この記事では令和8年度税制改正で発表された「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」について、制度の目的と全体像、対象となる法人や投資の範囲、受けられる税制措置の種類、適用要件と手続、併用制限や大企業の不適用などの注意点を紹介します。
💡この記事のポイント
☑大胆な投資促進税制は、国内における高付加価値な設備投資を促進するために創設される税制措置
☑本税制の適用対象は、一定規模以上の設備投資を対象に、即時償却または税額控除を選択できる
☑本税制の適用には、所管大臣の確認を受けた投資計画と、投資額・投資利益率・期限の要件を満たすことが必要
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- 1.大胆な投資促進税制とは何か
- (1) 制度のねらいと全体像
- (2) 対象となる法人・業種
- (3) 受けられる優遇の種類
- (4) 利用が想定される事例(活用イメージ)
- 2.対象となる資産と「一定の規模以上」とは?
- (1) 対象資産と対象外資産
- (2) 資産区分ごとの「一定の規模以上」
- 3.税制メリットの中身(即時償却と税額控除)
- (1) 即時償却の取扱い
- (2) 税額控除の取扱い
- (3) 控除限度超過額の扱い
- 4.適用要件と手続(投資計画・投資規模・投資利益率・期限)
- (1) 投資計画の作成と経済産業大臣による確認が必要
- (2) 投資規模の要件(35億円/5億円)
- (3) 投資利益率の要件
- (4) 期限の要件(確認期限と取得・供用期限)
- 5.本制度の注意点とポイントのおさらい
- (1) 併用制限に注意(投資計画期間中に使えない税制)
- (2) 大企業への不適用措置
- (3) ポイントのおさらい
1.大胆な投資促進税制とは何か
(1) 制度のねらいと全体像
令和8年度税制改正で、国内の高付加価値な設備投資を後押しする「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」が創設されます。生産性向上につながる一定規模以上の投資を対象に、即時償却または税額控除を選べる制度です。
本制度は、設備投資で付加価値と生産性を高め、その成果を賃上げ等の還元につなげる好循環を強める狙いがあります。そのため、投資が付加価値・生産性の向上にどう結びつくかを投資計画で整理したうえで進める仕組みになっています。
また、適用は単年度の投資に限られず、確認を受けた日から一定期間内に取得して事業の用に供する設備であれば対象となるため、建設期間が長い投資にも対応できます。
(2) 対象となる法人・業種
本税制の対象となるのは、青色申告書を提出する法人です。業種による制限はなく、製造業に限らず、幅広い業種の法人が対象とされています。
ただし、すべての法人が無条件に適用を受けられるわけではありません。大企業については賃上げや国内投資の状況を踏まえた適用制限が設けられています。
(3) 受けられる優遇の種類
本税制における税制上の優遇措置は、大きく二つに分かれます。
一つは、対象設備について取得価額の全額を損金算入できる即時償却、もう一つは、取得価額に一定の割合を乗じた金額を法人税額から控除できる税額控除です。
なお、即時償却と税額控除のいずれを適用するかは、対象資産ごとに選択することが可能です。投資内容や法人税額の状況に応じて、適用方法を選択できる仕組みとなっています。
(※優遇措置については3章で詳しく解説します。)
(4) 利用が想定される事例(活用イメージ)
例:自社製品の供給能力を拡大するため、工場を新設し、生産設備と製造ラインを自動制御するソフトウェアを導入するケース(投資計画合計:100億円)。
| 投資計画 | 対象資産 | 詳細 | 投資額 | 税制措置の考課 |
| 建物 | 工場の建屋を新設 | 50億円 | 即時償却を選択 (キャシュフロー改善効果:15億円程度) |
|
| 機械装置 | 自社製品の生産拡大のための機械装置を導入 | 30億円 | 税額控除7% (減税効果:2.1億円程度) |
|
| ソフトウェア | 製造ラインを自動制御するためのソフトウェアを導入 | 20億円 | 税額控除7% (減税効果:1.4億円程度) |
(出所:経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)について(周知資料)」一部改変)
合計で19億円程度の税制インセンティブが見込まれます。なお、即時償却/税額控除は、対象資産ごとに選択できます。
2.対象となる資産と「一定の規模以上」とは?
(1) 対象資産と対象外資産
本税制の対象となるのは、「生産等設備」を構成する設備です。具体的には、機械装置、工具・器具備品、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアが含まれます。
なお「生産等設備」とは、法人の事業の用に直接供される減価償却資産で構成されるものをいい、事務用器具備品、本店、寄宿舎、福利厚生施設等は対象外とされています。また、貸付けの用に供する設備も対象になりません。
(2) 資産区分ごとの「一定の規模以上」
本税制では、対象資産に該当するだけでなく、まず「資産ごとの最低取得価額(資産単位の要件)」を満たす必要があります。資産の種類ごとの基準は次のとおりです。
※投資計画全体の「投資下限額(計画単位の要件)」は4章(2)で説明します。
| 設備の種類 | 取得価額の基準(一定の規模以上) |
| 機械装置 | 1台または1基:160万円以上 |
| 工具・器具備品 | 1台または1基:120万円以上 (※1台または1基の取得価額が40万円以上で、かつ、一事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のものを含む。) |
| 建物 | 1件:1000万円以上 |
| 建物附属設備・構築物 | 1件:120万円以上 (※建物附属設備は、60万円以上で、かつ、一事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のものを含む。 |
| ソフトウェア | 1件:70万円以上 (※販売目的のソフトウェアは除く) |
(出所:経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)について(周知資料)」一部改変)
3.税制メリットの中身(即時償却と税額控除)
(1) 即時償却の取扱い
大胆な投資促進税制では、対象となる特定生産性向上設備等について、即時償却を選択することができます。
即時償却とは、取得した設備の取得価額の全額を、その設備を事業の用に供した事業年度に損金算入できる措置です。通常の減価償却では、法定耐用年数に応じて複数年にわたり費用化されますが、本制度を適用することで、取得年度に一括して損金算入することが可能となります。
対象となるのは、投資計画に基づき取得し、事業の用に供した特定生産性向上設備等に限られます。
即時償却を適用するかどうかは、対象資産ごとに選択することができます。すべての対象資産について一律に同じ取扱いを選ぶ必要はありません。
(2) 税額控除の取扱い
本税制では、即時償却に代えて、税額控除を選択することも可能です。
税額控除を選択した場合、対象設備の取得価額に一定の控除率を乗じた金額を、法人税額から控除することができます。
控除率は、原則として7%とされています。ただし、建物、建物附属設備および構築物については、控除率が4%とされています。
控除額には上限が設けられており、控除できる金額は、当期の法人税額の20%までとされています。この上限は、事業年度ごとに判定されます。
税額控除についても、即時償却と同様に、対象資産ごとに適用の有無を選択することが可能です。
| 区分 | 控除率 | 控除上限 |
| 機械装置/工具及び器具備品/ソフトウェア | 7% | 当期法人税額の20% |
| 建物/建物附属設備/構築物 | 4% | 当期法人税額の20% |
(出所:経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)について(周知資料)」一部改変)
(3) 控除限度超過額の扱い
税額控除を選択した場合、控除額が当期の法人税額の20%を超えることがあります。このような場合、超過した部分については、原則として当期には控除することができません。
ただし、本税制では、一定の要件を満たす法人について、税額控除の繰越が認められています。具体的には、予見し難い国際経済事情の急激な変化への対応を目的とする計画について、産業競争力強化法に基づく認定を受け、かつ、その対応を確実に実施していることについて経済産業大臣の確認を受けた法人が対象とされています。この要件を満たす場合には、控除限度超過額を最大3年間繰り越して控除することが可能とされています。
なお、この繰越税額控除は、すべての法人に一律に認められるものではなく、認定および確認を受けた法人に限って適用される取扱いです。
4.適用要件と手続(投資計画・投資規模・投資利益率・期限)
(1) 投資計画の作成と経済産業大臣による確認が必要
大胆な投資促進税制の適用を受けるためには、対象となる設備投資について、投資計画を作成し、経済産業大臣の確認を受けることが必要です。
投資計画の確認は税制適用の前提となる手続であり、確認を受けていない投資については、本税制の対象とはなりません。
投資計画には、生産性向上設備等の導入内容、取得予定の設備、投資額、資金調達手段などを記載することとされています。また、当該投資計画が、法人における適切な意思決定機関の決定に基づくものであることも要件とされています。
確認の対象となるのは、産業競争力強化法に基づく生産性向上設備等のうち、特定の基準を満たすものとされており、税制上の優遇措置は、この確認を受けた投資計画に基づく設備投資に限って適用されます。
(2) 投資規模の要件(35億円/5億円)
ここでは、2章(2)の「資産ごとの最低取得価額」を満たす設備を前提に、投資計画全体として必要となる投資下限額(計画単位の要件)を整理します。
本税制では、投資計画に基づく設備投資について、一定以上の投資規模が求められます。
具体的には、投資計画に記載された生産性向上設備等の取得価額の合計額が、大企業の場合は35億円以上、中小企業者等の場合は5億円以上であることが要件とされています。
この投資下限額は、投資計画単位で判定され、個々の設備ごとに判定するものではありません。そのため、複数の設備を組み合わせた投資計画であっても、合計額が所定の金額以上となっていれば、投資規模の要件を満たすことになります。
(3) 投資利益率の要件
投資規模に加えて、本税制では、投資利益率に関する要件が設けられており、投資計画における年平均の投資利益率が、15%以上となることが見込まれることが必要です。
投資利益率は、投資計画に記載した数値をもとに、確認申請の手引き等で示される所定の算式により算定します。算定に用いた前提や見込みについても、投資計画の一部として確認の対象となります。この算定方法や数値についても、投資計画の一部として、経済産業大臣による確認の対象となります。
(4) 期限の要件(確認期限と取得・供用期限)
令和11年3月31日までの間に経済産業大臣の確認を受け、確認日から5年以内に取得等をして事業の用に供した設備が対象です。このため、確認から取得・供用までに一定の期間を要する大型設備投資についても、本税制の対象となる仕組みとされています。この期限要件は、投資計画の確認時点と、実際の設備取得・供用時点の双方について整理して確認する必要があります。
※「取得等」には、取得・製作・建設のほか、建物の改修(増築、改築、修繕、模様替)も含まれます。
5.本制度の注意点とポイントのおさらい
(1) 併用制限に注意(投資計画期間中に使えない税制)
大胆な投資促進税制の適用を受ける場合、投資計画の期間中は、他の設備投資に関する税制の一部が適用できなくなります。これは、同一の投資について複数の税制優遇が重複して適用されることを防ぐための取扱いです。
具体的には、投資計画の期間中において、次の設備投資税制については、原則として適用を受けることができません。
①地域経済牽引事業の促進区域内で特定事業用機械等を取得した場合の特別償却または税額控除制度(地域未来投資促進税制)
②中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却または税額控除制度(中小企業経営強化税制)
③カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
この併用制限は、対象設備ごとではなく、投資計画の期間全体に対して適用されます。そのため、本税制の適用を検討する際には、他の設備投資税制との関係を整理したうえで、投資計画を作成する必要があります。
(2) 大企業への不適用措置
本税制は全業種を対象としていますが、大企業については、一定の事業年度において制度の適用が制限される枠組みが設けられています。
具体的には、中小企業者等以外の法人について、前事業年度の所得を上回る所得が生じた事業年度であっても、次のいずれかの要件を満たさない場合には、本制度(繰越税額控除を除きます)の適用を受けることができません。
一つ目は、継続雇用者の給与等支給額の増加割合に関する要件です。原則として、対前年度で1%以上の増加が求められ、資本金や従業員数が一定規模以上の法人については、2%以上の増加が要件とされています。
二つ目は、国内設備投資額に関する要件です。原則として、当期の国内設備投資額が当期償却費総額の30%を超えることが必要とされ、一定規模以上の法人については40%を超えることが求められます。
これらの要件は、賃上げや国内投資の状況を踏まえた不適用措置として整理されており、該当する事業年度については、本税制の適用が制限されます。
(3) ポイントのおさらい
大胆な投資促進税制の主なポイントは、次のとおり整理できます。
本税制は、青色申告書を提出する法人を対象に、業種を問わず適用されます。
対象となるのは、生産等設備を構成する機械装置、建物、ソフトウェアなどで、一定の取得価額以上の設備を、一定規模以上の投資計画に基づいて取得する場合です。
投資計画については、経済産業大臣の確認を受けることが前提となり、投資規模は大企業で35億円以上、中小企業者等で5億円以上、投資利益率は年平均15%以上が見込まれることが要件とされています。
税制上の措置としては、即時償却または税額控除(原則7%、建物等は4%)のいずれかを選択でき、税額控除には法人税額の20%という上限があります。
一方で、投資計画期間中の併用制限や、大企業に対する不適用措置など、適用にあたって注意すべき点も設けられています。
制度の利用にあたっては、これらの要件と制限を整理したうえで、投資計画全体としての適合性を確認することが必要となります。
参考文献
財務省「令和8年度税制改正の大綱」
経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)について(周知資料)」
記事提供
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