2016年の創業以来、訪問マッサージから訪問看護・リハビリへと業態を広げてきたワンズホープ。家族一丸となって経営するファミリービジネスは評判もよく、社名の由来である「誰かの希望」になるサービスを実践し続けている。矢部義哉社長と嶋田一郎顧問税理士を中心に話を聞いた。
(前列)矢部由美専務と矢部義哉社長
(後列)左から経理担当の津田沙弥氏、津田拓磨主任看護師、篠原由菜管理者・看護師、嶋田一郎顧問税理士
──会社設立までの経緯は?
矢部 私は1992年に、鍼師・灸師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得しました。その後、老人病院や介護老人保健施設で16年間勤務し、さらに訪問マッサージ会社で5年間経験を積みました。そこで訪問医療の可能性を感じ、「いつか独立したい」という思いを実現し、2016年に開業しました。

矢部義哉社長
──創業当初の状況は?
矢部 訪問マッサージは大きな設備投資が必要ないため、比較的少ない資金でスタートできました。開業時には20~25名ほどの患者さまがおり、前職時代から信頼関係を築いていた方々と、新規営業で獲得した患者さまが半々くらいでした。ただ、最初の1年間は営業、施術、保険請求、事務作業まで全て1人で担当していました。休日もなく働いていた時期ですね。
1.コロナ禍を経験し訪問看護事業へ
──事業はどのように拡大していったのでしょうか。
矢部 まずは自分自身が施術をしながら営業活動を続けました。患者さまが増えてきた段階で後輩の施術者を採用し、自分は営業に集中できる体制を作りました。さらに施術者や営業担当を増員し、創業から3年ほどで4人体制まで拡大しました。患者さまも100名を超えるようになり、組織としての基盤ができてきました。
──訪問看護事業(なないろ訪問看護ステーション)を始めた理由は何ですか。
矢部 コロナ禍を経験し、事業の柱を増やす必要性を強く感じました。また、妻も看護師で、娘たちも看護師として働いていたことから、以前から訪問看護事業には関心がありました。訪問マッサージで築いたケアマネジャーとのネットワークも生かせるため、21年に法人化し、訪問看護事業をスタートしました。現在では1日100件を回る日もあります。
──立ち上げは順調でしたか。
矢部 ゼロからのスタートでしたので、営業活動が欠かせませんでした。既存のケアマネジャーとの関係を生かしながら、一件一件信頼を積み重ねていきました。開業時には家族を含め4名体制でスタートし、現在ではマッサージ師6名、看護師13名、理学療法士2名を擁するまで成長しています。

(左)利用者に寄り添うサービスを提供する、(右)なないろ訪問看護ステーションスタッフ
──ワンズホープの強みは?
矢部 訪問マッサージ、訪問看護、訪問リハビリを一体的に提供できることです。利用者さまの状態変化を各職種で共有できるため、より細やかな支援が可能になります。実際に三つのサービスをすべて利用されている方も多くいらっしゃいます。地域の医療・看護を総合的に支えられる体制が当社の大きな強みです。
──訪問看護部門ではどのようなことを大切にしていますか。
篠原由菜管理者 私たちは「できることは全部やる」という姿勢を大切にしています。制度上の役割分担はありますが、目の前の利用者さまに必要なことがあれば、可能な範囲で柔軟に対応します。例えば、ちょっとした掃除や生活支援なども含め、利用者さまやご家族が安心して在宅生活を送れるよう心がけています。
──業界の課題でもある人材の定着についてはいかがでしょう。
矢部 当社では、働きやすい環境づくりを大切にしています。給与制度の透明化やインセンティブ制度の導入に加え、スタッフ同士が支え合える職場づくりを意識しています。医療・介護業界は人材不足が深刻ですが、そうした取り組みのおかげか、離職率は比較的低い水準を維持できています。
2.数字をリアルタイムで把握
──嶋田先生との出会いは?
矢部 訪問看護事業を立ち上げるため法人化を検討していた際、税理士を探そうと思い、インターネットの紹介サービスを利用しました。そのとき私が希望したのは、「何でも気軽に相談できる税理士」でした。そこで紹介されたのが現在担当していただいている嶋田先生です。21年8月の法人設立時から関与いただき、会社設立の手続きから経理体制の構築、事業計画づくりまで一貫してサポートしてもらっています。
──TKCシステムの導入は?
嶋田 設立当初から『FX2クラウド』を利用されています。将来的に訪問マッサージだけでなく、訪問看護や訪問リハビリなど複数の事業を運営する計画があったため、最初から部門別管理を視野に入れた経理体制を構築しました。

嶋田一郎顧問税理士
──システムの活用法は?
嶋田 経理を担当する津田沙弥さまが日々入力を行い、月次の数字をリアルタイムで把握できるようにしています。売り上げや利益だけでなく、訪問マッサージ部門、訪問看護部門ごとの収益状況も確認しています。また、グラフ機能などを活用して業績推移を可視化し、「今どの事業が伸びているのか」「前年比や季節変動に対してどう備えるべきか」を判断する材料として活用しています。
──巡回監査ではどのような話をされるのでしょうか。
嶋田 毎月、社長、専務と数字を確認するとともに、その数字がおふたりの肌感覚と相違ないかも確認しています。売上高や利益の確認だけではなく、資金繰りや採用計画、設備投資、借入計画、時には従業員さまの福利厚生まで含めて意思決定をサポートさせていただくこともあります。訪問マッサージ部門、訪問看護部門ともに人件費が事業運営の大部分を占めるため、「職員を何名採用するのか」「そのために必要な売上高はいくらか」といった経営判断を数字に基づいて行うことが重要だと考えています。税務申告だけでなく、経営パートナーとして相談できる存在を心掛けています。
3.納得感のある賃金体系に
──開業以来、経営者として変化を感じることはありますか。
矢部 以前は施術者として利用者さまを見ることが中心でしたが、今では利益や資金繰り、人件費、生産性といった数字を常に考えるようになりました。月次で業績を確認する習慣が身についたことで、「どのくらいの売上高が必要なのか」「採用しても大丈夫か」といった判断を感覚ではなく数字で行えるようになりました。これはTKCシステムと毎月の巡回監査のおかげだと思っています。
嶋田 ワンズホープさまは、業種的に「人がすべて」なので、給与体系も透明にして、納得感のある賃金体系を実践されています。
矢部 訪問マッサージの場合は、個人の売り上げを管理し、その売上高に対してあらかじめ決めてあるパーセンテージによって賃金を支給しています。その支給率表を公開していて、それに照らし合わせながらの支給となります。つまりインセンティブですね。
矢部由美専務 訪問看護の場合も、例えば緊急に対応した場合などの手当があります。インセンティブも一応あって、何十時間を超えると1件いくらといったようなものを別で用意しています。
矢部 いかに一人一人の生産性を上げるかが重要ですから。
矢部由美専務 その他の手当に関しても金額を一覧にした表があり、それは公表しています。基本的に、給与体系は「公表」が基本です。
──金融機関との関係性は?
矢部 良好です。「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を利用しており、金融機関へ必要な業績情報を月次で提供できる体制を整えています。現在は複数の金融機関と取引がありますが、新規拠点の開設や採用強化に伴う資金調達についても、月次データを活用しながら計画的に進めています。
──嶋田税理士との関係を一言で表すと?
矢部 「会社の相談役」です。私たちは医療・看護の専門家ですが、経営や財務の専門家ではありません。毎月数字を確認しながら方向性を相談できることで、安心して本業に集中できています。法人設立時から伴走していただき、事業拡大の土台を一緒につくっていただいた存在です。
──今後の目標は?
矢部 9月に1拠点増えることもあり、売上高としては、2億円(今期1億6,000万円)をとりあえずはクリアしたいですね。また、嶋田先生とよく相談しながら計画を立て、社員一丸となって成長路線を維持していきたいと考えています。そのためには、利用者・家族に寄り添うサービスを継続すること。そして、ワンズホープの社名の由来でもある「誰かの希望になる」を実現し続けていきます。
(取材協力・湘南みらい税理士事務所/本誌・髙根文隆)
| 名称 | 株式会社ワンズホープ |
|---|---|
| 業種 | 訪問マッサージ・看護・リハビリ業 |
| 設立 | 2021年8月 |
| 所在地 | 神奈川県藤沢市辻堂2-4-29 |
| 売上高 | 1億6,000万円(2026年7月期) |
| 従業員数 | 23名 |
| URL | https://www.oneshope.jp |
| 顧問税理士 | 湘南みらい税理士事務所 代表 嶋田一郎 神奈川県藤沢市鵠沼橘1丁目8-1 URL: https://www.shonan-tax.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年9月号
記事提供
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「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
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