中小企業においては、経営者と会社(法人)の距離が近く、意思決定のスピードが速いという強みがあります。一方で、その「距離の近さ」が原因となり、公私の境界があいまいになるケースも少なくありません。公私混同には、金融機関からの評価や税務の問題に至るまで、企業経営にとって大きなリスクが潜んでいます。
💡この記事のポイント
☑公私混同によるリスクは、会社経営全体に及ぶ
☑ルールを明確にするとともに、体制を整備する仕組みが重要
☑外部の専門家を活用して信頼性を向上させる
閉じる 開く
- 1.対外的な信用を損なうこととなる「公私混同」
- 2.リスクは会社経営全体に及ぶ
- (1) 経営判断への悪影響
- (2) 金融機関からの評価が低下
- (3) 経営者保証なしの融資が困難になる
- (4) 税務リスク
- (5) 会社内部への悪影響
- 3.公私混同を防ぐ仕組みづくりが重要
1.対外的な信用を損なうこととなる「公私混同」
公私混同とは、会社(法人)と個人を明確に区別せず、会社の資産や費用、収益を私的目的と混在させて扱うことを指します。
多くの経営者が誤解しがちですが、「自分が設立した会社だから、自由にお金を使える」とはなりません。いったん株式会社等の法人を設立したからには、会社は法的に独立した人格をもち、経営者個人とは別の存在となります。この前提を軽視すると、会計処理の適正性が損なわれ、対外的な信用を大きく損なうことになります。
特に中小企業では、経営者が資金管理や経理の判断を1人で担っているケースが多く、チェック機能が働きにくい環境にあります。その結果、「気づかないうちに公私混同が常態化してしまう」という事態も珍しくありません。
〇よくありがちな公私混同の事例
| 会社経費の不適切使用 |
・家族との食事代を交際費として処理する ・私的旅行費用を旅費精算する ・自宅兼事務所の家賃、光熱費の過大計上 等 |
| 会社資産の私的利用 |
・社用車の私的利用 ・会社購入物品を家庭で使用 等 |
| 資金の混在 |
・会社の口座から生活費を引き出す ・役員貸付金、借入金の整理があいまい ・現金出納が不透明 等 |
2.リスクは会社経営全体に及ぶ
こうした公私混同の事例を見ると、「単なる経理上の問題ではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、公私混同がもたらすリスクは、会社経営全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(1) 経営判断への悪影響
公私混同が常態化すると、決算書が不確かなものとなって、会社の実態を正しく反映できなくなります。その結果、本来は利益が出ていないのに黒字と誤認したり、資金繰りの状況を誤って把握したりする可能性があります。前提条件となる数字が不正確なので、経営者が最適な経営判断を下すことは非常に難しくなります。
(2) 金融機関からの評価が低下
金融機関が融資の判断をする際には、決算書の内容だけでなく、事業の将来性、経営者の資質や経営管理体制も見ています。融資判断の大前提となる決算書の信頼性が公私混同によって損なわれていることがわかったら、条件の悪化や融資の見送りにつながる可能性が高くなります。
特に、会社と経営者との金銭のやり取りは要注意です。多額の役員借入金が計上されている場合は、会社の資金繰りや財務内容に課題があると受け止められ、金融機関からの信用低下につながることがあります。反対に、役員貸付金はメリットがほとんどなく、会社資金の私的流用とみなされます。いずれのケースも、公私混同とみなされることがあります。
(3) 経営者保証なしの融資が困難になる
経営者保証なしの融資を希望する場合には、まず3つの経営状況であることが求められます。
〇経営者保証なしの融資を希望する場合に求められる3つの経営状況
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
②財務基盤の強化
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
「経営者保証に関するガイドライン」より
「①法人と経営者との関係の明確な区分・分離」が、公私混同をしていないという意味です。公私混同をしている場合、この段階で経営者保証なしの融資の可能性がなくなります。
「経営者保証に関するガイドライン」では、①の説明として「法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやり取り(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど」と、会社と経営者との関係性について具体的に記載しています。
さらに、「このような整備・運用状況に関して、外部専門家(公認会計士、税理士等)による検証を実施し、適切に開示することが望ましい」と、外部の第三者の専門家による検証についても言及しています。
(4) 税務リスク
税務調査において最も指摘されやすいのが、公私混同による経費の不適切な計上です。損金算入を否認された場合、追加の税負担が生じる可能性があり、悪質と判断されれば重加算税の対象になることもあります。また、一度問題視されると、以後の税務調査においても厳しい目が向けられることになります。
例えば、役員借入金に対する利息の設定や返済条件が不適切な場合や、また役員給与についても、毎月金額を変更していると、定期同額給与の要件を満たさず、損金算入が認められない可能性があります。
〇役員給与は、損金に算入できないのが原則
従業員の給与は原則的に全額損金にできますが、役員給与は原則損金不算入とされています。その理由として、中小企業では、事実上、経営者が自由に役員給与の支給額を決められるという点が挙げられます。つまり、もし無制限に損金算入を認めてしまうと、たとえば、期末に利益が出そうなので、役員給与を増やすことで法人税を軽減するといったことが可能になってしまいます。こうした経営者の恣意的な利益調整による税負担の不公平を防ぐため、原則損金不算入にしていると考えられています。
ただし、例外として、損金に算入できる役員給与として、①定期同額給与(毎月同額で支給される給与)、②事前確定届出給与(所定の時期に確定額を支給する給与)、③業績連動給与(上場会社等の場合のみ利用可)が認められています。
(5) 会社内部への悪影響
経営者の公私混同は、金融機関や税務当局といった外部だけでなく、会社内の従業員のモラル、モチベーション低下にもつながります。「トップが公私混同をしているのだから、自分たちがやっても問題ない」という空気が広がり、不正が発生しやすい組織風土を生むことにもなりかねません。
そこまでいかなかったとしても、従業員の働く意欲の低下や離職にもつながり、結果的に会社を弱体化させることとなります。
3.公私混同を防ぐ仕組みづくりが重要
最も重要なのは、会社と個人(経営者)の資金(銀行口座)を明確に分けることです。まず、このことを徹底して、以下の仕組みづくりに取り組みましょう。
(1) 社内ルールの明確化
経費精算や出張精算、社用車使用などのルールを文書化し、都度の「あいまいな判断」を排除し、ルールに基づいた経営を実践します。
会社と経営者との金銭等の貸借は、利益相反取引やみなし役員給与などの税務リスクをはらむため、取締役会の承認、契約書の取り交わしなど、適正な処理が求められます。
〇会社と経営者間の金銭等の貸借におけるルール
(1) 役員貸付金(会社から経営者への貸付け)
長期間返済されない場合、貸付金そのものが「役員賞与」とみなされ、追徴課税されることもあります。
①取締役会の承認
貸付は「重要な財産の処分」や「利益相反取引」にあたるため、取締役会での事前承認が必要です(取締役会非設置会社の場合は株主総会の承認)。
②適正な利息の設定
税務上、無利息または著しく低い利率で貸し付けると、通常受け取るべき利息との差額が「役員給与」とみなされ、会社に法人税、経営者個人に所得税が課されるリスクがあります。国税庁が定める基準に沿って適正利率を設定し、「金銭消費貸借契約書」を交わします。
(2) 役員借入金(経営者から会社への貸付け)
一般的には、無利息でも税務上問題となることは少ないとされています。会社が利息を支払うことも可能で、その利息は経費(損金)にできます。経営者が受けとった利息は原則として雑所得となり確定申告が必要です。相場より高すぎる利息は認められません。
後々のトラブル(相続発生時など)を防ぐためにも、金額・利率・返済期限等を記載した「金銭消費貸借契約書」を交わします。
(3) その他
社宅の貸借や車両などの動産の貸借においても、経済合理性のある取引ルールが求められます。いずれにしても、取締役会の承認、契約書の取り交わしをして、取引内容を明確にしておきます。
(2) 社内体制の整備
業務を担当者1人に任せきりにせずに、最低でもダブルチェックを行う体制にします。また、担当者以外の従業員等による定期・不定期のチェックも行います。
決算書や会計データを経営者が有益に活用するには、日々の正確な記帳にもとづく正しい月次決算で自社の状況を把握するようにします。また、それをもとに経営計画を策定し、財務基盤の強化、事業の磨き上げを行います。決算書や月次試算表、資金繰り実績表、経営計画書等を金融機関へ定期的に報告することも重要です。
このように外部に自社の情報を開示することで、不適切な会計処理を抑止する効果も期待できます。健全経営を支えるのは、正確な経理処理に基づく月次決算体制の構築です。
(3) 外部専門家の活用
会計事務所など外部の専門家を活用し、早期に問題を発見・修正できるようにします。第三者の専門家の視点が入ることで、社内では気づきにくい問題が明らかになります。
ちなみに、全国1万名超の税理士・公認会計士で構成されるTKC全国会では、会計専門家による月次巡回監査を実施しています。この巡回監査というのは、TKC全国会が定める『TKC会計人の行動基準書』では、次のように規定しています。
巡回監査とは、関与先を毎月及び期末決算時に巡回し、会計資料並びに会計記録の適法性、正確性及び適時性を確保するため、会計事実の真実性、実在性、網羅性を確かめ、かつ指導することである。
この巡回監査について、中小企業会計の権威であり、甲南大学の河﨑照行名誉教授は、「職業会計人(TKC会計人)が必ず現場に赴き、すべての取引を確認する行為であり、計算書類の信頼性保証の根幹を成す業務とされる」(『会計が分かればビジネスが見える』)と、中小企業にとって税理士による信頼性保証の重要性について述べています。
このように、公私混同は企業の信頼性を揺るがす重大なリスクです。「少しだけ」「後で直せばいい」という考えは通用しません。
大事なことは、次の3点です。
・公私を明確に分けること
・ルールと見える化を徹底すること
・外部の専門家と連携すること
参考資料
・国税庁タックスアンサー「金銭を貸し付けたとき」(No.2606)、「役員に社宅を貸したとき」(No.2600)、「役員等に対する経済的利益」(No.5202)
・中小機構J-Net21ビジネスQ&A「役員借入金と役員貸付金について」
・河﨑照行『会計が分かればビジネスが見える』(TKC出版)
・坂本孝司『会計で会社を強くする(第3版)』(TKC出版)
記事提供
株式会社TKC出版
1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)の完遂を支援するため、月刊誌や映像、デジタル・コンテンツ等を制作・提供しています。


