生成AIを業務効率化ツールとして活用する中小企業が増えてきています。一方で、導入したもののコストだけかかって効率化につながっていない、あるいは情報漏えいなどのリスクを考慮していないといった事態も生じているようです。生成AIを活用する際の注意点を解説します。
💡この記事のポイント
☑生成AIは正しく活用しないと情報漏えいなどのリスクがあるため注意が必要。
☑生成AIは誤回答する可能性もあるためファクトチェック(事実確認)を必ず行う。
☑文章作成や情報の整理に加え、動画制作やイラスト作成などにも活用できる。
1.中小企業で生成AIの活用が広がる背景
文章の作成やアイデア出しなど多様な用途で利用できる生成AI(人工知能)。生成AIは「プロンプト」(文章作成などの作業を生成AIにさせる指示のこと)をもとに成果物を生成(具体的に生成できる成果物は後述)できます。最近ではChatGPTやGoogle Gemini、Microsoft Copilotなど多くの生成AIサービスが登場しており、活用の幅も広がっています。
これらのサービスを活用して、人手不足や従業員の負担削減を目指す動きも目立ち始めています。具体的には、生成AIは以下の能力を使って業務の手助けをし、幅広く活用することができます。
■生成AIができる主な業務(生成可能な具体的な成果物の例)
・文章の作成(議事録やメモ)
・文章の校正(校正済の記事)
・資料の要約(要約文)
・データ集計や分析(集計結果、分析資料)
・イラストや画像の作成(イラスト、画像)
・動画の作成(動画)
・プログラミング(Excelマクロのコード生成)
・新商品のアイデア出し(新商品の企画書)
本項では、これらの生成能力を持つ生成AIが、中小企業においても普及し始めている背景について解説します。
(1) 人手不足でも生産性向上が求められているから
少子高齢化の影響で人材確保が難しくなる中、限られた人員で業務を回す必要性はますます高まっています。特に中小企業では各人が複数業務を兼務していることも多く、一人ひとりの従業員に多くの業務が集中しやすいのが実態です。
例えば生成AIでは、議事録の作成、社内文書の下書き、問い合わせ対応文のたたき台など、時間のかかりやすい文章の作成を短時間で生成することができます。また、最近では動画制作やイラスト作成などを得意とする生成AIも登場しており、社内における多様な業務を手助けできるようになりました。こうした作業が短縮できると、従業員は生成AIができない対面での顧客対応などの業務に時間を回しやすくなり、生産性向上につなげることができます。
(2) 生成AI導入のハードルが下がっているから
以前は「導入するのが難しそう」「費用対効果がよくわからない」「導入したとしても、現場が使いこなせない可能性がある」などといった不安から、生成AIの導入に踏み切れない企業も多くありました。しかし現在では、生成AIの利用が一般化しつつあり、各社の導入事例も増えています。こうした背景から、生成AIが特別な技術ではなく業務ツールの一つとして認識され始めています。
また、生成AIサービスを提供する各社が法人向けの管理機能(ID管理や権限制御、入力内容のプライバシー保護などの機能)を備えた新サービスをリリースしていることもあり、以前より実務面での導入ハードルも下がっています。
(3) 安全に活用するためのルール整備が進んできたから
生成AIの活用が広がる一方で、安全に使うためのルールも整備されてきています。例えば、経済産業省の「AI事業者ガイドライン」に加え、独立行政法人情報処理推進機構で公開されている「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」など、実務上参考になる資料が整ってきています。また、動画制作やイラスト作成などのコンテンツについては、経済産業省の「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を参照すると効果的です。
以下にリンクを掲載しますので、社内ルールの整備に役立ててみましょう。
・経済産業省「AI事業者ガイドライン(METI/経済産業省)」
・IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構」
・経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
公的なガイドラインが整備されつつありますが、そのまま安全に使えるわけではなく、自社の業務に合わせた社内ルールの整備が必要となります。
2.生成AI活用の際に注意すべきポイント
生成AIの導入ハードルが下がり、業務においても実用的な運用が行いやすくなった点は中小企業にとっても大きなメリットですが、活用の際にはいくつか注意点もあります。業務で活用する際には確認しておきましょう。
(1) 会社の機密情報や顧客の個人情報を入力しない
生成AIは利用規約や設定によって、入力データの取り扱いが異なります。サービスや設定によっては、入力内容が機械学習や生成AIモデルの品質向上等に利用され、記録されることがあります。そのため、「うっかり機密情報を入れる」こと自体がリスクになります。
ここでいう機密情報とは、経営に関する情報だけではありません。例えば次のような情報は、原則としてそのまま入力しない方が安全です。
・取引先名、担当者名、連絡先、個別の取引内容
・顧客の個人情報(氏名、住所、電話番号、メール、マイナンバー等)
・見積や原価、利益率など、社外に出せない数値
・契約書の全文、社内規程の内部情報、未公表の施策
・パスワード、ID、システム構成などセキュリティに関わる情報
固有名詞はA社・B社、金額はX円・Y円などに置き換え、入力内容を一般化することでも、文章のたたき台の作成やアイデア出し等に十分役立てることができます。
(2) ファクトチェック(事実確認)を必ず行う
大量の学習データや検索機能などをもとに回答を行う生成AI。しかし、時に生成AIは誤った情報でもまるで正しい情報であるかのように回答することがあります。こうした誤情報を生成してしまうことを「ハルシネーション」といいます。
例えば、法律や税務、公的制度、統計調査に基づくデータなど、根拠が必要な情報についても、生成AIは不確かな情報源をもとに、あたかも正しい情報のように文章を作成できてしまいます。その内容を鵜呑みにして社内外へ発信すると、会社の信用問題に発展する可能性もあるでしょう。こうしたリスクを回避するためにも、ファクトチェック(事実確認)を必ず行うようにしましょう。
例えば、以下の方法を徹底するだけで誤情報をもとに業務上の事故を起こす可能性を大きく減らすことができます。
① 一次情報(公式ホームページ等の資料、契約書や社内データ)に戻って確認する
② 生成AIに回答の根拠とした出典や参考にした資料の提示を求め、その出典が実在するか、内容が一致しているかを原典で人が確認する
③ 社外提出物は担当者や上長など複数人で確認する
また、ハルシネーションはプロンプトの内容が明確でないときに起こりやすい傾向があります。プロンプトを作る際は、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を意識した内容を作成しましょう。
例:
目的:社内通知文の下書き
前提:対象は全社員、丁寧語、400字程度
制約:機密情報は含めない、決定事項のみ書く
形式:件名+本文、箇条書きを含める
このように条件を明確にすると、ハルシネーションを起こしにくくなります。
しかし、生成AIが回答を行う際に参照したデータが整備されていなかったり、生成AIモデルの学習データの最新化が不十分だと、ハルシネーションを起こすこともあります。プロンプトを明確にしてもハルシネーションを防ぎきれないこともあるため、生成された内容の最終確認は必ず行うようにしましょう。
(3) 社内ルールを決めたうえで活用する
生成AIは便利に活用できる場面も多い反面、いたるところで使用してしまうと業務上の事故を起こす可能性があります。生成AIを導入する前に社内ルールを決めたうえで、業務で使用する範囲を決めておきましょう。
また、「入力してはいけない情報は何か」「作成した文章を誰が確認するか」といったルールを定めておくことも大切です。生成AIを安全かつ効果的に業務で活用するためには、社内で適切に管理する体制づくりが欠かせません。
3.生成AIを活用しやすい業務と慎重に扱うべき業務
(1) 議事録やメール、案内文などの文章作成に活用しやすい
生成AIの得意分野の一つが文章のたたき台づくりです。例えば次のような業務は、導入初期でも成果が出やすい傾向があります。
・議事録、要点の箇条書き
・社内における通知文、社外宛のメールや案内文の下書き
・マニュアルの章立て、FAQの質問案づくり
・企画提案書の構成案、見出し案、言い回しの調整
ここでポイントとなるのは、「生成AIに完成品を作らせる」ためにプロンプトを練るのではなく、「人が直しやすい形の下書きを作らせる」ことです。ゼロから書く負担が減るだけでも、現場の時間は確実に生まれます。
(2) アイデア出しや収集した情報の整理にも使いやすい
生成AIは、ユーザーと対話しながら発想を広げたり、雑多な情報について整理したりすることも得意です。例えば新商品の企画構想の相談相手として活用することで、頭の中でぼんやりと描いていたアイデアが明確になることがあります。
・新商品や新サービスの強みや弱みの整理
・顧客向けの説明の切り口を複数案出す
・課題に対して「原因候補」「不足している点」を洗い出す
・長文の資料を要約し、「意思決定をする際に必要な論点」を抽出する
※要約に使う資料は入力可能な情報かを事前に確認する必要があります。
生成AIが出したアイデアはあくまで一案であり、事実や数字に関しては必ず確認することが必要です。特に社内の意思決定に関わる内容は、生成AIの提案をそのまま採用するのではなく、たたき台の案として活用することが望ましいでしょう。
(3) 動画制作やイラスト作成などにも活用しやすい
近年では、テキスト作成や文章の要約、情報の整理だけでなく、動画制作やイラスト作成など、特定の分野に強みを持つ生成AIも登場しています。これらは、特定用途に特化した生成AIであり、対象分野によっては高品質な成果が期待できます。
自社で動画制作やイラスト作成を日常的に行っており、業務効率化も図りたい場合は、こうした特定用途向けの生成AIの導入を検討するのも有効です。
(4) 人事評価や契約判断、社外向けの公表文作成時は慎重に扱うべき
一方で生成AIの活用を特に慎重に判断すべき業務としては、「責任が重い」「人の権利や評価に関わる」「1つの誤りが信用問題になる」業務です。
・人事評価、人材採用の合否判断、従業員の処遇における決定
・契約条件の判断や、本来弁護士等の専門家が行う法的判断
・プレスリリースや会社としての公式声明などの対外的な公表文
・税務や会計の最終判断
これらの領域では、生成AIは一面的な情報や一般論に偏ることがあり、個別の詳細な事情を十分に汲み取れない場合があります。また、万が一誤った内容をもとに経営判断や会社の声明に使用してしまうと、訂正や謝罪などの対応に追われることもあります。
もし上記のような場面で生成AIを活用する場合は「アイデアを出す」「チェック項目を列挙する」等に留め、最終判断は必ず人が行い、可能であれば複数人で確認・決裁する体制づくりが重要です。
4.生成AIの導入や運用で経営者が確認しておきたいチェックリスト
(1) 導入目的とコストが明確になっているか
生成AIを導入する目的を明確にしたうえで、導入コストがその目的の達成に対して見合っているかを確認しましょう。
まずは「主にどのような業務で活用するのか」を整理しておくことが重要です。この点が曖昧になってしまうと、現場でも活用する場面がなくなる可能性があります。「議事録作成の時間を半分にする」「問い合わせ対応の下書き等に使用し、従業員の残業を3分の1にする」など、可能な限り具体的に明確化することが重要です。コストについても利用料だけでなく、運用の手間等を含めてどのくらいのコストがかかるかを考えると実用的です。
(2) 利用者と管理者の役割分担が決まっているか
生成AIを利用できる従業員とその管理者を決めておくと、社内の体制がわかりやすくなります。業務活用に関するルールが未整備だと、利用や管理において明確な基準がない状況となり、生成AIに関する事故などが発生した場合の責任の所在が曖昧になることがあります。例えば、利用責任者は部長、管理責任者は情報システム関係者、利用者はその他一般社員といった形です。こうしたトラブルが発生した時に備えて、利用者と管理者をあらかじめ決めておきましょう。
(3) 情報管理や運用のルールが定まっているか
生成AIの活用では情報管理や運用のルールが特に重要です。少なくとも、以下のようなルール整備を実施しておくことが望ましいです。
・入力禁止情報の範囲
・社外提出物のレビュー手順
・利用するサービスやアカウントの方針(個人アカウント可否など)
・トラブル時の報告ルート(気づいたらすぐ共有できる仕組み)
また、生成AIは「使い方が習熟した人とそうでない人」の差が出ることがあります。生成AIの導入直後は、テンプレートとなるプロンプトの例や効果的な活用事例等を社内で共有すると、会社全体の生産性を上げることができます。
ルールは一度作って終わりではありません。生成AIのサービス内容や利用規約、社内で扱う情報の範囲は変化するため、運用開始後も定期的に見直すことが重要です。例えば、月に一度や四半期に一度など、定期的に確認できる機会を設けましょう。その際には「実際にどの業務で使ったか」「生成AIを利用した際にヒヤリとした場面はなかったか」「現状のルールに不足はないか」等も振り返ることができると、現場に合った安全な運用や生成AIの活用に関する情報交換の場になります。
5.まとめ
生成AIには文章作成やアイデア出し、動画制作やイラスト作成など様々な用途があり、その使い方を十分に理解していれば、適切な場面で役立てることができます。ただし、生成された内容には誤りや不適切な表現が含まれる可能性があるため、文章では事実確認、動画制作やイラスト作成では特にプロンプトの内容が反映されているか確認することが重要です。また、人事評価や契約判断など重要な意思決定に関わる場面では、生成AIの回答を参考情報の一つとして扱い、最終判断は必ず人が行う必要があります。生成AIに関する正しい知識を身につけることで、業務においても効果的に活用しましょう。
参考資料
・経済産業省「AI事業者ガイドライン(METI/経済産業省)」
・総務省「総務省|令和7年版 情報通信白書|企業におけるAI利用の現状」
・金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)-金融分野におけるAIの健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理-」
・IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構」
・経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
・東京商工会議所「中小企業のための『生成AI』活用入門ガイド」
・OpenAI「アプリ内の管理機能、セキュリティ、およびコンプライアンス(Enterprise、Edu、Business) | OpenAI Help Center」
・『目的別! 仕事で使えるAI活用事典』(2025年、きずな出版)
・『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』(2024年、かんき出版)
記事提供
株式会社TKC出版
1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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