2026年01月20日

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企業会計における基礎的ルール!「発生主義」を確認しよう

企業会計における基礎的ルール!「発生主義」を確認しよう

💡この記事のポイント
 ☑発生主義では、お金の受け渡しではなく、商品やサービス等の提供といった経済的価値が企業間で移転した時点で収益や費用を認識します。これにより、実際の経済活動と会計記録が一致し、業績の正確な評価が可能になります。
 ☑発生主義を採用すると、「その期間に発生した売上」と「その売上を得るためにかかった費用」を同じ会計期間に対応させられます。現金主義では歪む損益も、発生主義であれば実態に合った業績として把握でき、適切な経営判断、予算管理、金融機関への説明にも大きく役立ちます。
 ☑中小企業向けの「中小会計要領」でも、収益・費用の計上は原則として発生主義によります。ただし、中小企業の実務負担に配慮し一部簡便処理が認められています。

1.はじめに

 企業活動を正しく把握し、それを経営判断に役立てるためには、取引をどのタイミングで会計帳簿に記録するかを明確にしておかなければなりません。企業会計では、そのための基礎となる考え方として「発生主義」が採用されています。
 発生主義は、現金の受け渡しのタイミングではなく、商品やサービス等の提供といった経済的事象が発生した時点で、収益や費用を認識する会計処理の方法です。この考え方は、企業会計原則に示される「費用収益対応の原則」や「期間損益計算の考え方」と深く結びついており、日本の企業会計における中核的な考え方となります。
 本稿では、発生主義の概要、現金主義との違い、収益・費用の計上基準、そして中小企業向け会計基準である「中小会計要領」における位置付けなど、会計制度上重要な要素を体系的に整理します。実務担当者が日々の記帳や決算作業を行う際に迷わないよう、具体例も交えながら詳しく解説していきます。

2.発生主義とは何か?

(1) 発生主義の基本的な考え方

 発生主義とは、前述したように、商品やサービスが提供された事実に基づいて収益や費用を計上する考え方を指します。つまり、「お金が動いた日」ではなく、「経済的価値の移転が完了した日」を基準に記録する方法です。
 たとえば、商品を3月に納品し、代金の入金が4月であっても、発生主義では「3月時点で売上が成立した」と考えるため、売上計上は3月になります。仕入・外注費などの費用も同様に、請求書到着日や支払日ではなく、商品やサービスを受け取った日が基準になります。
 このように発生主義を採用することで、「その月に発生した売上」と「その売上のためにかかった費用」を同じ期間に対応させることができ、企業の業績をより正確に把握できるようになります。

電卓の上に乗る男性たち

(2) 発生主義の具体例

 発生主義では、「お金の動き」ではなく取引の実態がいつ発生したかを基準として記帳します。ここでは、日常の会計実務で最も頻繁に登場する販売取引(売上)および仕入取引(仕入)を例に、発生主義がどのように適用されるのかを具体的に確認していきます。

① 販売取引の売上を計上する場合

 販売取引では、顧客に商品を引き渡したタイミング(出荷や納品が完了したとき)で、売上が発生したと判断します。

② 仕入取引の仕入を計上する場合

 仕入先から商品が届いた日に仕入・買掛金を計上します。

 どちらの場合であっても「お金が入った日や出ていった日」ではなく、取引の実態(経済的価値の移転)が発生した日を基準として記録する点が特徴であることがわかると思います。これにより正確な期間損益の計算が可能になります。

3.現金主義との違い

 会計には発生主義のほか、「現金主義」という考え方も存在します。それぞれの違いを理解しておきましょう。
 現金主義とは「お金が動いたタイミングで取引を記録」する方法です。「お金をもらったときに売上を計上」「お金を払ったときに費用を計上」という、お金の動きに合わせたシンプルな考え方です。
 発生主義との記録のタイミングの違いについて、下記の図で具体的に見ていきましょう。

「発生主義」と「現金主義」による売上の計上タイミングの違い
【出典】「事務所通信」2018年7月号

 いうなれば家計簿のようなイメージに近いかもしれません。ただし、企業の計算書類や決算書を作成する際には、現金主義では正しい損益が把握できません。

4.収益・費用の計上タイミング

 発生主義に基づき、収益と費用はどのように計上するべきなのでしょうか。ここでは代表的な取引を例に、収益と費用の計上タイミングを詳しく解説します。

(1) 収益の計上タイミング

 これまで説明したように、収益の計上タイミングの基本ルールはとてもシンプルで、「商品を引き渡した日、サービスを提供し終わった日が売上の日」です。

①掛売りの場合
 ・実際の入金:翌月以降
 ・売上にする月:商品を渡した月

②前受金をもらっている場合(保守料・セミナー代など)
 ・お金は先にもらっているが、売上にするのはサービスを提供したとき
 ・それまでの分は「前受金」等として処理

③サブスクリプション・保守契約など継続サービス
 ・1年分まとめて請求しても売上は毎月に分けて計上する(サービスを提供した月ごと)

 このように見ていくと、実務では、契約内容や提供期間を正確に把握することが求められることがわかります。

(2) 費用の計上タイミング

費用の計上タイミング

 費用のタイミングは、これまで説明したように、「お金を払った日」ではなく、「実際に使った(消費した)期間」です。

 ①仕入・外注費などの原価
 商品が届いたとき→その月の費用(仕入・外注費)として計上

 ②水道光熱費・通信費など
 請求書が翌月に来ても電気・通信を使ったのは前月のため、使った月の費用として計上(決算月分などは「未払費用」として計上)

 ③保険料・家賃・クラウドサービスの年払いなど
 1年分をまとめて払っても、1年分を12か月に分けて毎月の費用にする(残りは「前払費用」として計上)

 ④固定資産(機械・車・建物)の購入
 買った月に全額を費用にはせず、何年かに分けて少しずつ費用(減価償却費)にする

 このように、お金の出入りの有無にかかわらず、取引が確定した時点・サービスを受けた時点で費用を計上することで、企業の毎月の利益が極端にぶれず、より正確な業績管理が可能になります。

5.会計ルールの中で、「発生主義」はどんな役割?

(1) 「発生主義」はなぜ重要なのか?

 企業の会計基準を示す「企業会計原則」のうちの1つである「損益計算書原則」では、下記のように「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」と規定しています。

第二 損益計算書原則
(損益計算書の本質)
A すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

【出典】企業会計基準委員会「企業会計原則・同注解

 この「発生した期間に正しく割当てる」という考え方に基づき、現金の入金日・支払日ではなく、「物の動き」「サービスの提供」「契約履行」「役務の提供」などがあった場合に、収益や費用を計上するルールが「発生主義」です。例えば、3月に商品を納品して、お金の入金が4月になる場合でも、「発生主義」ではその売上は「3月の売上」として数えます。電気代などの経費も、支払った月ではなく「電気を使った月の費用」として数えます。

 中小企業が会社法上の計算書類等を作成する際の会計処理を示す「中小企業の会計に関する基本要領(以下、中小会計要領)」においても、収益・費用の基本的な会計処理として発生主義による会計処理を求めています。税務署や金融機関に示す決算書においても、この発生主義による会計原則が求められます。つまり、月次決算で適正な業績を把握するためにも、発生主義で計上する必要があるということです。

(2) 具体的な役割

 発生主義には、「いつ収益・費用を計上するか」という計上タイミングにとどまらず、会計資料を異なる視点で分析する土台としても重要な役割を担っています。その役割を2つの点から整理します。

① 業績を正確に確認できる役割

 発生主義には、各期の業績を正確に確認し、比較できる効果があります。
 お金の出入りのタイミングに左右されず、「その期間に発生した取引」をその期間の売上や費用として計上することで、「今期は、前期と比べてどれぐらい儲かったのか」「前年同期比でどれほどの費用がかかったのか」といったことを比較しやすくします。この比較を行うと、経営者が本来の会社の実力を掴むことができます。

② 将来のリスクを予測する役割

 発生主義での記帳によって、「これから先のお金の動きや財務におけるリスクを見通す」ことが可能となります。
 発生主義に則って記帳すると、未入金の売上は売掛金、未払の仕入や経費は買掛金や未払費用、支払済でこれからサービスを受ける分は前払費用として計上されます。これにより、「近いうちにいくら入金がありそうか」「いつ、どれくらいの支払いが控えているのか」といった将来の資金繰りや投資計画などを考える材料が整います。今後の入出金まで把握できるようになる——という点においても、発生主義には大きな役割があるといえます。

6.中小会計要領における発生主義

 「中小会計要領」は、中小企業のために作られた、会計の標準的なルールです。本項では、標準的な中小企業向けの会計基準の1つになっている「中小会計要領」と発生主義の関係を見ていきたいと思います。

(1) 「中小会計要領」の目的

 「中小会計要領」は、以下の4つの基本方針の下、策定されました。

・経営者が活用しようと思えるよう、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立つ会計
・金融機関、取引先、株主など利害関係者への情報提供に資する会計
・中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図ったうえで、会計計算規則に準拠した会計
・計算書類等の作成負担は最小限にとどめ、中小企業に過重な負担を課さない会計

【出典】「中小企業の会計に関する基本要領」(中小企業の会計に関する検討会)

 つまり、「経営者が見て自社の状況を掴みやすい会計」「金融機関・取引先、株主などにきちんと説明できる決算書を作るための会計」「中小企業の実務や税制とのバランスも考えている会計」「手間がかかりすぎないように配慮されている会計」と考えることができます。

 このように、「中小会計要領」は、中小企業向けの会計基準として制定されました。また、中小企業の成長の助けとなるよう、会社法上の計算書類を作成する際の参考基準として位置づけられています。
 さらに、「中小会計要領」に基づいた決算書を作成していることは、金融機関との融資交渉や、取引先からの信用力向上にもつながります。自社の数字を経営者自身が理解し説明できるようになることで経営判断の質も高まり、事業計画や資金繰りの検討にも生かすことができます。また、会計処理の考え方や判断基準が整理されるため、担当者が変わっても、会社として一貫したルールに基づき決算書を作成できる点も重要だといえます。

(2) 「中小会計要領」における発生主義の適用

 中小会計要領でも、収益・費用の計上は原則として発生主義に基づいて行うこととされています。つまり、中小企業であっても、収益と費用を「その発生した期間に正しく対応させる」という、会計の基本原則は変わりません。
 一方で、中小企業の実務負担に配慮し、すべての取引について大企業と同じ厳密さを求めているわけではありません。中小会計要領では、発生主義を基本としながらも、重要性が低い取引や、実務上手間のかかりやすい処理については簡便的な方法を認めています(例:少額費用、減価償却など)。

7.まとめ

 企業における会計実務では、収益と費用を一致させて透明性の高い財務諸表を作成する必要があります。そのなかで、同期間内において収益と費用を計上する「発生主義」は重要な企業会計の考え方の1つです。
 まずは企業における毎日の記帳、証憑書類の整理保存、発生主義による売上、仕入れの記録などを徹底するようにしましょう。そして、日々の業務のなかでも入出金などのたびに記録して、業務終了後に現金の残高合わせをしておきましょう。これらが習慣化してくると、経費の支払い漏れや記録漏れなども発見できるようになります。こうした習慣を意識しながら、透明性の高い決算や日々の会計実務を行っていきましょう。

【参考資料】

・「事務所通信」2018年7月号
・「事務所通信」2014年9月号
・国税庁「収益認識に関する一考察-法人税基本通達に与える影響-
・金融庁「『収益認識に関する会計基準』の公表に伴う財務諸表等規則等の改正について
・中小企業庁「中小会計要領について | 中小企業庁
・中小企業庁「中小企業庁:「中小企業の会計 31問31答」(問4と問5)
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構「会計の発生主義や現金主義、実現主義について教えてください。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
・企業会計基準委員会「企業会計原則・同注解
・企業会計基準委員会「会計基準詳細 | 会計基準検索システム
・企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準
・日本公認会計士協会「日本の会計制度 | 日本公認会計士協会
・日本公認会計士協会「「Q&A 収益認識の開示に関する基本論点」の公表について | 日本公認会計士協会
・「発生主義会計と費用収益対応原則の維持:日本の実証的証拠から」(早稲田大学・薄井彰)
・「日本における企業会計制度の変遷(2)」(法政大学・菊谷正人)
・「現金主義と発生主義の会計史」(日本大学・村田直樹)
・「会計が分かればビジネスが見える」(TKC出版、河﨑照行)
・「図解でスッキリ 収益認識の会計入門」(中央経済社、2018年)
・「詳解 中小会社の会計要領」(中央経済社、2012年)
・「最新 中小企業会計論」(中央経済社、2016年)

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 1万名超の税理士および公認会計士が組織するわが国最大級の職業会計人集団であるTKC全国会と、そこに加盟するTKC会員事務所をシステム開発や導入支援で支える株式会社TKC等によるTKCグループの出版社です。
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