2026年03月24日

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「年収の壁」がまた変わった!今度はどうなる?ポイント解説

「年収の壁」がまた変わった!今度はどうなる?ポイント解説

令和7年度税制改正で、所得税がかからない範囲は「年収160万円以内(基礎控除額95万円・給与所得控除の最低保障額65万円)」とされましたが、令和8年度税制改正ではその範囲がさらに拡大し、「年収178万円」となります。新たな「年収の壁」に変更されたことによる注意点を確認しておきましょう。

💡この記事のポイント
 ☑いわゆる「年収の壁」が160万円から178万円に引き上げられた。
 ☑「社会保険の壁」はそのまま残っており、働き控えの効果は限定的。
 ☑「年収の壁」と「年収の崖」について従業員への周知が必要。
 ※本記事は、令和7年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」等に基づいてまとめています。今後、国会の審議状況等によって改正内容が一部変更されることがありますのでご注意ください。

1.「年収の壁」のおさらい

 「令和8年度税制改正の大綱」では、所得税の「基礎控除」および「給与所得控除」の見直しを行い、いわゆる「年収の壁」を「160万円」から「178万円」へ引き上げる方針が示されました。「年収の壁」の見直しは、収入にかかる税金の金額基準が変わる大きな改正点です。
 本記事では、「年収の壁」とは何かについておさらいしつつ、178万円に引き上げられる背景や、企業経営者にとってどのような点に注意すべきなのかを解説します。

(1) そもそも「年収の壁」とは?

年収の壁のイメージ

 「年収の壁」とは、税金や社会保険料の負担が増え、手取りが減ってしまう境目となる年収のことです。
 「年収の壁」には主に、「税金に関わる壁」と「社会保険に関わる壁」があります。このように「年収の壁」と言っても、「何の制度の話か」で中身が異なります。本記事では、次の2つに整理して解説します。

税金に関わる壁:所得控除額が変わり、税金がかかり始める境目
社会保険に関わる壁:社会保険に加入し、保険料負担が発生する境目

(2) 「税金に関わる壁」

 「税金に関わる壁」には、住民税と所得税に関わる壁があります。
 住民税(所得割・均等割)は、目安として年収が110万円前後を超えると発生します。ただし、住民税の非課税ラインは「自治体」や「家族構成(扶養親族の有無など)」でも変わります。正確な金額はお住まいの自治体に確認してください。

(3) 「社会保険に関わる壁」

 通常、社会保険料負担は、106万円あるいは130万円を超えると発生します。年収がこれらの金額を超えると、勤務先で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することになり、配偶者等の扶養(健康保険)・第3号被保険者(年金)でいられなくなるためです(加入先は、勤務先の社会保険・国民健康保険/国民年金などの状況により異なります)。
 金額が2つある理由などについて、以下の通り解説します。

①「106万円の壁」とは

 前提として、社会保険加入の条件として下記の5点があります。

 1)勤務先企業の従業員数が51人以上
 2)週の勤務時間が20時間以上
 3)給与が月額8.8万円以上(年収106万円以上)
 4)2ヶ月を超えて働く予定がある
 5)学生ではない

【出典】厚生労働省「『年収の壁について知ろう』あなたにとってベストな働き方とは?

 上記のように、短時間労働者が勤務先の社会保険に加入するための要件の1つである「賃金が月額8.8万円以上」を年収に換算すると約106万円になることから、「106万円の壁」と呼ばれます。これらの要件を満たすと、原則として勤務先で健康保険・厚生年金に加入することとなり、本人負担の保険料が発生します。なお、令和7年の年金制度改正法により、賃金要件(8.8万円)や企業規模要件は段階的に見直し・撤廃される予定で、この「106万円の壁」の位置づけは今後変更される可能性があります。

②「130万円の壁」とは

 「130万円の壁」は、一般に「配偶者等の健康保険の扶養(被扶養者)」「年金の第3号被保険者」でいられるかどうかの基準として使われます。
 「年収130万円」を超えると、配偶者の扶養から外れて保険料負担が生じます。加入先は、勤務先の社会保険に加入する場合もあれば国民健康保険・国民年金になる場合もあり、勤務先が適用事業所かどうか、働き方(労働時間・契約内容等)などにより異なります。

③「働き控え」の原因の1つに

 これら「社会保険に関わる壁」については、年収がこの境目を超えると社会保険料の負担が増え、手取り額が減少することになります。そのため、「壁」を超えないように働き方を控える「働き控え」の原因の1つになっています。
 また、社会保険の加入や負担の有無は、年収だけでなく労働時間や勤務形態など複数の要因で判断されるため、どの要因で加入・未加入が決まるか(負担が増えるのか)見通しが立てにくい面があります。加えて、月ごとの勤務時間や収入が変動しやすい働き方では、繁忙期に一時的に超えてしまうことへの不安も生じます。その結果、「いったん超えると後が面倒になりそう」「安全に調整したい」と考え、あらかじめ勤務時間を抑える行動につながることがあります。こうした不確実性も、「働き控え」を助長する一因になっています。

 「年収の壁」については、下記の記事も参照してください。

■関連記事:myTaxPro「今注目される「年収の壁」!どういうこと?」
今注目される「年収の壁」!どういうこと? 税理士事務所検索 myTaxPro マイタックスプロ

2.「年収の壁」が178万円へ見直される背景

 「令和8年度税制改正の大綱」では「年収の壁」を「178万円」に引き上げる内容が盛り込まれています。具体的には、「基礎控除」と「給与所得控除」の最低保障額を引き上げるというものです。
 「基礎控除」「給与所得控除」ともに、税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を用いて調整する考え方が「令和8年度税制改正の大綱」に明記されています。令和8年度の改正案では、令和5年10月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえるとしており、その前提で以下の引き上げが示されています。

(1) 「基礎控除」の引き上げ

基礎控除のイメージ

 「基礎控除」とは、所得税の課税所得を計算する際に合計所得金額などから差し引くことができる所得控除です。
 「令和8年度税制改正の大綱」では、個人の合計所得金額が2,350万円以下の場合、基礎控除(本則)を恒久的に4万円引き上げる予定としています。これにより、「基礎控除」の最低額は「58万円」から「62万円」になる見込みです。
 また、令和7年分以後の各年分の「『基礎控除』等の特例」として、次に示す特例を創設する方針が示されています。

■所得税の「基礎控除」等の特例

 ①居住者のその年分の合計所得金額が655万円(令和10年分以後の各年分にあっては、132万円)以下である場合の基礎控除の控除額の加算額を次に掲げる年分の区分に応じそれぞれ次に定める金額とする。
 1)令和8年分及び令和9年分 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
 a.その居住者のその年分の合計所得金額が489万円以下である場合 42万円
 b.その居住者のその年分の合計所得金額が489万円を超える場合 5万円
 2)令和10年以後の各年分 37万円
 ②上記①の見直しに伴い、公的年金等に係る源泉徴収税額の見直し等の所要の措置を講ずる。
 ※上記②の公的年金等の源泉徴収については、令和9年1月1日以後に支払うべき公的年金等について適用する。

【出典】財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)

 上記を踏まえ、「改正前」、「令和8年分・令和9年分」、「令和10年分以降」における所得金額別の基礎控除額を一覧にしたのが、下記の表です。

■基礎控除の額

合計所得金額 改正前 令和8年分・令和9年分 令和10年分~
132万円以下 95万円
104万円
99万円
132万円超336万円以下 88万円
62万円
336万円超489万円以下 68万円
489万円超655万円以下 63万円 67万円
655万円超2,350万円以下 58万円 62万円
2,350万円超2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超
【出典】「事務所通信」令和8年度改正税法特集号

 「令和8年度税制改正の大綱」では、上記の見直しに伴い、公的年金等に係る源泉徴収税額の見直し等の所要の措置を講ずるとしています。
 また、基礎控除の改正については下記2点の注意点があります。合わせて確認しておきましょう。

 ①上記(基礎控除)の改正は、令和8年分以後の所得税について適用する。なお、給与等及び公的年金等の源泉徴収については、令和9年1月1日以後に支払うべき給与等又は公的年金等について適用する。
 ②上記(基礎控除)の改正及び下記「『基礎控除』等の特例」に伴い生ずる公的年金等につき源泉徴収された所得税の額に係る超過額について、当該公的年金等(確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金等を除く)の支払者から還付等をするための措置を講ずる。

【出典】財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)

(2) 「給与所得控除」の引き上げ

給与所得控除のイメージ

 「給与所得控除」とは、給与収入(給与等の収入金額)から一定額を差し引いて、給与所得を計算するための控除です。
 「令和8年度税制改正の大綱」では、給与所得控除の最低保障額を「65万円」から「69万円」へ引き上げるとしています。
 また、新たに「給与所得控除の最低保障額の特例」を創設する方針が示されました。本特例により、令和8年分・令和9年分に限り、「給与所得控除」の最低保障額を「5万円」上乗せする予定としています。このため、令和8年分・令和9年分の給与所得控除の最低保障額は「74万円」になる見込みです。

■給与所得控除の最低保障額の特例の創設

 ① 令和8年及び令和9年における給与所得控除の最低保障額を5万円引き上げる特例を創設する。
 ② 上記①の特例は、年末調整において適用できることとする。
 ③ その他所要の措置を講ずる。

【出典】財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)

 上記を踏まえ、「改正前」、「令和8年分・令和9年分」、「令和10年分以降」における給与等の収入金額別の給与所得控除額を一覧にしたのが、下記の表です。

■給与所得控除の額(計算式)

給与等の収入金額 改正前 令和8年分・令和9年分 令和10年分~
190万円以下 65万円
74万円

69万円(※)
190万円超220万円以下(※) 収入金額×30%+8万円
220万円超(※)360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

※令和10年分以降については「203.3万円以下」までが「69万円」

【出典】「事務所通信」令和8年度改正税法特集号

(3) 「基礎控除」・「給与所得控除」の見直しに伴う所要の措置

 「令和8年度税制改正の大綱」による「基礎控除」と「給与所得控除」の見直しが法改正で実現した場合、下記4点について所要の措置が講じられる予定です。

 ①同一生計配偶者及び扶養親族の前年の合計所得金額要件を 62 万円以下(現行:58 万円以下)に引き上げる。
 ② ひとり親の生計を一にする子の前年の総所得金額等の合計額の要件を 62 万円以下(現行:58 万円以下)に引き上げる。
 ③ 勤労学生の前年の合計所得金額要件を 89 万円以下(現行:85 万円以下)に引き上げる。
 ④ その他所要の措置を講ずる。
 ※上記の改正は、令和9年分以後の個人住民税について適用する。

【出典】財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)

3.経営者が注意すべき点とは?

 「年収の壁」引き上げにより、中小企業にはどのような影響があるのでしょうか。本項ではその具体的な影響について、経営者が注意しておきたい点についてご紹介します。

(1) 「働き控え」の減少は限定的

 「年収の壁」が178万円に引き上げられた場合、アルバイトやパート従業員の「働き控え」が一部緩和される可能性があります。特に日頃から人手不足に悩む中小企業では、労働力の確保につながる可能性があります。
 ただし、「令和8年度税制改正の大綱」で示されたのは、あくまで「所得税の壁」に関する見直しです。前述の通り、住民税や社会保険料についてはまだ「壁」があるので、それらを意識して就業調整が起きやすい構造は残ります。つまり、令和8年度税制改正でも、働き控えを抑制する効果は限定的だと考えられています。

(2) 「年収の崖」が生じるおそれがある

 「年収の壁」(178万円)の見直しにより、合計所得金額が「489万円」を超えると控除額が大きく変わります。
 「特例による上乗せ」を満額で受けられるのは「合計所得金額489万円」以下の給与所得者です。合計所得金額が489万円を超えると、上乗せ分が42万円から5万円に激減し、控除が37万円分小さくなる、つまり所得税額が増えます。それを避けるために、合計所得金額が489万円を超えないようにするのが「年収の崖」です。
 企業としても、合計所得金額489万円付近の従業員がいる場合、昇格や賞与で489万円を超え「年収が上がったのにもかかわらず、手取り額の増え幅が小さい」と説明を求められるかもしれません。

4.まとめ

 「令和8年度税制改正の大綱」では、「年収の壁」を「178万円」に見直す内容が盛り込まれました。「年収の壁」(「基礎控除」と「給与所得控除」の合計)が「160万円」から「178万円」に引き上げられる場合、物価上昇下で実質的な税負担が増えやすい構造を緩和することが目的とされています。今後は、物価上昇に連動して基礎控除等を見直す仕組みを創設する方針も示されています。
 企業経営者は、法案の成立状況や適用時期を確認しつつ、従業員の税・社会保険の負担がどう変わるかを把握しておきましょう。

【参考資料】

・自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月19日発表)
・財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)
・財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」(令和7年12月26日閣議決定)
・厚生労働省「『年収の壁』への対応
・厚生労働省「被扶養者の収入確認に当たっての『一時的な収入変動』に係る事業主の証明書
・国税庁「No.1199 基礎控除|国税庁
・国税庁「No.1410 給与所得控除|国税庁
・myTaxPro「中小企業が注目しておきたい令和8年度税制改正大綱のポイント 税理士事務所検索 myTaxPro マイタックスプロ
・「事務所通信」デジタル版2026年1月号 注目ニュース
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