部下指導の方法として「アサーティブコミュニケーション」が役立つと聞きました。その考え方と具体的な会話例を教えてください。(訪問介護事業)
働き方の多様化が進み、世代や価値観、経験の異なる人材が同じ職場で働く時代となりました。かつてのように、共通の価値観や暗黙の了解によって組織を運営することが難しくなり、多様な人材の力を引き出すマネジメントが求められます。こうしたなか、組織の生産性や創造性を高めるために重要視されているのが心理的安全性です。心理的安全性とは、社員が「こんなことを言ったら否定されるのではないか」「評価が下がるのではないか」と不安や恐れを抱くことなく自分の意見や疑問を発言でき、たとえ意見が異なる場合でも、建設的な議論ができる状態を指します。
心理的安全性の高い職場づくりを支える重要な要素の一つが、「アサーティブコミュニケーション」(以下、AC)です。ACとは、自分の意見や感情を率直に伝えながらも、相手の立場や考えを尊重するコミュニケーションの考え方、スキルを指します。一方的に主張したり、自分の意見や考えを抑え込んだりしない「自分も相手も大切にする」対話姿勢といえます。近年、多くの経営者から「指導がハラスメントと受けとられないか不安だ」という声を耳にします。必要な指導を控えてしまい、育成の機会を逃してしまうケースも少なくありません。ACは、こうした課題を解決するのに役立ちます。
ACを実践する上で重要なのは「価値観の違いを前提にする」ことです。職場では、自分にとっての「当たり前」や「こうあるべき」が他者にも通用するとはかぎりません。怒りやいら立ちの多くは、自分の「こうあるべき」や価値観が満たされないときに生じます。違いを否定したり、自身の「こうあるべき」を押し通したりすると対話は停滞し、部下は発言を控えるようになるでしょう。
相手と対等に向き合う
大切なのは、同意できなくても相手の意見や考えを受けとめ、耳を傾ける姿勢です。自身の考えや「こうしてほしい」と期待や要望を共通認識になるよう具体的に伝え、背景や理由を共有することで、指示や指導が納得感のあるものになります。また「立場が違っても心の中では対等である」という意識をもつことも大事です。役職やキャリア、経験の違いがあっても、コミュニケーションにおいては対等な気持ちで向き合う姿勢が重要です。「自分のほうが正しいはずだ」と相手を見下しコントロールしようとしたり、「こんなことを言って嫌われたらどうしよう」「私の立場で言っていいのだろうか」と必要以上にへりくだったりせず、ひるむことなく向き合おうということです。
指導で叱ることもあるかと思いますが、その目的は「相手の成長を願って意識と行動を改善してもらうこと」です。相手をやり込めることではありません。「次からこうすればいいのか」と相手が理解し、望ましい行動をとってもらうために、「今後こうしてほしい」という要望を率直かつ具体的に伝えることがポイントです。例えば「納期はちゃんと守ってね。守れなかったら事前に相談して」といった曖昧な表現ではなく、「決めた期日までに資料は提出してね。間に合わない場合は前日の就業時間内に相談してほしい」と具体的に伝えることで、認識のズレを防ぐことができます。
価値観の違いを受けとめ、自分も相手も尊重しながら率直に対話する文化が組織に根付くために、まずは経営者自らその姿勢を示すことが肝要です。
掲載:『戦略経営者』2026年4月号
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