2026年01月20日

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震災から立ち上がる「渡辺表具店 様」 被災後迅速に事業を再開した表具師の“矜持”

震災から立ち上がる「渡辺表具店 様」 被災後迅速に事業を再開した表具師の“矜持”

令和6年能登半島地震から丸2年。一般家庭を顧客に、襖(ふすま)や障子といった建具の張り替え(表具)を生業(なりわい)とする渡辺表具店は、被災後すぐに事業を再開し、建具の修理依頼に応え続けた。渡辺収一代表を突き動かしたのは「表具師としてのプライド」である。

(写真)渡辺収一代表

 「地震に遭遇したのは外出先から自宅に帰ってきた直後のことでした。若干の強い揺れを感じたので、ひとまず外に出てみたのです。揺れが収まり、再び家に戻ったタイミングで、今度は立っていられないほどの猛烈な揺れに襲われました」

 渡辺表具店の渡辺収一代表は、2年前の記憶を呼び起こしながらこう語る。

 2024年1月1日午後4時10分。能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震が発生した。同店が拠点を置く七尾市では最大震度6強を観測。渡辺代表が語ったように、同じく能登地方を震源とする最大震度5強の地震が発生した直後の出来事だった。

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1.1月4日から事業再開

 地震の影響により、自宅を兼ねていた作業場は半壊。津波警報が発令されたことから、すぐさま避難場所である田鶴浜高校に向かったものの、体育館はすでに地域住民で混雑していた。やむなく自宅に引き返した渡辺代表は、緊急時に速やかに移動できるよう、当面の間、自家用車の中で生活することを決める。

 「食料や寝具を車に積み込み、玄関先に停めた状態で3日間過ごしました。ミニバンタイプの車なので、1人で過ごす分には支障がありませんでした」と、渡辺代表は当時を振り返る。

 震度5強以上の余震は次第に発生頻度が減少し、津波警報も1月1日中に解除されたことから、渡辺代表は4日から仕事を再開。顧客のもとを訪れては、引き戸、障子、襖といった建具の修理対応に精を出したという。

 「仕事の再開直後から『玄関の扉や部屋の襖が動かない』といった類いの電話が相次いでかかってきました。1日10件程度問い合わせが入ったでしょうか。建具は工具さえあれば修理できるので、この時期は顧客の家を訪ねては、ひたすら建具を直していましたね」(渡辺代表)

 同店はもともと建具メーカーの下請け仕事を中心に手がけていたが、10年ほど前に一念発起して個人の顧客を開拓。以来、顧客層を一般家庭や寺院に絞り、襖や障子、掛け軸、壁紙などの修復、張り替えを行ってきた。地震後は、過去に表具・建具の修復を手がけた顧客を中心に“SOS”の連絡が相次ぎ、これらを一切断ることなく、依頼が舞い込むたびに顧客の元へ急行した。渡辺代表を突き動かしたのは、困っている人を見過ごせないという“表具師としての矜持”である。

 とはいえ、主な収入源である襖や障子などの張り替え作業は、一切着手することができなかった。七尾市一帯が断水していたためだ。

 「糊を溶かしたり、手を洗ったりするための水がないと、張り替え作業を進めることはできません。当時は蛇口をひねっても水が一滴も出ず、復旧までに時間を要するとのことだったので、『本格的な事業再開は当分先になるだろう』と思いました」

 ようやく水道が復旧したのが、2月上旬のこと。復旧して早々に、渡辺代表は仕掛かりの状態にあった襖、障子等の張り替え作業に着手する。幸いにも金沢と七尾を結ぶ道路は寸断されておらず、車の往来も可能だったため、資材の調達に苦慮することはなかったという。

2.建て替え費用を迅速に調達

 その一方で、渡辺代表は別の問題に直面していた。作業スペースの問題である。地震の影響で半壊してしまった作業場。整理整頓し、なんとか仕事ができるまでに原状回復したものの、家屋のいたるところにゆがみや傷が生じたことから、今の作業場を使い続けるのは困難だった。

 リフォームするべきか、建て替えるべきか。いずれにしても、それなりの費用が発生してしまう。そのための資金をいかにして確保するべきか……。考えに考えを巡らせる渡辺代表のもとに、1本の着信が入る。声の主は所司安輝朗顧問税理士だった。

 「2月4日に日本政策金融公庫の北陸地区の責任者が来所されます。今後の事業方針や資金繰りなどについて、公庫を交えて一度打ち合わせませんか」

 所司税理士とは20年に顧問契約を結んで以来、帳簿の確認や経営相談などで毎月顔を合わせる関係である。この所司税理士からの電話を機に、渡辺代表の悩みは一気に解決の方向へと向かう。同日、日本政策金融公庫との面談に臨んだ渡辺代表は、担当者が事業の概要から業績、直面している課題にいたるまで細かく把握していたことに驚いたという。

 「公庫の方とはその日初めてお会いしたのですが、うちの業況や課題などを的確に理解しておられたのです。作業場の改築について相談したところ、その場で『支援します』と言っていただけたことにとても驚きましたし、『この先も仕事を続けられる』と気持ちが前向きになりましたね」

 この言葉どおり、渡辺代表はその日のうちに約3,000万円の融資契約を締結。これに「なりわい再建支援補助金」を活用して、作業場を一から建て直すことを決めた。

(左)屏風の修復を依頼されることも、(右)令和6年能登半島地震を経て新たに建て替えた作業場

(左)屏風の修復を依頼されることも、(右)令和6年能登半島地震を経て新たに建て替えた作業場

 なぜ、これほどまでに素早く融資契約を結ぶことができたのか。それは「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を通じて、顧問税理士のお墨付きを得た信憑性の高い決算書をデータで提出していること、所司税理士と公庫との間で渡辺表具店の現状に関する情報が綿密に共有されていた結果である。また、同店が黒字決算を継続しており、堅固な財務体質を築いていたことも奏功した。

 新しい作業場は大和ハウス工業が再建を担当し、24年末に完成。現在は整理整頓された作業場で日々、表具の修復作業にいそしんでいる。

(取材協力・所司久雄税理士事務所/本誌・中井修平)

会社概要
名称 渡辺表具店
業種 襖・障子等の張り替え(表具)
創業 1982年1月
所在地 石川県七尾市田鶴浜町る部10
URL https://watanabe-hyougu.com
顧問税理士 所司久雄税理士事務所
税理士 所司久雄 所司安輝朗
石川県七尾市国分町ラ部2-2
URL: https://www.tkcnf.com/shoji/index

掲載:『戦略経営者』2026年1月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

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戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

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