全社的なベクトルを合わせ、成長へと向かうには組織の先行きを指し示すフラッグ、つまりは戦略目標を掲げることが必要である。世の優良企業は、どのように戦略目標を掲げ、未来を形にしているのか。レポートする。
(写真)竹仲勲顧問税理士(左)と中井社長
業務用ゼラチンで国内シェアトップを走るジェリフは、2026年から新工場建設に着手する。補助金を活用しながら事業計画をオープンにする同社の経営戦略をレポートする。
1月9日、滋賀県野洲市に本社工場を構えるジェリフは、草津市内のホテルで新年会を開催した。あいさつで壇上に立った中井圭介社長は、滋賀県守山市での新工場建設を中核とする事業計画「レインボー計画」をはじめて発表。全社員が一堂に会する場で計画(戦略目標)の詳細を公表し、経営者としての決意を明確に表明することで、社員のモチベーションを引き上げる狙いだ。同社は需要増への速やかな対応、技術革新、商品開発の積極化など複数の軸を同計画で1本の柱に束ね、社内外にオープンにしながら着実に実行しようとしている。
1.業務用ゼラチンでトップシェア
ジェリフの主力製品は、菓子などの原料として使われるゼラチンである。20~100キログラムサイズのバルク状粉末ゼラチンは総菜や冷凍食品メーカーやグミメーカーなどに販売。一方、シート状のリーフゼラチンや1キログラム程度の粉末はホテルやレストラン、洋菓子店などに納めている。ホテルや飲食業界の厨房で働くスタッフには、大きなコック帽をかぶったシェフのイラストはおなじみのものだ。中井社長は言う。
「業務用ゼラチンは当社の最大の強みとなっており、トップシェアを誇っています。高級レストランなどでゼリー状の料理が出てくる場合、ほとんどが当社製品を使っていると思います。特に国内では当社のみ、世界でも3社だけが生産しているリーフゼラチンは高級店での採用率が高く、プロ向け製品として高く評価していただいています」
中井圭介社長
確固としたブランドを築き上げてきた同社が新工場設立を検討し始めたのは約10年前。最大の理由は需要増だ。とくに2021年に国内ガム市場を追い抜いたと話題になったグミ市場の急拡大が背景にあった。
「グミの市場は現在、非常に活況を呈しており、さらに成長していくことが予想されます。ニーズは確実にあり、生産量を増やせれば確実に販売できる自信もあります。大手グミメーカーも次々にラインを増やしており、この傾向が今後も続くことは間違いないでしょう。私たち原料供給側も、OEM生産を通じてその増産体制にしっかり対応していきたいと考えました」
各種業務用ゼラチン製品には高いブランド力がある
当初は同じ野洲市内の近隣の土地を確保し計画を進めたが、開発許可がなかなか下りず難航。別の候補地として隣接する守山市内の土地を紹介され、実現可能性のスピードを考慮してそちらに計画をシフトすることを決めた。土地の完全取得まで3年を見込み、建築計画の策定や建築会社の選定、事業計画の作成を同時並行で進めてきた。
2.人気のプレミックス品を強化
年商を上回る投資金額が見込まれたため、中井社長は補助金の活用を考えた。中小企業庁が進める「100億宣言」事業の申請企業を対象とした中小企業成長加速化補助金である。100億宣言を公表し、第1次公募に応募したところ見事採択となった。有効申請件数1,270件に対し採択件数207件(採択倍率約6.1倍)の狭き門を通過した事業計画のポイントは何か。中井社長は、革新的な独自技術と社会課題の解決につながる製品戦略を盛り込んだことを明かす。
「リーフゼラチンの製造方法に、世界初の革新的な独自技術を使用することを補助金申請で大きなアピールポイントにしました。従来は水分量の多いゼラチン溶液をシート状にして乾燥させる方法が一般的でしたが、乾燥に膨大な時間とエネルギーを要するという難点がありました。そこで導入予定の製法では、大幅に水分を減らした高濃度ゼラチン溶液を使い、工業用フィルムの押し出し技術を応用して均一なシートを形成します。乾燥工程の時間とエネルギーを大幅に削減できる見込みです」
設備の省スペース化も実現し、少人数での運用が可能になるため、生産効率が飛躍的に向上するという。
もう一つは社会課題に対応した商品群の強化だ。事業計画では、原料ゼラチンに加え調味料や他の原材料をあらかじめ適切な比率で配合されている「プレミックス品」の需要増への対応が必要なことを強調した。
「外食産業は今、深刻な人手不足の状況にあります。現場の作業負担を少しでも減らすため、加工度を高めた商品を提供していくことが重要だと考えました。当社では現在、牛乳を加えるだけで杏仁豆腐が完成する製品や、お湯で溶くだけで抹茶プリンやほうじ茶プリンが作れる高加工度の商品を、当社の強みである外食産業やホテル向けのルートを通じて展開しています。これらのプレミックス品を今後さらに強化していく方針を打ち出しました」
同社はこれらのプレミックス品を「濃香杏仁」「濃香抹茶ぷりん」「濃香ほうじ茶ぷりん」の濃香シリーズとして展開。いずれもゼラチンならではの食感を最大限に生かした濃厚な味わいが特徴だ。
「価格はやや高めですが、ブランド価値を損なわないように味には徹底的にこだわっています。新工場稼働後は、チョコレートやミルク味などの追加を検討しているほか、現在外注している包装や原料のブレンド工程などを内製化する計画です」
中井社長によると、ゼラチン原料はコモディティー化が進み、「どこが作っても同じ」状況になりつつあるという。そうしたなか、プレミックス品のような高付加価値商品の強化は避けられないと判断したのである。
3.月次決算で素早く業績を把握
こうした中井社長の戦略的思考が形作られる一つのきっかけになったのが、顧問税理士である竹仲勲氏が開催している「勲塾」への参加である。同塾は月に1回の開催で登録者は20名弱。竹仲税理士が講師を務め、『論語』や吉田松陰の著作などを解説する。塾生によるディスカッションや発表の場も時には設けられ、中井社長は「非常に充実した内容」だと話す。
「単なるテクニックやノウハウを学ぶ場ではなく、歴史や宗教など深いテーマに踏み込み、マクロな世界観を広げる学びの場です。思想や理念の面で大きな影響を受けました。また経営者だけでなく弁護士などの士業、医師など多様な職業の方が参加されており、ここで得た視点やネットワークを経営判断に生かしています」
中井社長のことを「とにかく勉強熱心」と評する竹仲税理士は、TKC方式の自計化と月次決算の実践による素早い業績把握が、その戦略的思考の基盤になっていると話す。
「ジェリフさんは経理のレベルが非常に高く、クラウドシステム導入以前から翌月上旬にはすべての数字が把握できる体制が整っていました。現在は『FX4クラウド』を活用されていますが、クラウド化によってさらにその精度が高まっています。別システムで運用することの多い販売管理や売掛金の管理などを一元化できるようになった点は非常に大きなメリットです」
4.滋賀県テーマのグミが人気
ゼラチン製造の新技術導入やグミ製品のOEM生産などが目玉となっている新工場だが、中井社長はさらなるオリジナル製品の充実を図る考えだ。
「コロナ禍で売り上げが落ち込んだ時期に各部署からメンバーを集め、新商品開発のプロジェクトチームを立ち上げました。そのプロジェクトチームで生まれたグミの企画がようやく具体化してきました。現在、地元の滋賀県をテーマにした『びわ湖をたべるグミ』『琵琶湖の水止めたろかグミ』『とび太くんグミ』を県内の道の駅やサービスエリア、スーパーマーケットなどで展開しています。滋賀県オリジナルの『飛び出し坊や』をグミにした『とび太くんグミ』は大阪・関西万博の滋賀魅力体験ウィークで先行販売したところ、500個が即完売する人気でした」
これらグミの自社製品の売上構成比は全体のわずか1~2%程度。しかしエフエム滋賀やびわ湖放送、Yahoo!ニュースなど多くのメディアに取り上げられ、会社の認知度向上には大きく貢献したという。完全自社製造も視野に入れ、新工場稼働後はさらなるラインアップの拡充に取り組んでいく。
加えてゼラチンでも、独自性の高い商品開発を強化する計画だ。例えば魚由来のゼラチンやハラル対応ゼラチンである。
「魚のウロコから抽出する魚由来ゼラチンは、口どけがよく透明感があるのが特徴で、インフルエンサーの情報発信をきっかけに最近需要が急増しました。ハラル対応製品は、製造ラインを完全に分け認証機関による認証も取得しました」
新工場完成予想図
新工場建設地では現在、造成工事を実施中。本体着工は26年8月を予定しており、約1年後の27年秋ごろまでの引っ越し完了を目標にしている。
(取材協力・Leadus税理士法人/本誌・植松啓介)
| 名称 | 株式会社ジェリフ |
|---|---|
| 業種 | ゼラチン製造・販売業 |
| 設立 | 1941年9月 |
| 所在地 | 滋賀県野洲市市三宅1013 |
| 売上高 | 約16億円 |
| 従業員数 | 40名 |
| 利用システム | FX4クラウド |
| URL | https://jeleaf.co.jp |
| 顧問税理士 |
Leadus税理士法人
税理士 竹仲勲 京都府京都市中京区蛸薬師通柳馬場西入十文字町432番地1 URL: https://leadus-kyoto.jp |
掲載:『戦略経営者』2026年2月号
記事提供
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