💡この記事のポイント
☑現物給与とは「金銭以外の形で支給される給与」のこと。
☑現物給与は原則、源泉所得税額、社会保険料額を決定する際の算定に入る。
☑現物給与の管理リストを作成し、従業員の源泉所得税額や社会保険料額を把握することが重要。
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- 1.現物給与の概要
- 2.現物給与にかかる源泉所得税と社会保険料について
- 3.よくある現物給与の事例
- 4.社内の現物給与についてチェックしてみよう
- (1) 金銭以外の現物で提供しているものを整理する
- (2) 対象・頻度・金額を整理する
- (3) 従業員の自己負担額を把握しておく
- (4) 源泉所得税と社会保険料の取り扱いについて知っておく
- (5) 社内文書や証拠を残しておく
- 5.まとめ
1.現物給与の概要
(1) 現物給与とは「お金以外の給与」のこと
現物給与とは、端的にいうと「お金以外で支給する給与」のことです。たとえば、通勤定期券、社員食堂の食事、社員旅行などのレクリエーション費用、制服・作業服などがあげられます。
(2) 現物給与は原則課税対象!ただし非課税になる場合あり
たとえ、お金以外の「現物」で支給したとしても、本質的には「働いた対価」なので、受け取った従業員は原則として給与所得とみなされ課税されることになります。現物をお金に換算して税金を計算するということです。
しかし、国税庁では、性質上“給与として課税しなくてもよい”とされる現物給与を認めています。次のような性質を持つものは課税しなくてよいとされています。
①仕事をする上で欠かせないもの。
②換金しにくいもの。
③価値の評価が難しいもの。
④受け取る側が選べないもの。
⑤政策的に非課税とされているもの。
上記に該当する具体例として次のようなものがあげられます。
① バスや電車通勤者の通勤手当(一定の非課税限度額まで)
最も経済的かつ合理的な経路および方法による通勤定期券代は、月15万円まで非課税とされています。
② 従業員レクリエーション旅行(社員旅行)の費用
社会通念上一般的なレクリエーション旅行であり、少額不追求(「経済的利益の額がわずかである場合はあえて課税対象としない」という考え方)の趣旨を逸脱しないものであれば、給与として課税しなくてもよいとされています。また、次のすべてを満たす社員旅行の費用は、従業員にとって非課税の現物給与として取り扱うことができます。
1)旅行期間が4泊5日以内(海外は滞在日数が4泊5日以内)
2)参加人数が全体の50%以上(工場・支店ごとの場合は各職場で50%以上)
③ 制服・事務服・作業服など「職務上欠くことのできない被服」
背広のように私服としても着られるものは給与として課税対象としたうえで、一定の制服・事務服・作業服の支給・貸与は非課税として扱うとされています。
非課税となる制服等とは、具体的に次のようなものです。
1)主として勤務する場所で職務を行うために着用し、私用には通常着用しない/できないもの
2)その職場の従業員全員、または一定の仕事に従事する者全員を対象に支給・貸与されるもの
このような「職務の遂行上欠くことのできない」制服・事務服・作業服の支給・貸与によるものは、非課税の現物給与として取り扱ってよいとされています。
④ 創業記念品・永年勤続表彰の記念品・旅行招待
次に該当するものは一定の条件をすべて満たせば、給与として課税しなくてもよいとされています。
1)会社の創業○周年などで配る創業記念品、勤続10年以上など、一定年数働いた人への永年勤続表彰の記念品
2)永年勤続者を対象とした旅行・観劇などへの招待
3)記念品としてふさわしいもの(処分見込価額が1万円(税抜)以下)
4)永年勤続なら勤続年数10年以上・同じ人には5年以上間隔を空ける
といった要件を満たす場合には、これらは非課税の現物給与として扱うことができます。
2.現物給与にかかる源泉所得税と社会保険料について
本項では、現物給与にかかる源泉所得税と社会保険料について見ていきます。
(1) 源泉所得税
現物給与の場合も、金銭による所得を得た場合と同じく、原則として源泉所得税がかかります。税務上では、「どれほどの経済的利益があったのか」をもとに税額が決定するからです。ここでは実際に例を見ていきましょう。
Aさん:月給20万円、その他の支給なし
Bさん:月給15万円+会社負担5万円分の社食
2人とも20万円分の待遇を受けていますが、Bさんの「社食5万円分は金銭でないのだから税金はなし」としてしまうと、Aさんのみ税金が重くなってしまいます。
そのため、前述したように、「金銭でも物でもサービスでも、金銭以外の給与であれば、働いたことの対価としてもらう経済的利益は『給与所得』として扱う」という考え方が採用されます。実務上は、現物給与分を金額に換算し、源泉所得税を計算することになります。
(2) 社会保険料
現物給与がある場合、社会保険料額を決定する際の基準となる標準報酬月額が現物給与分、上がることになります。また、食事・住宅などは「全国現物給与価額一覧表」の単価に準拠して報酬に足すのが原則です。「全国現物給与価額一覧表」については下記で最新情報を確認しておきましょう。
全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)|日本年金機構
源泉所得税や住民税の税金に関する計算では、「現物で受け取ったものも含めて、すべてお金に換算して課税」します。そのため、社食・社宅・商品券なども、給料に足して源泉所得税や住民税の金額を出していきます。
一方、社会保険料は「毎月、全部でどれくらいの報酬をもらっているか」で金額が決まります。「現物でもらっているから税金や保険料はかからないはず」と思い込まず、「お金の代わりにもらっているものがないか?」を把握しておきましょう。そのうえで、それぞれが税金と社会保険の双方でどのように取り扱うのかを確認していく、という順番で考えると整理しやすくなります。
たとえば、毎月の給料が15万円でも、「会社負担の昼食」「家賃の一部負担」「商品券」などを受け取っていれば、実際には15万円以上の価値を受け取っていることになります。税金や社会保険では、この「目には見えにくいプラスの部分」も含めて合計額を出している、というイメージを持っておくと理解しやすくなります。
※本項では「源泉所得税」と「社会保険料」に絞って解説しましたが、現物給与を含めた給与所得の金額は、翌年度の個人住民税を算出する際の前提にもなります。そのため、現物給与分を正しく給与に含めておけば、所得税だけでなく住民税も適切に計算することができます。
3.よくある現物給与の事例
現物給与の中には、社内で取り扱われることの多いものもあります。本項ではその内容を、それぞれ源泉所得税の考え方、社会保険料の考え方等に合わせて解説します。
(1) 昼食補助
例:昼食を1食500円で手配しており、従業員は1食200円を支払い、会社が300円を負担しています。希望者は毎日利用することが可能ですが、「会社負担の300円×利用回数」が、現物給与にあたる可能性があります。(2025年11月28日時点の法令・通達等に基づく)
■ 源泉所得税の考え方
国税庁は、食事の支給が非課税になるための条件として、次の2点を挙げています。
①役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
②次の金額が1か月当たり3,500円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
今回の例でいうと、「使用人(いわゆる従業員)が食事の価額の半分以上を負担」の条件を満たしません。
この場合、会社負担分は原則として現物給与(課税)となり、給与に上乗せして源泉所得税を計算する必要が出てきます。
注意したいのは、制度導入時には非課税の範囲内に収まっていた場合でも、物価の上昇や業者等の値上げに伴い、会社負担が増えてしまう場合があります。年に1回程度は単価や従業員負担額を見直しておくと安心です。
■ 社会保険料の考え方
社会保険料では、「食事」という現物給与は標準報酬月額に含める前提で考えます。
日本年金機構の「全国現物給与価額一覧表」では、食事について都道府県ごとの単価(1か月当たり/1食当たり)が定められているため、これを基準にします。
税務上は非課税の食事補助でも、社会保険では「現物給与」として標準報酬月額に含めるケースがあり、税金と社会保険料で見方が完全に一致するとは限らないというパターンです。
■ 実務のチェックポイント
・「従業員負担が食事価額の半分以上」かどうか
・会社負担分が月3,500円(税抜)以下に収まっているか
・日本年金機構の「全国現物給与価額一覧表」を使っているか
(2) 社員旅行
■源泉所得税の考え方
国税庁は、社員旅行の費用を従業員の給与として課税するかどうかについて、旅行内容を総合的に判断する考え方を示すとともに、一定の目安も公表しています。旅行期間が4泊5日以内(海外は現地滞在4泊5日以内)、参加者が全体の50%以上等、この範囲の社員旅行であれば、会社負担分は「少額の現物給与まで含めて強いて課税しない」という考え方を前提に、福利厚生費として扱うことができます。
■ 社会保険料の考え方
通常の範囲の社員旅行であれば、社会保険上は「一般的な福利厚生」として扱われ、標準報酬月額には含めないのが一般的です。
(3) 従業員社宅
例:家賃8万円のマンションを会社名義で借ります。従業員には月3万円で貸し出し、残り5万円は会社負担になっており、この「安く住めている分」が、現物給与に該当する可能性があります。
■ 源泉所得税の考え方
使用人から賃貸料相当額の50%以上の家賃を受け取っていれば、給与として原則課税されません。
使用人からの家賃が賃貸料相当額の50%未満の場合、差額が現物給与として課税され、使用人からの家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、差額は課税されません。
賃貸料相当額が仮に8万円と考えられる物件に対し、従業員負担が3万円(37.5%)だとすると、差額5万円が現物給与として課税対象となるイメージです。
■ 社会保険料の考え方
社会保険料では、「住宅の現物給与」として評価します。現物給与価額一覧表でも、住宅について都道府県ごとに単価が定められており、これをもとに報酬に合算する仕組みです。
税務では、従業員が賃貸料相当額の50%以上を負担していれば、その差額を給与として課税しない取り扱いができます。一方、社会保険では、税務上の課税・非課税にかかわらず、「住宅の現物給与」として現物給与価額一覧表の単価に基づいて報酬に含めて評価することになります。
■ 実務のチェックポイント
・根拠なく従業員負担を決めていないか
・賃貸料相当額を算出し、従業員負担が50%以上になるように設計しているか
・税務上の判断と、社会保険料の標準報酬月額への反映が噛み合っているか
4.社内の現物給与についてチェックしてみよう
社内で現物給与を支給しているかどうか、支給している場合はどのような対応が必要なのかを見ていきます。
(1) 金銭以外の現物で提供しているものを整理する
通勤手当や社宅、社員旅行費など従業員に金銭以外で提供しているものを一覧にしてみましょう。まずは現物で提供しているものに何があるかを把握しておくことが重要です。
(2) 対象・頻度・金額を整理する
現物で提供しているものがわかったら、次に誰に(全員か、一部か)、どのくらいの頻度で(毎日か、毎月か、年1回かなど)、全体にかかるおおよその金額を算出しましょう。
(3) 従業員の自己負担額を把握しておく
社食・弁当・社宅などについて、従業員がいくら負担しているかを把握しておきましょう。食事や社宅では「従業員負担割合」が課税可否の決め手になるためです。
(4) 源泉所得税と社会保険料の取り扱いについて知っておく
顧問税理士などと相談し、「どれが課税の現物給与で、どれが非課税(福利厚生等)か」を整理しておくと安心です。また、課税すべき現物給与について、給与計算の際にきちんと反映しておけば、間違いも起こらずに済みます。
(5) 社内文書や証拠を残しておく
社内の就業規則などにおいて、現物給与に関する制度(対象者・回数・金額など)について盛り込まれていますか。文書化し、社内における明確なルールとしても取り扱うことができれば、従業員からの質問などにも、より根拠を持って対応することができます。
また、税務署や年金事務所から聞かれたときに見せられる、簡単なメモやエビデンスも残しておくと安心です。
※現物給与に関する制度は改正により運用が変わることもあります。そのため、チェックリストと社内におけるルールを決めておくことで“見える化”し、整理しておくことが大切です。
5.まとめ
現物給与は金銭ではありませんが、給与の一部として扱われます。そのため、通勤定期券や社食、社員旅行など、社内で日常的に行われている制度が課税の対象になることがあります。
現物給与はこうした性質を持つことから、金銭以外の提供であってもリストアップし管理しておくことで、源泉所得税と社会保険でそれぞれどのようなルールで取り扱われているかを確認しておくことが重要になります。また、判断に迷う場合は税理士などの専門家に相談し、社内でルール化しておくと安心でしょう。
あわせて、従業員にも制度の内容や自己負担額の考え方を説明しておけば、後から「聞いていない」といったトラブルも防ぎやすくなり、会社への信頼感も高まります。日頃から丁寧に説明しておくことが大切です。
現物給与のルールにおいて、「どこからが給与で、どこまでが非課税として扱われるか」を判断できていれば、あとはその判断した通りに運用していくことができます。今一度、自社の現物給与を棚卸ししておきましょう。
【参考資料】
・国税庁「No.2508 給与所得となるもの|国税庁
・国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁」
・国税庁「No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき|国税庁」
・国税庁「No.2594 食事を支給したとき|国税庁」
・国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁」
・国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁」
・国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁」
・国税庁「背広の支給による経済的利益|国税庁」
・国税庁「令和7年版 源泉徴収のしかた|国税庁」
・日本年金機構「全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)|日本年金機構」
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