2026年02月24日

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2026年5月からスタート 資金調達の新たな選択肢「企業価値担保権」とは?

2026年5月からスタート 資金調達の新たな選択肢「企業価値担保権」とは?

2026年5月から始まる「企業価値担保権」は、不動産や設備のような有形資産に頼らず事業全体の価値を担保に資金調達できる新制度です。経営者保証に依存しない融資を後押しする点も特徴で、本コラムでは制度の背景や仕組み、活用場面、注意点までを中小企業向けに分かりやすく解説します。

💡この記事のポイント
 ☑企業価値担保権は、事業全体の価値を担保に融資を受けられる制度
 ☑企業は自社の資金調達の選択肢を広げることが可能になる
 ☑経営者保証に依存しない融資により、経営者は新たな挑戦や事業承継に踏み出しやすくなる

1.企業価値担保権とは

 新しい融資制度「企業価値担保権」が2026年5月施行予定です。
企業価値担保権は、「会社の事業そのものの価値を担保に資金調達ができる仕組み」であり、これまで担保の面で不利だった中小企業やスタートアップの可能性を広げる、新しい資金調達制度として注目されています。このコラムでは、本制度について詳しく解説していきます。

(1) 中小企業における従来の融資

 中小企業が銀行から融資を受けるとき、これまでは主に不動産や設備といった担保となる有形資産をどれだけ持っているかが重視されてきました。有形資産を保有している業種は比較的資金を借りやすく、反対に、起業したばかりのスタートアップや、IT企業・サービス業のように有形資産が少ない企業は、事業が伸びていても資金調達が難しいという状況が続いていました。
 また、経営者保証も大きな負担となっていました。会社の借入であっても、万が一返済が難しくなれば経営者個人が自宅や預金などで責任を負うことになります。そのため、「家族に迷惑をかけたくない」「後継者に保証を引き継がせたくない」といった思いから、事業承継や思い切った事業展開をためらう経営者も少なくありませんでした。

(2) 企業価値担保権の創設

 時代の流れとともに企業の価値のあり方も変化してきました。ITの進歩、サービス産業の拡大などもあり、技術力・ノウハウ・人材・ブランド力など、いわゆる無形資産に価値の多くが宿る企業が増えています。
 しかし有形資産を重視する従来の融資制度では、これらの価値を十分に評価することができません。せっかく将来性のある事業が生まれても、資金を確保できなくては今後の成長にブレーキがかかってしまいます。
 こうした課題を解決するため、2024年6月に「事業性融資の推進等に関する法律」が成立しました。その柱の一つとなるのが企業価値担保権です。

従来の融資制度と、企業価値担保権の創設

2.金融庁が推進する事業性融資

(1) 事業性融資の基本的な考え方

 企業価値担保権の土台にあるのが「事業性融資」という考え方です。事業性融資とは、担保や経営者保証の有無だけで判断するのではなく、企業の事業内容や将来の見通しを丁寧に評価し、その結果に基づいて融資する方法のことです。
 事業性融資において金融機関は、企業の過去の実績だけでなく以下のような点を総合的に見て判断します。

・どのようなビジネスモデルで利益を生み出しているのか
・顧客や取引先との関係はどの程度安定しているか
・技術やノウハウ、人材にどのような強みがあるのか
・経営者がどのような方針を持ち、それを実行する体制が整っているか

 つまり、「これからどれだけ安定して将来の利益を生み出せるか」が評価の中心になります。

(2) 事業性融資と企業価値担保権の関係

 2024年に「事業性融資の推進等に関する法律」が成立する以前から、事業性融資の推進は金融機関にとっても重要な課題でしたが、企業の将来性を評価できても、その価値を担保として確保する制度がなかったため、金融機関としては踏み込みにくい面がありました。
 この課題を解消し、事業性融資を実際に機能させるために創設されたのが企業価値担保権です。企業が持つ事業価値を正しく評価し、そのまま担保に取ることができれば、金融機関は将来の収益力を前提とした融資や伴走支援を行いやすくなり、企業側も「担保不足」を理由に成長のチャンスを逃さずに済むようになります。
 事業性融資は、企業の側から見れば「自社の強みや将来像を、金融機関にきちんと説明していくプロセス」でもあります。その入口として、企業価値担保権は、新しい融資のあり方を支える制度として位置づけられています。

3.企業価値担保権の仕組み

 ここからは、企業価値担保権の詳しい仕組みについて解説していきます。

(1) 企業価値担保権の制度上のポイント

企業価値担保権について、金融庁の説明資料では制度の全体像が整理されています。ここでは、その制度上のポイントを順に見ていきます。

金融庁資料「事業性融資の推進等に関する法律案説明資料」
出典:事業性融資の推進等に関する法律案説明資料(金融庁)

●担保の対象

 企業価値担保権の大きなポイントは、担保の対象が有形資産だけでなく、無形資産を含む「事業全体の価値(総財産)」となっていることです。無形資産には、技術力やノウハウ、人材、さらに顧客基盤、ブランド力などの目に見えない信頼・評判なども含まれ、これらをもとにした将来期待される収益力も価値として評価されます。

●対抗要件

 企業価値担保権は商業登記簿に登記されることで法的に担保権として認められます。

●資金の借り手・貸し手

 借り手は株式会社・持分会社が対象で、貸し手は銀行に限らず、ベンチャーキャピタルや再生ファンドなど幅広い金融機関が利用可能です。

●担保権者

 担保権者(債権に対する担保権を保有する者)は、貸し手ではなく新設される信託会社が担います

●借り手の権限

 企業価値担保権を設定しても、通常の事業活動や担保対象財産の処分は自由に行えます。ただし、事業の内容が大きく変わる場合などは、信託会社の同意が必要となります。

●貸し手に対する制約

 粉飾決算などの例外を除き、経営者保証は求めないことが原則です。これにより、経営者や後継者が個人保証の負担を理由に事業承継や成長投資をためらうリスクを減らすことが期待されています。

(2) 信託会社が担う役割

 企業価値担保権の制度設計上の特徴は、担保権の設定・管理を貸し手(銀行等)ではなく、信託会社が担う点にあります。担保権者となるためには、この制度専用の信託業免許が必要です。(銀行等も免許取得可能、貸し手と担保権者が同一となる場合もあります)

 信託会社は、中立的な立場で以下の役割を果たします。

担保権の公正な管理:制度の適正な運用を確保するため、担保権の設定や管理を行う
制度説明:担保権設定時に借り手へ制度の概要を説明する
債権者保護:担保権が実行される際、事業譲渡の対価の一部を一般債権者(取引先など)に確保するなど、債権者保護に配慮した対応を行う

 この仕組みにより、事業価値を最大限に維持しながら、担保権の実行や債権者保護を適切に進めることが可能になります。

(3) 事業譲渡による担保権の実行と経営者保証の扱い

 返済が難しくなった場合の担保権の実行方法も、従来とは発想が異なります。一般的な担保では、不動産や設備などをばらばらに売却して換価しますが、企業価値担保権の場合は、原則として事業全体の譲渡を通じて可能な限りその価値を回収することが想定されています。
 これは、事業を分解してしまうと、技術や人材、顧客との関係といった無形の価値が一気に失われてしまうからです。事業の継続を第一に考え、事業を一体として第三者に引き継ぐことで、事業価値をなるべく損なわずに、そこから得た対価を金融機関への返済や一般の債権者への支払いに充てられるようにする仕組みになっています。一般債権者(取引先など)の保護にも配慮した設計となっていることがポイントです。
 さらに、企業価値担保権を活用する場合には、粉飾決算などの例外を除いて経営者保証を求めないことが制度上の前提とされています。これにより、「会社の将来性に賭けたいけれど、個人保証が怖い」という経営者や後継者が、一歩踏み出しやすくなることが期待されています。

 企業価値担保権は、こうした仕組みを通じて、単に担保のバリエーションを増やすのではなく、事業性融資を実際に動かすための受け皿として位置づけられています。

4.企業価値担保権の活用場面とメリット

(1) 無形資産型企業での活用

 企業価値担保権が特に力を発揮すると期待されているのは、無形資産を主な強みとする企業です。ITサービスやSaaS、研究開発型の中小企業などの専門性の高い企業は、大型設備や不動産を持たなくても、高い技術やノウハウ、固定客との関係性によって収益を上げています。こうした企業は、従来は「担保が足りない」ことを理由に十分な融資を受けづらい面がありましたが、企業価値担保権により、事業価値そのものを担保として評価してもらいやすくなります。

(2) 事業承継・再生・成長投資の場面

 また、事業承継の場面でも企業価値担保権は有効だとされています。金融庁の資料でも、経営者保証が事業承継や思い切った事業展開の妨げになっている現状が明示されており、これを和らげる手段として企業価値担保権が位置づけられています。経営者保証に頼らず、会社の事業価値を担保に資金を調達できれば、後継者が個人保証の負担を理由に承継をためらうケースを減らすことができます。
 さらに、事業の立て直しや再生の局面でも、この制度は有効です。過去に不採算部門を抱えていたとしても、技術、人材、顧客基盤など「事業の核」となる部分が残っている企業は多くあります。この核となる部分を担保に再スタートに必要な資金を確保しやすくなり、地域の雇用や取引関係を守ることにもつながります。
 加えて、新規事業や大型の設備投資に挑戦する場面でも、将来の収益力に基づいて資金調達がしやすくなります。これまで「担保がないから」と見送ってきた投資でも、事業計画と将来性を丁寧に示すことで、金融機関と一緒にリスクを分かち合いながら前に進む選択肢が広がります。

(3) 企業と金融機関の関係深化による効果

 企業価値担保権は、企業と金融機関の関係をより緊密にし、相互理解を深める仕組みでもあります。
 企業の事業全体を担保の対象とすることで、金融機関はその企業の経営内容や強み、将来の収益構造を継続的に把握する必要が生じます。このような関係の深化は、単なる融資取引を超えた「伴走支援」的な関係の構築につながります。
 その結果として、金融機関は融資先の事業価値を多面的に理解し、成長性の高い企業に対してより積極的に向き合いやすくなります。また、企業側も自社の経営状況や課題をオープンに共有することで、経営改善に向けた助言や支援を受けやすくなり、経営悪化のリスクを早期に察知・低減できる環境が整います。

5.制度が機能するために必要なこと

(1) 今後の課題

 企業価値担保権には、これまで挙げたようなメリットが多くある一方で、今後の課題もはっきりと存在します。

①無形資産や事業価値の評価が簡単ではないこと

 技術力や顧客基盤、ノウハウ、人材といった無形資産は、「これはいくら」と簡単に値段を決められるものではありません。金融機関ごとに評価の方法や重みづけが異なれば、同じ企業でも融資の結果が変わる可能性があります。金融機関には制度の活用実績を重ねながら、担保価値の算定方法を確立していくことが求められます。

②一行取引が進む可能性があること

 企業価値担保権は企業と金融機関との関係が従来以上に密接になる傾向があります。
 この結果、特定の金融機関との取引が中心となり、一行取引が進んでいく可能性がある点は、制度運用上の課題として意識しておく必要があります。企業にとっては、資金調達や経営支援を一体的に受けられるメリットがある一方で、資金調達先の選択肢が狭まる、金融機関との関係性に依存しやすくなるといった側面も考えられます。
 そのため、制度を活用する際には、取引金融機関との役割分担や、他行との関係維持についても意識的に検討しておくことが重要になります。(企業価値担保権を利用して複数金融機関からの借入も可能です)

参考:企業価値担保権に関するFAQ

③制度の運用ルールがまだ整備途上であること

 無形資産の評価方法、信託契約のひな形、担保権実行時の具体的な手続き、一般債権者への配慮、複数の金融機関が関わる場合の役割分担など、詳細な実務は、金融庁の政省令案や全銀協の「活用に向けたポイント」等を踏まえつつ、これから詰められていく部分も多いとされています。

(2) 求められる企業側の姿勢

企業側の経営管理力の強化も不可欠です。企業価値担保権は「事業の価値」を担保とする制度である以上、その価値を説明できなければ活用が進みません。月次の数字を把握し、将来の事業計画を言葉と数字で示し、自社の強みを整理しておくことなどが、制度の効果的な活用につながり、メリットを引き出す前提条件となります。

6.支援体制の整備と、企業が活用するためのヒント

経営者と支援者のイメージ

(1) 支援機関の創設

 事業性融資を定着させ、今後の課題を解決していくには、外部の支援も含めた「支える仕組み」が欠かせません。そこで金融庁は、「認定事業性融資推進支援機関」を設け、金融機関と中小企業の双方を専門的に支援する体制を整えようとしています。
 具体的には、企業の経営状況や財務内容の整理・分析、事業計画策定への助言、定期的なフォローアップや改善提案などを通じて、「事業を説明できる状態」を整える支援を行います。あわせて、企業価値担保権など新しい制度の活用事例の紹介や普及啓発も想定されています。

(2) 企業が活用するためのヒント

 借り手として今後企業価値担保権の利用を考えている企業は、早めに「自社の価値を説明できる状態」を整えておくことが重要です。金融機関との対話では「自社の強みは何か」「どのように収益を生むのか」「リスクにどう備えているのか」といった点を、言葉と数字の両方で示すことが求められます。
 具体的には、①月次での業績・資金繰りを把握し、数字の変化を説明できるようにすること、②自社の無形資産(技術、ノウハウ、人材、顧客との関係、ブランド等)を棚卸しし、価値となる部分を整理すること、③将来的な収益力を示すため、今後1〜3年程度の事業計画を作成し、投資と回収の見通しを示すこと等が考えられます。
 また、企業と金融機関だけで抱え込まずに、前述の支援機関や各種専門家の力を借りることで、事業の整理や説明が進み、より効果的な資金調達や伴走支援につなげやすくなります。

■参考サイト

金融庁:企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について
金融庁:企業価値担保権の制度検討の経緯
全国銀行協会:「企業価値担保権の活用に向けた報告書」について(企業価値担保権の活用に向けた勉強会)

株式会社TKC出版

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