2026年02月02日

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クリニックの新規開業における留意点

クリニックの新規開業における留意点

💡この記事のポイント
 ☑近年の新規開業の傾向と医療行政の動向を理解する
 ☑新規開業の大まかな流れとスケジュール感を把握する
 ☑開業コンセプトが重要であることを理解し、作成してみる
 ☑「開業」はゴールではなくスタートであることを再認識する
 ☑何十年もクリニック経営を続けることを前提に、改めて開業コンセプトを策定する

1.はじめに

 近年、日本の医療環境は大きな変化を迎えています。高齢化の進展と人口減少、地域医療構想の推進、診療報酬改定などにより、クリニック(「有床・無床診療所」以下、同じ)の役割はますます重要になっています。一方で、クリニックの新規開業には多額の投資と経営リスクが伴います。新規開設が失敗しないためには、医療行政の動向や医療法、手続き等の知識を含め、事前の準備が不可欠です。

2.人口は減少局面にある一方で医科クリニックの増加傾向は続く

 まずは、近年の新規開設の状況を見てみましょう。
 近年、日本の人口は減少局面にあるなかで、令和6年の医科クリニック開設数は7,035施設で、全体は105,207施設(313施設増)となり、増加傾向が続いています。人口10万人当たりのクリニック数が85.0施設という状況からすると、全体のクリニック数としては飽和状態に向かっていて、経営は厳しいと考える方もいらっしゃると思います。確かに、平成17(2005)の人口10万人当たりが76.3施設でしたので、約10年で約11%の増加となっています。しかし、後述しますが、高齢化や医療機関の整備状況は全国各地が同じ状況ではなく大きく異なります。そのため、「医師少数区域」等を設けて実効性のある総合的な医師偏在対策を推進するなどしています。
 一方で歯科クリニックの状況は、開設数1,363施設、全体では66,378施設(440施設減)と、平成30年の68,613施設をピークに減少傾向となっています。平成17(2005)の人口10万人当たりの施設数は52.2でしたが令和6(2024)年においても53.6と、大きな変動はなく、長く飽和状況が続いているといえます。このようななかで新規開業が成功するかどうかは、開設する歯科医師の総合力にかかっているといってよいのではないでしょうか。

■診療所(有床・無床)の開設等の状況

(医療施設調査、前年10月~9月の1年間の数)

令和元年 2 3 4 5 6
開設・再開 7,986 8,700 9,775 8,171 5,854 7,324
開 設 7,768 8,302 9,546 7,847 5,437 7,035
再 開 218 398 229 324 417 289
廃止・休止 7,475 8,704 8,095 7,281 6,142 7,011
廃 止 6,982 7,770 7,612 6,697 5,047 6,501
休 止 493 934 483 584 1,095 510

■歯科診療所の開設等の状況

(医療施設調査、前年10月~9月の1年間の数)

令和元年 2 3 4 5 6
開設・再開 1,521 1,565 1,422 1,440 1,555 1,474
 開 設 1,451 1,393 1,352 1,333 1,454 1,363
 再 開 70 172 70 107 101 111
廃止・休止 1,634 2,191 1,397 1,584 2,492 1,914
 廃 止 1,478 1,714 1,252 1,410 2,037 1,748
休 止 156 477 145 174 455 166
厚生労働省「令和6(2024)年医療施設調査」より

3.各地の高齢化・人口減少のスピードは異なる

各地の高齢化・人口減少のスピードは異なる

 日本の人口1億2,615万人(令和2(2020)年の国勢調査)は、2040年には10%超減少の1億1,284万人に、65歳以上人口が全人口の約35%になると推計されています(厚生労働省Webサイト「日本の人口の推移」の表より)。
 さらに、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大により、認知症高齢者、独居高齢者の増加とともに増加する高齢者救急への対応が課題とされています。また、高齢化や人口減少のスピードには地域によって大きな差があることから、その対策も地域医療構想や医療計画、医師偏在対策等の施策により、各地域の実情に応じた医療提供体制の構築を図ろうとしています。

 クリニックに関係する主な施策の内容を見てみましょう。

① 外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等

 都道府県は、外来医師偏在指標が一定数値を超える地域(外来医師過多区域)で新規開業を希望する医師に対し、次の対応を行います。
 1)開業の6か月前に、提供予定の医療機能などを記載した届出を求めます。
 2)届出内容を踏まえ、地域の外来医療に関する協議の場への参加を求めることができます。
 3)また、地域で不足している医療機能(夜間・休日の初期救急医療、在宅医療、公衆衛生など)や、医師不足地域での医療提供(土日の代替医師など)を要請することができます。
 開業後、要請に従わず、地域で不足している医療機能や医師不足地域での医療提供を行わない場合、都道府県医療審議会で理由の説明を求めます。やむを得ない理由が認められない場合は、勧告を行います。

② 全国的なマッチング機能の支援

 中堅・シニア世代などの医師を対象に、医師不足地域での医療に関心や希望を持つ医師を掘り起こします。必要に応じて、リカレント教育や現場体験を提供し、医師不足地域の医療機関とのマッチングや定着支援を行います。このため、全国的なマッチング機能を支援します。
 さらに、重点医師偏在対策区域では、診療所医師の高齢化に対応するため、医師確保を支援します。具体的には、支援区域内で診療所を承継または開業する場合、施設整備・設備整備・一定期間の定着支援を行います。

③ 地域医療体制の整備に関する協議の場と協議事項

 新たな地域医療構想では外来診療や在宅医療、介護の連携、人材確保等も含めたあるべき医療体制の実現をめざし、関係者等による協議が行われる(外来医療機能の偏在・不足等への対応、かかりつけ医機能確保のための具体策を検討)。

 このように医療体制整備や地域の環境が大きく変わっていることを理解しておく必要があり、そのうえで新規開業について検討します。

4.新規開業の3フェーズ

 それでは新規にクリニックを開業する場合の大まかな流れの一例を見ていきましょう。準備期間は10か月~16か月程度、場合によってはそれ以上になるケースもあります。戸建て開業や医療法人による開業などを検討している場合は、長期になることを見込んでおきましょう。
 3つのフェーズで考えるとわかりやすいでしょう。

第1フェーズ
コンセプト・計画策定
第2フェーズ
施設・診療環境整備
第3フェーズ
直前準備
コンセプトの策定
市場調査・開業地域選定
事業計画策定
資金計画・資金調達 等
施設設計・施工
医療機器の選定
人材採用 等
広報・集患戦略
医薬品等の調達
行政手続き
内覧会 等

 第1フェーズは、開業目的や診療科目、患者層を明確化するなどして「クリニックのコンセプト」を策定し、「市場調査」で医療ニーズや競合などから市場性を把握し「開業地域」を決めます。そして「物件選定」とともに「事業計画策定」、「資金計画・資金調達」など、開業後のクリニック経営にとって、その方向性を決める重要な時期となります。
 クリニックのコンセプトは、開業地域(都市部か・郊外かなど)や物件(戸建て・テナント・モール)、事業計画・資金計画などにも大きくかかわってきます。また、さまざま検討するなかで、取捨選択の判断を迫られますので、コンセプトにおいて何を優先するかということも検討しておきます。
 また、近年はクリニックの経営環境が厳しくなっていることから、あまりお金をかけずに開業するケースが増えています。そのような場合は、既存クリニックを引き継ぐ「承継開業」ということも有力な選択肢です。開業初期費用を抑えるだけでなく、準備期間も短縮することができます。
 第2フェーズは、「設計・施工」「医療機器の選定」「人材採用」などを進めていきます。
 人材採用では、どのような人材がほしいのかを明確にし、採用基準、採用後の研修などを整備・明確化します。理念やビジョンを共有し、スタッフがどのような未来を描けるかを具体的に示すことも大切です。
 第3フェーズは、「広報・集患戦略」「医薬品等の調達」「行政手続き」「内覧会」などを行う開業直前の時期となります。開業に向けて、ホームページやSNSの開設、地域への告知を行い、医薬品や医療材料の調達業者を選定し調達します。内覧会は地域の人たちだけでなく、診療科にもよりますが介護との連携なども見据え関係者の人たちにも参加いただくことを検討しましょう。認知いただく絶好のプロモーションとなりますので、しっかり準備して行いましょう。
 行政手続きに関しては後述します。

5.開業方法の選択肢と開業スケジュール

(1) 開業方法の選択肢

開業方法の選択肢

 クリニックの新規開設にあたって、新規開業と承継開業のどちらを選択するかで、全体の開業計画は大きく変わります。
 新規開業では、自分のコンセプトに沿ったクリニックをゼロから意のままに自由設計できる点が何よりのメリットです。一方、承継開業では、初期投資を抑えられることや、既存の患者を一定数引き継げること、場合によってはスタッフも一定数引き継げ、経営において立ち上がりが早い傾向にある点がメリットとしてあげられます。しかし、これらのメリットはさまざまな制約のうえに成り立っているともいえ、自由度は大きく減少します。
 どちらも長短ありますので、初めからどちらかに決めるのではなく、新規開業と承継開業を両方進めながら具体的な物件等を見て判断するのがよいのではないでしょうか。
 また、新規開業においては個人開業か、法人開業かの選択肢も出てきます。後述しますが、医療法人による開業の場合は、開設までの手続き期間が長くなり、その間は収入がないのに費用だけが出ていくことになります。その一方で融資を受ける場合は法人のほうが有利となるケースもあります。また、将来的に法人化して地域に医療資源を残したいと考えているような場合は、初めから法人開業を選択することも考えられます。
 いずれを選択するにしても、クリニックのコンセプトを実現するために、何を優先するかの判断となります。

(2) 手続きは開業スケジュールを考慮して進める

 無床診療所の個人開設の手続きの流れは次のようになります。


 事前相談 → 施設完成 → 開設 → 開設届 → 実査 → 社会保険手続き → 保険診療開始


 事前相談、開設届は保健所での手続きとなります。事前相談においては、開設スケジュール(見込み)、平面図、開設届の際に提出する書類等で準備可能なものを持参します。
 社会保険手続きは、保険診療を行うために保険医療機関指定申請を行う必要があります。地方社会保険医療協議会の諮問を経て受理されます。部会の開催が月1回行われることを踏まえ、あらかじめ確認しておき、開業スケジュールを考慮して手続きを進めます。

(3) 開設届等

 開設届は、開設後10日以内に提出します。①診療所開設届、②管理者の臨床研修等終了登録証の写し、③管理者の職歴書、④診療に従事する医師の臨床研修等終了登録証の写し、⑤敷地の平面図、⑥敷地周囲の見取図、⑦建物の平面図などを添付・提出することとなります。ほかにエックス線装置備付届を求められます。なお、都道府県等によって、提出する書類が異なる場合があるほか、電子メールでの提出を受け付けているところもありますので、事前に確認するようにしてください。

(4) 法人開設の場合の手続き期間

 医療法人の開設の場合は、開設届の手続き前に法人の認可、登記、法人開設の許可申請が必要となり関係各所との事前相談が重要となります。法人手続きが済んだ後に開設届という流れになります。また、法人設立に際しても期間が必要となるのでその分、手続き期間も長くなります。およそ6~8か月程度の期間が必要となりますので、ご注意ください。

6.「開業」はゴールではなくスタート(開業後の経営戦略)

 さまざまなことを検討し計画を立て、開設の手続きを踏んで、ようやく開業したといってもホッとすることはできません。これからが本番でスタートなのです。また、目先のことだけでなく、何十年とクリニックを続けていくことになりますので、将来的な地域の受給バランスはどうなるのか、自院はそれにどう対応するのか、そのような対策まで考えておくことも忘れてはなりません。

(1) 数字に基づいた経営を

数字に基づいた経営を

 近年は経営環境が厳しくなるなか、人口は減少局面を迎え、高齢患者は増えても全体的な患者数の伸びは大きく期待できません。「きちんと診療さえしていれば、社会保険診療なのだから大丈夫」とはいえなくなっています。数字に基づいた経営が不可欠です。損益分岐点はいくらで、その収入を上げるためには何人の患者さんを診なければならないのか、このようなことを実行できるのもしっかりとした経営管理をしているからできることです。

(2) 経営改善は収入確保策と生産性向上の視点で

 また、新たな収入の確保策として、在宅医療(診療報酬点数の高い)に進出するなどの方策が必要になることも出てきます。クリニック経営においては、このような収入確保策とともに生産性向上の視点も必要です。たとえば、ICT活用などのDXを強化し生産性を向上させるなどです。「人・物・金」といった視点から検討すると、漠然と考えるより具体策に結び付きやすくなりますし、アイデアも多く浮かんできます。

(3) 組織として力を発揮できる体制づくりを

 クリニックが組織として力を発揮できるようにすることも重要なことです。1人ひとりが個の力を発揮するのはもちろんですが、それが連携した動きとなることで大きな組織力となります。それには円滑なコミュニケーションや情報共有とともに明確な目標の共有が欠かせません。また、スタッフが働き甲斐をもって業務に取り組むためには役割と責任を明確にすることや、教育体制も重要です。一緒に働くスタッフが充実するような体制を整備することで、働きやすい職場となって力がアップします。

(4) 信頼確保でファンづくり

 医療の質や安全も重要ですが、患者からの信頼をいかに確保するかも重要です。それには患者からの信頼確保とともに、地域住民との密接な関わりも大事です。また、患者の利便性向上など患者視点を取り入れたクリニックの運営も必要です。クリニックのファンを増やすという姿勢が大事です。

 新規開業においては、どのようなクリニックをつくりたいのかというコンセプトが重要となりますが、一方で開業後の経営においては、いかに地域ニーズに応えるかが持続的な経営につながります。コンセプトづくりにおいても、先を見据えて計画することが求められるといえるでしょう。

【参考文献】

・「令和6(2024)年医療施設調査」厚生労働省
・「日本の人口の推移」厚生労働省Webサイト
・「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」厚生労働省
・「医師偏在対策に関するとりまとめ」厚生労働省・新たな地域医療構想等に関する検討会
・「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」厚生労働省
・「診療所新規開設の手引き」東京都ほか

株式会社TKC出版

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株式会社TKC出版

 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
 税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。

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