しすることができるでしょう。

利益体質で元気な会社のイメージ画像

3.生産性分析で確認したい「1人当たりの3指標」

 前述したように、本記事では「売上」「利益」「人件費」を1人当たりに置き換えて生産性分析を行います。会社の規模や業種が違っても比較しやすくなり、月次の変化から課題を早期に発見できる点が特長です。ここでは、特に経営判断に直結しやすい3つの指標を取り上げます。なお、「従事員数」は期中平均人数でそろえると、月ごとのブレが少なくなります(以下、「平均従事員数」と記載します)。

(1) 1人当たり売上高

 1人当たり売上高は、従業員1人がどれだけ売上を生み出しているかを表す指標です。以下のように求めることができます。

■「1人当たり売上高」の求め方

「1人当たり売上高」の計算式

 ここでいう純売上高(売上高)は、一般に返品や値引きを控除した後の売上を指します。1人当たり売上高が伸びている場合、単価が上がっている、受注量が増えている、または高付加価値の仕事が増えている可能性があります。
 一方、1人当たり売上高が伸びない場合は、単価が低いまま固定されている、非効率な業務が多い、あるいは人員が増えた割に仕事量が増えていない、といった状況が考えられます。
 生産性を高める第一歩は「売上を増やす」ことだけではなく、同じ人数でも単価・受注の中身・作業時間の使い方を見直して売上を伸ばせる状態かを確認することです。

(2) 1人当たり限界利益

 「1人当たり限界利益」は、従業員1人当たりでどれだけ「利益の原資」を生み出しているかを示すもので、以下のとおり求めることができます。

■「1人当たり限界利益」の求め方

「1人当たり限界利益」の計算式

 この指標の良い点は、「売上が増えたのに利益が残らない」という状態を数字で説明できることです。例えば「1人当たり売上高」が上がっているのに、「1人当たり限界利益」が伸びていない場合、値引きの増加、材料費・外注費の上昇、歩留まりの悪化などが起きている可能性があります。逆に「1人当たり売上高」が大きく変わらなくても、「1人当たり限界利益」が改善していれば、価格改定や原価低減が成果を上げていると判断できます。まずは売上よりも限界利益が伸びているかを確認することが重要です。

(3) 1人当たり人件費

 「1人当たり人件費」は、従業員1人に対して会社が負担している人件費の水準を表す指標であり、以下のとおり求めることができます。

■「1人当たり人件費」の求め方

「1人当たり人件費」の計算式

 ここでの人件費は、製造原価や工事原価に含まれる当期労務費だけでなく、販売費および一般管理費に含まれる販管人件費も合算して把握します。現場部門と間接部門を含めた「会社全体としての人件費」を見ることで、より実態に近い判断ができます。
 人件費は、会社の体力を左右する最重要コストであると同時に、人材への投資でもあります。「労働分配率」については前述しましたが、「1人当たり人件費は高く、労働分配率は低く」が理想です。「1人当たり人件費」が上がっていること自体は悪いことではありませんが、その伸びが「1人当たり限界利益」の伸びの範囲内に収まっているかどうかが重要です。賃上げや採用強化を進める場合でも、数字でバランスを確認すれば、無理のない範囲での投資判断が可能になります。

 (1)~(3)の3つの指標を並べると、「売上をつくる力(1人当たり売上高)」「利益を残す力(1人当たり限界利益)」「人への投資の水準(1人当たり人件費)」が一目でわかるようになります。続いて、この3つのバランスをどのようにとって業績改善につなげるかを整理していきます。

4.3つの指標のバランスを取ることが大切

 生産性分析で重要なのは、先に紹介した3つの指標について「個別」に良し悪しを判断するのではなく、相互のバランスを見ることです。なぜなら「1人当たり売上高」が高くても利益の原資が薄ければ経営は安定しませんし、「1人当たり人件費」を抑え過ぎれば人材定着や品質に影響が出るからです。ここでは、3つの指標の組み合わせから見えてくる典型的なパターンと、改善の方向性を整理します。

(1) 「売上は高いのに利益が残らない」――限界利益の伸びが弱い場合

 「1人当たり売上高」は伸びているのに「1人当たり限界利益」が伸びない場合、仕事量は増えているものの利益の原資が十分に確保できていない状態です。よくある原因としては、値引きの増加や単価の据え置き、材料費・外注費の上昇、段取り替えや手戻りによるロスなどが挙げられるでしょう。
 この場合の改善策は「売上をさらに追うこと」ではなく、限界利益を厚くすることです。具体的には、価格改定や見積もり精度の向上、原価の見直し、外注の使い方の整理、採算の合わない案件の選別などが有効です。仕事が増えても利益が残らない状態は、早めに手当てすることが重要です。

(2) 「限界利益は確保できているのに余裕が感じられない」――人件費との釣り合いが取れていない場合

 「1人当たり限界利益」が一定水準で確保できている一方で、「1人当たり人件費」が増えている場合は、限界利益の伸びに対して人件費の伸びが先行している可能性があります。例えば、採用強化で人件費が増えた、残業が増えて労務費が膨らんでいる、間接部門が増えている、などの原因が考えられます。
 もちろん、人件費の増加は人材投資として必要な場面もあります。重要なのは、増加した人件費に見合うだけの限界利益が確保できているかどうかです。改善策としては、単価の見直しや高粗利商品の比率向上に加え、業務分担や工程の標準化、ムダな残業の抑制、間接業務の整理などが効果的です。「賃上げできる会社」にするためにも、利益を残す仕組みを同時に整える必要があります。

(3) 「人件費は抑えているのに売上や限界利益が伸びない」――売上の天井が見えている場合

 「1人当たり人件費」を抑えられている一方で、「1人当たり売上高」「1人当たり限界利益」が伸びない場合は、人員が足りない、あるいは仕事の取り方が頭打ちになっている可能性があります。現場がうまく回らず、機会損失が起きているケースも少なくありません。
 この状態では、単にコストを抑えるだけでは成長に結びつきません。受注の選別や単価改善に加え、業務の属人化の解消、標準化・マニュアル化による処理能力の向上、IT活用による事務作業の削減など「少ない人数でも回る仕組み」をつくることが鍵になります。必要に応じて、外注の活用や採用強化も選択肢になるでしょう。

(4) 3つの指標をセットで確認しよう

 3つの指標のバランスを見る際には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

 1 1人当たり売上高:売上をつくる力はあるか
 2 1人当たり限界利益:売上が利益の原資につながっているか
 3 1人当たり人件費:人への投資は適切な水準か

 そして、判断の目安として「1人当たり限界利益が、1人当たり人件費を上回っているか」を確認します(あくまでもバランスを把握するための見方です)。ここが十分に確保できていれば、固定費の負担にも耐えやすくなり、利益が残りやすい体質になります。逆に差が縮んでいる場合は、単価・変動費・働き方のいずれかに改善余地があると考えられます。
 なお、会社によっては借入金の利息負担などの影響が大きいため、最終的にどれだけ残っているかを確認する目的で、補助的に「1人当たり経常利益(経常利益÷平均従事員数)」を併せて確認することも有効です。

まとめ

 このように、生産性分析は会社の状況を「売上」「限界利益」「人件費」という重要な要素に分解し、1人当たりで比較できるようにする実践的な分析です。数字を追う目的は、個々の指標の良し悪しを単に評価することではありません。変化の理由をつかみ、次の一手を早く打つことが目的です。
 本記事で取り上げた3つの指標を継続的に見ていくと、改善の方向性が明確になります。「1人当たり売上高」が伸びていないなら、仕事の取り方や単価、提供価値の見直しが必要です。「1人当たり限界利益」が低いなら、値引きや原価、外注の使い方など、限界利益を押し下げている要因を点検します。「1人当たり人件費」が上がっている場合は、採用・賃上げ・残業などの要因を整理し、限界利益との釣り合いを確認することが重要です。どれか一つを極端に高めたり抑えたりするのではなく、3つのバランスを整えることが結果として利益体質の構築につながります。
 さらに生産性分析の効果を高めるコツは、年に1回の振り返りで終わらせず、月次で推移を確認することです。数字の変化が小さいうちに気づければ、価格改定や案件選別、工程改善、配置転換などの対応を早めに行うことができます。さらに、社内で目標を共有する際も「売上を増やそう」だけではなく、「1人当たり限界利益を高めよう」といった具体的なテーマに落とし込みやすくなります。
 会社の成長には、売上拡大だけでなく、利益を確保し、人への投資を続けられる体力が欠かせません。生産性分析を定期的に行い、数字に基づく意思決定を積み重ねることで、環境変化に強い会社づくりが進みます。まずは直近1カ月の3つの指標を算出し、前年同月や計画値と比較するところから始めてみましょう。

【参考文献】

・『わかる財務分析 できる経営助言 第3版』(TKC出版)
・『「TKC経営指標」から見た産業別経営動向(BAST別冊)』

株式会社TKC出版

記事提供

株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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