2026年08月03日

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月次決算の“すごい効果”

月次決算の“すごい効果”

なぜ月次決算は経営を劇的に変えるのか。その“すごい効果”の秘密は、正確な業績の適時把握と、それを踏まえた素早い経営判断の実現にある。インフレの荒波を乗り越え、持続的な成長を実現するために、数字と常に向き合い自社をコントロールする極意に迫る。

【総論】税理士 高田勝人氏

 先日、東京に出張した際、ホテル近くの大手牛丼チェーンに入りました。久しぶりの牛丼(498円)をおいしくいただいたのですが、「ずいぶん高くなったな」と感じて調べてみると、13年前の価格は280円。なんと78%もの値上げが行われていたのです。果たして中小企業ではこれほど大胆な値上げができているでしょうか。

 現在は原材料費の上昇にとどまらず、最低賃金の引き上げに伴う人件費の高騰、さらには円安や金利上昇など、あらゆるコストが上がり続けるインフレの時代に突入しています。長年デフレに慣れ親しんできた中小企業の中には、値上げに対する心理的ハードルがまだ残っているところもあるかもしれません。しかし、自社のビジネスモデルを再構築し、変動する原価をタイムリーに販売価格やサービス価格に反映できる体制に転換しなければ、今後は事業を継続していくこと自体が難しくなるでしょう。

1.融資の相談もスムーズに

 企業が長期間にわたり存続するためには、黒字決算の継続が不可欠です。外部環境の変化が激しい今、これまで以上の適応能力が求められており、タイムリーに業績を把握する「月次決算」の実践はマストといえます。年次決算が会社法等に基づく「義務」であるのに対し、月次決算は「任意」であり法的要請はありません。しかし、任意だからこそ、そこには経営をコントロールするための極めて大きな4つの目的(メリット)があります。

 第一に、経営状況をリアルタイムに把握できます。年1回の決算では、赤字や資金不足に気づいたときには、すでに手遅れになってしまっていることがほとんどです。月次決算の実施により、売上高の変化や無駄な経費の発生にすぐ気づくことができます。

 第二に、銀行からの融資をスムーズに受けることができます。銀行から借り入れを行う場合、通常最新の経営状況を示す月次試算表の提出が求められますが、月次決算を行っていれば即座に提出することができ、融資交渉が迅速に進みます。

 第三に、正確な経営計画の修正や決算予想ができます。「今期はあとどれくらい利益が出そうか」「税金をいくら払うことになりそうか」といったことを早めに予測することができ、設備投資や節税対策を先手で打つことが可能になります。

 第四に、年次決算(本決算)の負担が軽減できます。毎月会計データを精緻に整理しているため、1年が終わった時の確定申告の手続きが非常に楽になります。申告期限(2カ月以内)を超過してしまうリスクを大幅に減らせます。

 これらさまざまなメリットがある月次決算を、法的義務がないからといって行わないとどうなるでしょうか。以下のようなリスクが考えられます。

  • 経営判断が数カ月~半年程度遅れてしまう
  • 金融機関から「管理体制が不十分」とみなされ、融資の審査で不利になる
  • 期末にまとめて作業をするため、本決算の時期に業務がパンクしてしまう

 月次決算を行わないことによる法的な罰則はありませんが、経営判断の遅れや金融機関からの評価低下など、経営における致命的なリスクを背負うことになるのです。かつて稲盛和夫氏は「飛行機の操縦士がコックピットの計器を見ながら操縦するように、経営者も現在の会社の状態を正確に示す会計データを見ながら経営をしなければならない」という言葉を残しました。月次決算の実践こそが、社長が「真の経営者」へと歩む道なのです。

2.異常値に素早く気付ける

 ここで注意したいのは、多くの企業で作成されている「月次試算表」は、経理担当者が入力の正確性を確認するための途中経過の書類に過ぎない場合がある、ということです。現金主義のままであったり、減価償却費が計上されていなかったりする試算表は、正しい損益を表していません。経営者が適切な意思決定を下し、金融機関へ正しい報告を行うために目指すべき「月次決算」には、以下の厳密な処理が欠かせません。

発生主義での計上
 特に社会保険料は、月末が休日の場合に翌月月初引き落としとなるなど「月ずれ」が起きやすい項目です。未払金として当月に正しく処理しなければ、ある月は社会保険料がゼロ、翌月は2カ月分計上されるといったゆがみが生じ、正確な損益が把握できなくなります。

減価償却費や賞与引当金の月割計上
 年間の費用をあらかじめ12等分し、毎月概算額を計上します。

適切な在庫の計上
 中小企業では毎月実地棚卸を行うことが困難な場合もあります。そうした場合は、概算利益率による計算で計上するようにしましょう。

固定資産税や労働保険料などの月割配賦
 金額の大きな固定資産税(年4回払い)や労働保険料(年3回払い)などを支払い月に一括計上すると、その月だけ費用が大きく計上され、損益のバランスが崩れます。前払費用や未払金を活用し、不定期に発生する費用を毎月12分の1ずつ均等に計上することが大切です。これらの処理を徹底して初めて、会社の実態を正確に表す「月次決算」と呼ぶことができるのです。

 当事務所の関与先企業でも、月次決算の導入によって多くのメリットが生まれています。

A社(卸売業)
 最低賃金の上昇に伴い、商品の袋詰めを行うパート従業員の費用を、固定費(給与)から変動費(加工賃)へと科目を変更しました。その結果、加工費の上昇分が限界利益を圧迫している状況がタイムリーに可視化され、適切に商品価格へ転嫁することに成功。限界利益率の向上につながりました。

B社(病院)
 月次の数値を確認する中で、水道代が異常に高くなっていることに気づきました。即座に調査を依頼したところ、目視では気づかない配管からの漏水を発見。早期の修繕により支払い増を最小限に食い止めることができました。

C社(製造業)
 賞与支給月の月次決算において、法定福利費が予算よりも不自然に少ないことが判明しました。調査の結果、担当者交代時の引き継ぎの混乱により、年金事務所への「被保険者賞与支払届」の提出が漏れていたことが発覚。すぐに届け出を行い、ペナルティーの発生を未然に防ぐことができました。

3.新たな信用保証制度が開始

 こうした月次決算の取り組みには、国も非常に高い関心を寄せています。2025年5月、中小企業庁の担当者が当事務所の関与先企業5社を訪問し、月次巡回監査や決算報告会の模様などを視察しました。「継続MASシステム(※)」を通じた予算策定の過程、訪問時のコミュニケーションで会計事務所職員が経営者のやる気を引き出す場面、「TKCモニタリング情報サービス」の運用などについてご理解いただきましたが、やはり最大の関心事は月次巡回監査による期中管理の重要性でした。

 それを裏付けるように、26年3月から、新たな信用保証制度である「モニタリング強化型特別保証制度」がスタートしています。この制度は、中小企業が税理士などの認定支援機関と連携し、自社の業績や資金繰りを継続的にモニタリング(期中管理)することを条件に、保証料の補助を受けられる仕組みです。制度の適用には、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 認定支援機関による業績のモニタリングを毎月実施すること
  2. 今後6カ月以内に資金不足が懸念されるなどの異変が生じた場合、事業者、認定支援機関、金融機関、信用保証協会の4者で協議を実施すること
  3. 事業者と認定支援機関が連携の上、月次でモニタリングした結果と財務分析の内容を「モニタリング報告書」に記載し、金融機関経由で信用保証協会に提出すること。

 とくに2つ目の要件である「6カ月以内に資金不足が懸念される」といった予兆を把握するには、年に1回の会計整理では絶対に間に合いません。日頃から正しい月次決算を実践しているからこそ、将来起こり得る危機のシグナルを素早くつかむことができるのです。

※ 継続MASシステム…経営者のビジョンに基づいた「中期経営計画」と、次年度の業績管理のための「単年度予算」、「短期経営計画」の策定を支援するシステム

4.会計事務所が壁打ち相手に

 企業の経理担当者と会計事務所の職員が強力なタッグを組んで毎月実践する月次決算ですが、どれほど精緻な月次決算を行っても、経営者自身がその数字を読み解き、意思決定に生かさなければ意味がありません。そこで重要となるのが、経営者の「会計リテラシー」です。

 会計リテラシーを身に付ける最も確実な近道は、信頼できる会計事務所を「壁打ち相手」にして、数字を前に徹底的に対話を重ねる習慣を持つことです。まずは「継続MASシステム」による事業計画の策定を通じ、経営者自身が「数字に思いを込める」ようにしていきましょう。月次巡回監査時にともに数字を確認しながら、予算と実績の差異、前年同期との差異について議論を深めていく中で、次第に経営者は「数字の裏にある本質(経営の実態)」が目の前に浮かび上がる感覚をつかめるようになります。数字を通じて、会社が今どのような状態にあるのかを正確に言語化できるようになるのです。

 経理処理について社内ルールを定めるのも一つの方法です。社会福祉法人は、会計処理や資金管理を適正に行うための内部ルールとして、「経理規程」を定めることが求められています。厚生労働省が作成した「小規模社会福祉法人向け経理規程例」では、「会計責任者は、月次試算表を作成し、翌月○日までに理事長に提出しなければならない」(第32条)とあります。

 これを参考に、例えば「毎月〇日までに社長に月次決算を提出し、承認を得なければならない」といった規定を明文化するのです。こうした「仕組み化」や習慣によって、社内の意識が変わり、経営者の会計リテラシーも着実に向上していきます。月次決算を通じてタイムリーな業績把握を徹底し、いかなる環境変化にも揺るがない黒字経営の基盤を築いていきましょう。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2026年8月号

年商50億円を目指す企業の情報誌 戦略経営者

記事提供

戦略経営者

 『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の皆さまの戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営情報誌です。
 「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業の経営者を読者対象に、1986年9月に創刊されました。
 発行部数13万超(2025年9月現在)。TKC会計人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で、真に有用な情報だけを厳選して提供しています。

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