💡この記事のポイント
☑雇用する外国人の在留資格等をしっかり確認する!
☑労働条件の明示とハローワークへの届出を忘れずに!
☑税金・社会保険の手続き等について適切に行うこと!
1.増加する外国人労働者数!過去最多を更新
日本の生産年齢人口(15〜64歳)の減少が進み、人材確保に悩む中小企業が増えています。そのなかで、人手不足を補うために外国人労働者を雇い入れる動きも活発になっています。厚生労働省によると、2024年の外国人労働者数は約230万人で過去最多を更新しました。他方、「外国人を雇用した際の手続きや税務はどうなるのか」という疑問や不安を抱える経営者も多く、なかなか外国人の雇用に踏み切れない経営者もいるようです。しかし、過剰に警戒する必要はありません。外国人を雇用する際のポイントをしっかりおさえ、適切に対応することができれば、そのハードルは決して高いものではありません。
2.近年、低賃金化が進む日本でどうして外国人労働者が増えているの?
日本の生産年齢人口(15〜64歳)の減少が進み、人材確保に悩む中小企業が増えています。そのなかで、人手不足を補うために外国人労働者を雇い入れる動きも活発になっています。厚生労働省によると、2024年の外国人労働者数は約230万人で過去最多を更新しました。他方、「外国人を雇用した際の手続きや税務はどうなるのか」という疑問や不安を抱える経営者も多く、なかなか外国人の雇用に踏み切れない経営者もいるようです。しかし、過剰に警戒する必要はありません。外国人を雇用する際のポイントをしっかりおさえ、適切に対応することができれば、そのハードルは決して高いものではありません。

近年、円安の影響もあり、諸外国と比べて日本は低賃金化が進んでいます。その背景を考えると、「どうして日本で働く外国人が増えているのか?」と思う人もいるかもしれません。しかし、この点は外国人の雇用において大きな影響はないのです。
日本の外国人労働者の国籍を見ると、最も多いのがベトナム、次に中国、フィリピンと続きます。これらの国々と比べると、まだまだ日本の平均年収は各段に高いのです。また、ベトナムや中国、フィリピンからの就労先の候補になり得る国として、韓国や台湾、カナダ、オーストラリア等があげられますが、これらの国々の人口は日本と比べるとはるかに少ない状況です。つまり、その分、企業数も少なく日本の方が採用されやすいと考えられています。加えて日本は治安がよく、物価が安いという利点があり、今でも就労先としての人気を維持しているというわけです。
3.外国人を雇い入れるメリットと留意点

まずは、外国人を雇い入れるにあたってのメリットと留意点を見てみましょう。
(1) メリット
○人材の選択肢が広がり、人手不足の解消や労働環境の改善につながる。
○企業のグローバル化が進むきっかけになる。
○特定分野のスキルを活かし、即戦力として活躍する可能性が高い。
○技術習得等の目的が明確な場合、勤労意欲が高く、まじめに働く傾向がある。
○一定の条件を満たせば助成金等を活用できるケースがある。
(2) 留意点
○「在留資格」の有無等をきちんと確認しないと無自覚に法律・法令に違反してしまう可能性がある。
○日本人と比べると雇入れの手続きに手間がかかる。
○言葉や文化、習慣の違いから、コミュニケーションが難しい場合がある。
○宗教に対する配慮が必要となる場合がある。
4.外国人を雇う際に必ず確認すべきこと
外国人を雇う前には、日本人と同じように履歴書の提出を受け、面接を行うことになると思います。その際、日本人と同じ感覚で、職歴や人柄だけで判断し採用してしまうと、「実は就労制限がある在留資格だった」等、後日思わぬトラブルが発生するかもしれません。
そうしたことが起きないように面接の際には、下記の資料を必ず確認させてもらいましょう。
(1) 在留カード(両面)
※在留資格によっては「就労資格証明書」や「資格外活動許可書」の確認も必要です。
(2) パスポート
(3) 住民票
(4) マイナンバーカード
「住民票」や「マイナンバーカード」は、税務の手続きや社会保険加入時に必要となります。提示を受けた書類は必ずコピーし、保管しておきましょう。
5.「在留カード」の確認!ココがポイント

特に「在留カード」には、「在留資格」「就労制限の有無」「在留期間」等、重要な事項が記載されています。特に下記の項目はしっかり確認するようにしましょう。
①住居地(変更の場合は裏面に記載)
②在留資格
③就労制限の有無(在留資格の種類によっては就労制限があり雇入れが不可能な場合もあるため注意)
④在留期間(満了日)
⑤有効期限
⑥在留カード番号(出入国在留管理庁Webサイトで在留カード番号の失効情報を確認可能)
⑦顔写真(有効期間満了日が「16歳の誕生日まで」の場合、写真は表示されない)
⑧交付者(2019年3月31日までに交付された在留カードには「法務大臣」、それ以降は「出入国在留管理庁長官」と記載)
上記のなかでも特に「在留資格」は29種類もあるので、自社で雇い入れても問題がないのかどうか、判断に迷う場合があるかもしれません。例えば下記のようなケースです。
(1) 在留資格が「技能」となっている
活動制限がある在留資格では、接客や工場のライン作業等「単純作業」とみなされる業務や、異なる在留資格に基づく業務を行うことが認められません。
(2) 在留資格が「留学」となっている
留学生は原則として就労できませんが、「在留カード」裏面に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く」と記載があれば、その内容に基づき就労が可能です。
なお、就労資格がないのに働くことは「不法就労」、在留期間が過ぎているのに日本にいることは「不法滞在」となります。たとえ故意でなくても、雇用した側も法的な責任を問われることがありますので、在留資格や在留期間は特に念入りに確認することが大切です。
6.外国人を雇う際に必ず確認すべきこと
日本人、外国人を問わず、労働契約前には「業務内容」「就業場所」「賃金」「労働時間」等の労働条件を明示し、それを記載した「労働条件通知書」を交付する必要があります。日本人と同じように「そこまで細かく言わなくても伝わるだろう」とあいまいにしておくと、後々のトラブルにつながりかねませんので、きちんと行いましょう。
<こんな事例も?外国人労働者との労使トラブル>
①昇給の判断基準があいまいだった
賃金を同一に設定していた外国人労働者3人のうち、1人の月給を理由は説明せずに5,000円上げた。残りの2人は、「なぜ自分たちは上がらないのか」と不満に思い、退職してしまった。
②国の文化や習慣を理解していなかった
アジア系外国人労働者が旧正月の休暇取得を希望したが「繁忙期だから」との理由で認めなかった。その外国人が母国に住む家族との再会を熱望していたため、無断欠勤して帰国し、そのまま日本に戻らなかった。
③既存の日本人労働者への説明が不十分だった
外国人労働者に対し、法定の年次有給休暇に加え、帰国のための特別休暇を急遽付与した。それを不平等に感じた日本人労働者が反発。外国人労働者は居心地が悪くなって出社しなくなり、連絡も取れない状況になり、警察へ行方不明者届を出さなければならなくなった。
このようなトラブルを防ぐために、例えば「労働条件通知書」に相手の母国語での表記を加える等、正確に伝えるための工夫が必要です。なお、厚生労働省では「外国人労働者向け労働条件通知書(英語)」のモデルを公表しています。
7.採用したらハローワークへ届け出よう!
外国人を雇ったとき、あるいは雇用していた外国人が離職したときに忘れてはいけないのは、必ずハローワークに外国人の雇用状況の届出をしなければならない点です。雇った外国人が雇用保険の被保険者となる場合は「雇用保険被保険者資格取得(喪失)届」、被保険者とならない場合は「外国人雇用状況届出書」を記入し、管轄のハローワークに提出しましょう。
なお、「外国人雇用状況の届出」時の確認事項は下記のとおりです。
①氏名(ふりがな)
②在留資格
③在留期間(満了日)
④生年月日
⑤性別
⑥国籍・地域
⑦資格外活動許可の有無
⑧在留カード番号
8.雇用した外国人が「居住者か?非居住者か?」で税務の取り扱いは変わる!
給与等の支払いに伴う源泉所得税や住民税の税務については、日本人労働者とは異なる場合があるので注意が必要です。雇用している外国人が「居住者」か「非居住者」かで、その取り扱いが変わります。確認する際は、必ず公的な書類でチェックしましょう。
区分 | 定義 | 所得税 (国内源泉所得) |
住民税 | |
居 住 者 |
永住者 | 住所を有し、または現在まで1年以上居所を有する者のうち、下の「非永住者」以外 | 課税 | 前年に所得があり、その年の1月1日に日本に住所を有する場合に課税 |
非永住者 | 日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において、国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下 | 課税 | ||
非居住者 | 居住者以外(1年未満の短期滞在を予定している場合) | 課税 | 課税されない |
■そもそも「居住者」とは?
国内に「住所」を有する個人または国内に現在まで引き続き1年以上「居所※」を有する個人※相当期間継続して居住する場所で、生活の本拠という程度には至らないもの。
(1) 所得税は原則、源泉徴収と年末調整を行う
所得税の取り扱いは原則、日本人労働者と同じです。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受け、毎月源泉徴収を行います。また、年末調整についても実施し、金額等を記載した「源泉徴収票」を交付します。
その上で、以下の点に注意しましょう。
①海外に扶養親族がいる場合
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、国外に居住する親族の記載があった場合には、その人が親族であることを証明する外国政府等が発行した書類等と、海外への送金を証明する書類を提出してもらう必要があります。
②租税条約により所得税が軽減・免除される場合
技能実習生や留学生等の場合、本人の母国との租税条約により、所得税が軽減・免除される場合があります。租税条約の適用を受けるためには、本人から「租税条約に関する届出書」等の必要書類を受け取り、雇入れ後最初に給与等を支払う日の前日までに税務署長に提出する必要があります。
③雇用している外国人が「非居住者」の場合
支給した給与の20.42%を源泉徴収し、年末調整は不要です。また、居住者が受けられる所得控除を受けられない場合があります。なお、②と同様に、その外国人労働者の居住国との租税条約により、所得税が軽減・免除される場合があります。
(2) 住民税は1月1日時点で日本に住所がある外国人であれば対象に
留学生は原則として就労できませんが、「在留カード」裏面に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く」と記載があれば、その内容に基づき就労が可能です。
1月1日時点で日本に住所がある外国人(居住者)は住民税(所得割・均等割)の対象です。所得税の源泉徴収義務がある給与支払者は、日本人労働者の場合と同様に、毎月の給与から住民税を天引きして市区町村に納入します。
その上で、以下の点に注意しましょう。
① 所得や家族の状況、あるいは租税条約によって住民税が免除される場合があります。
② 1月1日〜5月31日に退職・帰国する場合は、最後に支給する給与から5月分までの住民税を一括徴収します。6月1日~12月31日に退職・帰国する場合は普通徴収に切り替えますが、本人の申出があれば残りの住民税を一括徴収することもできます。
③ 非居住者は、前年の所得がないとみなされるため課税されません。
(3) 社会保険等について
①社会保険(厚生年金保険や健康保険等)
原則として、適用事業所の従業員で、一定の要件を満たす場合は、国籍・性別に関係なく加入しなければなりません。採用から5日以内に、事務センターや所属する健康保険組合等に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出しましょう。
②労災保険
国籍を問わず日本国内の労働者全てに適用されます。
③雇用保険
就労可能な在留資格で就労していれば、一部の例外を除き国籍を問わず被保険者になります。
<厚生年金保険の脱退一時金制度について>
厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本に住所を有しなくなった外国人は、一定の要件のもと、定められた割合の脱退一時金を日本年金機構に請求できます。手続きは外国人本人または委任を受けた代理人が行いますが、あらかじめ制度について説明しておきましょう。
9.気持ちよく働いてもらうための環境整備も忘れずに!
異国の地で就労する外国人に対し、さまざまな不安を取り除く配慮も必要です。外国人を雇い入れる事業主は、日常生活もサポートし、安心して就労できる環境を整えましょう。日本では、外国人労働者が安心して働けるようにするための指針を定めていますので確認しておきましょう(厚生労働省Webサイト「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」)。
ポイントは以下の4点です。
①適正な労働条件の確保
②適切な人事管理、教育訓練、福利厚生等
③健康診断や労働災害防止等の安全衛生の確保
④解雇の予防および再就職の援助
10.気持ちよく働いてもらうための環境整備も忘れずに!

外国人を雇用する際には、日本人と同じ対応で問題ないのか不安に思うことも少なくありません。実際、雇い入れる場合は、税務だけでなく、在留カードの内容確認やハローワークへ届出、労働条件・環境の整備、社会保険の取り扱いなど、日本人労働者とは異なる対応が求められることが多々あります。 対応等に迷ったときは会計事務所にすぐに相談するとともに、下記の厚生労働省や国税庁のWebサイトをご確認ください。
外国人の雇い入れに際して助成金を受けたいときは? 人材確保等支援助成金の支給を受けられる場合があります。通訳費用のほか、社内マニュアルの翻訳や、標識の多言語化等にかかる費用も対象となります。 厚生労働省Webサイト 「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」 |
「労働条件通知書」を外国語で作成したいときは? 厚生労働省のWebサイトで、穴埋め形式のモデル労働条件通知書が公開されています。 英語や中国語をはじめ、13の言語(令和6年7月末現在)に対応しています。 厚生労働省Webサイト 「労働基準関係リーフレット」 |
国外に住む親族に扶養控除等を適用したいときは? 一定の条件を満たしている親族については、外国人労働者から必要書類を提出してもらうことで、扶養控除等を適用することができます。 国税庁Webサイト 「国外居住親族に係る扶養控除等の適用について」 |
非居住者の所得税等の減免について知りたいときは? 非居住者にかかる所得税等は、租税条約に基づいて減免される場合があります。 国税庁タックスアンサーNo.2888 「租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」 |

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