近年、労働力人口の減少に伴い、中小企業の人材不足は一層深刻さを増しています。大企業や同業他社との採用競争が激化する中、中小企業が優秀な人材を獲得し、定着させるためには計画的な採用活動が欠かせません。本稿では、中小企業が実践すべき採用の基本と、定着率を高めるためのポイントを解説します。
💡この記事のポイント
☑求人広告だけではなく、Web・SNS、人材紹介、リファラルなど複数の方法を、自社の状況に応じて組み合わせて活用する。
☑求める人材像の明確化や適切な労働条件の提示、法令遵守と迅速な選考対応により、ミスマッチと採用機会の損失を防ぐ。
☑新規採用だけでなく、シニア人材の活用や働きやすい職場づくりによって定着率を高めることも人材確保につながる。
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- 1.はじめに
- 2.自社に合った採用方法は?―代表的な方法の特徴―
- (1)ハローワーク・求人サイト(求人広告)
- (2)自社WebサイトやSNS
- (3)人材紹介会社
- (4)リファラル採用
- (5)学校との連携
- 3.募集・選考の際に注意すべきこと
- (1)求める人物像の明確化
- (2)採用時に伝える労働条件
- (3)採用手続きの進め方
- (4)就活ハラスメントへの注意
- (5)2026年10月1日から就活セクハラ対策が義務化
- 4.多様な人材の活用
- (1)シニア人材
- (2)子育て中・介護中の人材
- (3)復職人材
- (4)Iターン・Uターン人材
- 5.中小企業は特に「スピード」を意識する
- 6.まとめ:採用して終わりではない
1.はじめに
中小企業が抱える大きな経営課題の1つが「人材不足」です。単に人数の問題にとどまらず、企業の成長や競争力を支える人材の確保が難しくなっています。
求人を出しても応募が集まらない、応募があっても採用につながらない――といったケースが増えています。こうした状況の中で、中小企業が事業を続けていくためには、採用の進め方を見直す必要があります。「選ばれる会社づくり」と、せっかく採用した人材が長く働き続けてくれる「定着の仕組みづくり」の両方が必要です。
中小企業向けに採用の工夫や注意点、さらに人が定着する職場づくりのポイントについて、解説していきます。
2.自社に合った採用方法は?―代表的な方法の特徴―
求人を出しても応募が来ない――多くの中小企業経営者が直面している課題です。従来の「求人を出して待つだけ」といった方法が通用しなくなった今、企業は複数の採用方法の特徴を踏まえ、自社の状況や目的に応じて方法を組み合わせて活用していく必要があります。
(1) ハローワーク・求人サイト(求人広告)
ハローワークや求人サイトは、多くの求職者に情報を届けることができる、最も一般的な方法です。特にハローワークは無料で利用でき、地域に密着した採用に適しているといえます。
一方で、求人情報が他社と並んで掲載されるため、給与や休日などの労働条件で比較されやすく、条件面で不利になりがちな中小企業にとっては、応募者の関心を集めにくい面があります。さらに、求人サイトの検索条件によって表示される求人情報が絞り込まれるため、自社の求人情報が求職者の目に触れていないケースも少なくありません。求人情報の内容に加え、検索されやすい条件設定や見せ方を意識することが必要です。
ハローワークや求人サイトは、仕事内容や働き方が具体的に伝わるように内容を工夫することが大切です。あわせて、「未経験可」「土日休み」などの条件設定や、一般的な職種名の使用により、求職者に見つかりやすくなります。
(2) 自社WebサイトやSNS
近年では多くの中小企業が自社Webサイトを活用して求人情報を発信しており、さらにターゲット層に向けた採用サイトを整備する企業も増えています。
この方法では、費用を抑えながら、自社の魅力や経営者の考え方、職場の雰囲気などを自由に発信することができます。労働条件だけでなく、社員の働く様子や日常の風景、インタビュー動画などを通じて、より具体的に「働くイメージ」を伝えることが可能です。社員自身がSNSで情報発信を行うことで、等身大の社風を伝え、求職者の共感を得る取り組みも増えています。
一方で、この方法は継続的な情報発信が欠かせず、効果が表れるまでに一定の時間と手間がかかります。そのため、短期的に人材を確保するよりも、中長期的に自社の魅力を伝え、応募につなげていく取り組みとして位置づけることになります。
(3) 人材紹介会社
近年は、人手不足や転職の一般化を背景に、人材紹介会社の利用が増えています。特に専門職や即戦力人材の採用では、企業が自力で適切な人材を見つけることが難しくなっており、人材紹介会社を活用する場面が増えています。
人材紹介会社では、自社の求める条件に合った人材をあらかじめ選定したうえで紹介を受けることができます。多くの応募者の中から書類選考や面接調整を行う手間が減り、採用活動を効率よく進めることができます。特に、年間の採用人数が1人~数人程度と限られている企業や、退職者の補充を目的とする採用、また、自社に適した人材を確実に確保したいときに有効な方法といえます。
一方で、採用が決まると成功報酬が発生し、その金額は採用した人の年収に応じて決まることが一般的です。そのため、他の方法に比べて費用が高くなることがあります。あらかじめどのような人材を採用したいのかをはっきりさせておくことで、無駄な紹介やミスマッチを防ぐ必要があります。
(4) リファラル採用
中小企業では、親族や取引先、地域のつながりなどを通じた「縁故採用」が一般的に行われてきました。これに対して、リファラル採用は、社員の知人や友人からの紹介を、社内のルールや選考手順に基づいて進める採用方法です。
リファラル採用は、紹介を通じた応募となるため、大企業との直接的な競合を避けやすく、採用コストを抑えながら、自社の理念や社風に合った人材を確保しやすい方法といえます。
一方で、採用された社員と紹介した社員との関係が職場に影響することがあります。紹介した社員がその人の指導や評価をしにくくなったり、周囲から特別扱いと受け取られたりすることもあります。そのため、評価や配置は仕事内容や成果に基づいて判断し、配属や役割も人間関係に左右されない運用とすることが大切です。
リファラル採用は、自社に合う人材を確保しやすい一方で、公平な運用ルールが欠かせません。
(5) 学校との連携
企業が学生と直接接点を持ち、企業訪問やインターンシップなどを通じて、自社の魅力や働くイメージを伝えられる採用方法です。特に新卒採用では、早い段階から接点を持つことで、自社への理解や関心を深めてもらいやすくなります。一方で、学校や教員との関係づくりには時間がかかるうえ、中小企業では活動を担う担当者を置きにくいという課題があります。
そのため、短期間での成果を求めるのではなく、企業訪問の受入れやインターンシップの実施、求人情報の提供などを継続し、学校との接点を着実に増やしていくことが必要です。地域での認知度が低い企業でも、継続的な接点づくりが、将来の安定した採用につながります。
3.募集・選考の際に注意すべきこと
求人募集や面接の進め方によっては、入社後のミスマッチや労務トラブルにつながるおそれがあるため、次の点に留意する必要があります。
(1) 求める人物像の明確化
採用活動では、任せる業務内容や必要な経験・スキル、求める仕事への姿勢をあらかじめ整理し、求人や面接で具体的に伝えることが大切です。現場のニーズを踏まえずに採用を進めると、入社後に認識のずれが生じ、早期離職や戦力化の遅れにつながるおそれがあります。現場担当者の意見をあらかじめ確認し、業務内容や必要なスキルを求人内容に反映させておくことで、こうしたミスマッチを防ぎやすくなります。
(2) 採用時に伝える労働条件
労働条件の明示は、採用時に従来の労働条件に加えて「就業場所や業務の変更の範囲」などを、書面で明示することが義務付けられています。転勤や職務内容の変更の可能性がある場合には、その範囲をあらかじめ示しておく必要があります。これらの内容を曖昧にしたまま採用を行うと、入社後のトラブルにつながるおそれがあります。
(3) 採用手続きの進め方
「雇用契約書」や「労働条件通知書」は、法律のルールに沿って正しく作成することが大切です。また、採用の際には、公正な採用選考の考え方にもとづき、応募者の人権に配慮した対応が求められます。
例えば、出身地や家族構成など、本人の努力では変えられない事項ではなく、仕事に必要な適性や能力をもとに判断することが基本となります。不適切な質問や選考を行うと、後のトラブルや企業イメージの低下につながることがあります。
(4) 就活ハラスメントへの注意
採用活動では、面接や連絡時の言動に注意が必要です。例えば、出生地や家族構成、住宅状況(持ち家の有無)といった本人に責任のない事項や、宗教・思想など本来自由であるべき事項について質問することは、就活ハラスメントにつながるおそれがあるため避けなければなりません。
また、「他社の選考を辞退してください」といった内定承諾を急がせる言い方や、圧迫的な発言は、就活ハラスメントと受け取られるおそれがあります。こうした対応は、応募を辞退される原因になることもあります。
面接では、仕事内容や働き方、必要なスキルに関する質問に絞り、応募者が安心して話せる雰囲気をつくることが大切です。こうした積み重ねが、応募者からの信頼や応募の増加につながります。
(5) 2026年10月1日から就活セクハラ対策が義務化
2026年10月1日から、就職活動中の学生や求職者に対するセクシュアルハラスメント(いわゆる「就活セクハラ」)を防止することが義務付けられます。採用面接や会社説明会、インターンシップ、OB・OG訪問など、採用に関わるあらゆる場面が対象となります。事業主は以下の措置を必ず講じなければなりません。
①方針の明確化と周知・啓発
・就活セクハラを行ってはならない旨の方針を明確にし、従業員に周知する。
・就活セクハラを行った場合の対応方針(懲戒等)を定め、従業員に周知する。
・面談方法や連絡手段(面談時間・場所、使用するSNSなど)に関するルールを定め、従業員・求職者双方に周知する。
②相談体制の整備
・求職者も利用できる相談窓口を設け、その存在を求職者に周知する。
・相談窓口担当者が適切に対応できるようにする。
③発生時の迅速な対応
・相談や申出があった場合、事実関係を速やかに確認する。
・被害者への配慮を行い、行為者に対する措置を講じる。
・再発防止に向けた対応を行う
④プライバシーの保護・不利益取扱いの禁止
・相談者や関係者のプライバシーを保護する。
・相談や調査へ協力した従業員に、不利益な取り扱いを行わないことを周知する。
4.多様な人材の活用
採用環境が一段と厳しさを増す中、求人のターゲット層についても、従来の枠にとらわれない柔軟な発想が求められます。例えば、シニア、子育て中・子育て後の人材、復職人材、Iターン・Uターン人材など、多様な人材に目を向けることで、新たな可能性が広がります。
(1) シニア人材
中小企業が人材を確保する際には、新たに採用するだけでなく、今いる人材をどのように活かすかも検討しましょう。例えば、65歳までの雇用確保義務や70歳までの就業機会の確保の努力義務が求められていることもあり、定年後の再雇用や勤務延長によりシニア人材に引き続き働いてもらう方法は、現実的な選択肢の1つです。
再雇用にあたっては、これまでと同じ働き方をそのまま続けてもらうのではなく、体力や経験に合わせて担当業務や役割、処遇を見直すことが大切です。たとえば、後進の指導や業務のサポート役を任せるなど、これまでの経験を社内で活かせる形にすることで、無理なく働き続けてもらうことができます。
さらに、短時間勤務や週数日の勤務など柔軟な働き方を取り入れることで、本人の状況に合わせた継続的な就業につながります。
(2) 子育て中・介護中の人材
子育て中や親族の介護中の人材は、それぞれの状況に応じて働ける時間が限られる場合がありますが、勤務時間や業務内容を調整することで活躍してもらうことができます。また、こうした対応は、子育てや介護を理由とした離職の防止にもつながります。
たとえば、短時間勤務にしたり、業務を分担したりすることで、無理なく働ける環境を整えることができます。こうした工夫は、業務の進め方を見直すきっかけとなり、仕事の偏りや非効率の改善につながることもあります。
(3) 復職人材
出産や育児、家庭の事情などで一度退職した人を再び受け入れる「復職人材」は、中小企業にとって有効な人材確保の方法です。復職人材は、業務内容や職場の雰囲気を理解しているため、新規採用に比べて教育の手間が少なく、早い段階で仕事に慣れやすいという特徴があります。
一方で、退職前と同じ働き方ができるとは限らないため、復職にあたっては勤務時間を短くしたり、担当業務を調整したりするなど、現在の生活状況に合わせた働き方を検討する必要があります。
また、退職後も定期的に連絡を取ったり、会社の情報を共有したりするなど、復職制度として仕組みを整えておくことで、会社から声をかけやすくなるだけでなく、退職者側からも相談しやすくなります。
受け入れの流れを制度化しておくことで、採用にかかる時間やコストを抑えながら、早期に戦力として活躍してもらうことが期待できます。
(4) Iターン・Uターン人材
地方への移住や地元への回帰の動きを背景に、Iターン・Uターン人材の活用に関心が高まっています。こうした人材は、都市部での業務経験や専門スキルを持つ人材や、地域とのつながりを持つ人材として、中小企業にとって人材確保の新たな選択肢となります。
Uターン人材は、地元の事情などへの理解があり、職場や地域になじみやすい傾向があります。Iターン人材は、これまでの経験をもとに外からの視点や新しい発想を持ち込み、組織に新たな気づきをもたらすことも期待されます。
ただし、通勤手段や住居、地域の生活環境などが大きく変わる場合に、企業と求職者の認識にズレが生じることがあります。そのため、採用時には仕事内容や勤務条件に加え、通勤方法や勤務時間、住居の目安、生活環境などを具体的に伝えたり、職場見学や地域案内を行ったりすることが大切です。
5.中小企業は特に「スピード」を意識する
応募者は複数の企業を並行して選考を受けており、先に内定が出た企業に入社を決めるケースも少なくありません。そのため、選考に時間がかかると他社に人材が流れてしまう可能性が高まります。
特に中小企業は、知名度や待遇面で大企業と比較されやすいことから、選考のスピードが採用成功を左右する重要な要素となります。迅速な対応は、応募者に対する関心の高さや企業の姿勢としても受け取られます。
このため、中小企業の採用では「内定までのスピード」を強く意識する必要があります。たとえば、「応募があったら当日中に返信する」「応募から1週間以内に面接を設定する」「面接後2営業日以内に結果を連絡する」といった対応を徹底することで、他社との差別化につながります。応募者の関心が高いうちに選考を進めることで、辞退の防止や内定承諾につながりやすくなります。
6.まとめ:採用して終わりではない
せっかく採用した人材も、定着しなければ人材確保にはつながりません。採用とあわせて、長く働いてもらうための環境づくりも大切です。そのためには、評価や処遇の見直し、キャリアの見通しを示すこと、人材育成の充実、働きやすい勤務環境の整備などに取り組むことが求められます。
「安心して働ける」「成長できる」と感じられる職場をつくることが、離職の防止だけでなく、リファラル採用などを通じた新たな人材確保にもつながります。採用から定着までを一体で考えることが、これからの中小企業の人材確保の鍵となります。
記事提供
株式会社TKC出版
1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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