左端は鈴木有季監査役
大和船舶土地は、兵庫県神戸市を地盤に住宅やオフィス、商業ビルなどの不動産賃貸業を営んでいる。月次決算による緻密な計数管理を通じた安定経営を実現しつつ、積極投資で神戸の街づくりに貢献する同社の経営戦略を取材した。
1960年創業の大和船舶土地は、かつて500トン級の貨物船を複数保有し、貸し出す海運業を営んでいた。しかしその後の海運不況をきっかけに不動産賃貸事業に転換。現在では不動産賃貸業を営む大鈴、不動産賃貸やリース業を手掛ける大和リース、不動産賃貸に加え内装工事業も手掛ける有限会社大和建物管理などで企業グループを形成している。3代目の鈴木祐一社長によると、収益の大半は地代や家賃収入だという。
「土地、建物、施設全体で延べ床面積約5万平方メートルの不動産を保有し、地代家賃による収入を得ています。住宅を中心に、オフィス、店舗、商業ビル、宗教施設など多様な物件をお貸ししています。また神戸駅前の『さんセンタープラザ』の物件も区分所有しています」

鈴木祐一社長
鈴木社長は神戸生まれ神戸育ち。故郷に対する愛は誰にも負けない。従って賃貸で貸し出している不動産への投資はすべて神戸市内のみ。出身地の須磨区板宿地区、須磨ニュータウン、本社のある中央区、出身校の神戸高校の学区である岡本地区に特に集中して物件を保有、主に大型賃貸住宅「BELLTREE」、ニューコンセプト賃貸住宅「Y'sHOUSE」、テナント賃貸物件「SUZUKI bldg.」の3ブランドを展開している。

グッドデザイン賞を受賞した「Y's house12」(神戸市須磨区)(左)、「BELLTREE 若草 ANNEX」の外観(中央)、「BELLTREE 若草 ANNEX」(神戸市須磨区)の住戸(右)
「私が目指すのは、地域で必要とされている建物を作りながら、少しずつ街を変えていき、街の特徴をより強調できるようにすることで、結果的に街がより元気になっていくお手伝いをする事業を展開すること。地域住民とともに、神戸の街づくりに貢献したいと考えています」
こうした考え方に基づき、築年数の古いビルや古民家などを積極的に取得。現代のニーズにあった間取りや内装にリノベーションしたうえで貸し出す手法に注力している。「古い建物には独自の味わいが残っており、そこに新しいリノベーションの仕上げをうまくぶつけ、奥行きのある魅力的な建物によみがえらせる」(鈴木社長)のが最大の特徴というわけだ。
1.経営者と建築家の二つの顔
取得する物件の見極めとリノベーションの内容を担保するうえで、鈴木社長自ら一級建築士の資格を保有している点が強みになっている。同社の事業にとって、生活スタイルの変化に応じ時代に合った内部空間にリデザインすること、構造上重要な部分のメンテナンスを定期的にしっかり行うこと、時代のニーズに合わせて内部空間のリノベーションや設備の更新も適切に行うことなどが、極めて重要なポイントだからだ。
例えば神戸市須磨区に94年に建設した「BELLTREE 若草 ANNEX」。最大高低差20メートルの斜面に32戸のファミリータイプ住戸を収めたユニークなマンションである。エントランスにかつて保有していた船舶のベルやランプといった装備品を設置するなど、事業承継前の若き鈴木社長が設計を担った思い入れのある物件だが、長男の鈴木康太専務が設計のプロデュースを担当し2024年に一部住戸でのリノベーションを実施。部屋の壁を取り払ってリビングダイニングを広げたり、ウオーク・イン・クローゼットを設置したりした。リノベーションを実施した住戸は約1万5,000円値上げ改定したにもかかわらず、昨年までより客付けの期間が短くなり、営業担当者からの評価も高いという。経営者と建築家の二つの顔を持つ鈴木社長の手腕がいかんなく発揮された例といえる。
設計や街づくりのコンセプトなど、鈴木社長の頭の中にはアイデアが次々と浮かんでくる。しかし一方でそれらを具現化するためには、利益を出し黒字経営を維持していかなければならない。そのため、鈴木社長は『FX2』の《365日変動損益計算書》を頻繁にチェックするなど、年間予算の達成を実現すべく細部まで目を光らせている。
「特に修繕費について、前年同月に比べて極端に増えたり減ったりしていないか細かくチェックするようにしています。また、物価の上昇が続くここ数年、いかに値上げのダメージを最小限に食い止めるかに気を配ってきました」
例えば電気料金。前年からの上げ幅が大きすぎると判断するや否や、電気代圧縮の方策を検討。高圧受電設備の保守管理会社を変更することで、かなりの電気代節約を実現した。
「新しい保守管理会社は自ら発電事業、電気の卸売り事業を行っており、保守管理と電気の契約をセットで行うことにより、トータルのコストが年間100万円単位で安くなりました」(鈴木社長)
2.自己資本比率50%が視野に
計数管理に長けた鈴木社長の堅実経営を側面から支えているのが、孝岡真太郎顧問税理士である。
「私が担当するようになってから、ずっと黒字経営を続けています。経常利益も毎年安定し、自己資本比率も常に上昇傾向にあります。社長の緻密な計画と経済環境に対する変化に柔軟に対応しながらも常に挑戦し続ける姿勢が、今の数字につながっているのだと思います」

孝岡真太郎税理士
孝岡税理士は、安定経営が実現している理由の一つに、毎月同社を訪問し会計データの正確性と適時性を確かめる「月次巡回監査」を挙げる。孝岡税理士によると、経営面でのメリットは大きく3つあるという。
「1つ目は、毎月会社を訪問し、証憑書類を確認し、社長の考え方や意見を直接聞くことで、信頼性の高い正確な決算書を作成できること。そうすることで、税務署や金融機関から高い信頼を得ることができます。
2つ目は、月次決算の報告の中で、経営や財務の現状について、お互いに数字を確認しながら共通認識を得られること。このことが、社長による将来的な意思決定の判断材料になります。
3つ目は、内部統制に役立つこと。会社の財務管理は社長、経理担当者、事務所の3者で行っていきますが、巡回監査で第三者の私が入ることによって透明性が確保され、社長も担当者も安心して業務に取り組めるようになります」
巡回監査や決算報告の際、鈴木社長と孝岡税理士の間で常に話題にのぼるのが、自己資本比率である。経営の安定性を考えると自己資本比率が高いにこしたことはない。しかし自己資本比率向上を目的とするあまり投資に抑制的になれば、成長はのぞめない。鈴木社長はそのジレンマが必ずディスカッションのテーマになると話す。
「コツコツと利益を積み上げ、かつて20%を割り込むこともあった自己資本比率は50%到達が現実的なところまできました。ただこれが60%、70%になればそれでいいのかというと、そうではない気がします。自己資本比率の向上だけを追求すると、借り入れをして投資をする事業意欲が損なわれる可能性がありますからね。経営の安定性と投資のバランスをどのようにとるかが、孝岡先生とのディスカッションの最大のテーマになっています」
3.取引行とも良好な関係を構築
積極的な情報開示と定期的なコミュニケーションの実践で金融機関との関係も良好だ。兵庫信用金庫の時見滋彦神戸中央支店支店長はいう。
「毎月、月次決算の報告を受けているので、経営の安全性と財務の透明性については、全く問題ありません。多数の物件を保有されていますが、全てを正確に把握されているうえ、事業計画も自ら作成されています。月次決算の内容について質問しても、即座に適切な回答が得られる点に感銘を受けています」

兵庫信用金庫神戸中央支店の時見滋彦支店長
時見支店長はさらに、地域貢献に対する鈴木社長の思いにも強く共感するという。
「鈴木社長の『神戸をもっと盛り上げていきたい』という姿勢は、兵庫信用金庫のビジョンと共通する部分が大きいと感じており、その意味でも大和船舶土地さまを引き続き応援していきたいと考えています」
日新信用金庫神戸支店の志倉慎一郎支店長も、財務の信頼性、透明性を高く評価している。
「毎月の試算表の内容について、鈴木社長ご自身の言葉で細かくご説明いただくことで、書類としての信頼性、透明性はとても高いと感じています。レントロール(収益物件における入居者やテナントの契約状況を一覧表にまとめたもの)なども迅速にご提出いただけるので、支援が必要なときにタイムリーに準備できます」

日新信用金庫神戸支店の志倉慎一郎支店長
志倉支店長は、財務面での支援にとどまらないサポートの可能性についても言及する。
「リノベーションによって付加価値を加えていくビジネスモデルは、地域経済活性化の循環を生んでいくものです。財務支援に加え、不動産情報の提供やビジネスマッチングなどを通じた伴走支援をさせていただきたいと考えています」
人のつながりと神戸の街をこよなく愛する鈴木社長。税理士、金融機関とがっちりスクラムを組みながら、「ステディーな投資を通じて神戸の街をよくしていく」(鈴木社長)活動に注目したい。
(協力・孝岡会計事務所/本誌・植松啓介)
| 名称 | 大和船舶土地株式会社 |
|---|---|
| 業種 | 不動産賃貸、建築物設計管理業 |
| 設立 | 1960年5月 |
| 所在地 | 兵庫県神戸市中央区小野柄通3-1-15 |
| 売上高 | 約6億円(大和船舶土地グループ全体) |
| 従業員数 | 5名 |
| 使用システム | FX2 |
| URL | https://www.daiwasenpaku.co.jp |
| 顧問税理士 |
孝岡会計事務所
顧問税理士 孝岡真太郎 兵庫県神戸市中央区多聞通2丁目1-24 第二法友会館ビル5F URL: https://takaokakaikei.tkcnf.com |
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掲載:『戦略経営者』2025年10月号
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